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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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桜雪奇談16


 


+ + + + + + + + + +
ケルベロスはうんざりとした表情で自らの主を見ていた。
視線の先には書庫で本に埋もれる格好で書き物をしているヒル魔。
「・・・そんなに凹むならなんで追い出したりすんだよ」
「凹んでねぇ」
間髪入れずに切り返すが、ヒル魔は途端に書類を書き損じ、舌打ちして丸めてゴミ箱に放り込んだ。
無駄にコントロールがいいらしく、外さないが既にゴミが山となっていればそこに入りようもない。
本棚に入りきらず床に山積みになった本はあちこちで雪崩を起こしているし、ヒル魔が机の隣に積み上げてる本もつい先ほど自身で崩していた。
「コーヒー」
「こんな部屋に入れられないよ。出てきて」
「構わねぇ」
「俺が構うんだよ。誰が後始末すると思ってるのさ」
咄嗟にヒル魔は脳裏にまもりを浮かべてしまった。
微妙に表情を変えたのを、長い付き合いの相棒は気づいたらしい。
「ほらね」
「煩ェ。さっさとコーヒー淹れてこい」
「はいはい。淹れてあげるからこっちに出てきてね」
ひらひらと手を振って出て行く彼の気配が消えてから、ヒル魔は嘆息した。
まだたった一晩、まもりと離れただけだ。
たった数年一緒に生活していただけの存在の喪失に、ケルベロスに言われるまでもなくかなり凹んでいる。
『私を拾ったのは―――私の瞳が青かったからですか。私の髪が茶色だったからですか』
まもりが知り得るはずがないヒル魔の過去。
『私があの人と同じ色だったから―――』
それを見せられるのはただ一人、神だけだ。
『私を育てる事で、彼女への贖罪をなさったつもりですか』
言葉と共に溢れた涙には、様々な気持ちが解け合っていて酷く複雑に光った。
『さようなら』
涙が滲んだ声。
・・・いつか聞くはずだったその言葉にこれほど打ちのめされるとは思っていなかった。
ヒル魔は窓から見える桜を眺める。
いつもはその下でまもりが掃除をしていた。
穏やかさの象徴のような姿は、もうない。この先も二度と見る事はない。
「ねえ、コーヒー淹れたよ」
「・・・ああ」
ヒル魔は立ち上がる。このまま机に向かっていても延々と同じ場面を思い返すだけだ。
固まった関節を解すように動かしていたら別の山を崩した。
『もうっ! だから本を横に積むのはおやめ下さい!』
それをまもりに見られると必ず小言を食らった。
『疲れには甘い物がいいんですよ』
何度やめろと言ってもまもりは甘い物をコーヒーと一緒に机に載せた。
『ヒル魔さま』
幼い頃の舌っ足らずな声は、いつしか女のそれに変化していた。
『ヒル魔さま・・・』
最近はうち沈んだような表情しか見ていない。
そう仕向けたのが自分であっても、気分がいいはずもない。
「早く来ないと冷めるよー」
ケルベロスの声に舌打ちし、頭を振っていつも食事をしていた部屋へと足を向ける。
そしてその入り口で足を止めた。
「やー。コーヒー冷めるよ、妖兄」
「お、おじゃましてます・・・」
そこには鈴音とセナがちょこんと座っていた。
ヒル魔の眉間に皺が寄る。視線を受けてケルベロスは肩をすくめた。


鈴音達が出掛けてから、まもりはとりあえず洗い物と掃除をこなしたが、その後はやる事もなく、外に出た。
ヒル魔の屋敷にはあれほど咲き誇っていた桜も、この場所にはあまりない。
穏やかな日差しの下、ひなたぼっこ。
ポヨも人型から獣の形に戻り、まもりの膝に乗った。
そのふかふかの毛並みを撫でながら、まもりはぼんやりと空を眺める。
「・・・ヒル魔さまは、私をどうしたかったんだろうね・・・」
ヒル魔の意図が完全に読み取れず、まもりは後味の悪い想いを抱えている。
「・・・神様も、なんで私にヒル魔さまの過去を見せたのかしら・・・」
ぽつぽつとまもりは言葉を零す。返事を期待するのではなく、ただ吐き出すように。
やがて日差しの暖かさとポヨの温もりに誘われて、昨夜の夢見の悪さから満足に眠れなかったまもりは、うつらうつらと船をこぎ出した。


不機嫌なヒル魔と鈴音の不穏な空気に耐えかねて、セナはケルベロスと共に外に出た。
「ヒル魔さま、凄く不機嫌でしたね」
「ん? いや、不機嫌っつーか、気まずいんじゃないの?」
掃除でもするか、とケルベロスは箒を持ち出して来た。
見た目にヒル魔によく似た仙獣の中身は全く似ていないようだ、とセナはその落差に乾いた笑いを浮かべながらも、その言葉に疑問を持つ。
「気まずいんですか?」
「うん。まもりちゃん泣かせたし追い出しちゃったし。その時に行く先って言ったらそちらでしょ」
他に頼れるような人のところは、あの時間じゃ行きづらいだろうしね、とケルベロスは地面を掃き清めながら続ける。
「鈴音ちゃんはあれに言いくるめられるようなこともないし。口じゃいい勝負だもん」
「はあ」
「それに、あれが今一番つつかれたくないところをズバズバ切り込むだろうしね」
「そうでしょうね」
掃き集めた花びらをちりとりですくい取りながらケルベロスは苦笑する。
「あれも相当年寄りだから頭堅いんだろうなあ」
「年寄り・・・」
あまりの台詞にセナは絶句する。
「身体は仙人だから年取らないけどさ、心は常に変化するもんなんだよ」
ケルベロスはちらりと屋敷を伺った。今、あの中では熱い舌戦が繰り広げられている気配を感じる。
「だから辛い事とか悲しい事があっても時が経てば忘れられる。君だってそうでしょ」
「僕?」
「君が天界に来る切っ掛けだって相当なことだったよね」
「あ・・・」
セナはかつての土砂崩れに巻き込まれ、家はおろか両親も、何もかもを一瞬で全て失った。
自らの命さえ危ない状態にあったのを助けてくれたのがヒル魔であり姉であるまもりだった。
あの後しばらくうなされては夜中に飛び起きるというのを何度繰り返した事だろう。
それでもいつの間にかその傷は薄れ、今ではもうほとんど夢に見ない。
「天界は気候も穏やかだから大きな変化もないし、心の傷を癒やすには最適だよ」
「そうですね」
「でも逆に言えば、変化がないから興味を持って動かないと段々心が鈍っていくんだよね」
「はあ」
「あれもまもりちゃんが来る前はほとんど外に出なかったし静かだったんだよ」
「え、そうなんですか?」
うん、とケルベロスは頷く。かつては水底のような静けさだけが支配したこの屋敷。
主は淡々とただ生き続けるだけで、感情の全てがないかのようにひどく冷たい印象だった。
人形のようだった彼が、偶然に見つけた幼い少女。
気まぐれに手を差し伸べた後、彼の生活は一変した。
「俺はまもりちゃんに戻ってきて欲しいんだけどね。あれの不摂生を怒ってくれるのはあの子くらいだからさ」
「そうですか・・・」
ケルベロスは掃除道具を片づけると台所に向かって歩いていく。
「そろそろコーヒーでも淹れてあげないと。君も何か飲む?」
「あ、お手伝いします!」


<続>
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