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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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安息をあなたに(上)

(アイシークエスト風ヒルまも)

※30000HITキリリク御礼作品
※6/10アップ『ダンジョン秘話』の続きです

+ + + + + + + + + +
ヒル魔とまもりのダンジョン攻略によって、潤沢な資金を得たデビルバット軍。
彼らはヒル魔に平和ボケと一刀両断されてから負けん気を発揮し特訓をして―――無理矢理させられたんだと叫ぶ者大多数―――優秀な軍となった。

「ここから! 魔王がいる! 白秋城へ! 向かいます!」
軍の作戦を指揮する雪光が単語ごとに区切って説明するのは、彼の声が通りにくい以上に周囲がざわめいていて聞き取りづらくなっているから。
城へと向かう移動魔法陣を前に、城内の魔物部隊掃討を命じられた彼らは任務の最終説明を受けていた。
その部隊からやや離れている者が四人いる。
掃討部隊とは別に、魔王へと直接対決をする為にケルベロスに乗って別行動するのだ。
言わずと知れたヒル魔とまもり、そして精鋭として抜き出された二人。
「き、緊張します・・・!」
「わ、私も・・・!」
同じような背格好でガクガクと震えているのは軍人のセナ、そして魔法使いの鈴音。
この四人で魔王と戦う、と話をしたときの二人の顔は見物だった。
まもりはその時の会話を思い出し、思わず唇を綻ばせる。

「え?! ぼ、僕ですか?!」
「おー。テメェがこの中で一番足が速いからな。テメェの足で回復役の糞マツゲを止めろ」
目を白黒させるセナは、まもりが出した資料を見て糞マツゲという男がマルコという名で、堕落した神官だということを知る。
そこにある似顔絵には穏やかそうな青年の顔があるばかりで、彼の悪行というのと結びつかなかった。
「で、テメェの出番だ」
次に指名された鈴音が無言でちょっと飛び上がる。鈴音はこの国唯一の魔法使いだ。
「わ、私に何が出来ます、か?」
「テメェは魔法で攻撃だ。俺や糞姫の魔法じゃ糞マツゲと相殺されちまう」
敵と同じ系統の魔法攻撃は使うだけ精神力の無駄でしかない。
それであればヒル魔は剣で攻撃を、まもりは全体の回復を担った方が効率がよい。
そこに前回はなかった鈴音の魔法攻撃が加われば勝率は格段に上がる、というのだ。
「やー!? で、でも私、あんまり魔法強くなくて、その」
「鈴音ちゃん、これ」
焦る鈴音にまもりが手にある物を見せる。それは繊細な彫金が施された腕輪だった。
「わぁ・・・綺麗・・・」
それは魔法の威力を上げるアイテム。前回のダンジョン攻略で手に入れた物の一つだ。
「他にもアイテムもあるし、ほら、魔法の新書よ」
鈴音の前に、大量のアイテムと本が積み上げられる。
「やー!! こ、これ・・・本当に貰っていい、んですか、姫様?!」
「ええ。私たちが持っていても使えないものばかりだから」
「売れば高ェんだから無駄にするなよ」
王子様のはずなのにそんな事をいうヒル魔に、まもりはけちな事言わないの、と突っ込む。
「糞チビ、テメェにもある。おら」
「わ、わ!」
鎧やら剣やらを押しつけられ、セナも焦って口を開こうとするが。
二人を見つめるヒル魔もまもりも笑みを浮かべながらその眸は真摯だった。
「いいか、俺たちは戦いに行く。訓練や夢幻じゃなく、生死を賭けた戦いだ」
ひんやりとした温度の声に、二人の顔が強ばる。
「やれる限りの投資はするし訓練もするが、結局は精神力勝負になることが多い」
「だから二人には本気で臨んで欲しいの。でも、強要はできないわ」
柔らかいが芯のあるまもりの声に、セナも鈴音もごくりと喉を鳴らし。
「どうする?」
促すヒル魔の声に、沈黙を破ったのは二人同時だった。
「「やります」」
怯えは完全には消えていないけれど、二人は覚悟を決めたようだった。
そんな二人を見て、ヒル魔は満足そうに口角を上げ、まもりは微笑み口を開く。
「大丈夫よ、正義は勝つから」
ね? と小首を傾げて見つめるまもりに、ヒル魔は忌々しげに派手な舌打ちをして見せた。

