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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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イーハトーヴォへ向かって

(ヒルまも高校卒業後)

※「なぞなぞ」と「金色独占欲」の間です
※30000HIT御礼企画作品

+ + + + + + + + + +
それは、胸元から腰のあたりまでがタイトなデザインで、その下はふんだんに流れる異素材のレースが幾重にも重なった美しい純白のドレスだった。派手好きなヒル魔が共に選んだという割には地味に見える。けれど子細に作られたそれは決して安物ではないだろう。この日のために彼女の人生史上最長に伸ばされた髪の毛も美しく結い上げられ、元から美しい肌をより美しく演出するように化粧が施されている。
まもりは鏡に映る自分を見て、目を丸くした。
「すごーい! まも姐、すっごい綺麗!!」
「・・・なんだか私じゃないみたいね」
「やー?! まも姐はまも姐だよ! いつも綺麗だけど今日はすごく綺麗だよ!!」
「ありがとう」
興奮して喋る鈴音に、まもりはふんわりと笑う。
「ああでも、まも姐がこんなに早く結婚するなんて思ってなかったなあ・・・」
きっと男達は泣くんだろうなあ、という声にまもりは首を傾げる。
「泣くのはお父さんくらいだと思うけど」
「んもうまも姐ってば! 憧れの姉崎まもりさんが結婚しちゃうって聞いてどれだけ大騒ぎになったのか知らないの?」
「うーん、友達に結婚式の話をしてもあんまり会話にならなくて」
そう。まもりが結婚すると告げてデビルバッツメンバー(モン太を除く)は即座におめでとう、式はいつ? と言ってくれたのだが、他の友人達は口にしただけで誰もが硬直してしまったのだ。
「妖兄の影響力は凄いから。まも姐、いじめられたりしない?」
彼女がヒル魔の傍らにある事で、脅迫対象だった者達から襲われたりしていないかとふと心配になったが。
「誰に? ヒル魔くんにならしょっちゅうだけど」
「あ、そう・・・」
判っているのかいないのか、まもりの発言に鈴音はがっくりと肩を落とした。
だが気を取り直し、再びまもりを見つめた。
まあ、妖兄のことだから、脅迫していたヤツに手を出させるなんてそんな間抜けな事させないだろうけど、と思いながら。

