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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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シュークリーム指針

(ヒルまも一家)
※時系列的には悪魔の饗宴の次に当たります
※30000HIT御礼企画作品

+ + + + + + + + + +
帰宅した途端、後ろから見ていてもアヤの血の気が引いたのが判った。
ドアノブを握る手にまで鳥肌が立っている。
その直後すぐに理由に思い当たる。室内に甘い匂いが充満しているのだ。
アヤにとっては毒ガスみたいなもんだろう。
アヤはハンカチで口と鼻を覆って、顰めっ面で家に上がり、そのまま自分の部屋へと駆け上がっていった。
後でコーヒー淹れて持っていこう。
俺はこの匂いの原因を知るべく、リビングへ入る。
「ただいまー」
「お帰りなさい!」
「おかえりー・・・」
そこには母さんが腕によりを掛けて作ったと思われるシュークリームが山と積まれていた。
護もげんなりした顔をしているが、アヤ程甘いモノが苦手というわけではないので、まだそこにいられるらしい。多分一つは義理で口にしたはずだ。頑張ったね、護。
「どうしたの、このシュークリームの山」
「うん、急に食べたくなって。でも買いに行くにも眠いしだるいし、どうせなら作っちゃえ、と思って」
シュークリームは作るとなると結構難しいんだけど、母さんにとっては大したことないんだろう。
それにしても量が半端じゃない。アヤじゃなくても逃げたくなる気持ち、さすがの俺でもわかるかも。
「妖介も食べるでしょ? 好きだもんね」
「うん。でもその前にコーヒー淹れるよ」
俺は手を洗うついでにコーヒーを用意する。母さんの分はカフェオレ、護とアヤはブラックだ。
普段はブラックなんて護には飲ませないんだけど、この山を前にしてじっとしてたんならこれはご褒美と言ってもいいだろう。護はほっとした顔でコーヒーを啜っている。
「先に飲んでて。俺はアヤにこれ渡して着替えてから食べるよ」
「うん」
母さんは笑顔で既に幾つ目か判らないシュークリームをまた頬張った。
父さんが糞ゲロ甘ハムスター女と表現するにふさわしい顔だ。
冬ごもりでもするんだろうか。今、秋口だから時期的にはありえそうだ。
俺はコーヒー片手にアヤの部屋に顔を出す。
「アヤ、コーヒー淹れたよ」
アヤは顔の下半分をタオルで覆って俺に室内に入って完全に扉を閉めるように指示した。
声も出せないので指で。このサイン、父さんたちが使ってたのと同じ手話。こういう時に便利だよね。
「大丈夫?」
アヤは首を振る。
「だね。ご飯もこっちに持ってきた方がよさそうだね」
俺はさっきの光景を思い返す。山のようなシュークリーム、甘ったるい匂い。
ん?
あれ、どっかでこの光景、見覚えがある、気がする。
「・・・アヤ、前にもこんなこと、なかったっけ?」
「その時は甘いモノじゃなかった」
アヤは真っ直ぐに俺の顔を見る。
「柑橘類ばっかり食べてた、アレ?」
アヤはこくりと頷く。
ぼんやりと思い出す光景、目の前に大量のグレープフルーツ・オレンジ・レモン。
父さんのにやにや笑う顔、母さんのきょとんとした顔・・・。
「嫌な予感がする」
アヤの言葉に、俺も頷く。
「もしかして、とは思うけど・・・」
さっきは座ってたし、ちゃんと見てなかったけど。そういえば母さん、眠いって言ってたっけ。
俺は着替えて階下に行くために立ち上がる。
アヤはやっぱり匂いが駄目で、下に降りることさえできそうにない。
「確認してくる」
ドアノブに手を掛けて振り返ると、アヤがまたタオルで口元を覆い、指でよろしく、と言った。
