旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
まもりは隣にいるヒル魔をちらりちらりと眺めては、視線を寄越されそうになると反らすということをかれこれ十分は繰り返していた。
背はそんなに変わらないから、気を付けないと視線はばっちりと絡み合う。
ヒル魔はガムを噛みながらそんなまもりを時折見るが、特に何も言わない。
いつもの帰り道、いつもの立ち位置。
けれどいつもと違うのは手を繋いでいること。
私たち、こんな関係だったかしら。
(なんで手なんて繋いで帰ってるのかしら。いつも一緒に帰るのはしょうがないのよ。私はアメフト部のマネージャーで妖一はキャプテンだもの。家も隣同士だし、帰宅時間が一緒なら帰り道も一緒なんだから)
本当は今、すぐにでもこの手を振り払ってしまいたい。
この手にじわりと汗が滲んでいるのを悟られないうちに。
けれどそんなことは彼には既に知れているのだろう。
事実、もう一度ちらりと眺めた彼の口角は楽しげに上がっていたから。
そしてヒル魔はおもむろに口を開いた。
「随分と緊張してるナァ、まもり?」
「・・・!!」
普段、他の人がいるところでは絶対にヒル魔は『糞マネ』とまもりを呼ぶ。
せめて名字で、と願っても彼は鼻で笑って聞き入れてくれない。
なのにこんな時ばかり名前で呼ぶ。まもりは恥ずかしさに唇を咬んだ。
「・・・離して、ヒル魔くん」
「随分と糞他人行儀じゃねぇか」
「他人だもの」
二人は互いをとてもよく知る、幼なじみ。
いや、腐れ縁と言った方が正しいかもしれない。それにヒル魔はぴんと片眉を上げた。
「本気で言うのか、まもり?」
「っ」
いっそ優しいような声音に、まもりはびくりと肩を震わせたが、強く手を引かれて思わずそちらを見てしまう。
いつも人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべている顔は、今日ばかりは真剣にまもりを見つめている。
「たかだか十分前の事さえ覚えていられないとはとんだ鳥頭だな」
「・・・だって」
まもりは再び唇を咬んだ。言葉の続きを飲み込むように。
(だって、妖一は唐突すぎるのよ。何で急に、そんな、だって)
ぐるぐるとまとまらない考えで混乱するまもりの顎を捕らえて、ヒル魔はその唇を奪う。
手慣れた仕草。手慣れているはずだ、中学に入った頃からこうやって隙を見てはまもりの唇を奪うのだから。
「唇、咬むんじゃねぇよ」
「だって・・・」
赤くなって俯いたまもりに、ヒル魔は可笑しそうに笑った。
「これはお前が言ったことだろう?」
その言葉に、まもりはますます赤くなって再び唇を咬んだ。
私、姉崎まもり、15才。
十分前に泥門高校の合格発表を見て帰ってくる途中に、隣に住む幼なじみの蛭魔妖一に合格祝いを所望されました。私も同じ高校に合格したのにそんな風に言われるのは心外です。
しかも何を要求したと思いますか?
『抱かせろ』って。
抱くって? 抱きしめること? 妖一はしょっちゅう抱きしめたりしてくるしキスもしてくるのに、今更?
多分顔に出ていたんでしょう、妖一はそんな私を見てにやりと笑いました。
『セックスさせろってことだ』
『・・・?!』
飛び上がって驚いた私は逃げる前に妖一に捕まりました。
『何も特別驚くことじゃねぇだろ? 散々キスもしてんのに』
聞き捨てなりません。私は望んでキスされたことはありません。
いつだって先回りして気がつけば奪われるばかりなのに。
『それはヒル魔くんが勝手にするからじゃない!』
からかうにしても酷いです。ファーストキスもセカンドキスも気がつけば奪われていたのですから。
『そんな物欲しそうな顔しておいて言うか?』
『なっ・・・! そんな顔してないわ!』
これには私も怒りました。何を言うかと思えば!