「・・・何笑ってやがる」
「え?」
緊張感のないヤツだな、と言うヒル魔も緊張とは無縁の様子だ。
二人は既に魔王と一度対戦しており、その後にダンジョン攻略で更に能力を上げた。
向こうも前回と同じとは言わないだろうが、成長した分だけ余裕はあるように感じられた。
戦いの火蓋が切って落とされるのはもう間もなく。
まもりは雷の属性以外にも様々に能力が付与された槍を握り、隣に立つ男を眺める。
「ア?」
「・・・ヒル魔くん、この戦いが終わったらどうするの?」
それは前々から思っていた事だった。
生活するところがあるまもりたちと違い、ヒル魔はもう城を失い、今は一人きりだ。
彼がこの国に留まってくれたらいい、とは思っているのだが、破天荒な男のこと、どうなるかはまだ判らない。
ヒル魔はピンと片眉を跳ね上げた。
「戦う前から勝利後の心配か? ンな事考える余裕があるなら持ち物の心配でもしておけ」
回復用の聖水は持ったか、と問われ、慌ててまもりは再度荷物をチェックする。
足りなくはないが持って行けるようなら追加した方がよさそうだ。
ぱたぱたと補給部隊に掛け合いに行くまもりをヒル魔は肩をすくめて見送った。


移動魔法陣を作動させ、城内に侵入したデビルバット軍は事前の訓練の成果もあって、道をふさぐ魔物たちを退け、魔王へと続く道をどうにかこじ開けた。
「よし! 行くぞ!!」
「「「はい!!」」」
ケルベロスが大きく吠えて城の中を駆けていく。
時折足止めをしようと飛びかかってくる魔物はヒル魔が容赦なく魔法で振り払っていく。
「そんなに魔法使って大丈夫?」
「どうせ魔王との戦闘じゃろくに使わねぇからいいんだよ」
あちこちで炎が上がる。精霊魔法ではなく通常魔法も使え、剣も使うヒル魔は無敵に近い。
けれど彼がどれほど努力してその力を得たのか、まもりは共に行動するようになってからそれを知った。

精霊魔法と通常魔法は折り合いが悪く、どちらか一方しか使えない者が多い。
けれどヒル魔は様々な制約をくぐり抜け、時に自らの身体に負荷を掛けてでもその能力を得た。
剣も血筋でさえあればあれほどに扱えるのかと思いきや、そういうわけでもない。
正式な剣の訓練も彼はちゃんと受けているのだ。
そもそも神官は基本的に肉体を使って行動する事が苦手だ。
職業柄膨大な知識を必要とするし、そのために身体を鍛えるだけの余暇を持たない者がほとんどだから。
けれどヒル魔はそのどれの鍛錬を怠ることなく続けていた。
彼がそれほど血を吐くような努力をしているということを知っている者はまもり以外にはいない。
以前尋ねた事がある。どうしてそれほど努力をしたって人に言わないの、と。
彼は血筋故の外見に相俟って、悪魔的に振る舞い弱みを見せないスタンスを崩さない。
それでも彼の裁量に慕う者たちはいるけれど、彼の人間らしいところを見せればもっといい関係になれるだろうに、とまもりは思ったのだ。
けれどそれを聞いてヒル魔は一笑に付した。
人に評価されるべき事でも、されたい事でもない。むしろ煩わしいだけだと言うのだ。
まもりにはそれが判らない。
努力をして認められたらそれが励みになって続けられるだろうに、どうして彼は一人孤高を貫くのだろうか。

戦いに赴く直前にまでヒル魔の事ばかり考える。
まもりは槍をきつく握り、頭を振った。
いけない。今はそんな余計な事を考える余裕はないのだから。
場所は違えど、かつて戦ったときのように玉座がある広間へと四人は飛び込む。
以前より格段に威圧感を増した魔王が、そこにいた。



戦闘は困難を極めた。
特に元々神官で肉弾戦には向かないと思われていたマルコが巧みに剣を扱い、その技量でヒル魔を圧倒したのがやっかいだった。
その合間にも魔王がセナを弾き飛ばしたり、鈴音の呪文がはじき返されたりと惨憺たる有様。
それでもまもりは自らの職務に忠実に動いた。
ここでまもりが躍起になって戦闘に参加してもろくな結果にならないと重々承知していたから。
けれど本心は違った。
傷ついて倒れる二人を、とりわけヒル魔の側に駆け寄りたくて仕方なかった。
いつも余裕綽々でまもりのことをからかうその口から血が溢れ、全身がボロボロになっていくのを見るのは辛かった。
この感情がなんなのか、まもりはとっくに判っていた。
けれど告げようとするたびにヒル魔にそれとなくはぐらかされていて、今日の今日まで口にする事が出来なかったけれど。
まもりは何度目になるか知れない回復魔法の呪文を口にしながら心に誓う。
ヒル魔に告げたい。

