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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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アウト・オブ・トーン(上)

(ヒルまも一家)
※『ハニーレモン』『ディア・ステップファザー』の前日の話。


+ + + + + + + + + +
積み上げられているのは洗濯物。
それを手早く畳んでいくのはこの家の有能な母であり悪魔の妻でもあるまもり、ではなく。
「兄ちゃん、タオルちょうだい」
「はい」
きちんと正座して作業している妖介が、護の声に応じて手にしたタオルを放り投げる。
護は風呂掃除を請け負っていたはずだが、上半身がずぶぬれになっていた。
タオルを受け取り頭を拭っている。
「どうしたんだ?」
「んー、お湯の指定がシャワーになってた」
そんでもってタオルが一枚もないんだもの、とぼやいて護は拭ったタオルを洗濯機に放った。
「母さんがいないと色々回らないんだよね」
嘆息して手早く洗濯物を畳み終えた妖介はタオルの山を護に手渡す。
護も肩をすくめてそれをしまいに向かった。

昨日からまもりは彼女の母と共に旅行中だ。
片時も手元からまもりを離したがらないヒル魔にしては珍しい判断だが、滅多にない義母の望みとあれば叶える気になったのだろう。
それでもどこか上の空というか、やる気がないようで、家事は姉弟たちに振り分けられているけれども。
「妖介、タオル」
アヤがキッチンから顔を出す。
「そっちもないの? はい」
ひょい、とタオルが投げられる。受け取ってアヤはそれをタオル掛けに下げに行った。
「夕飯は?」
「もうすぐ」
確かにいい匂いがしている。手伝いが要るなら、と声を掛けたがアヤはもう終わる、と応じる。
おそらくは片づけが苦手な彼女のこと、準備よりも作り終えたキッチンの片づけを申し付けたいところだろう。
察して妖介は畳み終えた洗濯物を抱え、それぞれの部屋に運ぶ。
姉弟三人は運動部なので洗濯物も半端なく多い。それぞれを扉の前に置いて、最後の一山を持って父の書斎をノックする。
「父さん、入るよ」
返事はないが、気にせず妖介は扉を開けた。
案の定、すさまじく汚れた部屋にやれやれと嘆息する。
その主は不機嫌も露に机に向かい、黙々と作業していた。
「・・・なんだ」
ちらりと視線を寄越すヒル魔に妖介はそこらに落ちている本を拾いながら声を掛ける。
「洗濯物、しまうよ。それとアヤがもうすぐ夕飯だって」
「おー」
護が銃を触ったりするならともかく、ヒル魔は室内のものをどう触っても文句は言わない。
箪笥に洋服をしまうと、妖介はとりあえず倒壊しそうな本の山をチェックして室外に運び出した。
床に積まれている本は既に読後で必要としない部類だ。
後で処分するためにサイズ別に分けて廊下に積んでおく。
その他の細かなごみを拾い集め、床を掃き、汚れ物を手にする。
「空気悪いね。食事中は窓開けておいていい?」
「好きにしろ」
「うん」
階下から護の声がする。
「父さん、兄ちゃん、夕飯できたよー」
「はーい。ほら、父さん降りよう」
応じる妖介の背後から呼ぶ声。
「妖介」
「なに?」
振り返ると間近に迫る本の背表紙。
けれど焦ることなくそれを掴み取り、検分する。
最近大きな賞を取ったという話題作のハードカバーだ。
「なに?」
「それも廊下に追加だ」
「ふうん。これ、俺が読んでもいい?」
「好きにしろ」
肩を回しながら外に出るヒル魔に続きながら、妖介は自らの室内にその本を放り入れた。


食事が終わり、アヤがコーヒーを落とす傍ら、護が食器を洗って妖介がそれらを拭ってしまい入れる。
ヒル魔は積み上げた新聞を速読していた。
「父さん、やっぱり気が抜けてるよね」
ひそ、と護が呟く。妖介もこくりと頷く。
「アメフト部もテスト期間で休みだし、他にやることないんじゃないの」
仕事をしているのは確かだけれど、アメフト部に割いている分がないのなら普段の半分の労力で済むということで。
きっと手持ち無沙汰になっているのだろう。あの本の量を思い浮かべ、妖介は肩をすくめる。
「今だったらコーヒーに砂糖入れても普通に口つけちゃうかもね」
「やるの?」
アヤがカップにコーヒーを注ぎながら尋ねる。
けれど弟二人は苦笑し首を振った。
「母さんがいないのに悪戯したらオシオキが容赦ないよ」
「普段だって容赦ないのに、わざわざ八つ当たりのネタ提供しなくても」
「そうね」
アヤはブラックコーヒーを満たしたカップを手に父に近寄る。
「お弁当、お父さんも食べる?」
普段はまもりが作って持たせてくれるが、不在なのでアヤが作っている。
必要か、と問われヒル魔は頷く。
「おー」
「俺も俺も!」
たまにはいいかな、と購買のパンで済ませた妖介は腹持ちの悪さに一日でげんなりしていた。
やはり弁当の方がいい。
「僕も!」
「え? 護は給食あるでしょ」
「明日は剣道に行くから、学校で食べてそのまま行くの」
「ああなるほど」
手を挙げ自己主張をする弟たちにも頷いて見せて、アヤは弟たちが綺麗にしてくれたキッチンへと戻る。
明日のお弁当の仕込をするのだ。
食べ盛りがいれば弁当とはいえ相当量を用意しなければならないから。
内心、算段を立てるアヤがひどく上機嫌なのには誰も気づかなかった。

<続>
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