『ヒル魔くんは私の恋人でもなんでもないのに、こういうことしないで!』
怒鳴った私を見て、妖一は一瞬目を丸くした後、にやにやと笑いました。よくない笑いです。
『ホー。じゃあテメェは恋人でもない男に散々キスされてたっつー訳か』
『・・・そうでしょ』
ぷい、と横を向くともう一度妖一は『ホー』と言いました。
『じゃあ聞くが、恋人はどういうことをするんだ?』
『どうって・・・』
残念ながら、私は彼氏が出来た事がありません。・・・モテないんです。
友達がされるように男の子から声を掛けられたり、手紙を貰ったりということが私には一切ないのです。
知っているのはドラマや漫画や小説や友達の話で得る知識だけで、自分の経験からは何も言えません。
だから思いつく限りで並べてみました。
『手を繋いで帰ったり、一緒に買い物に出掛けたり、お喋りしたり、一緒にお昼食べたり』
『ホー』
他には? と尋ねられても困ってしまいます。
だってキスをするとか抱きしめる、っていうのは妖一と私もしているから。
『それで言うなら、俺がお前としてないのは手を繋いで帰るっつう事だけだな』
『え?』
『アメフト部の買いだしやら偵察やらで一緒に出掛けてるし、喋るし、毎日じゃないが昼飯は一緒に食ったりするしナァ?』
それに私は顔が赤くなるのが判りました。だって言われればその通り、妖一と私は充分恋人と呼ばれる状態に思えたから。
(でも、私は妖一とは恋人同士じゃないわ。だって好きも愛してるも言われた事ないし・・・)
やっぱりからかわれているとしか思えなくて、私はしゅんと俯いてしまいました。
最初にキスをされたときから、いいえその前からずっと私は妖一が好きでした。
でも、妖一は私の事をからかうばかりで、言葉をくれた事がありません。
挨拶でキスをする国があるくらいだから、妖一にとってもキスはその程度なのかもしれません。
段々悲しくなってきて、顔が上げられません。
『おら』
『!』
私の右手が妖一の左手に捕らえられました。
『手を繋いで帰れば恋人なんだろ?』
『違う、わよ』
そんな適当な理由で繋がれても嬉しくないです。
だってこの流れでいくと、妖一はセックスしたいから恋人同士になろうとしているみたいです。
私は妖一が好きだけど、妖一はそうじゃないんだと思うと悲しいです。
妖一の手があたたかければ余計に苦しいです。じわ、と目の前が涙で滲みました。
『恋人はね、ちゃんと好きだっていう人同士がなるのよ』
声が震えないように言って、放して貰おうと手を引いたのに、妖一は放してくれません。
それどころかますますきつく握られました。
『・・・アー、成程。何でンな事言うのかと思えば、ナァ』
妖一は一人納得して、それからおもむろに私の方を見ました。アメフトの試合くらい真剣な顔で。
『好きだぜ、まもり』
『・・・嘘ッ?!』
それに妖一はなんで嘘を言う必要がある、と言いました。
『道理で恋人じゃないとか色々言うわけだ』
言ってなかったか、と妖一は飄々としたもので。
私は突然の告白に目を白黒させながら妖一と手を繋いで帰ることになりました。
私が言うところのちゃんとした『恋人同士』として。
それが、十分前の話。
まもりは自分がヒル魔をどう思っているかという一言を言いそびれて、そのまま彼の隣を歩いていた。
このまま行けばあと十五分くらいで家に着くなあ、とまもりがそんなことを思っていたら。
「おい、ソンソン寄ってくぞ」
「え? うん」
通りかかったコンビニの前でヒル魔はぴたりと足を止める。
しかしまもりの手は放さず、そのまま店内のある棚の前に進む。
「え、何ソレ」
「これから使うからな」
「?」
見慣れない小箱にも、カウンターの青年が二人をちらちらと眺めながらレジを通すのにもまもりは不思議がりながら手を繋いだままで。
「テメェの母親は今出掛けてるんだっけな?」
「うん。お母さんはお父さんの所に泊まりに行ってる」
まもりの父は単身赴任で県外にいる。そちらに時折母親が出向いていくのだ。
最近まもりの受験で母はそちらに行けなかったから、まもりは母に後は合格発表だけだし父の元へ行ってくれるように頼んだ。こちらは一人で大丈夫というまもりの言葉に母親は出掛け、先ほど電話で合格を告げたばかりだ。まだしばらく父の元にいるから、御祝いは帰ってからね、母はそう言っていた。
