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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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匂う先に(上)

(ヒルまも)


+ + + + + + + + + +
まもりは鼻腔をくすぐった匂いに眉を寄せた。
部活が終わり他の部員は既に全員帰宅している。
彼も帰り支度を終え、先ほどようやくパソコンをしまったところだ。
目の前の男は相変わらず平然としているけれど、それが見せかけだとまもりは気づいた。
「ヒル魔くん、怪我してるでしょ」
「ア?」
ヒル魔は何を突然、という風に片眉を上げただけで身じろぎもしない。
「ほら、腕見せて。左」
「何もねぇ」
「何もないなら見ても平気でしょう?」
それとも見せられない理由でもあるのかしら? とにっこりと微笑めば、彼は観念したかのように小さく舌打ちし、傍らの椅子に腰を下ろした。
彼が自らジャケットを脱ぎ、シャツの裾を捲りあげれば、そこには大きな擦過傷。
まだ血の滲むそれにまもりは眉を寄せ、傷口を検分する。
とりあえず砂利が入り込んだりはしていないようだ。
先ほど他の部員たちと入れ替わりでシャワーを浴びていたから、そのときに洗ったのだろう。
「何で分かった」
「血の臭いがしたから」
「血?」
ヒル魔は不審そうに繰り返した。怪我をしたし、確かに血も出たが、それほど大量ではない。
ましてや今は冬服の厚い布地に覆われた状態だったのだ。
そうそう血の臭いが漏れるとは思わなかった。
「傷口、包帯巻く?」
「イラネ。逆に治りにくくなる」
たしかに擦過傷であればよく洗い、消毒の後は乾燥させるのが一番なのだけれど。
「でもシャツに血、ついちゃってるじゃない」
今にも脱がせて洗いたい様子のまもりに、ヒル魔は取り合わずにさっさとシャツを戻し、上着を羽織ってしまった。
「んもう! ちゃんと家で消毒してよ」
「ハイハイ」
ヒル魔は面倒そうに応じ、立ち上がって鞄を持ち直す。
もう大分遅い時間になってしまった。早々に帰らねばならない。
「行くぞ」
「うん」


駅までの道のりを共に歩く。
ヒル魔の自宅は不明だが、電車を使わないので近場なのだろうとまもりは推測している。
ふと、彼から漂う匂いにまもりは小首をかしげた。
「なんだ」
「うん、ちょっと」
返事にならない返事をして、まもりはヒル魔に近寄る。
頬をすりつけるような仕草に、ヒル魔の眉が寄った。
「なんか・・・ヒル魔くん、いい匂いするね」
「アァ!?」
ふんふん、と嗅ぐ仕草にヒル魔は不信感をあらわに茶色い頭を見下ろす。
「匂うようなもんじゃねぇだろうが」
ヒル魔はシャワーを浴びた後、ガムを噛んだり銃を撃ったりしていない。
匂いを発生させるようなもの―――例えば香水を振りかけたりだとか、制汗剤を使ったりだとか、そんなことは彼がするはずもなく。
ましてや甘い物が大嫌いな彼のこと、まもりが好むような菓子のたぐいを口に入れるはずもない。
「何だろう」
「そりゃこっちの台詞だ」
ヒル魔は嘆息するとガムを口に放り込んだ。途端に漂うのは強烈なミントの匂いだ。
それにまもりは再び小首をかしげた。
「あ、匂いが変わっちゃった」
「ホー」
「なんかいい匂いだったのに」
「テメェの糞妄想だろ、そんなもん」
「違います!」

そんな会話をしたさらに数日後。
放課後、部室に向かう途中で二人は顔を合わせたのだが。
まもりはヒル魔の顔を見るなり不機嫌そうな顔になった。
「なんだその糞不細工な顔」
廊下を歩きながらそう指摘するも。
「元からこの顔です」
まもりは取り合わず、視線をそらしている。
「何抜かしてやがる」
それが何となく気に喰わず舌打ちするが、まもりは距離を離そうと早足になるばかり。
別に彼女に対して何かしたわけでもないし、心当たりもない。
ただ一つ心当たりがあるとすれば、つい先ほど糞煩い女生徒を捕まえて脅迫手帳の餌食にした。
だが、まもりの姿はなかったはず。
距離が縮まらないまま昇降口までたどり着いてしまう。
一体何が、と考えるヒル魔の耳にかすかに呟きが聞こえた。
「なんで、女物の香水の匂い・・・」
「ア?」
振り返ったときにはまもりは既に靴を履き替え扉を開いて出て行くところだった。
香水の匂い?
ヒル魔は自らの体を見回す。
あの女生徒には匂いをつけられるような行動もしなかったし、されなかった。
今も自分の鼻にその臭いは感じられないのに。

<続>
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