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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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爪紅(4)



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それはマニキュアなどではなく、よく似た毒なのですと言われた方が納得できる。
それくらい彼の動きは丁寧で繊細で、本来なら違和感しか与えないマニキュアが馴染んでさえ見えるのだ。
瓶の縁で刷毛をしごき、余分なマニキュアを落とす様に首を傾げる。
「・・・なんだかヒル魔くん、マニキュア塗るの、慣れてない?」
「爪の手入れくらいフツーだろ」
「普通?」
男性が爪の手入れをすることが普通だろうか。
疑問をそのまま乗せた顔に、ヒル魔は視線も向けずに鼻を鳴らした。
「テメェ俺がどこのポジションか分かってんのか?」
足の裏に感じる硬い手のひらと短い爪の要因を考える。
「そっか。ヒル魔くんグローブできないんだもんね」
「そういうことだ」
野球の投手もそうだが、ボールを扱う際に爪が割れたりすることは多いらしい。
他のポジションと違い、グローブで保護できないからだ。
さすがに色はつけないが、マニキュアを塗って保護する選手も多いのだという。
「ヒル魔くんも塗ってたことあるんだ」
彼が背を丸め、ちまちまと自分で爪を塗っている姿を想像するとどうしても頬が緩んでしまう。
足を預けたまま、まもりは部活でのヒル魔の姿を思い返す。
この部活に入ってまださほど経っていないが、彼は―――やり方は賛同できないことが多いのだけれど―――本当にアメフトのことに関しては一生懸命なのだ。必要ならば、と爪を塗ってもおかしくあるまい。
「ヒル魔くんがそこまでしてアメフトに熱中する理由、って何?」
「熱中するのに理由が要るか?」
質問に質問で返して、ヒル魔はマニキュアの瓶の蓋を閉めた。
そこでようやくまもりの足が解放される。
「うわぁ! ヒル魔くんって器用なのね!」
思わず歓声を上げるくらい、まもりの爪は綺麗に塗られていた。
自分一人で塗ったのではこうはいかない。
はみ出して引っかけて、という残念な末路になるにちがいない。
「嬉しいか」
ケケケ、とどこか意地の悪いような笑みを浮かべたヒル魔に。
「うん!」
まもりは満面の笑みで頷いた。それに彼は少々面食らったような顔になった。
てらいもないそんな顔を向けられることに慣れていないのだと、爪を見つめるまもりは気づかなかったようだけれど。
「糞ガキだなァ」
「だって、自分の足がこんなに綺麗にして貰えたら嬉しいわ」
まるでステップを踏むようにうきうきとつま先を見つめるまもりに、ヒル魔は肩をすくめる。
「しばらくそのままでいろよ。乾くまで時間が掛かる」
季節は夏、冷たいコンクリートの感触が帰って心地よい。
鼻歌交じりでまもりは床に経つ。
「そうね。あ、コーヒー淹れようか?」
「おー」
ヒル魔はそのまま、ぺたぺたと足音を立て、上機嫌のまま裸足で歩くまもりをしばらく見つめていた。

<続>
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