すきです。

この、たった一言を。



戦いは饐えたような臭いを残し、とうとう終焉を迎える。
その胸にセナの剣を受け、絶命する瞬間にマルコが囁いたのは、世界の滅亡を望む声でも人類の身勝手を嘆く言葉でもなかった。
『マリア・・・貴女の側に――――』
夢見るように柔らかく微笑んで、どこか満足げに。
それを聞いたヒル魔が物言いたげに唇を歪ませたのを、まもりは見逃さなかった。
程なく魔王もその膝をつき、なぜか満足そうな高笑いを残して灰燼に帰した。
後に残ったのは、マルコの特徴的なピアスだけ。
そして轟音が鳴り響く。
「何?!」
明らかにおかしい音と振動にまもりたちはヒル魔を見る。
彼も怪我だらけで立っているのがやっとだろうに、平然とした顔で口を開いた。
「敗者がよくやるヤツだ。この城は間もなく崩壊するだろう」
「なっ・・・」
「は、早く逃げないと!」
絶句するセナに焦る鈴音。まもりはヒル魔に駆け寄り、その腕を取ろうとして―――
「きゃっ!!」
「まもり姉ちゃん!」
まもりは見えない何かに弾かれる。床に手を突き、そこに力を感じて下を見て。
「何・・・これ」
「移動魔法陣だ」
「それはわかるけど!!」
いつの間に用意したのか、まもりとセナと鈴音の三人は移動魔法陣の上にいた。
まもりたちとヒル魔の間にはよくよく見れば薄い光の壁が立ちふさがっている。
この魔法陣は、それを扱う者がその外側にいないと作動できない。
城の外側から内側に入り込んだときは専用の術師がいて作動させたが、内側には危険だからと連れられて来てはいないはず。
ということは。
これを作ったのは目の前のヒル魔以外にありえない。
「まさか・・・ヒル魔くん」
ざあっとまもりの顔から血の気が引く。対照的に、ヒル魔は笑った。
嬉しそうに。
「ご明察」
彼はこの場に残るつもりなのだ。もう細かい破片が天井から落ち始めているこの危険な城内に。
それはすなわち死を意味した。
「な、何やってるの?! 早く逃げましょう、ケルベロスだっているんだし!」
「アイツとは契約が切れた。もう出て来ねぇよ」
「は?!」
「ケルベロスは魔王の封印が成されたときからその消滅までを守る番犬だった」
だから魔王が消滅した今、契約が切れたのだとヒル魔は明かす。
その間も怪しい振動や轟音はあちこちから響く。残っている者はいないのか、悲鳴はない。
「・・・やめて」
まもりの唇から震える言葉が零れる。
「お願い、ヒル魔くん。だったら、私もここに残るわ」
「まもり姉ちゃん?!」
「姫様?!」
ヒル魔はにやにやと笑ったままで言った。
「それは聞けねぇな」
そしておもむろに手を翳す。それが作動の仕草だと知っているまもりは叫ぶ。
「やめて! 好きなの、好きなのよ、ヒル魔くんの事が!!」
触れても弾かれる光の壁があると判っていて尚、まもりは手を伸ばす。
足掻くように。
けれどヒル魔は躊躇わなかった。歌うような声が移動魔法陣の作動を促す。
ぐにゃりと視界が揺れ、一瞬の後には三人は城が見える小高い丘まで飛ばされていた。
呆然とへたり込む三人の目に、轟音を立てて崩れていく白秋城が写る。
(―――――忘れろ)
耳に残る、囁くような優しい声。
「いや・・・いやよ・・・」
まもりは伸ばしたのに触れられなかった腕を見つめ、そのまま胸元へと戻す。
心臓の上を強く握りしめ、狂ったように頭を振ってその場に崩れ落ちる。
「いやぁああああああああ!!」

勝利した者が上げる声とは到底思えないような、悲痛なそれは。
平和の訪れを告げるにはとてももの悲しい色合いの空にどこまでも吸い込まれていった。 

<続>
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