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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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砂中にひかり

(ヒルまも高校卒業後)



+ + + + + + + + + +
あるとき、テレビで深海に降る雪の映像を見ていたら、背後を通り過ぎたヒル魔にそんな屍が降る所がいいのか、と言われた。
「んもうロマンのない! なんでそういう表現するの!」
「事実だろ」
海の中で静かに降る、真っ白な雪。
その正体はプランクトンの死骸だと言うから間違いではない。
間違ってはいないけれど、嬉しくない。
「ヒル魔くんってほんとに情緒ないわよね!」
ぷりぷりと怒ってみても、おお怖、なんて棒読みで言うものだから始末が悪い。
まったく。

またある日、ソファで雑誌の旅行記事を捲っていたらそこにオーロラの写真があった。
綺麗に揺らめく七色の光の帯。
実際に目の当たりにしたら綺麗だろうな。
そう思って見ていたのに、やはりそれを背後から覗き込んだヒル魔に呟かれる。
「ンなの、電磁波の塊じゃねぇか」
「ん・もー! だからそういう言い方しないの!」
首をひねり、背後をうかがえば静かにこちらを見る眸と視線がぶつかる。
正体が知れていても、目で見えるものを綺麗と素直に言えないのは味気ない。
そう思って言うのだけれど、彼は本当に興味がないようだ。
綺麗でもなんでもないのは事実だ、とあっさり言うし。
「じゃあ聞くけど、ヒル魔くんが綺麗だと思う自然現象ってなに?」
まもりは脳裏に自分が綺麗だと思う光景をありったけ思い浮かべる。

山頂から見下ろす雲海の夜明け。
鮮やかに染まる夕日。
突き抜けるような青空。
エメラルドグリーンと紺碧が混ざる南国の海。
空にかかる七色の虹。
大理石のような曇り空。
すべてがしっとりとたゆたう朝もやの森。
どこまでも遠くまで薄い桃色が続く桜並木。
すべてが白く染まる一面の雪景色。

けれどヒル魔はふん、と鼻を鳴らす。
「どれも綺麗だなんて思わねぇよ」
自然はただあることが事実なのだから、わざわざ綺麗だと感動することもない、と。
「じゃあ何が、ヒル魔くんにとって綺麗なの?」
彼がそもそも綺麗だと思うものが存在するのだろうか。
そう問えば彼はひたりとまもりに視線を合わせた。
いつものように派手に悪魔じみた顔をするでもなく、まっとうな表情のまま口を開く。
「テメェ」
「・・・うわお」
まもりは思わず間抜けな声を上げてしまった。
からかわれているのだと判っていても赤くなる己の頬を両手で包みつつ、まもりはじとりと彼を見返す。
「からかわないでよ」
「心外だな」
僅かに口角を上げ、ヒル魔は身軽にまもりの隣に腰を下ろす。
そうして雑誌を床に落とすと、まもりが咎める前にその体を抱き寄せ、わめく前に唇を奪う。
目元を染めるのは憤りと羞恥。
その両方に苛まれつつも最終的には快楽に潤んだ青い瞳が閉じられる。
ふ、と息をついて柔らかく解けた体を抱きなおし。
「事実だ」
ヒル魔は更にその唇を、彼女を貪った。


自然のあるべき姿よりも、人が生み出すものの方が面白い。
それは時にひどく醜悪で、到底美しいとは表現できない代物が雑多にひしめく世界。
だからこそごく稀に目にする美しさが光るのだ。

それはさながら、砂をさらって金を探し出す行為に、似て。



***
自然は人の手の遠く及ばないモノを作り上げたりしますが、ヒル魔さんはどちらかというと人が作り出すモノを慈しみそうな気がしたので。
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