結婚式は人前式、神に誓う式なんぞやるだけ無駄だ、悪魔は神には祈らないんだからな、という台詞にまもりも頷いた。むしろヒル魔が神前式やらチャペル式なんかやると言い出したら、まもりは真剣にヒル魔の頭の心配をしただろう。結婚式をやる事とヒル魔が言ったとき、まず彼の額を触って熱の有無を確認したのだから。
今日の式はデビルバッツメンバーとクリスマスボウルまで進んだ関東大会参加メンバーの一部と、まもりの高校・大学の友人が集ってゲストハウスを借り切って行う形だ。
まもりの両親は参列するが、ヒル魔の両親は不在。
なんだ悪魔を産んだ親の顔が見られると思ったのに、という発言があちこちで起きたらしい。
「ハ、それにしても地味だよな」
「ハァ、確かにヒル魔がやるにしては地味だ」
「ハァアア、でもらしいっちゃらしい気もする」
「「「言えてる」」」
三兄弟が頭を付き合わせて喋るとおり、会場となるゲストハウスはいくつかある棟の中でも一番大きいとは言え、新郎の人となりを知る者としては些か小さい気がする。
だがその周辺には他の客の気配は全くなく、ベストシーズンと名高い季節であってもせわしなさの欠片もないあたりが彼の影響力を感じさせるのだ。
「ま、ま、まもりさん・・・!」
「モン太、まだ始まってもないのにそんなにバナナ食べちゃ駄目だよ」
「これが喰わずにいられるかー!」
まだ未成年のセナ達は当然酒も飲めない。
そして何故かウェルカムドリンクと共に並んでいたバナナをモン太はバクバクと消費している。
きっとこれもヒル魔の采配なのだろう、と思っていても口に出せない。
「あ、ムサシさんに栗田さん。受付お疲れ様です」
「ああ」
「うん。・・・あれ、バナナ? 僕も食べていいのかな?」
「どうぞ。ウェルカムドリンクと一緒で食べ放題みたいです」
わーい、と栗田もモン太と共にバナナを食べる。
「見慣れない人はあんまりいないですね」
「あそこら辺くらいだな」
ムサシが指し示す先にはまもりの大学の友人らしい女性達が固まっている。
見た目に強面だったり派手な連中に戸惑った顔をしている。
中でも阿含は積極的に声を掛けては雲水に小突かれたりしているようだが。
「ヒル魔さん、今はアメフトやってないんでしたよね」
「ああ。だからあそこら辺は俺たちが一体何繋がりかよく判らねぇんだろうな」
デビルバッツメンバーの他の参列者は王城から高見・若菜、西部からキッド・鉄馬・陸、太陽から番場、巨深から筧・水町、賊学から葉柱・メグ、神龍寺から雲水・阿含・一休・山伏、盤戸からコータロー・ジュリ・赤羽、白秋からマルコ・氷室・峨王という面子がいた。どういう繋がりだろうと思っていたら、どうやらクリスマスボウルの時の特訓に付き合った面子を中心に呼んだらしい。
「社会に出てるわけじゃないから、仕事絡みの面子がいない分少ないんだろうな」
「ああなるほど」
「ヒル魔さん、白と黒どっちを着るんでしょうね」
「意外とグレーかも」
「グレー! 絶対ないな、それ!」
ぎゃはは、と笑う皆の元に、スーツの女性がやってきた。どうやら式進行の担当らしい。
「それでは皆様、会場に移動なさってください」
手袋を嵌めた手で示されたのは、緑の美しい庭。
まるで歴戦で駆け抜けたフィールドを思い出させるそこに皆次々と出て行く。
その一角に人前式の司会兼立会人代表を仰せつかったという雪光が立っている。
正面には署名をするためのカウンターだけが用意されており、その前には深紅のヴァージンロードが真っ直ぐに伸びていた。キリスト教式ではないのだが、形式は似たようにしているのだろう。
『それでは皆様、お待たせしました。私は人前式の立会人代表兼司会の雪光と申します』
雪光が簡単に自己紹介をする。
まもりとヒル魔の両方の友人でかつ頭と口が回って、という条件を満たしたのが雪光だったらしい。
まずは新郎の入場です。皆様、拍手でお迎え下さい、という声に次いで、ヒル魔が横から姿を現した。
髪型は常の通り、だが身に纏っているのが純白のタキシードというのが似合っているような似合っていないような。いや似合ってるけど。
そういえば関東大会の抽選会の時にも白い上下を着ていたっけ、とデビルバッツの面々は思い出す。
にやにやと笑う彼の顔はいつも通りで、緊張の欠片も見られない。
『続いて、新婦の入場です。皆様、拍手でお迎え下さい』
そしてエスコート役の父と現れたまもりの姿に、皆一様に息を呑んだ。
常に綺麗だとは言われていたし実際綺麗だったけれど、ものすごい美人に成長してないか、と誰もが思った。
真っ白なドレスは彼女の魅力を引き立てていて、苦虫を噛み潰したような表情のまもりの父親に同情しつつ、誰もが拍手さえまばらになりながら花嫁に見とれてしまった。
ヴェールで包まれた白い面は緊張していたが、ヒル魔を見るとふわりと笑う。
新婦の父親から新郎へと新婦が渡る。そうして、式は幕を開けた。
人前式の趣旨を雪光が簡潔明瞭に説明する。
