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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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誘蛾幻燈

(ヒルまも高校卒業後)

※『薔薇の下にて』と『イヤーロブ』の間です

+ + + + + + + + + +
ヒル魔はキッチンからいつまで経っても終わらない食器洗いの水音を聞いていた。
二人分の食事の後で、それまでの分の汚れ物がシンクに残っているはずもない。
なぜなら、この部屋で生活するのは今日からだから。
日中は家具の購入や搬入で忙しく、昼食は適当に外で食べた。
夕食は新しい部屋で二人揃って食べたわけだ。
ヒル魔はしばらくパソコンを開いて様子を伺っていたが、あまりに水音が続くので立ち上がった。
買った食器全てを水洗いしているらしいまもりの姿。
確かに洗った方がいいのかもしれないが、それこそざっと流すだけで、後は使うときに洗えばいいのに、と思う。
しかしまもりは機械的に黙々と全てをスポンジ片手に洗っている。
視線はどこか遠くを眺めているように、虚ろで。
ヒル魔はひっそりと嘆息する。
まもりが皿を手放した瞬間を見計らって声を掛けた。
「いつまで食器洗ってんだ」
「っ!」
びく、と飛び上がったまもりは勢いよく隣を見た。
そこに佇むヒル魔に向かってぎこちなく笑みを浮かべる。
「あ、あとちょっとで全部洗い終わるの」
「調子に乗って買いすぎだ」
二人なのにその量の食器はどうだろう、という枚数。
料理ごとにこだわりがあるのかもしれないが、あからさまに多すぎる気がする。
「そんなことないわよ、盛りつけって大事なんだから!」
「さすが食い意地の張った姉崎さんらしい発言デスネ」
小馬鹿にしたように見つめると、まもりはぎゅっとスポンジを握りしめた。
泡がしたたり落ちるのを、ヒル魔は一瞥して踵を返す。
「さっさと洗って、コーヒー淹れろ」
リビングに戻りながらヒル魔はちらりとまもりを伺う。
「二人分な」


二人がこの部屋で暮らすのを決めたのは、卒業式の日だった。
その後まもりは引越の準備に追われていたしヒル魔は姿を眩ませていた。
実は、今朝に現地の駅前で待ち合わせるまでヒル魔とは全く連絡が取れない状態だった。
正直騙されてやしないかと不安になったが、事前に聞かされていた待ち合わせの時間に着くと、駅にはちゃんとヒル魔が待っていた。
どうやら先に来て自分の部屋の片づけを済ませていたらしい。
まもりが大荷物を担いできたのを見て、計画性がないとせせら笑いつつ部屋に向かったときにはヒル魔の部屋の片づけは終わっていた。
事前に二人ともベッドや勉強用の机といった大物は購入・搬入していたので、後は細々したものとリビングの家具を中心に買いそろえた。
どこの店でも手帳が閃くたびに店長が飛んでくるのを、まもりは眉を寄せて怒ったのだがヒル魔は取り合わない。
そのおかげで室内の家具は不足することなく早々に揃った。
トントン拍子に全ての用意が調っていく。
なし崩しに食事の準備や掃除などはまもりが請け負う形になりそうだが、それは別にいい。
そういうのが好きな性分だし、料理にしろ掃除にしろ、単に隣にいられるだけだとやりづらいから。
ましてやヒル魔だ、そういうのが好きとは絶対に思えない。
そして最後に食材を購入して帰宅し、まもりは料理をしながらようやく気づいたのだ。