それは重畳、そう呟くヒル魔にまもりはまた首を傾げる。
「ヒル魔くんの家は?」
「妖一」
「・・・妖一、の家は?」
「ウチは両方とも仕事で帰って来ねぇよ」
「そっか。じゃあ、ウチでお昼ご飯食べる?」
「おー」
ヒル魔の両親は多忙で、彼は割と頻繁にまもりの家で食事をする事があった。
だからまもりは何の気なしに誘ったし、ヒル魔もごく普通に頷いた。
「一度家に帰って荷物置いてくる?」
「いや、そのまま上がる」
「そう」
鍵を開けていつものようにヒル魔を上げるまもりは気がついていなかった。
自分ばかりが汗を滲ませていると思っていた手のひらが、彼も汗でしっとりと湿っていたことに。
□■□■□ (裏はヒル魔視点です)
気怠い身体を起こしたまもりは、咄嗟にここがどこで今が何時か判らなかった。
だがよく見ればここは見慣れた自分の部屋、外を見れば夕方らしい。
身体を起こそうとして、力が入らない事に戸惑う。
ぼんやりと室内を眺め、そしてベッドの下に散らばる服を見つけて。
「・・・あ~~~!!」
まもりは全てを思い出して声を上げた。
そして勢いのまま起きあがろうとして、あまりのだるさにそのまま倒れ込む。
「なっ、なんっ、どっ・・・」
身体はだるいしべたべたするし目は腫れぼったいしなにより下肢が痛い。
まるで何かがそこにまだ入っているかのようだ。
じんじんと痛むそこを堪えて身体を起こして改めて部屋を見渡すが、ヒル魔はいなかった。
「・・・何よ・・・」
やっぱりセックスがしたかっただけじゃないか、と思えてまもりの目に涙が浮かぶ。
あんなに恥ずかしい目にあってあんなに痛い思いをして、決死の思いで好きだと告げたのに結果はこれか、と思うと泣けてくる。
だが。
「起きたか?」
「あ・・・」
ドアを開けて入ってきたのは既に制服を着たヒル魔だった。
涙目のまもりにぴんと片眉を上げて近寄ってくる。
「何泣いてんだ」
「だっ・・・妖一、が、いないから・・・」
抱きしめられて頭を撫でられ、まもりはぼろっと涙を零す。言いようのない安堵に身体の力が抜けた。
「腹減っただろ」
「お腹? ・・・そういえば」
言われた途端に空腹を覚えてまもりは腹を押さえる。ぐう、とお腹が鳴った。
「昼飯も喰わねぇでヤッてたからな」
真っ赤になったまもりに、ヒル魔はにやにやと楽しそうに笑ってキスをする。
「ああ、ある意味テメェが昼飯だったな?」
「・・・!!」
真っ赤になってぱくぱくと口を開閉させるまもりに告げる。
「とにかく風呂に入れ。それから飯喰うぞ」
「うん、妖一は何食べたい?」
冷蔵庫には何があっただろうか、と思いを巡らすまもりにヒル魔はあっさりと言った。
「ア? もう作った」
「え?」
「冷蔵庫の中のモン適当に使ったぞ。あとキッチンも」
「え・・・妖一、ご飯作れるの?」
「テメェウチの親がどれだけ家を空けてると思ってんだ。自炊くらい出来ねぇと喰うモンねぇよ」
言いながらヒル魔はひょいとまもりを抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこだ。
「キャー! ちょっと、や・・・ッ!!」
身体を隠すものもなく抱えられてまもりは真っ赤になって手足をばたつかせたが、脳天に突き抜けた下肢の痛みにぴたりと動きを止める。
「風呂も借りたぞ。ついでに湯を張ったからそのまま入れ」
そういえばヒル魔は制服をきているものの、さっぱりとしている。
幼い頃から出入りしている家だけに何がどこにあるのかヒル魔はしっかり把握しているようだった。
「私、どれくらい寝てたの?」
「一時間くらいじゃねぇか?」
身長はさほど変わらないのにヒル魔は危なげなくまもりを抱き上げて歩いていく。
さすがに鍛えてると違うなあ、と感心しながら大人しく運ばれる。
促されるがままに風呂に入り、身体も温まって痛みも多少引いた。
さすがに着替えをヒル魔に持ってきて貰うわけにも行かず、湯上がりにバスタオルを巻いて小走りに室内に戻り、慌てて着替えてダイニングへと顔を出す。
「ア? 出たか」
パソコンをいじっていたヒル魔はぱちんと蓋を閉じると、てきぱきと料理を並べた。
「わ・・・」
意外な程ちゃんと作られた食事に、まもりは瞳を瞬かせる。
「冷めないうちに食え」
「うん。いただきます」
みそ汁を啜って、やはり自分は結構空腹だったのだと気がついてまもりは黙々と箸を進める。
