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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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愛おしきトランキライザー

(ヒルまも一家)

+ + + + + + + + + +
まもりが自分の変調に気が付いたのは、朝、目が覚めたときだった。
けれどいつもの通り学校に向かい、部室へと顔を出す。
早朝のせいか、他に部員の姿はない。ただいつもと同じく一人だけそこにいる。
「おはよう、ヒル魔くん」
「なんだ、その声」
挨拶をしたはずなのにそれを素通りしてハスキーになった声について突っ込まれる。
まもりは苦笑いを浮かべ、目の前の男を見た。
去年のクリスマスボウル優勝を機に引退したはずの彼は、その後も変わらずアメフト部へと入り浸っていた。
「腹でも出して寝てたんだろ」
「そんな事無いわよ! もう、ちゃんと毛布を掛けました!」
季節はもう夏に近いけれど、昨日は梅雨寒という気候だったから、まもりはしまおうと思っていた毛布をわざわざ持ってきて被って寝たのだ。
その甲斐もなく夏風邪なんて引いてしまって、情けない事この上ない。
まもりが心の中ではやっぱり情けないわよね、と自己嫌悪に陥っているのを知ってか知らずか、彼はぱちんとガムで作った風船を割った。
蛭魔妖一。
アメフト部キャプテン。ポジションはクォーターバック。
素行最悪、見た目最悪、中身も最悪、一応まもりの彼氏。
二人は去年のクリスマスボウルが終わった翌日からつきあい始めた。
とはいっても、おおっぴらに手を繋いで歩いたりするわけではないし、今までと態度が変わるわけでもないので気づいていない人の方が多い。
大多数は噂だけだと思っているらしい。
「夏風邪は」
「馬鹿が引くんでしょ! 判ってるわよ!」
「逆ギレか」
「切れてないわよ!」
「どこが」
からかわれていると判っていてもつい勢い込んでしまうまもりは息を吸い込んだ瞬間、激しく噎せる。
ゲホゲホという呼吸音がヒュウ、という細いモノになったのを聞いたヒル魔は訝しげに眉を寄せて立ち上がる。
「オイ、糞マネ」
「・・・ッ、・・・」
まもりは俯いたまま、手を挙げて大事ないとジェスチャーする。
痙攣する喉に無理矢理唾液を飲み込み、どうにか落ち着かせる。
ふう、と額に汗して顔を上げたまもりを、ヒル魔はじっと眺めていた。
「テメェ、ぜんそく持ちか」
「え? ううん、違う。・・・と思う」
「疑問形か」
「それで病院に掛かった事は、ないの。でも冬になって、一度風邪引いちゃうと、喉、の奥が腫れるのよね・・・。今みたいな咳が、結構出るから、心配されちゃうの」
「ホー?」
まもりは乱れた息の下でも気丈に言葉を紡いだ。ヒル魔は小さく舌打ちする。
「テメェもう帰れ」
「え?! 来たばっかりなのに!?」
「糞夏風邪の菌ばらまいて糞部員どもに移す気か? 俺には移らねぇが、糞部員どもはあっさりなりやがるぜ?」
「・・・それって暗にみんなを馬鹿にしてない?」
「暗にじゃねぇ、あからさまにだ」
「もっと悪いじゃない!」
声を上げて、もう一度まもりはゲホンと大きく咳をした。ヒル魔がますます不機嫌になる。
「帰れ! 自己管理も出来ねぇヤツにいられちゃ迷惑だ」
しっしっ、とまるで野良犬を追い払うような仕草にさしものまもりも傷ついた。
しかしここで怒るとまた揚げ足を取られるので、まもりは殊更に笑顔を浮かべて口を開いた。
「ヒル魔くんは夏風邪なんて引かないし、余裕綽々だもんね!」
刺々しい言い方になってしまったが、まもりはもう会話を打ち切って部室を後にすることに決めた。
確かに体調は悪いし、起きた時は声だけだと思っていたが今は熱まで出てきたような気がするから。
今日はもう帰ろう。・・・ヒル魔にも迷惑をかけてしまうし。
「オイ、糞マネ」
「なに、・・・」
呼び止められて振り返った途端、唇に熱。
それが深く合わさったと思ったら、口の中に甘い感触。
「・・・?!」
「糞甘ェ」
すぐに離れて顰めっ面を浮かべるヒル魔によってまもりが含まされたのは、のど飴だった。
食べ慣れたそれは、まもりが以前好きだと言った味で。
わかりにくいようで判りやすい労りに、まもりはへにゃりと笑み崩れる。
「気色悪い顔してんじゃねぇよ」
「えへ」
いいから帰れ、と照れ隠しのように小突かれたまもりは、それでも嬉しそうに部室を後にした。
「明日には元気になってくるからね!」 
満面の笑顔でそう言って。