今夜から、ヒル魔と二人で過ごすという事実に。

それからのまもりの行動はかなり不審だった。
ぎくしゃくとぎこちなく動き、そのくせ止まることなく料理はきちんと作ったし、食後の片づけもこなしている。
けれどあからさまに二人でいる事を避けるのを、ヒル魔は予想通りだと受け取っていた。
日中は忙しくてそれどころではなかったと言い訳出来るが、落ち着いて考えれば誰だって判る結果なのだから。
それをすっかり失念するあたりが姉崎まもりたるところなのだろう。
「・・・おまたせ」
「おー。待ちくたびれて根が生えた」
「そこまでじゃないわよ」
「夕食後一時間経っても片づけが終わらなけりゃそうも思うだろーが」
「う」
コーヒーを受け取ったヒル魔はおずおずと向かいに座ったまもりを眺める。
こちらに視線を向けないあからさまな様子に、思わず浮かぶのは小さな苦笑だ。
「どうせテメェのことだ、『今夜から二人っきりだったんだわ! 私どうしたらいいの!?』とか考えてるんだろ」
「どこからその声出したの!? って、ええ?!」
まもりの声色まで真似た口調に、まもりは気色悪さと同時に見抜かれていたという驚きを隠しもせず叫ぶ。
「テメェの考えくらいお見通しだ」
コーヒーを飲みながらにやにやと笑われ、まもりは手にしたカフェオレに口も付けず、相変わらず視線を彷徨わせる。
「だって、日中は忙しくてそれどころじゃなかったし・・・」
「その前にも散々時間あっただろうが」
「い、忙しくて!」
それにヒル魔は片眉をピンと上げる。
「忙しいっつーのは物事の形容だ。何について忙しいか、それが明確じゃないなら言い訳にもなんねぇ」
「・・・引越の準備で忙しかったの」
「寝る間もない程じゃねぇだろ」
まもりはカップをぎゅっと握った。
「正直言うと、全然考えてなかったわ」
それにヒル魔はやっぱりな、と肩をすくめた。
「どうせそんなこったろうと思った。夕食作ってるあたりでやっと思い至った、っつー感じだったしな」
「判ってるんじゃない!」
「確認しただけだ。いいか、テメェが何に混乱してるかも大体把握してるが、それは杞憂だ」
「何が?!」
「俺はその気もねぇ女は抱かねぇよ」
その宣言にまもりはぴしりと固まった。
「無理矢理ヤるなんて労力の要ることはしねぇ」
固まるまもりをヒル魔はむしろ面白そうに眺めている。
なぜにこんなに余裕なのか、と問いつめたい程に。
ヒル魔は立ち上がり、未だ固まるまもりの隣に立つ。
「姉崎」
呼ばれるがままに顔を上げる。
夕食からずっと絡まなかった視線がここにきてやっと絡んだ。
呆然としている間にキスされた。コーヒーの味の、そのくせ甘いキス。
「さっさと寝ろ」
「・・・はっ?!」
時計はまだ10時を回ったばかりだ。寝るには早すぎる気がする。
「変に考えすぎて訳わかんなくなってんだろ。寝て目が覚めりゃ落ち着く」
「だって、今のうちに色々決めないといけないこと、あるじゃない」
「例えば?」
焦るまもりはとりあえずいくつか考えつく限りで並べる。
「ええと・・・ゴミ出し当番とか、お風呂掃除当番とか」
それにヒル魔は半目になった。
「それこそ明日で充分だろうが」
「やっ! もう、やめて!」
まもりの髪をぐしゃぐしゃと乱して、ヒル魔はおかしそうに笑ってパソコン片手に自室へ向かう。
「ちょっと!」
乱れた髪を手櫛で直しながらまもりが声を上げると、ヒル魔はああそうだ、と呟いて振り返る。
「俺の部屋には入るなよ。入った瞬間その気だと見なして押し倒すぞ」
「なっ、な~~~!!」
ひらひらと手を振りながら自室に消えたヒル魔に、真っ赤になって口をパクパクさせていたまもりは、おもむろに自分のカップに入っていたカフェオレを一気に飲み干した。
ほどよく冷めたそれはまもりの身体も僅かに冷やす。
「・・・はぁ」
ため息をついてヒル魔が消えた扉を見つめる。
その先は日中見せて貰ったが、彼が片づけたとは思えない程綺麗だった。
元々持っていた物が少ないのだ。本だけは妙に多かったが。
まもりとは全く対照的な室内だった。
きっと今、ヒル魔はあの室内で、いつもと変わらない調子でパソコンをいじっているのだろう。
まもりが一人赤くなったり青くなったりしているのを一段も二段も上から見下ろしてにやにやしているのだ。
そう考えると腹が立ってきた。
色々考えるからやっぱりいけないのだ。ヒル魔の言うとおり寝てしまおう。
まもりは二人分のカップを洗うと、さっさと自室に戻った。

