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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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花が美しい理由・3

(軍隊上司ヒル魔とその副官まもり)

+ + + + + + + + + +

まもりの予想よりもかなり早く、ヒル魔は戻ってきた。
軍服の中でも御前に出るという事で、式典などに使う儀式用の白い軍服を着ている。
まもりが通常の黒軍服を着ているのを見て、着替えろと告げる。
「私は今回については働きもないし、着替える必要はないのでは」
「御前だぞ」
まあ、確かにヒル魔一人が白軍服で、後ろのまもりが黒軍服では変かもしれない。
「・・・判りました。少々お待ち下さい」
「化粧もしろ」
「なんで!」
「御前だ、っつったろ。テメェ化粧もしないで出る気か」
正式な式典の際には確かに必要最低限の化粧もするが、それだって上手ではないのだ。
やりたくないという顔をしていたら、ドアがノックされた。
ヒル魔がまもりよりも先に入室を許可する。これではどちらが部屋の主なのか。
「失礼します!」
入ってきたのは小柄な女性。
部下の小早川セナと幼なじみにして恋仲の、雑用係をやってくれている少女だ。名は確か。
「瀧鈴音ですね」
「は! は、はい、そうです!」
名乗る前に呼ばれ、彼女は目を白黒させながらも頷いた。
「こいつに手伝わせる。さっさと用意しろ」
「え・・・」
「さっさとしろ!」
イライラと怒鳴られ、まもりは本当に渋々と着替えに戻る。
ちょこちょことついてきた少女の前でまもりはばさばさと軍服を脱いだ。
女同士気にする事もないから、躊躇いもない。
軍隊で生活するうちに羞恥心とは縁がなくなってしまった気がする。
「・・・はー・・・」
吐息ともつかない声に、まもりはそちらに視線を向ける。
大きな目を更に見開いた少女はまもりのことを微動だにせず見つめていた。
「何か」
「え、あ! あ、いいえ、その・・・邪魔をして申し訳ありません!!」
焦る鈴音に首を傾げながら、まもりは手早く着替えをすませる。
普段着慣れない硬い生地に眉を更に寄せながら、鈴音が作業しやすいように椅子に座った。
促されて眸を閉じる。
「失礼します」
前髪をクリップで留められ、ぺたぺたと何かを塗る感覚。
「あの、申し訳ありませんが、少々眉間から力を抜いて頂けますか」
慣れない感覚に自然と眉を寄せていたらしい。まもりは意識して力を抜く。
視界を閉ざし、まもりはすることもないのでヒル魔が戻ってくる直前に見たあの夢を思い出す。
自分は彼を引き留めようとした。詮無い事を。夢の中であっても名前さえ呼べないのに。
思考はヒル魔の事で埋め尽くされる。
彼はなんで御前にわざわざ自分を連れて行くのだろうか。
王に報告するだけならヒル魔一人で足りるはずだ。軍事に関わらない、個人的な用件なのだから。
それとも、とまもりは考える。
ヒル魔はまもりのことを信頼していくつも共に危機を乗り越えてきた。
作戦を考えるのが女でありお飾り大佐であるまもりだと公言しなかったら、彼は勝利全てを自らの手柄としてもっと早くトップまで行けたのだ。
ヒル魔がまもりや部下たちを投げ出さず、引きずって進んできて、だから今もデビルバット軍も健在だしまもりもヒル魔の隣にいる。
とどのつまり、彼は優しいのだ。
今回の炎の花を手に入れた経緯も、まもりの下調べがあったから、とでも進言するのだろう。
またしても自分一人の手柄にしないつもりなのだろう。きっとそうだ。
自らの考えに納得していると、鈴音から声が掛かった。
「目を開けて頂けますか?」
ぱち、と目を開くと、鈴音が真剣な顔つきでペンを握っている。
「アイラインを引きます。ちょっと怖いかもしれませんが、動かないでくださいね」
「ええ」
元より貴族の娘だ。まもりも他人に世話を焼かれるのは慣れている。随分と久しぶりだけれど。
その後も鈴音にやれ口を開け、視線を下に、と言われながら化粧を終える。
「終わりました」
その声にまもりは視線を向ける。
「ありがとう。助かったわ」
「! え、いえ、こ、こんなことならいくらでもどうぞ!」
なぜだか判らないがまた焦る鈴音を置いて、まもりは立ち上がる。
これを着飾るとは言わないけど、化粧をして。・・・もし自分が笑ったら、ヒル魔はどう思うだろうか。
この先の事を考えれば笑えないけれど。
「お待たせしました」
「おー・・・」
その声に振り返ったヒル魔が声を失った。ちょっと目を見開いて、驚いているようにも見える。
「・・・何か?」
先ほどから鈴音といい、なんでそんな顔をされるか判らない。
「鏡は見たか」
「いいえ」
化粧をした自分の顔など見るなど、考えるだけで憂鬱だ。
自分でしたのとは違うかも知れないが、所詮は作り物でしかない。
まもりの返事をどう思ったか知らないが、ヒル魔は片眉をぴんと上げた。
「ホー・・・。おう、ご苦労」
後半は荷物を持って出てきた鈴音へ掛けられた言葉。
「はい! じゃ、失礼します!」
ぴょこんと頭を下げ、鈴音が部屋を出る。それを見送ってヒル魔は立ち上がった。
手にはあの炎の花を持って。
「行くぞ」
「はい」
隣り合って廊下を歩く。
この距離も今日で終わりかな、と思うと苦しい胸の内を知られないように、出来るだけ静かに。


