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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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うたかたもの

(ヒルまもパロ)
※江戸時代風パロです。
※18禁部分は裏に掲載しました。 


+ + + + + + + + + +
今にも泣き出しそうな空の下、丁稚奉公の少年がぱたぱたと駆けていく。
乾いた路地を走り抜け、手にした荷物を大事に抱えながら。
この仕事が終われば、年内の仕事は終わりだ。
そうして、田舎に帰って年越しが出来る。
今年は給金も弾んで貰えたし、向こうで待っている家族にお土産も買って帰れそうだ。
鼻歌交じりの少年は、吹き付ける冷たい風にもめげず、足を進めていく。
ふと。
「・・・?」
何かが聞こえたような気がして、少年はそちらに足を向ける。
そして目を見開いた。
そこには老人が倒れていた。見るからに質のいい着物を着ている。
追いはぎにでもあったのか。年末のこの時期、事件は多くなる。
犯人がもういないのなら、助けなければ。
そう思って近寄ろうとしたとき、傍らにうずくまっていた影が立ち上がった。
「!」
金色。
人にはあり得ない色彩の髪を逆立て、漆黒の着物を身に纏っている。
そうしてその裾には、真っ赤な椿が染め抜かれていた。
くるりとこちらを向いたその顔も、異形。
「だ、誰か!」
悲鳴を上げた少年に、男は構うことなく近寄ってくる。
男は腰に帯刀していて、表情もなく、足音もせず近寄ってくる。
見るからに異形の男、腕前はどうだか知らないが、ただの使い走りで丸腰の少年には対抗する手段はない。
「ヒ、ヒィイイイ!」
青ざめて悲鳴を上げる少年の視線に、ここに来て男は気づいたようだった。
「テメェ」
「う、わあああ! こ、殺さないで!!」
田舎には年老いた両親が! と騒ぐ少年に、男はにやりと口角を上げた。
「そうか。俺も大分溜め込んだみてぇだな」
「は・・・?!」
楽しそうな男は、しかも声も聞こえるのか、と一人感心している。
「一ついいことを教えてやろう。あの男、まだ生きてるぞ」
「え!?」
その言葉に恐怖も忘れて慌てて駆け寄ると、確かに弱々しいがまだ息がある。
しかもどこも怪我をしているわけではない。
「魂魄が抜ける気配がしたが、唐突に失せた。テメェが来たからだな」
「え? な、何・・・?」
訳がわからず困惑する少年に、男はにやにやと笑うばかり。
「ほら早く助けろ。礼金も弾んで貰え」
しっしっ、と手を振る男の腕にも、何かが見えた。
椿の彫り物だ。
「あなた、は・・・」
「運が良ければ、テメェが死ぬまではもう会わねぇよ」
そうして、ゆらりとその姿が歪んだかと思うと、煙のようにかき消えた。
「な・・・」
呆然とその姿を見てしまった少年は、腕の中の老人が身動いだのに気づいた。
「あ、だ、大丈夫ですか?! 今、お医者様のところに運びますね!」
あの男のことはそれから考えればいい、と少年は老人を背中に背負う。
そうして助けてくれる人を探して人通りのあるところへと足を進めた。



「ありがとう。おかげで助かったよ」
倒れた老人は地元で有名な大店のご隠居だという。
体格のいいその息子の店主が少年に頭を下げるのを、慌てて彼は遮った。
「いえいえ! 僕は、たまたま通りかかっただけですから!」
お使いの途中ですから、とその場を辞そうとしたが、それは店主が止めた。
「まあ待ちなさい。使いは他の者をやらせる。君の奉公先の店にも連絡しておくから、こちらに来なさい」
有無を言わさず客間へと通される。
そこには少年とそう年の変わらない少女が座っていた。
「鈴音と申します。うちのおじいさまを助けてくださってありがとうございます」
にっこりと笑うその顔は晴れやかで、暖かな日の光を想像させるようなかわいらしさだ。
思わず見とれた少年の背を、店主が叩いて笑う。
「大したもてなしは出来ないが、飯でも食べていってくれ」
「え!? いや、そんな・・・」
「いいじゃない、さっき使いの者に聞いたわ。もうお仕事は終わったんでしょう?」
「は、はい、まあそうですが・・・」
「ならいいだろう。さ、支度をしておくれ」
「はい」
女中が頭を下げ、程なく食事の膳が運ばれてくる。
分不相応な歓待に冷や汗を掻きながら少年はふと先ほどの男のことを思い出した。
けれど。
あの恐ろしい金の髪、黒い着物に赤の椿、というものは浮かぶのに、なぜか。
「・・・あれ」
「? どうしたの?」
「あの・・・このあたりに、金色の髪の人なんて、いませんよね」
「金色の髪?」
「そんな人、いるの?」
髪は黒に決まっている。時折赤かったり白かったりしても、金色はない。
主人と鈴音は首を傾げる。
「あ、はは。そうですよね、そんな人、いるはずないですよね」
引きつった笑いを浮かべた少年は、記憶を辿る。
あの時交わした言葉も、恐怖もとまどいも覚えている。
煙のように消えたその瞬間も。
けれど、顔が思い出せない。
なんであんなに恐ろしい姿なのに、覚えていられないのだろうか。
一度見たら絶対に忘れないような気がしたのに。
「ねえ、お伺いしてもいいかしら」
「は、はい?」
考え事をしていた少年はきょとりと見つめてくる鈴音の声に我に返った。
「貴方のお名前はなんて仰るのかしら」
「あ、ああ! すみません、名乗りもせず失礼致しました。私は瀬那と申します」
「そう。いいお名前ね」
にっこりと笑う鈴音に瀬那も笑顔を返す。
その様子を満足そうに店主は見つめていた。