身支度を調えてベッドに横たわる。
昨日までは階下にいる母の気配をどこかで感じながら眠っていたから、完全に一人で眠るのは今夜が初めてだ。
正確に言えばリビングを挟んだ隣にはヒル魔がいるのだが、彼の気配はしない。
見た目と違い、元より足音も気配もしない男なのだ。
真っ暗な中に一人取り残されたような気持ちになって、まもりはごろりと寝返りを打った。
これから二人で生活する、というのがまだどこか夢うつつのような。
それでもヒル魔は触れても霧散する訳じゃないし、触れた指先はあたたかい。
まもりは目を閉じる。眠ってしまえばいい。
明日になったら普通に話しかけて、笑いかけて、今日決められなかったゴミ出し当番とお風呂掃除当番とを決めよう。

ところが。
眠ろうと思えば思う程、目は冴えてしまう訳で。
まもりはしばらくごろごろと寝返りを打ち続けていたが、どうにも眠れず仕方なく起きあがった。
時計を見ればもう12時近い。二時間近くゴロゴロしていたのか、と自分に呆れた。
もう一度何か飲み物を飲もう、とリビングに出る。
明かりの落ちたリビングは薄暗いが、フットライトがほんのり照らしているので完全に闇ではない。
キッチンに向かおうとしたとき、ヒル魔の部屋の扉がほんの少し開いている事に気づいた。
隙間から明かりが漏れている。
まだ起きているのか、と思ったがよく考えたらまだ12時前だ。
通常ならまもりとてこの時間は起きている。
まもりはその明るさに引き込まれるようにヒル魔の自室の側に近寄った。
声を掛けようかどうしようか、と逡巡していると。
「その扉に触れたら、テメェの覚悟は決まったととるぞ」
「っ!!」
まるで見えているかのようにヒル魔の声が響いた。
のばしかけた指先がぴたりと止まる。
「眠れねぇなら酒でも飲んで寝ちまえ」
「・・・未成年よ?」
それに扉越しのヒル魔は低く笑った。
「自分の貞操と世間の一般常識とを天秤に載せろ」
まもりはぐっと左手を握りしめて胸元に当てた。
その下で心臓が痛いくらいに響いている。
この先にあるのはこの身体を焼き尽くす炎。
まるで誘蛾灯だ。
けれど彼は無理強いをせず、選択権をまもりに委ねた。
別に今日じゃなくてもいい。
明日でも明後日でも、このままずっとこの扉をくぐらないという選択肢だってある。
「糞真面目な姉崎サンはどうされるつもりデスカネ?」
まもりは大きく深呼吸した。
いずれ来ることなら、今の気持ちのままに行動しよう、と。
意を決して、手を扉に触れさせて開く。
「こうするの」
音もなく開くその向こうから、伸びてくる白い腕。
それは本当にまもりを焼き尽くしそうな熱い手。
引き込むのではなく迎え入れるだけのそれに、まもりは自らの意志で、脚を進める。

音もなくまもりの背後で扉が閉まった。



***
fumika様『「全身が~」の同棲一日目の夜』でした。我慢大会の様相にしようかと思って色々書いたのですが、どうにもヒル魔さんがまもりちゃんの意志がない事には手を出さないというスタンスを崩してくれず、結局まもりちゃんが動く事に。まもママの予想通りでした。もっとおもしろおかしく書ければよかったのですが!
急がなくてもいい、と何度も確認しつつも据え膳は頂きますよヒル魔さんですから!(笑)
リクエストありがとうございましたー!!

fumika様のみお持ち帰り可。
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