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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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ドッグ・ラン

(泥門デビルバッツ+ヒルまも)
※鈴音視点。


+ + + + + + + + + +
痛みを感じなければ夢だ。
夢だ。
夢に違いない。

・・・ということを考えている段階で、大概ソレは現実なのだ。



鈴音は、目の前で走り回るデビルバッツの面々を呆然とした表情で見ていた。
頬の一部が腫れていて、世話焼き気質のマネージャーが目ざとくそれを見つける。
「どうしたの? 鈴音ちゃん。歯痛?」
「や、な、んでも・・・ナイ」
それは到底なんでもないという様子ではなかった。
訝しんだまもりが言葉を重ねようとしたが、その前に悪魔が彼女を呼んだ。
「おい糞マネ! こっちでタイム計測だ!」
「はーい! 鈴音ちゃん、体調が悪いなら無理しないで早くお帰りなさいね?」
「やー・・・」
上の空で答える鈴音を振り返り振り返り、それでも悪魔の召集とあれば駆けつけなければいけないのだ。
彼女もデビルバッツの一員だから。
だからだろうか。
「・・・犬耳・・・」
鈴音の目には、まもりの頭にぴんと立った犬の耳が見えるのだ。
それも誰も彼にも、ではない。
見えるのはデビルバッツの面々だけに、なのだ。

朝、兄である夏彦の顔を見て何馬鹿やってんの、と言ったが当人はそ知らぬふりをしていた。
なにしろ、彼の頭には垂れた犬耳が、そうして尻には尻尾が見えたのだから。
けれど朝食の席で両親がそれを見咎めるでもなく、道行く人々が夏彦を見て驚くこともなく。
さて、兄が馬鹿であることは今更疑う余地はないが、何か変な趣味に目覚めてしまったのだろうか、と心配していた鈴音だったが。
放課後、いつものように泥門高校に訪れて初めてその異変はデビルバッツの面々だけに現れているのだと思い至ったのだ。
何しろ、部員たちは全員犬耳がついている。ご丁寧に尻尾も。
ヘルメットをかぶってしまえば見えないが、尻尾は良く見える。
そうして、誰も彼もが楽しそうに尻尾を振っているように見えるわけだ。
・・・夢なら覚めて欲しい、と本気で鈴音は祈った。
それなら今日出た数Ⅰの宿題もなくなるだろうし、調理実習で焦がしてしまったクッキーをセナに気取られなくて済む。
けれど、犬耳は見えるのだ。

タイム測定でセナは、ぴぃんと耳を立てて風を切り、走る。
それを見守る面々はおー、とか早ぇー、とか呆れ交じりの声を上げるばかり。
それでも微妙に様子が違うのは、立っている耳と垂れている耳がある点だろうか。
モン太や雪光は耳が垂れているし、栗田や小結は立っている。
一体どんな理由でそう見えるのかは判らない。
ラインとバックスで違うのかと思えば、三兄弟の中でも黒木は立っている耳だし、戸叶と十文字は垂れている耳だ。
一体どうしたことだろう、と混乱する鈴音の耳に、休憩を告げるまもりの声が聞こえてきて我に返る。
そうだ、放課後にチアの練習でもなくここに来たのは、デビルバッツの面々の練習の手伝いをするため。
ぼうっと観客になっている暇はないのだ。
心配するまもりにもう大丈夫と安請け合いし、鈴音はドリンクを皆に配る。
「やー、ムサシャン、どうぞ!」
「ああ」
受け取るムサシの頭には立った耳。
けれどその後ろでそ知らぬ顔でドリンクを飲むヒル魔の頭には、垂れた耳。
「・・・なんでだろ」
「? なにが?」
独り言を尋ね返され、鈴音は慌ててなんでもないと言った。

鈴音の体調を心配するまもりに、それならば馬鹿兄と一緒に帰るからおとなしく見学している、と押し切って鈴音は離れた位置からグラウンドを眺めていた。
この変な光景、腹をくくってしまえばそれぞれの考えることが筒抜けだと理解したら面白くなってきたのだ。
そうして眺めていると、きつい練習にもかかわらず誰もダレた様子もなく走り回っているのが良くわかる。
あの常に不平不満をこぼし続ける三兄弟でさえも、練習中にそういった様子はまったく見せない。
むしろ楽しげに尻尾を振っているではないか。
ふうん、と感心しながら見渡せば、バックスも皆尾を揺らしボールを追いかけている。
ボールを一人黙々と蹴るムサシも、檄を飛ばしながらボールを投げるあの悪魔じみたヒル魔でさえ、その尾は揺れている。
ああ、楽しいんだ。
皆、幸せなんだ。
もちろん苦しいだろう、辛いだろう。
けれどそれ以上に達成したい目標があるから、がんばれるのだ。

と。
鈴音が何気なく見た先には、部室から顔を出したまもりの姿。
なにか心配事でもあるのか、耳が盛大に寝ている。
と、すぐに異常に気づいたらしいヒル魔がそちらへと向かう。
「あ」
その瞬間。
すごく楽しげに尾が揺れた。
遠目から見てもよくわかるくらい、盛大に喜んでいる。
「妖兄ってば・・・」
けれどそれはまもりも同じこと。
寝ていた耳がたちまちぴん、と立って、嬉しげに言葉を交わしている。
いつもいつもどういう関係なのか、と尋ねては明確な答えがもらえなかったが、今日のこの不可思議な一件ですべて解決した。
表面上では彼らはまったく悟らせないけれど、犬のように尻尾がついてしまえば一目瞭然だ。
じわじわと浮かぶ笑みに緩む口元を隠すこともなくそのままでいたら。
「鈴音、平気?」
さあっと風をつれてセナがやってきた。
心配そうにちょっと寝た耳。
本当に心配しているのだと、良くわかる。
「平気だよ!」

そうして、鈴音の尻尾も、ぱたぱたと軽い音を立てて振られた。


***
垂れ耳=猟犬系、立ち耳=番犬系。
デビルバッツの面々は遠めに見て犬たちが戯れているようだといいな、と思いましてこの話を。
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