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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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紅花

(ヒルまもパロ)
※『トヨシマ』様の時候イラストから発想を得て。


+ + + + + + + + + +
晴れ渡っていた空から、太陽が赤く燃えて落下する。
秋ほどにすばやくなく、どちらかといえばゆったりと変化していく空。
濃い緑の畑の横を、小さな影がいくつも走っていく。
はしゃぎまわって遊ぶ子供たちの影の中に、赤茶色の髪を夕日に熔けさせ、青い瞳を輝かせて少女が一人。
もうすぐ夜が来る。
その前に全員が家に帰り、夕飯の手伝いをして、家族みんなで膳を囲む。
そうして湯を使い、眠りに落ちて明日を迎える。
当たり前の日常を当たり前に享受する幼き子供たち。

ふと、少女が足を止めた。
濃い緑の畑、その中に人影を見た。
「・・・?」
黒い服はこの辺では見ないものだ。
鮮やかな金色の髪が風になびいている。
男だ。
「おーい、まもりー」
呼ばれ、少女はぱっと振り返る。友達が急ごうと手を振る。
夜が来る。暗くて怖くて、静かな夜が。
一人では怖すぎて、親の庇護があるからこそ超えられる夜が。
男はこの辺の人ではないのだろうか。
暗くなる前に帰らなければ、夜が来てしまうというのに。
ちらりと畑に視線を戻す。
「・・・あれ」
見えたはずの男は忽然と姿を消していた。
今の間に家に帰ったのかもしれない。
そう自分を納得させ、まもりは駆け出した。
濃い緑の間に、黄色の花がちらちらと咲き始める、初夏のことだった。

それからも、あの金色を見かけた。
畑の中、佇む男は黄色い花の側でよく似た髪をなびかせていた。
その髪が逆立っているのだと気づいたときには鬼だと思って怯えた。
遠めによく見えないその顔が、それでも恐ろしげだと気づいてはなおさら。
男はまもりを見てはにやりと口角を上げ、ぶちりと黄色い花を毟り取る。
べろりと伸ばした赤い舌、毟った花を無造作に口に放り込むその所作。
まるで自らが喰われるような錯覚にまもりは顔を背けて逃げた。
背後からいつまでもどこまでも哂い声が追ってきそうな気が、した。


あの男は鬼か魔か。
誰に尋ねようにも、彼の姿を見るときはまもりは一人きり。
黒い服、かと思っていたらある日は日の加減で緑に見えた。
もしかして。
もしかして、彼はあの花の精なのかもしれない。
花の咲く時分のみ現れる存在かも。
花が終わるまであと一月。
男に似た花がその首を落とされるまで、あと一月。

まもりは息を潜めじっと一月を過ごし、そうしてその考えどおり男はふいと姿を消した。
ああ、やはりあれは花の精だったのだ。
花が失せて男は存在を消したのだ。
もう二度と見ることはない。
花は、終わった。
胸を撫で下ろしたまもりの中に、それでも僅かに残った不安は、当たり前に来る明日に飲み込まれて消えていく。


けれどまもりは失念している。
明日が当たり前にやってくるように、花期もまた巡るのだということを。
いずれ自らの背丈より高かった緑に並び、超え、やがては見下ろすようになる。
その時、再びあの男に出会ったのなら。
きっとあの赤い舌でべろりと喰われるだろう時が来ることを。
手折られる花が自らであることを、まだ遠い先、未来のことだと思ってる。

明日は立ち止まらない時の行く末。
それが当たり前なら、遠い先、未来も当たり前。
花が手折られ喰われるのも当たり前。



べろりと赤い舌が蠢く明日は、いつか、確実に、来る。



***
『トヨシマ』様にお嫁に行った子です。素敵に飾っていただいたので遅ればせながらこちらにもアップ。
元になった時候イラストは『トヨシマ』様でご覧いただけますwサイトのリンクから行けますので是非!
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