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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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悪魔宣告(5)/完結



+ + + + + + + + + +
私の焦る声に怯む様子など欠片もなく、強引過ぎる動き。
「え、え!? 何、ちょっと、ヒル魔くん!?」
選手たちの汗の匂いが満ちて、お世辞にも綺麗とは言えない空気。
眉を寄せる私を見下ろし、ヒル魔くんがにやりと笑う。
「糞マネ、テメェ俺に何か言いたいことあるんだろ」
「え」
「ここんとこずっとンな面しっぱなしだったぞ」
頬を撫でられ、私は目を見開く。そんなにわかりやすかったかしら。
「ホントに隠し事とか嘘つけない奴だよなァ」
楽しそうに笑うヒル魔くんに思わず視線が釘付けになる。
けれど。
「は、早く行かないと! バス待ってるわよ!?」
私たち二人が遅れてしまったら、皆に迷惑が掛かる。
ただでさえ疲れているのだ、ヒル魔くんだって早く帰りたいだろうに。
なのに、彼は揺らがない。
「ア? 待ってねぇよ」
「ええ!?」
「俺らは後で別に戻るって言ってあるからな」
「ええー!?」
「連中はもう出発した」
声を上げれば悪魔の笑顔。
「なあ、糞マネ、何が言いたい?」
右腕は掴まれたまま、ヒル魔くんのもう片方の手は私の頬を撫でた後、後頭部まで回っている。
あやすように髪の毛を梳かれ、その仕草が普段の彼と結びつかなくて私は混乱する。
でも指先が優しいから、後押しされた。
「・・・MVP、取れなかったね」
ようやく押し出した言葉は、本当に聞きたい言葉とは違った。
「そうだな」
「トライアウト、するの?」
「俺の運動能力じゃ無理なのはテメェが一番よく知ってるだろ」
淡々とした声に、私の喉が詰まった。
違う、そんな、ヒル魔くんも私もよく判ってる残酷な事実を改めて確認したいんじゃない。
「ごめん、なさい。そうじゃなくて」
違うの、と呟き、辛抱強く言葉を待ってくれているヒル魔くんを見つめる。
真っ直ぐに。
「ヒル魔くんは、アメリカに、残るの?」
声は少し震えた。
ヒル魔くんはちょっと目を見開き、次いで片眉を上げる。
「ア? テメェ春大会いつからか判ってんのか」
それは四月に入ってもうまもなく。確かに帰国してすぐに練習しなければならない。
新入生の確保もあるし、忙しいだろう。
けれど、私たち二年生は三年生になり、秋大会には出られない。それなのに、参加するのだろうか?
私の疑問が詰まった視線を受けて、ヒル魔くんは口角を上げた。
「糞ガキどもに丸投げする前に、俺らは色々やることあんだろーが」
「じゃあ・・・」
「テメェが俺をアメリカに置いていきたい、つったってそりゃ出来ない相談だ」
ケケケ、と笑われて。
私はほっとして、笑った。
笑ったはずだったけれど、ヒル魔くんの姿が歪んで見えて。
もっとよく見ようと瞬きしたら、頬に雫が滑り落ちた。
「・・・糞マネ」
掴まれていた腕が離された。
けれど、ヒル魔くんがその手を私の背に回して。
勢い、私はヒル魔くんの胸に引き寄せられる格好になって。
「あ」
抱きしめられている。
瞬間、顔がかあっと熱くなった。きっと真っ赤だろう。
慌てて逃げようとして腕を突っぱねたけれど、現役アメフト選手相手じゃ到底かなわない。
「姉崎」
囁かれるのは私の名前。
滅多に・・・いや、一度として直接には聞いたことのない、呼ばれ方。
思わず顔を上げて。
それを好機とばかり、ヒル魔くんは私の後頭部を掴んだ手をぐい、と引いた。
否定したり拒絶したりするまもなく、自然と近寄る顔、重なる唇。
触れたそれは乾いていたけれど想像以上に柔らかく、そうしてあたたかい。
「テメェは労働力として従順に働け。悩んだり迷う必要はねぇ」
触れ合う唇の合間から、予想もしていなかったことを言われて。
この距離もこのキスも衝撃が大きすぎて、私の許容量を超えてしまった。
怒りや焦りや戸惑いは、展開があまりに唐突過ぎて私の意識と上手につながらない。
それでも唇を奪われた文句は言わなければ。
「・・・あと半年くらいでそれも終わりだものね」
このキスは、泣いた子をあやすようなものか、と唇を尖らせて見せれば。
「ア? 誰が高校の部活程度で終わらすか」
「え」
その言葉を確かめる前に、ぐ、と唇が重なる。今度は深く、深く。
口の中で立てられる濡れた音に、眩暈がする。
膝ががくがくと震えてしまう。
抱きしめられていなければ、しゃがみこんでしまったかも。
「ぁ・・・ん、は・・・!」
息苦しくなって顔を背ければ、べろりと己の唇を舐める舌が間近にある。
「期限なんかねぇ。俺の隣でずっと従順に働いてろ」
それは悪魔の宣告。
抵抗など許さない、とばかりに強固な腕が私を捉えている。
けれどそれ以上に苛烈な視線に、私はただ弱弱しく瞬くことしかできない。
再び頬を滑り落ちた涙を吸い上げ、ヒル魔くんは私の耳に囁く。
「その顔、他の野郎に見せるんじゃねぇぞ」
そうして、私の首筋に噛み付いて低く笑った。

だめ、立っていられない。
震える私を更にきつく抱きしめて、とどめのように一言。

「テメェは俺のもんだ」

ああ、眩暈が止まらない。
とうとう膝が、砕けた。


***
最終回妄想第二段! まだヒル魔さんの前でまもりちゃん泣いたことないね、という絵茶室での会話で盛り上がり、ついでになんでマネージャーが一人だけ、しかもまもりちゃんだけだったんだろう、という素朴な疑問についても言及してみました。ヒル魔さんがアメリカに残るんじゃないかとやきもきして、でもそうじゃないと知った途端にまもりちゃんが泣いたりしたらときめくよね! と大暴走。 いやー、たっのしかった! 
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