二人が謁見の間に入ると、王がにこやかに二人を迎えた。
本来は尊敬と畏怖の象徴であるべき王なのだが、彼は下々の民にまで広く愛される柔和な表情を浮かべている事が多い。
勿論王たる者、その内面はそれだけに留まらないが、平和であるときには彼は上手に牙も爪も隠した。
ヒル魔がお決まりの口上を述べ終えると、王はヒル魔と後ろに控えるまもりに顔を上げるよう告げる。
「して、報告はその花についてか?」
「はい」
差し出される花は切り取られて尚、揺らめく色彩を失っていない。
王は側近に近くまで持ってこさせ、眺めて美しさにほう、と感嘆の吐息をこぼした。
「儂の在位中に見られるとは思わなんだ。よう取って参った」
「私一人の力ではございません。部下の助けがあって今回この花を無事手にすることが叶いました」
普段からは想像も付かない丁寧な言葉遣いで優雅に頭を下げるヒル魔を、まもりはただ眺める。
やはり一人の手柄とは言わない。想像通りの彼にまもりはほんの幽かに瞳を眇めた。
「これを見られただけで儂は満足じゃ。褒美を取らせよう。何を望む?」
「では一つお願いがございます」
いよいよだ。
まもりは瞳を伏せる。本当は耳も塞いでしまいたかったが、それは御前であり憚られた。
彼は姫との結婚を所望し、ゆくゆくは王となってこの国を治めるだろう。
一介の軍人で、しかも平民出の彼。これ以上ないサクセスストーリーだ。
現実逃避したがるまもりの耳朶に、ヒル魔の声が飛び込んだ。
「この姉崎元帥を我が妻に願いたく存じます」
「―――――――ッ!!??」
今、なんと言ったか。
まもりは驚き、必死で声を殺した。ついでに息まで詰めてしまい、息苦しくなって慌てて呼吸をする始末。
そんな彼女に取り合わず、王とヒル魔は言葉を交わす。
「うん? ウチの末の姫ではいかんのか?」
「私が伴侶として望むのは彼女ただ一人です。お言葉ながら姫様におかれましては、既に心に決めた方がおられるご様子」
「そうかの? 貴殿が望むなら話は変わるぞ?」
笑う王に、ヒル魔は首を振った。
「私のような卑しい出身の者に一国を担う姫様の伴侶は務まりませぬ」
本来であれば―――と更にヒル魔は続ける。
「姉崎元帥も高貴なお生まれにございまして、私には高嶺の花。この度の褒美を頂けるというのであれば、どうか王様よりご許可を頂きたいのです」
「なるほどのう」
ほっほっ、と王は鷹揚に笑った。
「して、姉崎元帥の気持ちはどうなのかの? 先ほどから目を白黒させておるようだし」
「・・・はっ」
まもりは呼吸困難とそれ以外の要因で目を回しながらもどうにか顔を上げた。
視界には真剣な顔のヒル魔と、笑顔の王と。無言で王の周囲を警備しながらも興味津々の側近たちの顔と。
一体どんな悪い冗談だ、と言いたかった。
「出身がどうあれ、好いた者同士の話なら儂は祝福するぞ。一方的なら許さんがの」
王はにやりと笑う。まもりが一体どういう気持ちでここにいたのか、判っているのだろうか。
大体結婚を申し込むなら最初に当人に断るべきではないだろうか。
確かにまもりは貴族の娘だが、軍隊に籍を置かせるような家である。
ヒル魔が懸念する家柄についてのこだわりなど無いに等しい。
そもそも家柄重視なら、まもりは生まれたときから輿入れ先が決まっているような状態だっただろう。
・・・まあ、それは今考えなくてもいいことだ。
今まもりに求められているのは、ヒル魔と結婚するかどうか、その一点のみ。
そして断れば、二度はない。
言いたい事は山のようにあったし、聞きたい事もある。
一呼吸置いて、まもりはヒル魔を見つめる。その眸を見て、心は凪いだ。
そうして。
「喜んで」
「!!」
あちこちからがしゃんと音がする。警備の者たちがなぜか皆赤面して次々に武器を取り落としているのだ。
王の笑みも消え、それに首を傾げる間もなく、ヒル魔によってまもりは引き寄せられて抱きしめられた。
「ちょっ・・・ご、御前ですよ!!」
予想外のヒル魔の行動に、まもりは顔を真っ赤にして悲鳴じみた声を上げた。
「そんな顔するテメェが悪い」
「なんですかその台詞!」
「『鋼鉄元帥』の名は返上じゃのう」
我に返った王は、その様子を眺めて楽しげに笑った。

<続>

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