神に誓わない代わりに人前で永遠の愛を誓い合うという式だが、愛という単語にヒル魔を知る人物は皆ぞぞっと背筋を震わせた。愛だの恋だのそれ以前に人としての感情を全部どこかに投げ捨ててきたんだろう、と正面切って言ってみたいくらいヒル魔は飄々としていたから。
けれどアメフトには熱かったし、伴侶にまもりを選び、更に式まで挙げるのだから彼も一応人並みには愛とかあるらしいね、と皆心中複雑だ。
『では誓いの言葉をお願いします』
マイクがヒル魔に渡される。
ヒル魔の誓いの言葉! 一体何を言うのだろうか、と皆興味津々で彼らを見つめる。
『誓いの言葉、か。―――俺たちは今日を以て夫婦となる。これからテメェらの想像できねぇ家庭を作ってやるから楽しみにしておけ! YA――HA――!!』
相変わらずの調子で言い、マイクを戻すヒル魔に、参列者から一斉に声が上がる。
「それ誓いかよ!」
「どんな宣言だよ!!」
「アホかー!」
ぎゃあぎゃあと普通の式にはあり得ない騒ぎになるのを、まもりはおっとりと笑って見ていた。
事前の打ち合わせで、誓いの言葉を入れないと進行が上手くいかないから、という進行役の女性の説得にヒル魔は面倒そうに頷いていたのを見ていたから、こう来たか、という感じだ。
あの人家庭とか言うのね、という別の所に感心していたりする。
しばらくは会場がざわめいていたが、雪光は強引に次に進める。
『それでは指輪の交換です』
差し出された指輪をヒル魔からまもりへ、次にまもりからヒル魔へと嵌める。
金色のそれはヒル魔の髪を思わせる、とろけるような輝きだった。
それを見せびらかすように二人して左手を掲げると、拍手がわき起こる。
ヒル魔が指輪ねえ、という言葉はいくつもその中に混じったが、拍手にかき消された。
そして結婚式といえばこれが定番、というものが次にやってきた。
『では、誓いのキスを』
再び会場がざわついた。これほど落ち着きのない式も珍しいかもしれない。
だってヒル魔がキスだよ? いやするのかな、しないとね、ええでも、と周囲は落ち着かない。
ヴェールをさらりと持ち上げるとまもりはうっすらと目元を染めていた。
「今更何照れてんだよ」
「・・・ヒル魔くんは恥ずかしくないの?」
小さく交わされる会話も参列者には聞こえない。
「見せびらかすには絶好のチャンスだナァ」
「何・・・―――――――」
言うが早いか、ヒル魔はまもりの唇を深々と奪った。
誓いのキスってそんなんだっけ、とまた会場がざわつく程に官能的なそれはたっぷり三十秒から一分は続き、唇を離したときにはまもりの腰が砕けそうになって、ヒル魔の腕がそれを支える。
真っ赤になったまもりの横でヒル魔はご満悦だ。再び周囲はどよめいている。
まもりの父親は貧血を起こして倒れた。ご愁傷様、と皆に憐憫の眼差しを送られている。
『・・・ああもうご馳走様でした。ええと、結婚証明書への署名をお願いします。まずは立会人代表である私から署名させて頂きます』
半ば投げやりになった雪光はさらっと署名し、次いでヒル魔、まもりと署名する。
その証明書を掲げ、雪光は声高に宣言する。
『これで二人は晴れて夫婦となりました。この結婚にご賛同の皆様は盛大な拍手で祝福をお願いします』
雪光の言葉に盛大な拍手がわき起こるが、それに混じってヤジも飛ぶ。
「誓いのキスであんなのありかー!」
「この後喧嘩して別れるとか言うなよ!」
「こらえ性がねぇんだよ旦那ァ!」
式進行の女性はこんな式は初めてだ、と冷や汗をかいていた。
それでも新郎は楽しそうに、新婦は赤面しつつ苦笑混じりで、参列者も呆れ半分ながら皆笑っていたので気を取り直す。
『それでは新郎新婦が退場します。皆様、お手元にフラワーシャワーの準備をお願いします』
参列者達は皆花びらを手にずらりと一列に並ぶ。
そうしてその間を二人はゆっくりと歩いていく。
ひらひらと雪のように投げられる花びらは、二人を彩って美しく道を飾った。
新郎新婦がその場を去った後、雪光は再びマイクを手に取った。
『それでは皆様、披露宴会場に移動をお願い致します』
その言葉を最後に、無事役目を務め終えた雪光が笑顔でデビルバッツメンバーの所に戻ってくる。
「お疲れ様でした雪さん!」
「いやー・・・判ってたけどヒル魔さんの行動にいちいち躓いて大変だったよ」
「ああ・・・」
「そうですね・・・」
皆苦笑して彼を受け入れ、そうして会場へと移動していった。


これから賑やかな披露宴が行われる。むしろそちらの方が楽しみなような気さえする。
なにはともあれ、宴はこれからだ。

***
7/5 1:28今晩は~様リクエスト『ヒルまもの結婚式風景をお願いします』でした。神前式もキリスト教式もやれないだろうから、人前式くらいだよなあ・・・と思いつつ書きましたw楽しかったです♪
リクエストありがとうございましたー!!

今晩は~様のみお持ち帰り可。
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