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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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緑の庭

(鉄馬&キッド)
※30000HIT御礼企画作品

+ + + + + + + + + +
深い緑の中で、眠っていた事がある。
目が覚めて、真っ先に目に飛び込んできたのは、深い緑とそれに縁取られた深い青。
一体どうしてそんなところで眠っていたのか、後で誰に尋ねられても答えられなかった。
俺も理由を覚えていなかった。
その時はあったのかもしれないが、今では完全に忘れている。
でも。
(―――――――鉄馬?!)
こちらを泣きそうな顔で覗き込んでいた幼い紫苑の姿だけは今でもハッキリ覚えている。


「そういえばさあ、鉄馬、ウチの庭で寝てた事あったよねえ」
転がっていたボールを拾い上げた俺の耳に、紫苑の声が掛かった。
珍しい、と俺は思う。普段紫苑は昔の事を話さない。
キッドなんていうあだ名をどこまでも通すほどに過去を厭っている彼が。
夏とはちがう、薄くなった影に秋の訪れを知る。
それでもまだ強い日差しの中で、紫苑は立っていた。
たまたま、他のチームメイトたちは俺たちの回りに誰もいなかった。
「あれって、ちょうどこれくらいの時期だったよね」
そうだったか、と思う。
何故かあの時の事だけは覚えていなくて、俺の記憶では季節さえ判然としないのだ。
「あの時大変だったんだよ。朝起きたら鉄馬がいない、っていうんで屋敷中大騒ぎでさ」
何が言いたいのか、と俺は紫苑を眺める。
彼は頭がいい。そして俺とは違い、アメフト以外の事でも何でもそつなくこなす。
だから時折、俺は彼の言いたい事を掴み損ねる。
その都度彼は判りやすく俺に命じてくれるのだけれど。
話の内容が理解できない俺に紫苑は苦笑した。
「・・・前の日に俺が投げ捨てたビームピストルを探してくれてたんだよね」
「!」
あの広大な庭は隅々まで手入れされていて、異物が落ちていればすかさず見つけられる程綺麗に掃き清められていた。夜中、紫苑が投げたピストルがどこに転がったかは、日が昇ればすぐ判る。
けれどそれではいけないのだ。いくら苦しかろうと、彼がそれを投げ捨てたのだと俺以外に知れたら紫苑が更に辛い目に遭うと俺は知っていた。
俺たちが親たちの目を盗んで熱中したアメフトのキャッチボールを黙認してくれている庭師でも、ビームピストルを拾ったとあれば武者小路家に告げないとならないだろう。
頭のいい紫苑。彼がそれに気がつかないはずがないのに。
あれは助けを求める信号だった。苦しいのだと告げる無言のSOS。
けれどそれを発したところで、誰にも拾われないのだと紫苑に改めて突きつけるのはイヤだったのだ。
だから俺は眠りに就くふりをして抜けだし、そのまま庭を彷徨ってどうにかピストルを探し出し、そして疲れて近くの木の下で眠ってしまったのだった。そういえば、あのピストルはどうしたんだったか。
「目が覚めても誰もピストルのことなんて言わなくてさ」
紫苑は、俺が何気なく投げたアメフトボールを弄びながら笑う。
その目は遠く過去を慈しむようで、昔の事を話す割に苦しそうではない。
「結局俺はお咎めなし、けど鉄馬は怒られたっけね」
「ピストルは」
「ん? 俺に返してくれたじゃない」
あの時何喰わぬ顔で大人を呼びに行きがてらピストルを戻したからねぇ、と苦笑している。
そうだったのか、と俺は今になって十年以上前の事実を知る。
そういえばあの後夜通し外にいた事で、風邪を引いて熱を出したような。
だから余計に記憶が曖昧だったのかもしれない。
「あの時に思ったんだ。俺が何かするときは鉄馬の事も考えないと、結局鉄馬が俺のために苦労することになるんだってね」
「俺は―――」
「それが苦労じゃないっていうのは聞かないよ」
ひゅ、と音を立ててボールが飛んでくる。いつだって狙ったとおりに飛んでくる紫苑のボール。
「アメフトのパスルートにしても何にしても、俺は鉄馬には指令を出すでしょ。そうすると鉄馬が楽だからって知ってるからさ」
「・・・」
「でも、本当はいけないことだ。俺と鉄馬は主従関係じゃないんだから。あえて言うなら・・・そうだな」
紫苑はだらりと腕を下ろして俺を見ている。
「兄弟みたいなもんじゃないかな」
友達っていうのは受け入れて貰えなさそうだし、と肩をすくめる。
「兄弟で年を言えば半年だけど鉄馬の方が上だし、命令するなら本当はそっちだよね」
「紫苑」
思わず名前で呼んでしまう。俺が彼に命じるなんてあり得ない。
紫苑は俺の心情を汲んでただ苦笑するだけに止めた。
「まあ、今更兄弟の位置づけしても俺が兄貴になるしかないのかな・・・」
だから、と紫苑は続けた。どこか痛みを堪えたような表情で。
「これはお願い、かな。俺が命令するんじゃなくて、鉄馬が自分の意志で動くようになって欲しいなあ」
結局、紫苑の言いたい事はそれだったようだ。俺は口を開く。
「動いている」
「え?」
紫苑は目を瞬かせた。
「試合中はルートがあるから、指令を出されたらその方が互いにやりやすいだろう」
「そうだねえ」
「だが、それ以外では、俺は自分の意志で動いている」
「そうかい?」
胡乱げな紫苑を俺は真っ直ぐに見る。
「ピストルを拾ったのも、家を出て行くお前について行ったのも、今こうやってアメフト部にいることも」
それは全て。
「俺が自分で決めた事だ」
「・・・はは。そう?」
完全に虚をつかれたか、らしくもなく間を開けて応じた紫苑に、俺は再びボールを投げて続ける。
「だから」
「え?」
危なげなくそれを受け取った紫苑に告げる。
「俺に引け目を感じる必要はない」
「・・・!!」
目を見開いた紫苑は、しばし唖然とした顔をしていたが、やがてふっと笑った。
「鉄馬は俺の事よく判ってるよねえ」
ひゅ、と再び投げられるボール。それは蒼天を切るような鋭さを載せて、俺の手のひらに収まった。
しばし無言でボールの応酬。けれど常のパスルートがあるわけではなく、手慰みのキャッチボール。
物足りなささえ感じるくらいのそれは、かつてあの緑の庭で投げ合ったときのように静かに、穏やかだった。


***
のりちこ様リクエスト『鉄キ(BLでなくなんか日常っぽいもの)』でした。鉄馬、私も結構色々作品内に出す割にはあんまり台詞がなかったので今回は思い切って鉄馬視点で書いてみました。こんな過去があってもいいかな、と。すごく新鮮で楽しかったですw
リクエストありがとうございましたー!!

のりちこ様のみお持ち帰り可。
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