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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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桜雪奇談14



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空はもう既に夜の帳が下り、時がかなり経っていることを知らしめていた。
神殿に報告することなく真っ先に屋敷に浮雲で戻ったまもりは、人型のケルベロスとポヨに迎えられた。
「おかえりー! 仙人になれたんだね、おめでとう!」
「おめでとう、まもり!」
以前一度だけ顔を合わせた事があった青年が、まさかケルベロスの人型だとは知らず、まもりは驚く。
そしてポヨの人型にも。
もっと小さくて丸い人型かと思ったのに、あの姿とは結びつかない美女がそこにいたのだから。
「ポヨって、美人だったのね・・・」
「まもりの仙獣だもの」
にこ、と笑われてまもりはそんなものかしら、と首を傾げる。
「おかえり、まもり嬢ちゃん」
「ムサシさま! ただいま戻りました」
出迎えたムサシが気持ち憔悴しているようなのが不思議だったが、まもりは何よりも聞きたい事を尋ねる。
「あの、ヒル魔さまは・・・」
「あいつなら書庫だ。・・・よかったな」
ぽふ、と頭を撫でられてまもりは目を細める。
「ありがとうございます」
「その髪は?」
「ええと・・・神様に対価として差し上げました」
それにムサシは神もそんな要求をするのか、と瞬く。
「とにかくヒル魔に挨拶してくる方がいいな」
「そうだね。あれも気が気じゃなかったみたいだから」
ケルベロスにも促され、まもりは一つ頷いて書庫へと向かう。
それを見てムサシは神殿に戻り、ケルベロスとポヨは台所へと姿を消した。

「ヒル魔さま・・・」
まもりが書庫の扉を開くと、そこには入り口に背を向けたヒル魔の姿があった。
当然彼女に気づいているだろうに、振り返りもしない。
机の上の小さな明かりがこの部屋の照明の全てだ。
「ただいま戻りました」
それにヒル魔はそのままの姿勢で告げる。
「何故戻った」
冷たい言葉に動きを止めたまもりに、ヒル魔は言葉を続ける。
「テメェが仙人になったならここに居続ける理由はない。さっさと神殿で手続きして別の管轄に行くんだな」
「それは・・・」
「一つの島に仙人は二人も要らない」
素っ気ないヒル魔の言葉に、まもりは引かずに口を開く。
「ヒル魔さまの管轄される地区は広いのだと伺いました。キッドさまがお二人で土地を治めてらっしゃるのなら、私も・・・」
「あれは例外だ」
言いつのる前に被せられる言葉。
「俺はこれ以上テメェを側に置くつもりはない」
それは揺らぎのない、真っ直ぐな声。
「邪魔だ、出て行け」
温度を感じさせない言葉に、まもりはぎゅっと胸元を握る。
「・・・では、なぜ私にあれほどの術を掛けていたのですか」
まもりが邪魔なら、誰がどうとでも出来るように放置するべきだっただろう。
その術が妨げとなって仙人となることもできず藻掻いていたのに。
「弟子を養育するのは師匠の基本だからな」
「その術が養育の妨げとなってもですか」
詰るような声音にもヒル魔は振り返らない。
「そもそも仙人になる事自体が―――」
そこまで口にして、ヒル魔は押し黙った。
続きを飲み込んで、立ち上がる。
「ここから出て行け。そうしてもう二度と来るな」
言いながらこちらに近づいてくるヒル魔の表情は、逆光になって見えない。
「テメェはもう仙人になった。それなら俺の側にいる必要はないだろう」
淡々と紡がれる声。
そこに含まれる感情を拾い上げようと思うのに、まもりには見えない。
「教えてください。私を、『合方』にと望んでらっしゃいましたか?」
それにヒル魔は舌打ちする。
まもりが嫌がるからと、彼女の前では最近めっきり零れなかったそれ。
「あんなものは体のいい奴隷だ」
ヒル魔はじっと見上げてくるまもりの瞳を見ていた。
薄暗い中でも目が慣れてきた彼女には、どこか沈んだようなヒル魔の姿が見えた。
その表情には見覚えがあった。まもりの口から堪えきれず、言葉が溢れる。
「私を拾ったのは―――私の瞳が青かったからですか。私の髪が茶色だったからですか」
「っ」
それにヒル魔の眸が見開かれた。幽かに彼の肩が震える。
そんな彼の反応を見てしまい、言うつもりなどなかった言葉は留まる事を知らず溢れ出てしまう。
「私があの人と同じ色だったから―――」
まもりの瞳からは涙が溢れる。
「私を育てる事で、彼女への贖罪をなさったつもりですか」
ヒル魔が心より慈しんだたった一人の女性。
あれが何年前かは判らないが、相当昔である事はすぐに知れた。
どれほど昔でも、ヒル魔の心にはまだあの人がいるのだ。
まもりと同じ色彩の、幸せそうに笑う女性が。
ヒル魔はその質問に答えることなく、沈黙している。
それが何よりの答えだった。
「・・・今まで、ありがとうございました」
まもりは一歩引くと、深々と頭を下げた。幾つも染みが床に滲む。
「さようなら」
全てを振り払うようにまもりは踵を返す。
走り去る彼女をヒル魔は引き留める事も出来ず、ただその場に立ちつくしていた。

