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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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サンディ・クローズ

(ヒルまも)
※ヒルまも三年生のクリスマスイブ。



+ + + + + + + + + +
日本でアメフトに関わる以上は私にクリスマスなんてないのかしら。
夜になれば派手なイルミネーションも昼間はまだ沈黙している。
私は歩き慣れた学校への道を歩きながらそれをちらりと見た。
今日はクリスマスイブ、キリスト生誕の前日。
部室に顔を出すと、かつてのように堂々と陣取るヒル魔くんの姿があった。
「明日はいよいよクリスマスボウルね!」
「去年も同じ事言ったよな」
「今年も言えるとは思ってなかった・・・ってスミマセン思ってましたからそれしまって下さい!!」
ジャキ、と音を立てて突きつけられた銃口を前にセナが青ざめてホールド・アップ。
キッカーとQB、それからラインの柱が抜けて、泥門デビルバッツは大幅に戦力ダウンした。
それでも去年の全国覇者という肩書きが重くのし掛かって。
言いようのないプレッシャーに潰れそうになりながら改めて選手を育て、勝ち抜き、そうして今年のクリスマスボウルを迎えたセナたちの表情は晴れやかだ。
「糞甘臭ェこと言ってるんじゃねぇよ糞ガキ共!!」
「んもう、明日は大事な試合なんだからそういう物は振り回しちゃいけません」
今は私もヒル魔くんも部活を引退して、互いに廊下で会っても挨拶をするくらい。
引退後は極力部室に近づかないようにと厳命されていたから、私は春大会終了後から今に至るまで部室には来なかった。
いくら鈴音ちゃんが寂しがっても、セナたちに頼りにされようとも、もうお前の居場所はここではないと言われていたから、行かなかった。
だから実は、ヒル魔くんとのこの距離感というのは随分と久しぶりだった。
思った以上に馴染んだ空気に自然と表情も緩む。
気づいているだろうけど、ヒル魔くんは何も言わなかった。
「明日テメェらが負けたら今年もコーチに甘んじた関東オールスターチームが黙ってねぇだろうナァ」
「またそうやってプレッシャーかけるんだから!」
「や、でも確かに僕たちは勝たないと」
「アハーハー! 勝つしかアリエナイからね!」
今は二年生、部活の中心選手となったセナたちが頼もしい事を言っている。
今年から入った一年生も実践で成長し、マネージャーや主務も一丸となって頑張っている。
その姿を見ながら私はゆるゆると息をついた。
ああ、私の居場所は本当にここにないんだな、と思う。
去年は私もああやって部員達と一緒に泣いたり笑ったりしながら一年間過ごしたんだった。
でも私がいた場所にはもう別の子たちがいる。
それが寂しいと同時にとても嬉しい。
もし私が部室への立入を禁止されていなければ、きっと足繁く通って今のマネージャーや主務の成長を妨げただろう。そのつもりが無くても結果的にそうなっただろうことは想像に難くない。
「ケケケ、テメェら負けたら実弾で風穴開けてやるから覚悟しろよ!」
珍しくヒル魔くんから連絡が来たかと思えば、檄を飛ばしに行くのだという。
結果的に彼のストッパー役として来たけれど、さほど意味はないようだった。
だって。
結局彼が何をどう言おうと、戦うのは彼じゃない。
そうして選手達はヒル魔くんが怖いから戦うなんて姿勢ではない。
勝つために戦うのだと、闘志に満ちた目で真っ直ぐに目標を見据えている。
彼は私になにをしたかったんだろう。
ヒル魔くんをちらりと眺めたけれど、彼は素知らぬふりで笑っていた。

そうして部室から全員が出て。
駅までの道すがら、隣を歩くヒル魔くんを見上げる。
「家、こっちだっけ?」
「いーや」
隣を歩くヒル魔くん、という図式が珍しくてそう尋ねるけれど彼はにやにやと笑うだけだ。
不意に腕を引かれる。
「こっちだ」
「何?」
集団から外れて私たちは住宅街を歩く。
「どこに向かってるの?」
「いい物を見せてやろう、姉崎」
「・・・っ」
名字を呼ばれるのは初めてだ。
確かに部活も風紀委員も引退した今では私に肩書きはないから、他に呼びようがないからかも知れないけど。
よりにもよって、今日呼ばれるなんて。
「おら」
「え・・・」
見上げるのはケヤキの木。葉が落ちて寂しげな枝が冬空に伸びている。
けれどそれよりも目を引くのは。
「あれ、何?」
「ヤドリギだ」
「ヤドリギ? あれ、ヤドリギなの?」
聞いた事はあるけれど、見るのは初めてだ。
くすんだ緑色のこんもりした枝葉に、所々小さな果実が見える。
「ヤドリギの伝承は知ってるか?」
私は弾かれたように彼を見た。
にやにやと笑う口元はいつも通りなのに、眸はひたりと私を見据えている。
「テメェも四分の一はアメリカ人だ、知ってるだろ?」
「・・・知ってるわ」
掴まれたままの腕が不意に放される。
けれど視線は絡んだまま。じわじわと顔が赤くなるのが判る。
「今日はイブだから、効力はないと思うんだけど」
かわいげのない台詞にもヒル魔くんはあっさり切り返す。
「日本的に言えば盛り上がるのはイブだからいいんじゃねぇか?」
住宅街の、地味なケヤキの下で、私たちは静かに言葉を交わす。
半年、この距離はなかった。
半年、ただヒル魔くんを遠くから見ているだけだった。
もどかしくて手を伸ばしたくて、けれど切っ掛けが掴めないまま、今日まで来てしまった。
それは私だけかと思ってたけれど。
違うのかな。
「姉崎」
手が触れる。
幾度も遠くから言葉を紡いだ雄弁な指が、静かに絡まる。
「ここにいれば、誰にでもキスするの?」
クリスマスにはヤドリギの下にいる女の子にキスしてもいいという男性にとって都合のいい伝承。
あえて尋ねれば、彼は皮肉っぽく口角を上げた。
「そっちの方の伝承じゃねぇよ」
「なら、随分と自信家ね」
私たちは付き合ってる訳じゃない。
去年は同じ部活の仲間というだけ、今年は元同じ部活というくくりでしかなかった。
「軽々しく誓えるの?」
それでもキスをするの、と視線で問えば。
「誰が軽々しいって?」
ぴん、と片眉を上げる彼はさも心外、という風情で私の肩を抱いた。
「イブっつーのが不満なら、明日も同じようにしてやるよ」
肝心要の言葉は一つも紡がないくせに、触れる身体はあたたかい。
顎を捕らえる指には鋭い爪。
そうして触れ合う唇に瞳を閉じ、私もそっと彼を抱きしめた。


それは、クリスマスにヤドリギの下でキスをしたカップルは永遠に結ばれるという、伝承。


***
たまには季節に則った話を。
私にとってクリスマスとはここ数年朝晩ケーキを食べさせられ地獄のように忙しい日という記憶しかないです。
サンディ・クローズ=鋭い爪を持つ男。
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