さっさと着替えてリビングへ再び顔を出す。あれほどあったシュークリームの山がちょっと小さくなってた。
護の姿はない。カップがちゃんと流しに持って行ってあった。きっとギブアップしたんだろう。
「はいどうぞ、召し上がれ!」
「ありがと」
シュークリームを受け取りながら母さんの身体を覗き込む。
若い頃からあまり体型は変わってない、とこないだ会った鈴音さんが言っていた、なだらかな下腹部。
よくよく目をこらせば、そこにきらりと光るものがある。
俺と父さんしか見分けられないだろうけど、それは確実に生命の証。
・・・やっぱり。何やってるんだ、父さん・・・。
ざっと計算してしまった俺は、ああこないだ父さんが風邪引いた時のか、というところまで判ってしまって一層げんなりした。
俺は母さんの向かいに座ってシュークリームを手に取る。
俺には父さんの成分も入ってるから、母さんみたいにシュークリームなら∞とかいう胃袋じゃないけど。
齧り付いたそれは甘ったるく、食べ慣れた味がして美味しい。
聞けば俺が腹にいるときは、山のようにシュークリームを積み上げて食べていた、と父さんはぼやいていたから、きっと今回もそうなんだろう。
母さんも父さんもまだ三十代だし、年齢的にはおかしくはないけど、でももう俺たち高校生なのにさー・・・。
思わずため息をついた俺に、母さんが不思議そうにこちらを見ている。
「妖介、何か心配事?」
「・・・アー、いや・・・」
言いよどむ。きっと母さん判ってない。
父さんはまだこのことを知らないんだろうか。知っていて言ってないんだろうか。
返答に困った俺の耳に、扉が開く音がする。
そして引きつったような呼吸音。
さすが父娘。同じ反応だ
「おかえりなさーい」
俺が声を掛けたけど、それを無視して父さんはずかずかとリビングまで来た。
「アァ?! 何地獄みてぇな匂い撒き散らしてやがるんだ、この糞ゲロ甘ハムスター女!!」
顰めっ面な父さんはさっき俺が考えた呼び名で母さんを呼ぶ。やっぱりそう言うんだね。
「ちょっと?! なによそれ、ひどいじゃない!!」
言いながらもシュークリームを頬張る母さん。本ッ当に気づいてないのか・・・。
父さんは訝しげに母さんを見ていたから、俺は助け船を出す。
「父さん」
「ア?」
「何考えてるんだよ。ブランク考えなよ」
それで察した父さんはにやりと笑った。それはそれは実に嬉しそうに。
・・・やっぱり狙ってやったな、この悪魔め。
「これ以上遅くなるとそれはそれで負担がデカイからナァ」
「いやいやいや。作らないっていう選択肢があるでしょ」
「俺にはねぇナァ」
俺たちの会話に、母さんは頭にいっぱい疑問符をくっつけてシュークリームを食べながら首を傾げている。
何度目とも知れないため息をついて、俺は立ち上がった。
「俺、夕飯作ってくる」
「え?! ・・・そ、そっか、そうよね・・・私シュークリーム作ることばっかり考えてて、ご飯のことすっかり忘れてたわ。ごめんね」
俺はちらりと父さんを見る。
父さんはにやにや笑いながら母さんの口の端についたクリームなんかを指先で拭ってる。
・・・親のいちゃいちゃしてるところなんてあんまり見てて楽しくもないし、俺はさっさとキッチンへ引っ込む。
冷蔵庫の中身を見て頭の中で作るモノを決める。麻婆豆腐でいいか。
アヤと父さんと護のはうんと辛くしてあげよう。
 

そしてリビングからガタガタと椅子がひっくり返る音がした。
・・・母さん、ご愁傷様。
俺は新しく増える家族のことを想って、思わず笑ってしまった。

***
サキ様リクエスト『蛭魔家で二女が見たい』でした。すみません生まれてなくて!(笑)新しい弟妹が出来たらどういう反応するんだろう、と妄想してたら楽しく書けました♪リクエストありがとうございましたー!!

サキさまのみお持ち帰り可。
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