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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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桜雪奇談13



+ + + + + + + + + +
物心ついた頃には、ヒル魔に親はなく、彼を守るような大人も存在しなかった。
盗みを繰り返し、野良犬のようにはいつくばり、ただ生きるために生きる、そんな日々を繰り返していた。
やがて長じた彼は、賭場で稼ぐようになった。
見た目に悪魔じみて、口の達者な彼を女はこぞって取り合った。
彼の周囲はいつしか金と女と酒と、ありとあらゆる欲望渦巻く世界へと変じていった。
ヒル魔の名を使うようになったのもこの頃からだ。
そこで全てに溺れるのであれば彼は一介のギャンブラーで終わっただろう。
けれど彼はとある女性と出会う。美女とは呼べないが、深い青の瞳と茶色の髪を持った明るい気質の女性だった。
ヒル魔がこれまで触れ合ってきた夜の女性達とは全く違う存在に戸惑い、それでも惹かれていく。
彼女が言ったのだ。『あなたは仙人に向いてるわね』と。
おおよその悪事をしつくした感のあるヒル魔にそんなことを言う女性は初めてで、ヒル魔はそれを笑ったけれど。
二人がたまたま建築資材を積んでいた隣を通ったときに、その資材が崩れ、一気に巻き込まれた。
当然その時にヒル魔は彼女を守ろうとしたが、彼女の方が一瞬早かった。
ヒル魔の身体を突き飛ばし、彼女は資材の下敷きになった。
どうにか助け出したときには虫の息だった彼女は、それでも無事な姿のヒル魔を見て笑ったのだ。
あなたが無事でよかった、と。
失われていく命をつなぎ止めることは出来ず、ただ泣く事しか出来ない彼を宥めるように彼女は笑った。
自己の欲にまみれた世界で、そんなものとは遠く無縁なことで命を落とした彼女。
そんな彼女が示した一言だけが拠り所となり、ヒル魔は仙人になる事を決める。

そうして紆余曲折を経て、ヒル魔は仙人として天界に住む事となった。


怒濤のように展開したヒル魔の過去を目の当たりにして、まもりは顔を上げた。
神は穏やかに笑っている。
『あやつは当初から仙人としての修行をしていたわけではないのじゃよ』
「そう、だったの、ですか・・・」
衝撃の事実に、まもりはただ眼下に広がる光景を見つめた。
毅然として立つ彼の奥底にそんな悲痛な過去があったなんて考えもしなかった。
彼はまもりを弟子に取ったときには既に天界一位の高い仙人だったから、彼がかつては今のまもりと同じく修行中の身だったということさえ失念していた。
そして彼が元々は人だったという事も。以前鈴音に聞いた事があったのに、実感が湧かなかった。
人であったときの過去など想像もしていなかった。
―――ましてや、それに衝撃を受けるなんて。
『さて、おぬしに掛けられておった術はすべて解いた。どれ、一つ術を使ってみるがよい』
「・・・はい」
まもりは呼吸を整えると、それこそ数百、数千と数を重ねても成功した事がなかった術に挑み始めた。


