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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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サイド・ジョブ希望

(ヒルまも一家)
※『鬼の霍乱』の前あたりです。

+ + + + + + + + + +
まもりは常々やってみたい事があった。
そしてその相談に乗った友人の主婦は、それならばこれはどうかと一枚のチラシを渡してくれた。
買い物途中、立ち話をするまもりの表情は明るい。
「ありがとう! 家で主人と相談してみるわね」
「蛭魔さんならいつ来てくれても大丈夫よ」
「行けるように頑張るわ」
笑顔でその友人に手を振り、まもりは買い物袋を下げて歩き出した。

子供も全員帰宅し、食事も終えて一服する時間。
それぞれにコーヒーやカフェオレなどを渡したまもりはいそいそとチラシを持ってヒル魔の隣に座った。
「ねえ、ヒル魔くん。私これやってみたいんだけど」
ヒル魔がちらりとそのチラシを見て、そうして眉間に皺を寄せる。
「却下」
「なんでよ!」
「テメェがこれをやる理由がねぇだろ」
「やってみたいの! あのね、私色々勉強したり資格を取ったりはしたけど、実務経験はないのよ」
「そうだナァ」
「だから今回期間限定だし丁度いいと思って」
「良くねぇよ」
リビングのカーペットの上でくつろいでいた子供達は両親の会話になんだろうと首を巡らせる。
「何やってると思う?」
「母さんがバイトしたいって話じゃないの?」
「そうみたいね」
そう、子供達の読み通りまもりはヒル魔に働いてみたいのだと言っていたのだ。
生活費が足りないわけではなく、今の生活に不満があるというのでもない。
ただ、大学を出てから今まで働こうとする度に、主に子育てを理由にヒル魔に却下され続けていたのだ。
無理に行こうとしてもヒル魔の手に掛かれば仕事先までたどり着く前に捕まってしまう。
だから子供が小さい今までは、生活拠点がアメリカというのもあり、外に働きに行くのを我慢していたのだ。
しかし今年の春からは日本に帰ってきて、子供も大きくなったし、近くにはまもりの両親もいる。
子育てがもう理由にならない今、今度こそ働いてみたいとヒル魔に強請っているのだ。
「金が足りないなら出してやる」
「お金の多寡じゃないの。昼間のみんながいない時間帯とか、短時間でもいいから、働きたいの!」
ちなみに在宅の仕事も以前やろうとしたが、内職なんてみっともないとヒル魔が激怒したので叶わずじまいだ。
「子供も大きくなったし、必ず私がいないといけない年でもないでしょ?」
「テメェの仕事は主婦だろうが。それ以外はさせねぇ」
どうあっても首を縦に振らないヒル魔に、まもりはむーっと膨れてみせる。
「外に出たいなら糞主婦仲間とその辺で茶でも飲んでりゃいいだろうが。テメェは働くな」
「なんで働いちゃいけないの!?」
「主婦業をおろそかにすんじゃねぇ」
「まだしてないでしょー!」
どうあっても平行線を辿る会話に、子供達は嘆息して顔を見合わせる。
「なんでお母さんが働いちゃだめなの?」
「そりゃ・・・」
妖介は頭を掻いてまもりを見る。
「どこに行っても母さんはモテモテだから、心配でしょうがないんだろうね」
「しかも天然で気づかない」
アヤも肩をすくめる。
「余計な害虫は必要ない、ってことか」
「俺たちとしても哀れな被害者は増やしたくないね」
「確かに」
会話がふいに途切れる。
視線を向ければすっかりふてくされたまもりはキッチンに引っ込んでしまった。
ヒル魔は構わずパソコンを立ち上げたところだ。
「父さん、少し外に出してあげてもいいんじゃないの?」
「猫じゃないんだからちゃんと帰ってくるよ」
妖介とわりと失敬な護の言葉にもヒル魔はガムを口に放り込んで肩をすくめる。
「あんな糞天然、外に出したら公害だ」
そんな事を言うヒル魔の背後に、アヤが回り込む。
ヒル魔が開いているのは近隣の地図、そうしてまもりが働きたいと言っただろう店。
「確かに危険だ」
「え?」
「何が?」
子供が全員揃ってヒル魔のパソコンを見た。
そこにある地図と脳裏の周辺の様子を重ね合わせ、全員が確かに、と頷く。
「建物が角にあるし、狙撃されやすいね」
「交通量が多い道路に面してるから誘拐されやすいかも」
「近所に潜伏できそうなアパートが多すぎる」
自己防衛能力を多分に求められるヒル魔家の家族。
幼い頃から色々と命を狙われることが多いせいもあり、自己研鑽は欠かせない。
身を守るための判断能力は日々培われているのだ。命が危なかった事は一度や二度ではない。
だが、まもりはそこまで気づいていないようだけれど。
「その辺、母さんは全然考えてないんだね」
家にいれば防犯対策のセキュリティは堅牢だし、いざというときに家族の誰かが駆けつけることができる。
まもりには常に盗聴器や発信器がついているので実際見失う事は少ないけれど、用心に越した事はない。
「あいつは糞無防備すぎる」
ヒル魔のぼやきに皆で苦笑混じりに頷く。
本当に危ないのが知れるので子供達はヒル魔の味方に付く事に決めた。
ふと、アヤはチラシを見て眉を寄せた。
「そもそもケーキ屋なんて却下に決まってる」
「だろ」
甘い匂いを振りまいて帰ってくるまもりを想像しただけで気分が悪くなる。
我が意を得たり、と頷く父と眉を寄せる姉の姿に、兄弟はやれやれと視線を合わせて嘆息した。

***
どんだけうちのヒル魔さんはまもりに甘いというか過保護なんだろう・・・(苦笑)
素直に「家に帰ったら笑顔で迎えて欲しいし、余計な苦労はさせたくない」とか言えばいいのに。
・・・言わないですね(笑)
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