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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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桜雪奇談・11

※『桜雪奇談外伝~目覚め~の後の話』です。




+ + + + + + + + + +
まもりは掃いても掃いても降り積もる花びらの下で手を止めた。
常春の世界で、いつ空を見上げても桜は美しく、空は青かった。
それは年を経ても同じで、気が付けばあんなに大変だった洗濯物干しも背伸びせず出来るようになった。
まもりは掌を見る。いつかは小さく頼りなかった手も、いつの間にか大きくなった。
ここに来てからもう何年経っただろう。まもりは数えようとして、やめた。
何年ここで過ごしていても、まだまだまもりは仙人としては半人前なのか、術もろくに使えない。
当初まもりより後に来たはずのセナでさえいつの間にかまもりを追い抜いて仙人の座を得ようとしている。
自分一人がまだ足踏みをしている状態だ。
自分が情けなく、また教えてくれているヒル魔にも申し訳なくて、まもりはふう、とため息をついた。
手の動きを再開し、掃除をしていく。
ある程度掃き清めたら掃除は終わり、後は本を読んだり術の実践をする時間だ。
ちりとりで掃き集めた花びらをすくい上げ、ゴミ捨て場に捨てに行く。
掘られた深い穴に投げ入れたそれは、吸い込まれるようにすぐに見えなくなる。
あれほど綺麗に咲き誇っていても、散ってしまえばこの場所に葬られる。
どこか暗い目をしたまもりは、頭を振って自室へと戻っていった。


術は主に言葉を組み合わせて発生させる。
勿論悪戯に組み合わせても作動せず、調子や音の高低、本人の精神にも応じて変化する。
同じ術を使ってもまもりとヒル魔では全く威力が違ってくる。
せめて基本的な術くらいは、とまもりは言葉を連ねるが、まるでうまくいかずまもりはため息と共に肩を落とした。
『まもり?』
ヒァ、という声にまもりは視線を下に下ろした。そこには生まれたときより大分大きくなったポヨの姿。
女の子らしいが未だに仙獣を人の姿にする術を使えないまもりは、ポヨの人型を見る事は叶っていない。
「ポヨ、どうかした?」
『元気ない』
「うん、ちょっと、ね」
仙獣と仙人は必ず対になっている。そのため、身体の調子や考えたりする事はある程度判るのだ。
今も心配されているのが判って、まもりは笑みを浮かべてポヨを撫でる。
「・・・やっぱり才能ないのかしら」
落ち込むまもりの手をさり、とポヨは撫でるが特に口を利かない。
慰めも肯定も、すべてその沈黙に含まれているようで、まもりは更に俯いた。
ろくな術も使えない見習いなんて、存在するだけ無駄な気がする。
時折まもりに嫌味を言いに来るのが趣味のようだった十文字も、最近はあまりそういった言葉を掛けてこなくなった。
牧場に顔を出しても、誰もがどこかよそよそしい。
弟のように慈しんだセナでさえ、なんとなく遠巻きなのだ。
ムサシや栗田は顔を見れば親しげに声を掛けてくれるが、それだけだ。
そうして、一番まもりの気持ちを暗くさせるのは。
「オイ」
「はい」
呼ばれて振り返れば、そこには不機嫌そうなヒル魔の姿。
「コーヒー淹れろ」
「はい」
そう一言告げて自室に引っ込んだヒル魔に言いつけ通りコーヒーを淹れて持っていく。
「どうぞ」
「ん」
手渡して言葉を待つが、その後は何もない。
・・・以前なら、術がうまくいかず四苦八苦しているときにはそれとなくアドバイスをくれたりしたのに、最近はそれもない。
まもりはため息をつきたいのを堪えて、そっとその場を後にする。
自室に戻って、術をおさらいして、言葉を発しようとして・・・喉が引きつった。
ぼろっと涙がこぼれる。
まもりは膝を抱えてしゃがみ込み、顔を埋める。
辛かった。
こんなにも面倒を見てもらっていて、何度も助けて貰っているのに、何一つ応えられない自分。
術一つ満足に出来ない自分が最高位の仙人であるヒル魔の弟子で、見知らぬ者たちからあからさまに罵られた事も一度や二度ではない。
幼い頃は見返してやる、努力すれば何とかなる、と前向きにいられたけれど、今はもうそんな風に思えない。
まもりはただ静かに泣いて服を濡らす。
・・・そんな日々さえ当たり前になる程、まもりは深く落ち込んでいったのだった。

まもりが淹れたコーヒーを飲みながら、ヒル魔はまもりの気配を追う。
薄暗く寂しさに溢れた様子は、見なくてもよくわかる。
「・・・ちっ」
どうあっても自分から辛いとも、悲しいとも、もうやめたいとも言わないまもり。
言えないのかも知れない。
一度言い出した事を反故にすることも弱音を吐く事もよしとしない頑固な性格。
ましてやこの場所を去って地上に降りたとしても、生活するには厳しいだろう。
そう考えて、ヒル魔は苦々しい気持ちになる。
そんなのは単に言い訳だ。
ヒル魔の力があれば、彼女の記憶を綺麗さっぱり消し去って、どこか遠くの土地に置いてくればいいのだ。
彼女程働き者で美しければ、記憶を消し去られても喜んで迎え入れられ、幸せに暮らすだろう。
―――こんな場所にいるよりもずっと。
時が止まったかのように変化しない天界。
ただ咲き誇り続け、散り続ける桜だけが時を刻み続ける。
日々育っていく彼女が住むにはふさわしくない。
いつか手放さなければ、と思っていたが、ずるずると先延ばしし続けている。
その理由もわかっている。
だからこそ何も言えない。
ヒル魔はきつく眉を寄せ、いつもより苦く感じるコーヒーを一気に飲み干した。

ムサシが来たのは翌日の昼だった。
「よう」
「こんにちは、ムサシさま!」
庭掃除をしていたまもりは笑顔で彼を迎える。ムサシはまもりが幼い頃から変わらず会うと頭を撫でてくれる。
そのあたたかさが好きで、まもりは笑顔になる。
「ヒル魔は?」
「部屋にいらっしゃいます」
案内は必要ない、と告げるムサシを見送り、まもりは庭掃除を再開する。
『休憩したら?』
「あらケルベロス。ポヨも」
ポヨとケルベロスが連れ立ってまもりの側に来た。ヒル魔が寄越したのだろうか。
「ムサシさま、どんなご用事かしらね」
しゃがみ込んで二匹を交互に撫でると、まもりは掃き集めた花びらを捨てようと立ち上がる。
そして、そのまま動きを止めた。

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