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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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真実は闇

(ヒルまも)

※30000HIT御礼企画作品


+ + + + + + + + + +
歓声が聞こえる。
雪が散るフィールドの中で、歓喜に湧く面々。
あの時の気持ちはなんといっていいのか、今になっても上手く表現できない。
ありったけの喜び嬉しさ楽しみ愛しさそういった+の気持ちを全てひっくり返してぶちまけた瞬間。
あれを色で表せたなら、極彩色というのが一番ふさわしかった。
実際にはユニフォームの深紅と雪の白とフィールドの緑と悪魔の金色と、結局の所クリスマスカラーが一面にあったはずなのだけれど。
今も鮮やかに記憶の中で笑う面々の中で、たった一人だけおぼろげな人がいる。
あの人も笑っていたはずなのに。
あの時、私の隣にいたはずなのに。
どうして。
「・・・んせー?」
「ッ」
触れる手に私はびくりと身体を震わせて我に返った。
触れた手を見れば、そこには不安そうにこちらを見ている男の子。
「せんせー、だいじょうぶ?」
一瞬ここがどこだか判らなくなりそうだったけれど、私の手はすぐに男の子を抱き上げる。
いつものように。
そう、ここは保育園。この男の子は私が勤めている保育園に通っているまーくん。
「うん、大丈夫。ちょっとぼうっとしてたわ」
「そうなの? おねつあるの?」
「違うわ。心配してくれてありがとうね」
頭を撫でるとへへ、とまーくんは笑った。その顔を見ながら、私は記憶の小道を辿る。

もうあれから八年も経ったのか、と感慨深くなる。
目標を達成した後、ヒル魔くんと私の距離はとてつもなく遠くなった。
アメフト部から引退した彼は高校卒業を待たず、さっさとアメリカへと渡ってしまったから。
そうなると私と彼との関係は、アメフト部の元キャプテンと元マネージャーという以外になくなってしまった。
彼らしい、と誰もが言った。目標が達せられた今、彼は次の夢を早くも見つけて飛び立ったのだ。
それに寂しさを感じながらも、ごく普通の生活がある私たちにも将来を決める時期が来ていた。
彼はほんの少し早く旅立ったけれど、私たちだってそう変わらないのだ。
私にも幼い頃からの夢だった保母になるべく、大学受験が控えていた。
大学は楽しかった。友達も出来た。なんと彼氏も出来た。
楽しかった。勉強もしたし、バイトもしたし、色々なところにも出掛けた。
楽しかった。・・・と、思ってた。
結局、私はあの年の八ヶ月間、死にもの狂いで一つの目標に皆一丸となって立ち向かったあの日々以上に強烈なことがなかった。確かに楽しかったのだとは思う。今だって楽しい。子供と過ごす毎日は、勿論笑っていられる事ばかりではなかったけれど、一つとして同じ日々はなくて。
けれどあの八ヶ月間を思い返すたびに私は思ってしまうのだ。
何で今、私はここにいるのかな。
どうして、彼はここにいないのかな。
私が望んで努力して得た仕事で、充実しているはずなのに、どうしてこんなに寂しくなるのだろう。
姿さえ、気づけば顔も声も朧気になってしまう彼の姿を追い求めてふとしたときに街中に視線を飛ばす。
あの電柱の影に。あの飛行機に。あのビルの屋上に。あの喫茶店に。
どこにでもいそうで、どこにもいない。
彼はアメリカに渡ったと聞いたけれど、アメフトをするためではなかったようだった。
ただ、アメリカで何かを成し遂げるために行ったのだろうけれど、その詳細を誰も知らない。
誰も彼の連絡先も、彼の居場所も知らないままでいる。
忘れてしまう。
私、彼を忘れてしまう。
―――ああ、私、それが寂しくてたまらないんだ。
あの時の熱を、狂おしい程の歓喜を、『あの頃は楽しかったね』なんて一言でくくりたくない。



『まもり、今度うちに遊びに来ないか』
「え?」
『ええと・・・ほら、俺も、君を両親に紹介したいんだ』
「・・・・・・」
『あ! 返事は急がないから』
電話越しに聞こえる声は優しく、私の沈黙に慌てて言葉を繋ぐ彼に小さく笑う。
「うん、ちょっと待ってて」
『・・・大丈夫?』
「何が?」
『元気ないなと思って。仕事辛い?』
「ううん、そんなことないわ」
『そう?』
他愛のない会話をして、私は電話を切る。
彼とは大学からの付き合いで、二つ年上でとても優しくて穏やかな彼の事は好きだ。
けれど。
このまま彼と結婚して、彼の妻になって、彼の子供を産んで、そういう将来展望を描く事は今までどうしても出来なかった。
彼は申し分ない人なのに。私も彼の事を好きなのに。
どうしてすぐに頷けなかったのだろう。あの、保育園での回想が良くなかったのだろうか。
それをすぐ否定する。思い出に縋って生きているつもりは全然ない。
むしろ忘れるくらいで丁度いいのかも知れない、そう思って過ごしてきた。
あれは夢だ。夢はいつか醒めるもの。
夢に期待しても叶うはずがない。
そこまで考えて、まもりはぴたりと動きを止める。
なにに期待しているというのだろうか。
これからあのあり得ない八ヶ月間のような日々をまた送れるかもしれないとでも?
あれはあの面子だから出来た話だ。彼がいたから成立したでたらめな話ばかりだった。
まもりは部屋の真ん中でうずくまる。
切なさが私の心臓を握りしめたかのように、胸が痛い。
人生の岐路に立たされて、見つめる先に彼がいないのがこんなに辛いなんて思わなかった。
それも八年経って思い知るなんて。
でももう彼はいない。いないから、彼を選ぶ事なんて出来ない。
それでも彼を思って泣くなんてことは出来なかった。
そうするには、私は、年を重ねすぎた。
もう、遅い。


