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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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夏色メルト(上)

(ヒルまも高校卒業後)
※『ふたり』あたりの話です


+ + + + + + + + + +
まもりはふと視界を過ぎった色彩を追った。
「あ」
それは色とりどりの浴衣を纏った女性たち。
どうやら花火が上がるようだ。
夏ともなれば祭りが頻繁に行われ、夜店の匂いに誘われていそいそと行ったものだけれど。
高校でアメフト部に所属するようになってから祭り関係に顔を出すことはなくなってしまった。
休みもなく続く練習。となればそのサポートで走り回るまもりとて休む暇はなく。
いいな、とは思っても夜の部活帰りに浴衣を着て祭りに行くような気力が正直なところ、ない。
そもそもまもりは着付けが出来ないのだ。
実家にいた頃は母に着付けさせてもらっていたが、現在は遠く離れて暮らしているからそれもままならない。
浴衣程度なら本を見ながらやればできるだろうけれど。
「何道のど真ん中で立ち止まってんだ」
「ヒル魔くん」
不意に掛けられた声に視線を向ければ、いつもどおりの黒ずくめなヒル魔が立っている。
夏に黒はやめてくれ、と言っても相変わらずの馬耳東風。
暑さが感じられないわけではないようだが、持っているのなら別の色を着て欲しいものだとつくづく思う。
彼はすい、とまもりの視線を追った。
すぐに彼女の目的が知れてふん、と鼻を鳴らした。
「着たいなら着ればいいじゃねぇか」
「着付けは出来ないのよ」
本読んでまでやりたいとは思わない、と正直に続ければ。
「習えばいいだろ」
あっさりと言って携帯を取り出し、どこぞへと掛ける。
まもりが口を挟む隙もなく、あっという間に話はまとまり、ヒル魔は尊大にまもりに告げた。
「明日、習って来い」
「早!」
「どうせなら着物も全部着られるようになってこい。テメェなら一日ありゃすぐ覚えるだろ」
「い、一日じゃ無理よ」
なにしろたたみ方一つから洋服とは勝手が違うのだ。
ろくすっぽやったこともないのにそんなの無理、と言えばヒル魔はぴんと片眉を上げる。
「ホー? やってもいないのに随分弱気デスネ」
「う」
「つべこべ言わずに習って来い。明日の日中にな」
「え、授業・・・」
「テメェは明日二限で終わりだろ。部活は免除してやろう」
部長でもないのに偉そうな口ぶり。
けれど彼に反論できるのはごく少数であり、まもり一人の休みならばうまく言いくるめるだろう。
「それとも、やる前に諦めてやらねぇのか?」
わざと癪に障るように口角を上げられ、まもりはむっと眉を寄せる。
判っていても挑発されたら乗ってしまう。
「やるわよ! 見てなさい、きちんと一人で着られるようになるんだから!」
「ケケケ、そうこなくっちゃなァ」
そうしてそんなまもりの性質をヒル魔はよくよく承知していた。


翌日、紹介された場所に向かった。
そこは呉服店。
ショーウィンドに並ぶきらびやかな着物に目を奪われていると、店の中から上品で小柄な白髪の女性が姿を現した。
「あの。もしかしてヒル魔さんの」
「あ、そうです。姉崎と申します」
ぱ、と頭を下げると女性はふわりと笑った。
老齢と呼ぶに相応しい外見だが、なんと言うか・・・随分と色気のある笑みだ。
「無理をお願いしてすみません」
「ああ、そんなことはありません。今日は着付け教室の日でしてねぇ」
丁度枠が空いていたので問題ないですよ、と笑みを浮かべたまま女性は続ける。
「着物が自分で着られるようになると楽しいですよ」
是非楽しんで覚えてくださいね、という優しい声に、まもりはよろしくお願いします、と再度頭を下げた。

<続>
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