先ほどの異形の男は飄々と道を歩いていた。
時は年の瀬、忙しなく走り回る者たちの中にあって、彼は全く頓着しない。
そうして周囲の人々も見るからに異形の男がいるのに全く驚きを示さない。
彼はふいに何かに気づくと、するりと一軒の長屋に入り込んだ。
そこでは鬼神のごとき表情の男が女の首を絞めている真っ最中だった。
女は苦しげに藻掻き、男の腕にいくつもひっかき傷を作るが腕は緩まない。
「・・・っ!!」
必死に逃れようとする女の視界に、金色の光が過ぎる。
そうして閃く白刃。
ああ、助けて貰える。
女はそう思いこんで意識を手放した。

男はぜいぜいと肩で息をしていたが、ふいにふらりと身体を離す。
「あ・・・」
ごとりと女の身体が長屋の畳に転がる。
毛羽だったそこに倒れた女はぴくりとも動かない。
恨めしげな目に、表情に、男はようやく我に返った。
なんて、ことを。
「あ・・・あ・・・」
男は震える手で頭をかきむしる。両手に刻まれた女の爪痕が、焼け付くように痛み出す。
「ああ・・・!」
男は言葉もなく、ただ呻きながらふらりと外に出る。
そうして、突然奇声を上げながらどこぞへと駆けだしていった。
長屋に残されたのは女の死体。
―――そうして、金の髪の男。
「さて」
男は先ほど振りかざした刀を収めた。
それを合図にしたかのように、ひゅるりと女の口から白い靄が飛び出す。
男は椿の絡んだ手で靄を無造作に掴むと、ぱくりとそれを口に含んだ。


金色の髪を靡かせて、男は歩く。
やがて日が落ち、月光も届かない深い闇に男は足を踏み入れた。
躊躇いもなく進んでいくと、やがてぼんやりと明かりが灯る。
朱塗りの門前に彼を歓迎するかのような篝火が盛大に焚かれている。
けれど誰の気配もなく、誰の歓迎もない。
吉原もかくや、という豪奢な造りの郭。
所々に配置されている飾りは全て蝶をかたどった意匠だ。
黒と赤で構成された郭を、勝手知った様子で進んでいく。
男が歩けば、襖はひとりでに開いて彼を誘う。
そうして奥まった座敷、人間の世界では最も格式の高い遊女が座るだろうそこに。
「また、来たのね」
顎で茶色い髪を切りそろえた禿(かむろ)が彼を出迎えた。
その瞳は碧。深い闇に存在する郭にあって、唯一光の匂いがする存在。
「テメェが呼ぶんだろ」
「そんな事はしてないわ」
見た目にそぐわない落ち着いた喋り方。
男は禿の前に腰を落ち着ける。
「手を出して」
「おら」
差し出されたそれを手に取り、禿は眉を寄せた。
「・・・量もそうだけど・・・随分と恨みがましい者が多いわね」
「人間の世界は年末っつー区切りで慌ただしいからナァ。色々蟠りも多い」
「そう」
最初に男の手が、そして次に禿の身体へと鈍い光が移る。
ふわふわした光は、禿の身体から離れると白く輝く蝶へと変化した。
ほう、と禿は嘆息する。
「そんなやり方じゃ、時間掛かるだろ」
禿はにやにやと笑う彼に嘆息した。
「まさか、それが目的でそんな魂魄ばかり集めたの?」
「サアネ。たまたま集まるんだよ」
「どうかしら」
肩をすくめ、禿は彼に引き寄せられるまま抱きしめられる。
そうして、ふっくらと柔らかい唇を彼のそれに重ね合わせた。
触れ合う舌先から、身体から、次々と光が禿へと移っていく。
そうして。
幼かった手足が急速に伸び、丸みを帯び、成熟していく。
「・・・は」
唇を離したときには、彼女は全身を鈍く輝かせた極上の女へと変化していた。
今は禿の服ではなく、薄い赤襦袢が頼りなく肌を覆う官能的な姿。
この場所に本当に見合う成熟した身体。
「相変わらずいい身体だな」
ぐい、と彼女を抱きしめて満足そうに男は笑う。
「本当は必要ないのよ、こんなこと」
ふい、と顔を背ける女に、男はにやりと笑う。
「必要ねぇのに備わってるもんなんてねぇよ」
それにこれが好きなのはテメェの方だろ、とからかえば彼女はさあっと顔を赤くした。

