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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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匂う先に(下)



+ + + + + + + + + +
「あれ、どうしたのヒル魔」
そこにやってきたのは栗田。見ればその背後に雪光もいる。
「ムサシは」
「え? 今日はどうしても外せない仕事があるから休む、って言ってたじゃない」
「ああ」
そうだったな、と応じる彼に栗田は困ったように眉を寄せる。
「どうかしたの?」
「ア? なんでもねぇよ」
「その割にはちょっとぼんやりしてる、っていうか・・・」
「姉崎さんと何かありました?」
雪光の言葉にヒル魔の眸が眇められる。
鋭い視線にも慣れたもので、雪光は無言の問いかけに答える。
「さっき廊下で見かけたときは姉崎さんと一緒だったのに、今は一緒にいないから・・・」
「糞マネだったら先に行ったぞ」
それからふと思い出して栗田を見上げる。
「おい糞デブ、何か匂うか?」
「え? 何?」
栗田はぱちぱちと瞬きした後、ふんふんと匂いを嗅ぐがすぐに首を振った。
「特には感じないけど・・・」
「そーか」
一つ頷くと、ヒル魔は靴を履き替え、疑問符を頭に貼り付けた二人を置き去りに部室へと向かった。
とりあえず自分の鼻が馬鹿になったわけではないのだ、という事実を確認しただけで、疑問が解決したわけではなかったのだけれど。


まもりは結局その後もどことなく不機嫌なままで、いつもなら率先して片付けるデータ整理もせずさっさと帰ってしまった。
「姉崎さんが先に帰るのって珍しいですね」
「そうだねー。大体もう少し残っていくのに」
「どうせアノ日だろ」
ケケケ、と笑うと、一年生で最後まで残っていたセナとモン太が真っ赤になってそそくさと帰宅していった。
「・・・ああ、だからじゃないですか?」
「ア?」
雪光が腑に落ちた、という顔で声を上げる。
「今日の昇降口の。あのとき、栗田くんに聞いたの、香水の匂いのことじゃないですか?」
ヒル魔と栗田が視線を交わす。
「あの後少し気になって、姉崎さんにちょっと話掛けたんです」
不機嫌とはいえ、仕事はきっちりこなすまもりに何気なさを装って尋ねたのだ。
彼女は苦笑しつつ、あの時にヒル魔から香水の匂いがして、それでひどく気分が悪くなった、と答えたのだ。
「匂いで酔ったのかも、なんて言ってたんですが・・・そんな匂いしなかったですよね?」
「おー」
「うん。全然しなかった」
ヒル魔も頷き、栗田も同意する。
「僕には姉がいるんですが、姉も・・・その、アノ日の時には匂いに敏感になる、って言ってたことがあったので・・・」
「ホー」
「へえ、そうなんだ」
女性の神秘ですよね、なんて喋る二人に対し、ヒル魔は表面上こそ納得したような風情でいたが。
果たしてそれが原因なのだろうか、と一方で考えていたのだった。
いくらなんでも、常人が全く感じないほどの匂いで気分が悪くなるだろうか、と。

そうして。
ヒル魔は少し、試してみることにした。

朝、午前二時練習組を除き部室にはヒル魔が一番、まもりが二番に来るのが暗黙の了解となっている。
そうしてやってきたまもりが部室に入った途端、またあの不機嫌そうな顔になったのだ。
「どうした」
にやにやしながら尋ねると、まもりはうつむいたまま自らの荷物をロッカーへと運んだ。
その仕草が、どことなく荒い。
「朝の挨拶もなしたぁ、糞風紀委員の名が泣くぞ」
「! っ、誰のせいだと・・・」
「そんな糞不機嫌になるようなことした覚えはねぇんだけどなァ?」
ヒル魔は笑みを消さないまま立ち上がり、まもりに近寄る。
「嫌! 来ないでよ!」
「女の匂いがするから、か?」
「!!」
まもりがびくりと肩を震わせる。それはYESと言っているのと同じ。
ヒル魔はふうん、と一人納得したように手を伸ばし。
「ふにゃっ!?」
まもりの鼻をつまみ上げた。
「すげぇ嗅覚だなァ。昨日の夜、たった一滴だったんだが」
「にゃにが! ちょっと、はにゃしてよ!」
鼻をつままれたままのまもりがじたばたと暴れる。ヒル魔はふいに手を離し、鞄から小さな瓶を取り出した。
「匂いの元はこれだろ」
蓋を外すと漂うのは濃厚な香り。
確かにそうだ、とまもりは瞠目する。
「俺はこれを昨日の夜、一滴だけシーツに垂らした」
「え・・・」
「起きてからはシャワーも浴びたし、ガムも噛んだしコーヒーも飲んだ」
「・・・そ、そうなの?」
それだけの事を行えばいかに濃厚な匂いであっても消されて当然だろう。
多少部屋に匂いが残るかもしれないが、彼自身に染みこむことはないはずだ。
「だが、それでもテメェは分かったんだな?」
「・・・だ、だって! あんなに強烈な・・・」
普段の彼から漂う事なんてないはずの、強烈な甘い、香水の匂い。
だから彼は誰か別の、女性が傍らにいたのだとまもりは考えた。
それでどうして不機嫌になったかまでは考えなかったのだけれど。
「断言してもいいが、それが分かったのはテメェ一人だけだ」
「ええ?!」
「姉崎」
ヒル魔は彼女の名を呼び、一息に距離を詰める。
「・・・っ」
その右手の指がまもりの顎を捕らえた。
左手も彼女の右肩を掴んでいる。
「人間の感覚は好きなモノに対してはえらく敏感になる」
楽しげな視線は、確信を得た悪魔のもの。
「そ、それがどうかしたの」
威圧感に飲み込まれそうになりながら、まもりはヒル魔を睨む。
その熱く潤んだ視線に、ヒル魔はにたりと口角を上げて応じた。


早く自覚しろ、姉崎。
テメェの全ての感覚器で以て、俺を受け止めろ。
頭で考えるより心で感じるより早く、体は求めてる。
さあ、さあ。
―――いざ。


***
ヒル魔さん本体の匂いってなかなか嗅ぐ機会なさそうですよね。
常にガムかコーヒーか硝煙の匂いが纏わり付いてそう。
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