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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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桜雪異聞(1)

(桜雪奇談シリーズ)
※『桜雪奇談』の最終更新部分からの続きです。が、メインはヒルまもではない、かも。


+ + + + + + + + + +
ふわりと漂う香りに、ケルベロスは顔を上げた。
なんだか甘い香りだ。
この屋敷で甘い香りなんて滅多にかぐ事はない。屋敷の主からして甘いモノが大嫌いなのだから。
主であるヒル魔に命じられ、ケルベロスは黙々とゴキブリ駆除に励んでいた。
道具を使うので犬の姿ではやりづらい。そのため、ケルベロスは人の姿になって作業していた。
屋外から屋内へ。
「まもりちゃん?」
名を呼び、匂いを追う。
匂いは彼女の部屋に続いていた。
気づいたまもりが顔を上げてふわりと笑った。
「あ、ケルベロス。どうしたの?」
「・・・それはこの場合、俺の台詞じゃない?」
まもりの目の前には山のように小物が置かれている。それも小花模様の陶器やら桃色の包みやらで、普段なら地味な部屋がずいぶんと賑々しかった。
「あ、もしかして匂い、した?」
まもりは小物をひとつ持ち上げて顔を寄せる姿に、彼がやって来た理由を知った。
「この屋敷じゃまずかがない匂いだったからね。これどうしたの?」
「あの・・・、高見さん、知ってる?」
「神殿の医者の?」
「そう」
こっくりと頷いたまもりに、ケルベロスは内心小首を傾げる。
彼とまもりの接点はほとんどないに等しい。顔を合わせたのは主であるヒル魔がまもりの弟のセナを助けた時以来年に一、二度ほど。
更に彼女が人から仙人に変じた後では一度あるかないかだろう。
不審がるケルベロスに、まもりは苦笑する。
「なんでも、いただき物なんだけれど、高見さんは使わないから下さるって、持ってきてくださったムサシ様が仰ってたの」
「わざわざムサシ様が?」
ケルベロスはますます不審に思う。まず神殿とこの屋敷はけっこう隔たっており、神殿やその近くにだって女の仙人がいるのだ。
わざわざ近場ではなく遠方の、それも大して親しくもないまもりのところに、その他の仙人や天空人を使いに寄越すのではなくわざわざムサシに頼んでまで小物を持って来させたのか。
・・・何か怪しい。
「ケルベロス、私、神殿に行ってくるね」
「は!?」
裏を読もうと眉を寄せていたケルベロスはまもりの言葉に飛び上がった。
「お礼を言ってくるわ」
「や、お礼なら手紙を書いて送るとか、ムサシ様に頼むとか!」
「?」
なぜそんなにケルベロスが焦るのかわからないまもりは、机に広げていた小物を手早く片付けながら彼を見上げてにっこりと笑った。
「せっかくだから神様にご挨拶も兼ねて神殿にお伺いしたいの」
駄目かしら、と言われてケルベロスは詰まる。彼がまもりの行く先を制限する権限などない。
こういう時に限ってまたヒル魔が不在なのが腹立たしい。
彼は何故だかポヨを連れて出かけていた。
「・・・あれが帰って来てからでいいじゃない」
「いつになるか判らないでしょ? それにお礼は自分で伝えるから、ってムサシ様にも伝えたし」
それならば久しぶりに会う神殿の連中とお茶でも飲もう、と言われたなどと駄目押しされてしまえばさしもの彼もお手上げだ。
「むー・・・じゃあ、早く行って早く帰って来なさい!」
「はーい!」
まるでどこぞの母子の様な遣り取りの後。
まもりを乗せた浮雲が真っ直ぐに屋敷から神殿へと飛び立った。

<続>
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