屋敷から外に出る事も出来ず、ヒル魔は不機嫌全開でむっつりと座っていた。
やる事もなく、ムサシも縁台に座って庭を眺める事しか出来ない。
その膝にはポヨ。まもりがいなくなったことで騒ぐポヨを放っておけず、膝に載せて宥めていたのだ。
「どうぞ、コーヒーです」
「ああ、すまんな」
ケルベロスがコーヒーを淹れて持ってくる。久しぶりだな、とムサシはその光景を見る。
まもりが来る前は彼がこうやって家事全般をこなしていた。
彼女が来てからは時折見つからないように掃除をしていたらしい。
久々に人型を取ってもあまり苦労している様子はない。
「そんなに落ち込んでてもまもりちゃんが帰ってくる訳じゃないんだから、もうちょっと考えたら?」
「何をだ」
「出歩く為の術が使えないなら、他の仙人とか栗田さんに連絡取って神殿の様子見て貰うとかさー」
「もうやった」
「あ、通信手段ないんだ。じゃあ俺が・・・出歩けないよなあ」
もしかして八方塞がりなの? というケルベロスにだから他に手段がないか探してるんだろ、とヒル魔はイライラしながら答えている。
ムサシはそんな二人を眺めながらポヨを撫でていた。
ふと。
「ヒ・・・ア」
ポヨが苦しげに身動いだ。
「ポヨ?」
「ヒー・・・」
ただならぬ様子に、ヒル魔とケルベロスがムサシの傍らに歩み寄る。
ポヨはぐったりと目を閉じ、痙攣している。
人よりあたたかいはずの体温が一気に冷えていく。
「ポヨ?!」
その身体が一際強く痙攣したかと思うと、一気に巨大化した。
―――いや、人型になった。
眩い金色の髪を持つ、美女に。
彼女は気怠げにムサシの身体にもたれかかり、息をついて瞳を閉じてしまった。
「なっ」
「ちょ、これ・・・」
焦るムサシを余所に、ケルベロスの顔が喜色に染まる。
「まもりちゃんが仙人になったってことじゃない?!」
仙獣を人型にするには、主が仙人になる事が最低条件なのだ。
「・・・だな」
「なんだよ、嬉しくないの?」
「・・・ちっ」
不穏なヒル魔とケルベロスの会話の最中。
ムサシは突然美女になったポヨを未だ抱いたまま固まっていた。


今まで出来なかったのが嘘のように、まもりは術を扱えた。
その事実にまもりは目を丸くして、そしてふっと肩を落とした。
「ヒル魔さま・・・」
結局、まもりが術を使えなかった事も、仙人として独り立ちするまでに至らなかったのも、ヒル魔が仕組んだ事だったのか。
彼が望んでいたのは、まもりが仙人になる事ではなかったのか。
ではヒル魔はまもりに何を望んでいたのか。
その脳裏に過ぎったのは、『合方』という単語。
まもりも修行の最中で学んだので知っている。
彼がまもりに望んだのは、その存在になることだったのか。
それとも。
『ヒル魔の心情を知りたいかの?』
それにまもりは頷いた。
「でも、自分でお聞きしたい、です」
『そうかの』
神はまもりの頭を撫でた。その指が長く伸びた彼女の髪をすっぱりと奪い取る。
「え・・・」
『儂が外に干渉するには対価が必要での。おぬしには悪いが、この髪は頂くぞ』
顎で切りそろえられた髪。
初めてヒル魔に会ったときのような髪型だ。
『おぬしはもう仙人となった。早々に神殿に申出をし、管轄地区を持つことになろう』
「管轄・・・」
『本来であれば出身地か、その近辺を守護するのが慣わしじゃがの。じゃが、おぬしはそうもいくまい』
まもりは俯いた。彼女が生まれ育った地区は既に土砂崩れで全て失われている。
仙人になれたとしたら、ヒル魔とは別の、遠くの地区を守ることになるだろうと思っていた。
『じゃが、多少の例外はある』
「え?」
『キッドを知っておろう? あやつも仙人じゃが、あそこの相内も仙人なんじゃよ』
「ええ?! そ、そうだったんですか!?」
てっきりキッドの『合方』だと思っていた。彼女が術を使ったりするところを見ていないからかもしれない。
『キッドは天界で二位の仙人じゃ。あやつが管轄する地区は広いために補佐として相内も同じ島に身を置いておるのじゃよ』
「へえ・・・」
『じゃからの』
神は至極楽しそうに続けた。
『天界で一位の仙人が管理する土地はそれよりもさらに巨大じゃて。その一部をおぬしが治めても問題はあるまい』
「それって・・・」
まるで内緒話をする子供のように、神は笑っている。くすくすと、楽しげに。
『神とて、気に入る存在はいるのじゃ。贔屓と呼ばれるかもしれんが、それがまた楽しくての』
ざあっと神の方向から風が吹く。
かつてこの場所を去ったときと同じように。
『儂はおぬしらがどういった世界を守るのか、ここから楽しみに見守っておるよ』
吹き飛ばされるような錯覚の後、まもりはあの巨大な扉の前で一人立ちつくしていた。


<続>
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