なのに。
翌日、まもりは学校を休んだ。
さらにその翌日の深夜、ヒル魔の携帯が不穏な音楽を奏でた。

「肺炎?」
「ええ、ぜんそく持ちだったりすると悪化することがあるの」
ヒル魔が呼び出されたのは城下町病院。そこで岡婦長がヒル魔と向かい合っていた。
「冬に多いけど、季節は問わない病気なの。風邪は切っ掛けに過ぎないわ」
「・・・御託はいい。アイツはどうなる」
先ほどヒル魔が見たまもりは、口元を酸素マスクに覆われ、いくつもの線やチューブが全身に絡んでいて。
これがつい二日前まで元気に話していた女かと疑いたくなった。
「・・・わからないわ」
「どういうことだ」
激情を皮膚一枚下でどうにか押し殺して、ヒル魔は表面上こそ淡々と重ねて尋ねる。
「後は本人の体力次第なの」
出来る限り治療を施して、彼女の生命力にかけるけれど、最後の最後は彼女自身の身体が持つかどうか。
確かに若いまもりは体力こそあるだろうが、逆に言えば若いからこそ病状が一気に悪化したという話でもある。
聞けば母親が目を覚まして台所に向かうと、そこの床にぐったりとまもりが倒れていたのだという。
おそらくは夜に喉が渇いたからと水を飲みに来て、そこで呼吸困難になり、意識を失った。
証拠のように床はぐっしょりと濡れ、割れたグラスがあったという。
今は面会時間をとうに過ぎ、まもりの両親も後ろ髪を引かれるように病院を去った。それから岡婦長がヒル魔に連絡を寄越したという次第だ。
彼女は得意の予知呪術で二人が恋仲であると知っていたかららしいが、それはヒル魔にとってどうでもいいことだった。
ただまもりが目覚めない。その事実だけが明白。
「少し、隣にいる?」
「ああ」
ヒル魔は彼にしてはひどく素直に、まもりの隣に座った。岡婦長はナースステーションに去っていく。
本来は医者の承諾書なしに付き添う事は出来ないのだが、その辺は口出しするつもりもないらしい。
まもりの傍らで、ヒル魔はじっとその寝顔を見た。
今は小康状態なのか、顔色も幾分落ち着いているし心拍数も通常。ただ、その喉から漏れ聞こえる音だけがどこかに引っかかるような。
二人でいるのに一人でいるとき以上に沈黙があって、それが重い。
ヒル魔はなかなかまもりに手を伸ばさなかった。
いや、伸ばさないのではない、伸ばせなかった。
呼吸もしているし、心臓も動いている。だから大丈夫だと何度自分に言い聞かせても、手が動かない。
もし触れてみて、その肌が冷たかったら。
あり得ない程に冷え切って、いつの間にか呼吸も止まっていて、二度とこの瞳が開かなかったら。
馬鹿馬鹿しいと自分の脳裏に展開する最悪の結末を笑い飛ばそうと、ヒル魔はそっとまもりの頬に触れた。
あたたかかった。とても。
それにどうしようもなく安堵して、次いでどうしようもない焦燥に駆られた。
こんなにあたたかくて柔らかいのに、彼女は身じろぎ一つしない。
ヒル魔は奥歯を噛みしめて手を放した。
いつだってまもりはヒル魔に触れられると驚いた顔をして、次いで嬉しそうに笑った。
滅多に触ってこないんだもの、とはにかむ笑顔はこんなにも遠いものだったか。
意識なく横たわるこの身体はこんなにも細く、頼りなかったか。
もう一度確証たる熱を感じたくて、触れたくて、ヒル魔は再度手を伸ばした。
だが、そこに先ほどのようなぬくもりはなかった。
冷たい。
ぞっとするほどに、冷たい。硬い。
これはなんだ。
見ればまもりの呼吸はとうに潰えていて、心電図は耳障りな音を響かせている。
慌てて覗き込んだ顔には何もない。
それは死人の顔。
何一つもう表せない、能面よりももっと残酷な、愛しすぎて憎しみさえ湧く程の、死に彩られたそれ。
激しく渦巻く嫌悪と憎悪と諦念と憤怒と、ありとあらゆる悪意が行き場もなくヒル魔を覆い尽くそうとする。
息が出来なくなる。
死んでしまう。
黄泉路へと旅立とうとするまもりを、ヒル魔は引き留めたいと願うのに為す術がない。
「・・・う・・・」
苦しい。
感情はコントロールしてきた。いつでも、どんな時でも。
しかしもう無理だ。
押さえきれない。
ヒル魔はその場にがくりと膝をつく。
(やめてくれ)
ヒル魔は悲鳴を上げる。
それはくぐもって感情の波に飲み込まれていく。
けれどヒル魔は叫んだ。
何度も。
(どこにも行くな)
(連れて行くな)
(俺から離れるな)

―――・・・姉崎!!