「まもり? どうしたの?」
書庫から泣きながら飛び出してきたまもりを見たポヨが慌ててその後を追う。
まもりは浮雲を呼び、そこに飛び乗る。ポヨもその後に続いた。
「まもりちゃん?!」
背後からケルベロスの声が響く。それにまもりは俯いたまま答える事もせず、浮雲で夜空へと飛び去った。
ポヨは泣き続けるまもりを抱き寄せた。
まもりより身体が大きいので、すっぽりと彼女を抱えるような姿勢だ。
丁度ヒル魔と同じくらいの大きさだろう。
そう考えるだけでまもりの心は押しつぶされそうになる。
「どこに行くの?」
「・・・鈴音ちゃんの、ところ」
他にこんな時間に行けるところが思い浮かばない。
たった一言呟いた後は嗚咽を漏らすだけになったまもりを、ポヨはじっと抱いていた。
浮雲は違わず彼女を鈴音の元へと送り届けた。
色々あって疲れ果てたまもりは眠りに落ちてしまい、ポヨに抱えられたまま鈴音の島に降り立った。
「夜分にすみません」
とんとんと扉を叩くと、程なくしてセナが顔を出した。
見慣れない美女に目を丸くするが、その腕にいるまもりに気づいて彼女の正体に気づく。
「ポヨ?」
「そうです。詳しくは後で説明します。まもりを休ませたいのですが、中に入れていただけませんか」
玄関先での会話に気づいた鈴音も顔を出す。そして同じようにポヨと、眠っているまもりに気づいて目を丸くした。
「やー!? とりあえず入って! セナ、あっちの部屋使えるようにして!」
「はいっ!」
駆けていくセナの背に急いでね、と付け加えてとりあえず長椅子を勧めて座らせる。
「まもりちゃん、仙人になれたんだ・・・」
ほっとしたような声に、ポヨは頷く。
「ええ。どうやらヒル魔さまの術の影響があって今までなれなかったようです」
それに鈴音はまもりを見つめた。
確かに今まであった術の影響は消えている。
「そっか。それがどうしてここに来る事になったの?」
「まもりが仙人になった事で、ヒル魔さまのお屋敷を追い出されました」
鈴音の眉が寄る。
「妖兄が? あんなにまもりちゃんのことかわいがってたのに」
その言葉の後ろには、てっきり『合方』として側に置くのだと思っていた、というのが透けて見える。
そこにセナが顔を出す。
「お部屋の準備が整いました」
「ありがと。ポヨ、まもりちゃんを寝かしつけて。その後に―――」
きらん、と鈴音の瞳が光った。
「対策を練りましょ!」
それにポヨは頷いた。

<続>
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