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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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おしろい夜話

(狐の嫁入りシリーズ)
※『行く年来る年』の次に位置します
※リクエスト作品

+ + + + + + + + + +
まもりは、すん、と鼻を鳴らした。
「・・・?」
嗅いだことがあるような、ないような。
ただ、とてもいい匂いだ。
甘いような、柔らかいような。
この屋敷には馴染みのない匂いだ。
そしてその匂いの主は、この腕の持ち主。
まもりは自らを抱きしめる逞しい腕の中から、見上げた。
「おい、なんだ?」
こちらを覗き込むヒル魔が、逆さまにまもりの瞳に映った。
ヒル魔の匂いとは違う、彼には似合うような、似合わないような、匂い。
記憶を呼び覚まそうとして、まもりはようやくその匂いに思い当たる。
まもりの脳裏を過ぎるのは、薄く墨を流したような闇が満ちる淫靡な空間。
あれは、あの匂いは。
彼女の。
「・・・なんでもない」
まもりはふいっと視線を外し、その腕から抜け出る。
「ア?」
「洗濯してくる」
「相変わらず無駄なことがお好きデスネ」
ケケケ、と笑うヒル魔に、まもりは視線を合わせることさえ出来ず、無言のままぱたぱたと軽い足音を立てて走り去った。


豪奢な緑の着物が似合う、美しい人だった。
不笑の傾城と言われた、あの女性。
あの時に嗅いだ匂い。
夜を連想させる甘すぎないそれは、言葉を交わしたことがなくても彼女に似合った匂いだというのは簡単に推測できる。
その匂いが、ヒル魔からした。
『白秋屋』が遊郭だとは、前に聞いた。彼女は随一の太夫であるとも。
ヒル魔が、彼女、と?
不意にまもりの喉からぽろりと言葉が出た。
「・・・やだなあ」
「何がです?」
「っ」
まもりはびくっと肩を震わせた。振り返れば、そこにはお茶を手ににこにこと笑っている雪光の姿。
「お茶が入りましたよ。少し休憩されてはいかがです?」
頂き物の桜餅がありますよ、と言われたまもりは少し逡巡しつつも、頷いた。
「はいどうぞ。熱いですから気を付けてくださいね」
「ありがとう」
まもりは受け取ったお茶に口を付ける。
暦の上ではもう春。とはいえ、水も風もまだ冷たい。
陽の当たる縁側で頂く暖かいお茶はなによりのごちそうだ。
「油断してまた風邪を召されたら大変ですからね」
雪光はまもりの言葉をあえて追求せず、桜餅を勧める。
話すようなら聞こうという、その気遣いがありがたかった。
「これ、すごく美味しいわ。この緑の葉っぱが桜なの?」
「ええ、夏の間に塩漬けにしたものです」
「へえ」
甘い餅とあんこに塩っ辛いそれがよく合う。感心するまもりに雪光はもう一つ湯飲みを差し出した。
普段使う厚手の湯飲みではなく、白磁のそれに、ごくごく薄い桃色の液体が半ば程まで入っている。
「これは?」
覗き込めば、その中には一つ色の濃い花が揺らめいている。
「桜湯です。これも塩漬けした桜の花なんですよ」
味はさほど美味しいものではないそうですが、春を楽しむためのものですよ、と言い添えられる。
口を付けると、確かにしょっぱい。仄かに甘く香った。これが桜の匂いかしら、とまもりは呟く。
「桜、かあ」
「まもりさんは、桜は御覧になったことはありますか?」
「『西』には桜はないの。まだ本物を見たことはないわ」
「そうでしたか」
ご馳走様でした、とまもりが言うと、雪光は盆を手に立ち上がる。
「桜の見頃はもうそろそろなんですよ」
「ふうん・・・」
いつもなら見てみたい、と瞳を輝かせて口にしただろう。
けれど、まもりは生返事をして再び盥の前に座り、洗濯を始める。
その様子に雪光は数度瞬きすると、思案顔をしてすうっと姿を消した。


まもりは一人、廊下で立ち止まって天を仰いでいた。
寝るための身支度を終え、後は布団に入るばかりという段階で廊下を歩いていて。
ふと見上げたら夜空に望月が輝いていたのだ。
黒ではなく紺色の夜空に、一際美しく輝く月が彼女のようで。
まもりはつと視線を外すと、障子を開いた。
延べられた布団に入ろうとする彼女を、ふいに抱き寄せる腕。
彼もまもりと同じく寝るべく白の寝間着に着替えている。
「なんだか浮かない顔デスネ」
「・・・そう?」
小首を傾げるまもりにヒル魔は片眉をぴんと上げると、頭を一振りした。
「え」
ざあっと髪が伸び、顔に隈取りが、頭の上に耳が出て、瞬く間に獣の姿に変容する。
正月以来見てなかった姿だ。もしやまた軟禁状態で嬲られるのか、と身体を硬くして尋ねる。
「どうしたの?」
「それはこっちの台詞だな」
ふわ、とまもりを包み込むのは尻尾。それに背を支えられて、その暖かさにほっと嘆息する。
「何があった?」
そういえば、この姿の時は人としての姿の時より僅かに体温が高いのだと、以前言っていたような気がする。
冷えたまもりのことを温めようとしてくれているのだ。
どうやら彼は純粋にまもりを心配しているのだと知れる。
まもりはおずおずとヒル魔の身体に腕を回す。
あの匂いはもうしなかった。
「なあ、まもり」
なおも言葉を求めて見つめる眸。
「・・・あの、ね」
まもりは意を決して口を開く。
「昼間にヒル魔くんに抱きしめられたとき、匂いが、したの。白秋屋で嗅いだことのある、匂い」
言葉にすると、それが思った以上に己を不安がらせていたのだと、知る。
自然に零れる、涙。
それにヒル魔はふう、と嘆息する。
びくりと肩を震わせたまもりを更にきつく抱き寄せると、その頬に舌を這わせて涙を舐め取る。
「それで心配になったのか」
「だって、ヒル魔くんからそんな匂いしてたこと、なかったから・・・」
「俺は前に惚れた女抱く方がイイっつったろ」
アイツは元より、他のどの女にも手なんざ出してねぇよ、と囁かれてもまもりは不安に瞳を揺らめかせる。
「ホントに? 私に飽きたんじゃなくて?」
「誰が飽きるか」
ヒル魔がまもりの唇に己のそれを落とす。
睦言の時のような深く激しいものではなく、ただただ柔らかく、優しい口づけ。
「・・・明日の夜」
「明日? 夜?」
「イイモノ見せてやる」
だからイイコにしてろよ、とあやすように頭を撫でられ、まもりは小さく頷いてその胸に顔を埋めた。


