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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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悪魔の囁き(5)



+ + + + + + + + + +
そうして、二ヶ月ほど経過し、小夏の体調が著しく狂い始めたのを知って。
妖介は可能性を疑い、ざっと計算し―――青ざめる。
「・・・前回の生理は、いつだった?」
「そういえば・・・来てない、です」
元々生理不順なので気にしていなかった、と言われて妖介はすぐさま妊娠検査薬を購入し、自宅で小夏に使わせて。そうしてその結果は。
「陽性・・・」
「・・・ごめん」
心底申し訳なさそうに謝る妖介に小夏は小首を傾げる。
「なんで謝るんですか?」
「・・・いや、だって嫁入り前の娘さんを・・・しかも高校生を・・・」
やっぱりあれは悪魔の囁きだった。
どうしよう、やっぱり堕胎させなきゃ、それにしたって高見さんになんて説明しよう、とぐるぐると自らの思考に嵌り込む妖介の隣で。
「・・・嬉しい」
小夏が笑った。
それはもう、心底幸せです、というのを表した笑みで。
妖介は瞠目する。
先程までの困った様子からして、彼女にとって望まない妊娠だったのだろうと思ったのに。
違うのだろうか。
「小夏ちゃん?」
「あの、ですね。私、実は生理痛が酷い方で。あんまり酷いんで以前お医者さんに見て貰ったら・・・体質的に将来子供が出来にくいかも、って言われてたんです」
恋愛に夢見る前から、将来の制限を見せつけられた小夏の衝撃は多大だった。
実際彼女の母である小春もなかなか妊娠できなかった過去がある。
でも、と小夏は愛おしそうに自らの腹を撫でる。
「ちゃんと妊娠できるんだ、って判って・・・」
じわ、と涙を浮かべる小夏に妖介は更に厳しい顔になる。
それを見て小夏は申し訳なさそうに手を振り、苦笑した。
「・・・あ、でも・・・あの、ちゃんとお父さん達に言って、・・・堕ろしますから・・・」
学生だしそれは仕方ないですよね、と悲しそうに俯く小夏を見て、妖介は深々と嘆息した。
それを聞いて小夏もますます俯く。
「ごめんなさ・・・」
いたたまれなくなった小夏が謝ろうとするのを、妖介の声が遮った。
「小夏ちゃん、ご両親は今お家にいるの?」
「今? ・・・ええ、今日は家にいるはずです」
「そう。じゃ、行こう」
「え?」
妖介は目を丸くする小夏の前で、さっさと着替え始めた。


きちんとしたスーツを着て小夏と共に唐突に訪れた妖介に高見夫妻は驚きつつも、彼を招き入れ。
二人が付き合っていること、そして小夏が妊娠したことを告げられて。
今現在空恐ろしい程の沈黙が室内に漂っているという訳なのだ。
一人娘、目に入れても痛くないくらいのかわいがりようだったのだろう。
隣で小春が心配そうに高見の手にそっと己のそれを添えていた。
「・・・避妊くらい常識だろう・・・?」
怒りに高見の言葉の端が震えるのを聞きつつ、妖介は応じる。
「ちゃんとコンドームは使用したんですが、確実ではなかったようです」
高見の眉間の皺が更にきつくなった。
「責任は取ります」
悪気があったわけでも、一時の遊びでもなく、しらを切って逃げるつもりもない。
そう態度と言葉で示す妖介に、高見は深く息を吸う。
「どうするつもり・・・なんだい?」
怒りのあまり額に血管を浮かせメガネを指で支えつつそれでも勤めて冷静でいようとする高見に、妖介は内心冷や汗を拭いつつ顔を上げた。
「私と、小夏さんと結婚させて下さい。そして子供を産ませて下さい」
「・・・・・・」
高見の顔が更に厳しくなる。声が引きつった。
「君、全部判って言ってるのかい? 小夏は高校生で、君だってまだ学生だろう」
「はい」
「親の臑をかじっている身分で、子供なんて育てられると思っているのかい?」
「経済力のことで言えば、私は既に自立しています」
妖介は自らの通帳を取り出した。差し出されたその残高を見て、高見はくい、と眼鏡を上げる。
そこにはこれから先10年分の学費を含めた生活費を支払って尚余裕のある金額が明示されていた。
とても一介の学生が稼ぐには至るはずのない金額。
「これは・・・ヒル魔からの金か?」
「いいえ。父の教えで、自分の使う金は自分で稼ぐよう教えられています」
これは自力で稼いだ金です、と言われ高見はくい、とメガネを上げる。ヒル魔らしい考えだ。
通帳をしまう妖介に高見は尋ねる。
「堕ろす、という考え方はないのかい?」
それに妖介の顔が曇った。
「・・・小夏さんの話を聞いて、もしこれで堕胎したら次が望めないかも、と判断しました」
妖介は医大生、小夏から道すがら更に聞き出した内容でそう理解した。
小夏がそっと腹に手を当てる。
高見は苦々しい顔でその様子を見た。
彼とて親であり、また医者である。彼女の体質の事は主治医から聞いていて、それはそれは心を痛めたのだ。
子供を産むことが出来ないと聞かされ、小夏はしばらく母の小春と共に泣き伏していた。
小春は自分に似てしまったからだと幾度となく小夏や高見に詫びた。
・・・あの悲しげな声を、高見は今も忘れていない。
「私は元より、いずれ小夏さんと結婚したいと思っていました」
一瞬過去を遡った高見を、妖介の静かな声が引き戻す。
「子供がいない夫婦だって沢山いますが、今回の一件が切っ掛けで小夏さんが二度と子供が産めなくなったとしたら、きっと小夏さんは子供を堕ろしたことをとても気に病んだり苦しんだりします」
「・・・」
高見の手を握る小春の手が震える。
子供が出来ないことでかつて離婚の危機にさえ陥った自らの境遇を投影しているのだ。
「そんな悲しいことを、小夏さんにさせたくない。私が小夏さんと子供を守ります」
強い意志を秘めた眸に、高見は唸る。
彼がヒル魔によく似た外見であっても、その中身は母であるまもり譲りの好青年だと既に何年も前から知っている。破天荒な父に似ず医者になる夢を持ち、またそれを現実にしようと日夜努力している。
相当な優良物件であることは間違いない。
これで小夏がせめて高校を卒業していればよかったが、今はまだ在学中、しかも一年生。
妊娠があからさまになればいずれ退学せねばなるまい。
「だが、小夏の学校生活が―――」
と、高見の携帯が鳴る。
「失礼」
高見は病院からの何かしらの呼び出しかと電話を取るが、相手は予想外の人物だった。

<続>
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