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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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桜雪奇談17




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互いに息を荒くしながら、二人はケルベロスがタイミング良く淹れてくれたコーヒーを前に一時休戦状態だ。
未だに平行線を辿っているらしい二人の様子に、ケルベロスは口を開いた。
「そんなに意地はらなくても『帰ってこい』って言えばいいじゃない」
「いらん」
「いらんって」
「家の事は今まで通りテメェがやればいいだろ」
「家事は別にいいけどさ、そういうことじゃないでしょ。神殿に申出するともう一緒に住む事は出来ないんだよ」
「清々する」
一向に進まない会話にイライラしだした鈴音の隣で、セナは小首を傾げた。
「・・・あの、一つよろしいですか?」
セナに三人の視線が集中する。
「ヒル魔さまは、近いうちにまもり姉ちゃんを地上に降ろすつもりだったのではないのですか?」
その発言に鈴音とケルベロスは目を見開き、ばっとヒル魔を見た。
「何でそう思う」
「仙人になれなかったのがヒル魔さまの術のためだったと聞きました。でも『合方』にされるつもりもなかった」
もしあの時に神様がまもりを連れ出さなかったら。
「まもり姉ちゃんは・・・身内の欲目を差し引いても美人だし働き者だから、もし仮に記憶をなくして地上に降ろされても、生活に困ることはないだろうとお考えになったのじゃないかな、と」
「やー?! 何それ!! それじゃまもりちゃんの意志なんて考えてないじゃない!」
それにヒル魔はぴん、と片眉を上げた。
「ここに来た事だってあいつの意志じゃねぇだろ」
「残るって決めたのはまもりちゃんでしょ!」
わあわあと騒ぐ鈴音とケルベロスをヒル魔はじろりと睨め付けた。
「現に今あいつは仙人になれたんだ。俺の側にこれ以上いる必要はねぇ」
セナはヒル魔を見つめた。真っ直ぐに。
「まもり姉ちゃんが怖いんですか」
ぴん、と背筋を伸ばしてヒル魔の目を見つめる彼は、血が繋がっていないはずなのに、まもりとよく似ていた。
「傷つけて壊しそうで怖いんですか。だから遠ざける、違いますか」
「セナ・・・」
気弱で大人しくて、真面目さと優しさだけが目に付く彼の、強い意志に鈴音が小さく呟く。
「もしそうなら、まもり姉ちゃんを侮辱してます」
眉間に皺を寄せて睨め付けられても、セナは引かなかった。
「まもり姉ちゃんは強い。だから僕みたいに傷を忘れないんです」
花びらが散るようにほろほろと泣き続けるまもり。
「時間が解決するなんて思わない方がいいです。いかに天界だろうと、姉ちゃんは泣き続けるでしょう」
永遠に散り終わらない天界の桜のように。
両親に捨てられ、守るべき村も喪失し、ヒル魔にすら見捨てられて。
その傷は癒えることなくまもりを苦しめ続けるに違いない。
「僕の言った事は全部憶測です。だから違うなら違うと仰ってください」
しばしの沈黙の後、口を開いたのはヒル魔だった。
「俺の側にいることが幸せとは思えねぇな」
すっかり冷めたコーヒーをテーブルの端に押しやり、腕を組む。
「これ以上の拘束はあいつのためにならない」
鈴音はやはり冷めたココアを一口飲んで嘆息した。
「妖兄は結局、まもりちゃんの保護者気分が抜けないわけね」
セナと顔を見合わせる。
「やっぱり当事者同士がちゃんと話さないと話にならないわ。妖兄、ちょっと私の屋敷に行ってきて」
「断る」
「二度と来るな、って言われてるまもりちゃんがこの屋敷に来られる訳ないでしょ!」
「余計な口出しするんじゃねぇ」
それに眉を寄せるヒル魔の身体が宙に浮いた。
「なっ?! ケルベロス!!」
背後には彼よりも体の大きなケルベロスの姿。
「じゃあちょっと連れて行ってきます。留守番お願いしますね」
「うん。うちのブロちゃんも一緒に連れてきてくれる?」
「はい」
ケルベロスは暴れるヒル魔を担いで浮雲を呼ぶ。無理矢理二人で乗り込み、一直線に鈴音の屋敷へと飛んでいった。
途端、セナはへたりと座り込む。そんな彼の頭を鈴音はそっと撫でてやった。


「おい、まもり」
声を掛けられる。あの低い声で呼ばれるのが好きだった。
飲み込みの悪いまもりに焦れることなく術を教えてくれる存在。
雲を食べてみて、美味しいと思った。
いくらかつて人間として生活していたから料理を食べられるとしても、食事を共に摂るのは面倒だったのかもしれない。
作った料理を、いつも文句を言いつつも食べてくれていた。
幼いときに抱きしめてくれた腕、頭を撫でてくれた手。
そのどれもがいつの間にかこんなにも遠くなってしまっていた。
「起きろ、おい」
さらりと髪を撫でられる優しい感触。
夢にしては妙にはっきりしているその感覚に、まもりはゆるりと瞼を開き、見上げる。
夕日に照らされているヒル魔の姿。
これは夢だろうか。
瞬くまもりの目元をヒル魔の指が撫でた。
「ヒデェツラだな」
「なっ!!」
この失礼な物言い、間違いない。本物だ。
まもりはがばりと立ち上がる。膝にいたはずのポヨはいない。
「なんで・・・こちらにいらっしゃるんですか」
それにヒル魔は特に何も言わなかった。
黙ってまもりの手を引いて立ち上がらせると、屋敷の中に入っていく。
「あの、鈴音ちゃんとセナは・・・」
「あいつらなら俺の屋敷だ」
「え?」
「ポヨとブタブロスとケルベロスもな」
「・・・じゃあ」
今この場所には二人だけ、という事実にまもりは戸惑う。
とりあえずなにか飲み物を淹れようとするのをヒル魔は止めた。
「それはいい。座れ」
「・・・はい」
向かい合って座って、不自然なくらいの沈黙が下りる。
先に口を開いたのはヒル魔だった。
「俺はテメェを拾ったのとあいつとは何の関係もない」
「え」
「テメェの色が似てるなんて、言われるまですっかり忘れてたな」
「そんな・・・」
あれほど愛おしそうだったのに。存在を失ったときの姿はこの世の終わりを嘆くかのように悲痛だったのに。
「時が経てばどんな感情も薄れる。どれほどに苛烈で悲痛だろうと、これ以上ない喜悦で満たされようと」
ヒル魔は嘆息した。
「それが天界だ。―――仙人になる事が幸せとは限らねぇ」
まもりは立ち上がる。
「おい」
「お茶淹れてきます。とりあえず、何かさせてください」
混乱した面持ちで、まもりは台所にふらりと姿を消す。
ヒル魔は小さく舌打ちしたが、咎めることなく待った。


<続>
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