男は死神。人々の魂魄を迷わせる前に己の身体に取り込むのが生業。
女は魂魄のうち、魂を天に返し、代わりに魄と呼ばれる個体の記憶を糧にする存在だ。
男は時折、こうやって女に魂魄を渡すためにここを訪れる。
互いにいつから生きているかなんてとうに失念した。
ただ人々が生きる限りその死は必ず訪れるので、人の世の登場と共に存在したと考えるのが妥当だろう。
けれどそんなことは二人にはどうでもいい事だ。
「私はここに迷い込んだ魂魄だけで充分なのに」
一つ二つの魂魄ならば禿の姿で処理出来る。
けれど死神が持ち込む魂魄の量は比較にならない程多い。
その全てを一度に取り込もうとすると、どうしても大人の身体にならざるを得ないのだ。
「テメェも腹膨れるし楽しめるし一石二鳥だろ」
「楽しいのは貴方だけでしょ」
魂魄を取り込むと、次第に人の欲が澱のように溜まって人に近くなり、勘のいい人に見られたりするので死神として身動きが取りづらくなる。
だから本来はある程度取り込んだ魂魄はそのまま黄泉路へとただ放り出すのが死神の常であり、わざわざ彼女のところに出向く必要はない。
けれど彼はある程度時を経ると必ず彼女の元を訪れるのだ。
「大人になるのは結構疲れるんだから」
「それは俺だけのせいじゃねぇナァ」
「ちょっと・・・」
女の身体に絡みついてくる、椿の腕。
悪意も善意もなく、ただぽとりと首を落とす、死神の象徴。
「『消化』に時間がかかるだろ。その間付き合えよ」
勝手な事を言って彼女にのし掛かる男に、女は嘆息してその首に腕を回した。

□■□■□

女の頭を膝に載せて、男は窓から外を眺める。
見えるのは無人のままに灯る明かりと、その光も届かない、どこまでも深い闇だけだ。
身動ぐまもりの肌が次第に白く光り出す。
光は次々と白く輝く蝶となり、男が先ほどまで見ていた闇へと躊躇いなく飛んでいく。
音もなく白く美しい蝶がいくつも折り重なり闇を切り開くかのような光景は、夢のよう。
全てが幻惑に満ちた、美しい影の世界。
光が収まると、先ほどまで散々貪った肢体は禿のそれに戻っていた。
さらりと彼女の頭を撫でる。
本来はここに至るまでの行動も、ここでの事も、全てがあり得ないものだ、と男とて承知している。
けれどこうやって互いに違う性を持って存在するのなら、そこに意味は必ずあるはずだ。
互いに求める事も、その根幹にある感情も。
だが、早急に答えを求めはしない。
人の世が続く限りはこの世界も消える事はないから。
指通りのいい髪を撫でながら、男は穏やかに笑みを浮かべた。





だいぶん年を経て、妻も亡くなり子も独り立ちし、孫も見る事が出来た。
ふと呼ばれたような気がして、そちらへと赴く。
そこに立っているのはいつぞやの金の髪。
躊躇いもなく声を掛ける。
「お久しぶりです」
「ホー。あの時のガキか。随分年喰ったナァ」
「貴方はお変わりありませんね」
「判ってるんだろ」
寸分の狂いもなくあの時のままの男に、確信する。
「ええ」
やはり彼は、死神だったのだと。
彼を前に取り乱す必要もないのは、十分に生きられた証。
男はすらりと刀を抜いた。
「テメェは本当に運がいい」
「そうですね」
誰かに与えられるわけでも、病に苦しむでもなく、静かに『死』を迎え入れられる幸運。
瀬那は眸を閉じて立ちつくす。
躊躇いなく身体の中を通り抜ける、どこまでも冷たい感触に力が抜けた。
大商人と名を馳せた彼はそこに膝を折り、倒れる。

―――――そうして、最後の吐息を安堵混じりに零したのだった。


***
赤襦袢的な何かを書きたいなあと思っていたので何となく作成。
普通の遊郭物を作ろうとしたのに蓋を開けたらまたパロディでした(苦笑)
実は昔書いた作品のリメイクだったりします。
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同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
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