ヒル魔が作ったご飯は美味しかった。
なんだか色々あった一日だったけれど、こういうのも悪くないなあ、とまもりは頬をゆるめる。
「何思い出し笑いしてんだよ」
「違うわよ、妖一のご飯が美味しいからよ」
「アーソウデスカ」
「照れなくていいのに」
ふふ、と笑うまもりにヒル魔は口を開く。
「また作ってやろうか?」
「え?」
「ただし今度は俺の家でだがな」
「それって」
にやにやと含みを持って笑うヒル魔に、まもりは顔を赤くする。
「まさか一回限りな訳がねぇだろ? こっちよりウチの方が断然親がいねぇからな」
どうする? と尋ねられ、まもりは赤面したまま小さくこくりと頷いた。
***
唯様リクエスト『幼馴染設定のヒルマモ』でした。ちょっと思いついて視点を変えて書こうと思ったら、裏シーンがヒル魔さん視点になってしまってものすごく書きづらかったという(笑)。そもそもヒル魔さん視点、あんまり書かないんですよね、私。ああでも面白かったです! ヒル魔さんが中学生だと多少丸いのが面白いです。
リクエストありがとうございましたー!!
唯様のみお持ち帰り可。
以下返信です。反転してお読み下さい。
ウチのヒル魔さんは料理が出来る設定なのでご飯作ってくれました(笑)ウチの父や弟たちが結構料理するので男連中の方が美味しい印象があるんですよ。お初が中学生くらい、というのを真に受けて中学生にしました。色々垂涎設定だったので本当に面白く書かせて頂きましたw少女漫画の気持ちで書いてたらもう途中痒くて(苦笑)もう一方の方も楽しく書かせて頂こうと思います♪ありがとうございましたーw
背はそんなに変わらないから、気を付けないと視線はばっちりと絡み合う。
ヒル魔はガムを噛みながらそんなまもりを時折見るが、特に何も言わない。
いつもの帰り道、いつもの立ち位置。
けれどいつもと違うのは手を繋いでいること。
私たち、こんな関係だったかしら。
(なんで手なんて繋いで帰ってるのかしら。いつも一緒に帰るのはしょうがないのよ。私はアメフト部のマネージャーで妖一はキャプテンだもの。家も隣同士だし、帰宅時間が一緒なら帰り道も一緒なんだから)
本当は今、すぐにでもこの手を振り払ってしまいたい。
この手にじわりと汗が滲んでいるのを悟られないうちに。
けれどそんなことは彼には既に知れているのだろう。
事実、もう一度ちらりと眺めた彼の口角は楽しげに上がっていたから。
そしてヒル魔はおもむろに口を開いた。
「随分と緊張してるナァ、まもり?」
「・・・!!」
普段、他の人がいるところでは絶対にヒル魔は『糞マネ』とまもりを呼ぶ。
せめて名字で、と願っても彼は鼻で笑って聞き入れてくれない。
なのにこんな時ばかり名前で呼ぶ。まもりは恥ずかしさに唇を咬んだ。
「・・・離して、ヒル魔くん」
「随分と糞他人行儀じゃねぇか」
「他人だもの」
二人は互いをとてもよく知る、幼なじみ。
いや、腐れ縁と言った方が正しいかもしれない。それにヒル魔はぴんと片眉を上げた。
「本気で言うのか、まもり?」
「っ」
いっそ優しいような声音に、まもりはびくりと肩を震わせたが、強く手を引かれて思わずそちらを見てしまう。
いつも人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべている顔は、今日ばかりは真剣にまもりを見つめている。
「たかだか十分前の事さえ覚えていられないとはとんだ鳥頭だな」
「・・・だって」
まもりは再び唇を咬んだ。言葉の続きを飲み込むように。
(だって、妖一は唐突すぎるのよ。何で急に、そんな、だって)
ぐるぐるとまとまらない考えで混乱するまもりの顎を捕らえて、ヒル魔はその唇を奪う。
手慣れた仕草。手慣れているはずだ、中学に入った頃からこうやって隙を見てはまもりの唇を奪うのだから。
「唇、咬むんじゃねぇよ」
「だって・・・」
赤くなって俯いたまもりに、ヒル魔は可笑しそうに笑った。
「これはお前が言ったことだろう?」
その言葉に、まもりはますます赤くなって再び唇を咬んだ。
私、姉崎まもり、15才。
十分前に泥門高校の合格発表を見て帰ってくる途中に、隣に住む幼なじみの蛭魔妖一に合格祝いを所望されました。私も同じ高校に合格したのにそんな風に言われるのは心外です。
しかも何を要求したと思いますか?