翌日。
まもりはヒル魔と共に見覚えのある扉をくぐって、白秋屋に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ」
出迎えたのは令司。
「お邪魔します」
ぺこ、と頭を下げるまもりに笑みを浮かべると、令司はどうぞこちらへ、と二人を案内した。
階段を上がり二階に移動し、令司がからりと襖を開けると。
「・・・わあ・・・!!」
障子が取り払われたその向こう一面に、満開の桜が見事な枝を張り出していた。
絵画などにはない、生々しい花は窓際に幾つも並べられた行灯の光によって照らし出されている。
「当店自慢の春の風物詩、夜桜広間でございます」
商人の口調で、令司が説明する。
「この時期に合わせ、枝振りのいい早咲きの桜を取り寄せて植えるのでございますよ」
「え、元からあるんじゃないの!?」
「普段からンなデカイ木が目の前にあったら糞邪魔臭ェだろ。花の季節の時だけ植えるんだよ」
桜は見事だが、花を愛でるために障子が全開なので、室内は外気と大差ない温度だ。
けれどそこは商人。令司は如才なく大きな火鉢を用意している一角へとまもりを座らせる。
そして手を打ち鳴らした。
音もなく襖が開き、膳を持った女性たちが現れる。
「咲き誇る花も美しゅうございますが、花より団子と古来から申します故」
用意された美味しそうな料理の数々に、まもりの顔が輝く。
やっぱり花より食い気か、とヒル魔にからかわれても構わず嬉しげにそれらに箸を付ける。
「おいしい!」
「そーか」
眸を細めるヒル魔に肩をすくめると、令司は更に手を打ち鳴らした。
現れたのは。
「よく、おいでなんした」
あの夜とは違う、桜色の衣装に身を包んだ丸子だった。
線の細い男が三味線を手に、彼女の後ろに付き従っている。
すす、と音もなく二人の前に歩み出た彼女は、その場に膝をついて二人に深々と頭を下げる。
顔を上げたとき、まもりに向かってほんの僅かに瞳を眇めた。
それが彼女なりの笑みなのだと、まもりは気づく。
「今宵はお二人のために舞わせていただきとうござんす」
すう、と丸子が立ち上がる。
視線を合わせて、線の細い男が三味線を打ち鳴らす。
そして彼は朗々と唄いだし、その声に合わせて丸子の真っ白な指が閃いた。



まもりは興奮覚めやらぬまま、ヒル魔に抱えられて屋敷へと戻った。
僅かに漂う酒の匂いに、雪光は苦笑して湯冷ましを差し出してくれた。
ありがたくそれに口を付けながら、まもりは瞳を輝かせていかにその舞が素晴らしかったかを口にする。
「でね! その裾がふわっと翻るときに、丁度桜が吹き込んできて、すごく綺麗だったわ!」
花霞の中で踊る彼女は、天女のように美しかった。
まもりにこれが見せたかったのだ、と後でヒル魔に言われた。
この稼ぎ時に太夫である丸子を座敷に上げるのはかなり難しいのだという。
その段取りを付けるために、あの日白秋屋に顔を出していたからあの匂いがついたのだ、という説明付で。
「なんで最初からそう説明してくれなかったの?」
「驚いただろ?」
飄々と言うその顔は、満足げだった。
でも昼間の桜も見てみたいなあ、と呟いたらヒル魔はにやりと笑う。
「どうせ昼間の花見はいずれ糞ガキ共が人里に行きたいっつって声掛けてくるだろうから、その時でいいだろ」
「人里に出掛けていいの?」
「勿論、俺も一緒に行く」
「よかった。楽しみだわ」
ことんともたれかかる柔らかい身体を抱き留め、ヒル魔もその頭に自らの頬をすり寄せ、笑みを浮かべた。


そして後日、鈴音が瞳をくりくりさせながらやって来た。
その背後には、ござや酒樽、重箱などを手にしたいつもの面々もいて。
「やー! まも姐、みんなで人里にお花見行こう!」
「行きたい!」
それがヒル魔の言ったとおりだったので、まもりは笑みを浮かべて一も二もなく頷いたのだった。

***
ヤメピ様リクエスト『狐の嫁入りシリーズのイメージイラストから発想を得た話』でした! 暦の上では春だし、まだ早いですが桜ネタで。一応季節を一巡りさせたいと思って話を書いてます。これで算段するとまもりちゃんが『東』に来たのは夏くらいなんでしょうかね。頂いたイラストはpresentに掲載されております♪最近なんとなく白秋がブーム。線の細い男は『歌い髑髏』の如月です(ここで説明が・・・)。イラストのイメージが崩れなければいいのですが! リクエストありがとうございましたー!

こちらはヤメピ様とまっぴ様のみお持ち帰り可。
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