会社帰りの彼と待ち合わせて食事に行く。連れて行かれた先は、随分と値の張りそうなレストランだった。
「たまにはいいだろ?」
そうね、と微笑もうとして、失敗した。
私の穿ちすぎかもしれないが、この席について食事が終わったとき、彼の手から新しい何かが出てくるかもしれない。
それはつい最近気がついた私の八年越しの想いを容易く終わらせるほどのものかもしれない。
食事は美味しかった、と思う。
見た目にも素晴らしい盛りつけで、口に運べば自然と笑顔になる。
それに彼も嬉しそうに笑った。
穏やかで優しくて、誰が見ても私たちは幸せそうなカップルに見えるだろう。
なのにどこか一人置いて行かれたような心地の私だけがぽつねんと立ちつくしている。
けれどもう少し経てば、この位置を追われ、私はきっと彼の差し出す手を拒めない。拒む理由がない。
何を躊躇うの、と心の中でもう一つ声が聞こえる。あなた、彼の事が好きなんでしょう、と。
ええ好きよ。好きなのよ。
でもどこか違う気がするの。このまま頷いていいのかどうか判らないの。
葛藤を穏やかな表情の下で繰り返しているまもりの前に、デザートの皿が置かれる。
「なんだ?! これ」
驚いたような彼の声に、私はその皿を見て、硬直した。
小さな悪魔がそこにいる。
いや、マジパンで出来た菓子細工の人形だ。
けれど逆立った金髪に尖った耳、にやにやと笑うその姿は、可愛らしいはずの細工とは遠く離れたもので。
「あ・・・」
私はけたたましい音を立てて椅子から立ち上がる。
なんでこのタイミングで、なんで八年も経ってから、と言いたい事は山のようにあったけれど、それは直接顔を見て言わなければいけない。
「まもり!?」
彼の声など気にせず、私は闇雲に出口に向かう。だが、近くに立っていた男性に止められた。
「どちらに?」
「離して! 私、行かなきゃ!!」
私の前を塞いだ手は揺るがず、私は苛立って顔を上げた。早く行かないと、彼がいなくなってしまう。
千載一遇のチャンスなのだ。そうして、言わなければならない事が――――
「え」
「その必要はねぇ」
ウェイターかと思っていた男性は、にやりとかつてよく見た笑みを浮かべて私を見ていた。
だが、あまりに様変わりしていて私は絶句してしまう。間違いなく彼だ。
けれど、彼の象徴とも言うべき髪型も髪色も失せている。
「なんで・・・」
緩く下ろされた長めの黒髪に、尖った耳も隠されている。
かつての知り合いと道ですれ違っても、誰も気がつかないだろうほどの大変貌。
「まもり!」
背後から飛んでくる声に、私は緩く首を振った。
「おい、まもり・・・」
私の肩を掴もうとした手は、触れる前にぴたりと止まった。
がちゃりと響く重い音は、かつて何度も聞いた忌まわしい武器のもの。
それがこんなにも嬉しく思う日が来るなんて思わなかった。
「テメェのお守りはもう必要ねぇ」
「な! ・・・なんなんだ、あんたは?!」
銃口に怯みながらも、彼は果敢に言葉を紡ぐ。
「敗者だ」
自らをそう称し、彼は私を左腕で抱き寄せる。
「コイツに対してのな」
口調は酷く楽しそうで、私はその一つ一つに耳をそばだてる。
そうだ、この声、この口調。いつの間にか忘れていたそれが、鮮やかに思い出される。
「遅いわ」
私は漸う言葉を紡ぐ。責める声も甘く涙に滲んでいる自覚がある。それにやはりにやりと笑って彼は宣言する。
「行くぞ」
「な、待て・・・」
なおも止めようとする彼に、目の前の男―――ヒル魔くんはにやりと笑ってばさりと金を投げつけた。
「手切れ金にしちゃ少ねぇが、取っておけ」
じゃあな、と一言囁いて、彼は私を連れてするりと夜の街へと滑り出た。
私の葛藤を全て塗りつぶす程に深い夜の闇へと。



それからの二人の行方は杳として知れない。


***
fumika様リクエスト『どうあってもまもりが必要だと負けを認めたヒル魔がまもちゃんをかっさらいに来る話』でした。『卒業』のようにベタに結婚式で浚いに来てもよかったし、同窓会で会った途端のプロポーズでもよかったんですが、ヒル魔さんが全然得体の知れない存在になってても浚いに来たら面白いかもな~と書きました。
あの姿じゃないヒル魔さんなんて! と思われたらごめんなさい。
リクエストありがとうございましたー!!

fumika様のみお持ち帰り可。
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