『抱かせろ』って。
抱くって? 抱きしめること? 妖一はしょっちゅう抱きしめたりしてくるしキスもしてくるのに、今更?
多分顔に出ていたんでしょう、妖一はそんな私を見てにやりと笑いました。
『セックスさせろってことだ』
『・・・?!』
飛び上がって驚いた私は逃げる前に妖一に捕まりました。
『何も特別驚くことじゃねぇだろ? 散々キスもしてんのに』
聞き捨てなりません。私は望んでキスされたことはありません。
いつだって先回りして気がつけば奪われるばかりなのに。
『それはヒル魔くんが勝手にするからじゃない!』
からかうにしても酷いです。ファーストキスもセカンドキスも気がつけば奪われていたのですから。
『そんな物欲しそうな顔しておいて言うか?』
『なっ・・・! そんな顔してないわ!』
これには私も怒りました。何を言うかと思えば!
『ヒル魔くんは私の恋人でもなんでもないのに、こういうことしないで!』
怒鳴った私を見て、妖一は一瞬目を丸くした後、にやにやと笑いました。よくない笑いです。
『ホー。じゃあテメェは恋人でもない男に散々キスされてたっつー訳か』
『・・・そうでしょ』
ぷい、と横を向くともう一度妖一は『ホー』と言いました。
『じゃあ聞くが、恋人はどういうことをするんだ?』
『どうって・・・』
残念ながら、私は彼氏が出来た事がありません。・・・モテないんです。
友達がされるように男の子から声を掛けられたり、手紙を貰ったりということが私には一切ないのです。
知っているのはドラマや漫画や小説や友達の話で得る知識だけで、自分の経験からは何も言えません。
だから思いつく限りで並べてみました。
『手を繋いで帰ったり、一緒に買い物に出掛けたり、お喋りしたり、一緒にお昼食べたり』
『ホー』
他には? と尋ねられても困ってしまいます。
だってキスをするとか抱きしめる、っていうのは妖一と私もしているから。
『それで言うなら、俺がお前としてないのは手を繋いで帰るっつう事だけだな』
『え?』
『アメフト部の買いだしやら偵察やらで一緒に出掛けてるし、喋るし、毎日じゃないが昼飯は一緒に食ったりするしナァ?』
それに私は顔が赤くなるのが判りました。だって言われればその通り、妖一と私は充分恋人と呼ばれる状態に思えたから。
(でも、私は妖一とは恋人同士じゃないわ。だって好きも愛してるも言われた事ないし・・・)
やっぱりからかわれているとしか思えなくて、私はしゅんと俯いてしまいました。
最初にキスをされたときから、いいえその前からずっと私は妖一が好きでした。
でも、妖一は私の事をからかうばかりで、言葉をくれた事がありません。
挨拶でキスをする国があるくらいだから、妖一にとってもキスはその程度なのかもしれません。
段々悲しくなってきて、顔が上げられません。
『おら』
『!』
私の右手が妖一の左手に捕らえられました。
『手を繋いで帰れば恋人なんだろ?』
『違う、わよ』
そんな適当な理由で繋がれても嬉しくないです。
だってこの流れでいくと、妖一はセックスしたいから恋人同士になろうとしているみたいです。
私は妖一が好きだけど、妖一はそうじゃないんだと思うと悲しいです。
妖一の手があたたかければ余計に苦しいです。じわ、と目の前が涙で滲みました。
『恋人はね、ちゃんと好きだっていう人同士がなるのよ』
声が震えないように言って、放して貰おうと手を引いたのに、妖一は放してくれません。
それどころかますますきつく握られました。
『・・・アー、成程。何でンな事言うのかと思えば、ナァ』
妖一は一人納得して、それからおもむろに私の方を見ました。アメフトの試合くらい真剣な顔で。
『好きだぜ、まもり』
『・・・嘘ッ?!』
それに妖一はなんで嘘を言う必要がある、と言いました。
『道理で恋人じゃないとか色々言うわけだ』
言ってなかったか、と妖一は飄々としたもので。