「父さんってば!」
がくんと身体が振れて、ヒル魔は意識を取り戻した。
慌てて、けれど実際には緩慢な動きで肩に触れる腕を視線で辿る。
「大丈夫? うなされてたよ」
そこには心配げにこちらを伺う妖介がいた。
珍しくソファなんかでうたた寝するからだよ、そう苦笑混じりで。
ヒル魔は顔に手を当てた。汗が滴っている。どれほどにうなされてたのだろうか。
「・・・ああ」
夢、か。
そこで漏れたため息は安堵からのものだと妖介には看破されているだろうが、それも構わなかった。
コーヒー淹れるよ、と妖介がキッチンに引っ込んだところで、ヒル魔は天を仰いだ。
高校三年の夏にまもりは夏風邪からの肺炎で倒れ、一週間意識を取り戻さなかった。
意識を取り戻してからの回復は早かったが、一時は本当に命が危なかったのだと医者は言った。
まもりが入院したと聞いたときに訪れた病室で見た、物言わぬまま横たわるまもりの姿は、ヒル魔の心に多大なる影を落とした。それがいかほどのものだったのか、今でも時折こんな風にうなされることからも明らかだ。
まもりを傍らに置いて眠るときはそんな夢もなりを潜めるが、変な時間に不意に眠ってしまったり、体調が不安定なときには決まって同じ夢を見る。
今がまさにそうだ。 
「はいどうぞ」
「おー」
濃いブラックに口を付けて、ヒル魔はようやく現実へと意識を向けた。
今日はアヤと妖介の二人が所属するアメフト部が休みだ。
まもりはアヤと共に洋服を買うのだと、二人揃って出掛けていった。アヤは多分着せ替え人形にさせられているだろう。アヤがげんなりしているのが目に見えるようだ。
護もどこかへと出掛けているし、珍しく家にはヒル魔と妖介の二人だけだった。 
自分の分のカフェオレを淹れた妖介が向かいのソファに座り、尋ねる。
「どんな夢だったの」
「忘れた」
間髪入れずに切り返すヒル魔に、やれやれと妖介は肩をすくめる。
「悪い方の珍しい色だったよ」
「そうか」
悪夢。
もう20年近く前の夢なのに、未だにヒル魔の恐怖の根元はあそこにあるのだと折に付け見せつけられる。
ヒル魔は暖を取るようにコーヒーのカップを両手で包み込んだ。
夢の中、この手に触れたあの冷たさはひどくリアルで忘れがたい温度だった。
ヒル魔の手はカップの温もり程度では到底癒やされない。
残りのコーヒーを飲み干してヒル魔は立ち上がる。
「どこ行くの?」
「精神安定剤取ってくる」
それで妖介は意図を汲み取ったらしい。
お土産はシュークリームがいいな、と口にしてカップを片づけにかかる。
ヒル魔はそれに片手をヒラヒラと振って応じ、玄関へと足を向けた。


***
昂様リクエスト『まもりの死に「かけ」ネタ』でした。以前あったその時の事を夢で見て、というご希望の流れで作成してみました。その時の恐怖がごっちゃになってヒル魔さんは焦るどころか死ぬ夢を見てしまいました。
ネタを決めたらすごくさくさく書けて楽しかったです! 何気なく岡婦長初書き(笑)
リクエストありがとうございましたー!!

昂様のみお持ち帰り可。

なお、医療関係者から肺炎について聞いた内容を元にしましたが、この話の中の病状が正確ではない事をここでお断りさせていただきます。

以下返信+あとがきです。反転してお読み下さい。

ヒル魔さんはよく死ぬけど(失敬)まもりちゃんは死なないと思われている当方、実は以前に一本死にネタを掲載したんですが、判りづらくて理解されなかったようなんです(苦笑)。そしてまもりちゃん死にネタもストックが一つあるんですが、あんまり重くって書いた自分が申し訳なくなって掲載を見合わせている状況です。
だってヒル魔さん落ち込ませるととんでもないんだもの!

咳のくだりはまんま私です。ぜんそくではないんですが、冬に風邪を引くと周囲が引く程酷い咳をするので。
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