私は突然の告白に目を白黒させながら妖一と手を繋いで帰ることになりました。
私が言うところのちゃんとした『恋人同士』として。
それが、十分前の話。
まもりは自分がヒル魔をどう思っているかという一言を言いそびれて、そのまま彼の隣を歩いていた。
このまま行けばあと十五分くらいで家に着くなあ、とまもりがそんなことを思っていたら。
「おい、ソンソン寄ってくぞ」
「え? うん」
通りかかったコンビニの前でヒル魔はぴたりと足を止める。
しかしまもりの手は放さず、そのまま店内のある棚の前に進む。
「え、何ソレ」
「これから使うからな」
「?」
見慣れない小箱にも、カウンターの青年が二人をちらちらと眺めながらレジを通すのにもまもりは不思議がりながら手を繋いだままで。
「テメェの母親は今出掛けてるんだっけな?」
「うん。お母さんはお父さんの所に泊まりに行ってる」
まもりの父は単身赴任で県外にいる。そちらに時折母親が出向いていくのだ。
最近まもりの受験で母はそちらに行けなかったから、まもりは母に後は合格発表だけだし父の元へ行ってくれるように頼んだ。こちらは一人で大丈夫というまもりの言葉に母親は出掛け、先ほど電話で合格を告げたばかりだ。まだしばらく父の元にいるから、御祝いは帰ってからね、母はそう言っていた。
それは重畳、そう呟くヒル魔にまもりはまた首を傾げる。
「ヒル魔くんの家は?」
「妖一」
「・・・妖一、の家は?」
「ウチは両方とも仕事で帰って来ねぇよ」
「そっか。じゃあ、ウチでお昼ご飯食べる?」
「おー」
ヒル魔の両親は多忙で、彼は割と頻繁にまもりの家で食事をする事があった。
だからまもりは何の気なしに誘ったし、ヒル魔もごく普通に頷いた。
「一度家に帰って荷物置いてくる?」
「いや、そのまま上がる」
「そう」
鍵を開けていつものようにヒル魔を上げるまもりは気がついていなかった。
自分ばかりが汗を滲ませていると思っていた手のひらが、彼も汗でしっとりと湿っていたことに。
□■□■□ (裏はヒル魔視点です)
気怠い身体を起こしたまもりは、咄嗟にここがどこで今が何時か判らなかった。
だがよく見ればここは見慣れた自分の部屋、外を見れば夕方らしい。
身体を起こそうとして、力が入らない事に戸惑う。
ぼんやりと室内を眺め、そしてベッドの下に散らばる服を見つけて。
「・・・あ~~~!!」
まもりは全てを思い出して声を上げた。
そして勢いのまま起きあがろうとして、あまりのだるさにそのまま倒れ込む。
「なっ、なんっ、どっ・・・」
身体はだるいしべたべたするし目は腫れぼったいしなにより下肢が痛い。
まるで何かがそこにまだ入っているかのようだ。
じんじんと痛むそこを堪えて身体を起こして改めて部屋を見渡すが、ヒル魔はいなかった。
「・・・何よ・・・」
やっぱりセックスがしたかっただけじゃないか、と思えてまもりの目に涙が浮かぶ。
あんなに恥ずかしい目にあってあんなに痛い思いをして、決死の思いで好きだと告げたのに結果はこれか、と思うと泣けてくる。
だが。
「起きたか?」
「あ・・・」
ドアを開けて入ってきたのは既に制服を着たヒル魔だった。
涙目のまもりにぴんと片眉を上げて近寄ってくる。
「何泣いてんだ」
「だっ・・・妖一、が、いないから・・・」
抱きしめられて頭を撫でられ、まもりはぼろっと涙を零す。言いようのない安堵に身体の力が抜けた。
「腹減っただろ」
「お腹? ・・・そういえば」
言われた途端に空腹を覚えてまもりは腹を押さえる。ぐう、とお腹が鳴った。
「昼飯も喰わねぇでヤッてたからな」
真っ赤になったまもりに、ヒル魔はにやにやと楽しそうに笑ってキスをする。
「ああ、ある意味テメェが昼飯だったな?」
「・・・!!」
真っ赤になってぱくぱくと口を開閉させるまもりに告げる。
「とにかく風呂に入れ。それから飯喰うぞ」
「うん、妖一は何食べたい?」
冷蔵庫には何があっただろうか、と思いを巡らすまもりにヒル魔はあっさりと言った。
「ア? もう作った」
「え?」
「冷蔵庫の中のモン適当に使ったぞ。あとキッチンも」
「え・・・妖一、ご飯作れるの?」
「テメェウチの親がどれだけ家を空けてると思ってんだ。自炊くらい出来ねぇと喰うモンねぇよ」
言いながらヒル魔はひょいとまもりを抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこだ。
「キャー! ちょっと、や・・・ッ!!」
身体を隠すものもなく抱えられてまもりは真っ赤になって手足をばたつかせたが、脳天に突き抜けた下肢の痛みにぴたりと動きを止める。
「風呂も借りたぞ。ついでに湯を張ったからそのまま入れ」
そういえばヒル魔は制服をきているものの、さっぱりとしている。
幼い頃から出入りしている家だけに何がどこにあるのかヒル魔はしっかり把握しているようだった。
「私、どれくらい寝てたの?」
「一時間くらいじゃねぇか?」
身長はさほど変わらないのにヒル魔は危なげなくまもりを抱き上げて歩いていく。
さすがに鍛えてると違うなあ、と感心しながら大人しく運ばれる。
促されるがままに風呂に入り、身体も温まって痛みも多少引いた。
さすがに着替えをヒル魔に持ってきて貰うわけにも行かず、湯上がりにバスタオルを巻いて小走りに室内に戻り、慌てて着替えてダイニングへと顔を出す。
「ア? 出たか」
パソコンをいじっていたヒル魔はぱちんと蓋を閉じると、てきぱきと料理を並べた。
「わ・・・」
意外な程ちゃんと作られた食事に、まもりは瞳を瞬かせる。
「冷めないうちに食え」
「うん。いただきます」
みそ汁を啜って、やはり自分は結構空腹だったのだと気がついてまもりは黙々と箸を進める。
ヒル魔が作ったご飯は美味しかった。
なんだか色々あった一日だったけれど、こういうのも悪くないなあ、とまもりは頬をゆるめる。
「何思い出し笑いしてんだよ」
「違うわよ、妖一のご飯が美味しいからよ」
「アーソウデスカ」
「照れなくていいのに」
ふふ、と笑うまもりにヒル魔は口を開く。
「また作ってやろうか?」
「え?」
「ただし今度は俺の家でだがな」
「それって」
にやにやと含みを持って笑うヒル魔に、まもりは顔を赤くする。
「まさか一回限りな訳がねぇだろ? こっちよりウチの方が断然親がいねぇからな」
どうする? と尋ねられ、まもりは赤面したまま小さくこくりと頷いた。
***
唯様リクエスト『幼馴染設定のヒルマモ』でした。ちょっと思いついて視点を変えて書こうと思ったら、裏シーンがヒル魔さん視点になってしまってものすごく書きづらかったという(笑)。そもそもヒル魔さん視点、あんまり書かないんですよね、私。ああでも面白かったです! ヒル魔さんが中学生だと多少丸いのが面白いです。
リクエストありがとうございましたー!!
唯様のみお持ち帰り可。
以下返信です。反転してお読み下さい。
ウチのヒル魔さんは料理が出来る設定なのでご飯作ってくれました(笑)ウチの父や弟たちが結構料理するので男連中の方が美味しい印象があるんですよ。お初が中学生くらい、というのを真に受けて中学生にしました。色々垂涎設定だったので本当に面白く書かせて頂きましたw少女漫画の気持ちで書いてたらもう途中痒くて(苦笑)もう一方の方も楽しく書かせて頂こうと思います♪ありがとうございましたーw
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ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
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現在のところ復活の予定はありません。
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