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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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悪魔の囁き(4)


 


+ + + + + + + + + +
真夜中。自室でヒル魔はパソコン画面を覗き込む。
明るい日差しの中で笑う少女の姿に、ヒル魔の口角が上がった。
誰かが見ていたら、ろくでもない笑顔だと口にしそうな顔つきだった。
携帯電話を取り出し、おもむろに掛ける。
さほど待たず、相手は出た。
『もしもし、どうしたの?』
訝しげなその声に、ヒル魔は口を開いた。


妖介の携帯が鳴る。
「妖介さん、電話鳴ってますよ」
そう告げるのは、今年の夏頃からちょくちょく妖介の元に遊びに来るようになった高見小夏だ。
こうして二人、妖介の部屋で勉強するのが定着しつつある。
付き合っているのかと言われると当人達もどうだろう、と首を傾げるくらい健全な関係。
友達以上恋人未満というべきかどうか、そんな関係だ。
「あ、ホントだ。ちょっとごめんね」
妖介は液晶を見て、片眉を上げた。
ヒル魔の名。
「もしもし、どうしたの」
一体今度は何を企むというのだろうか。
『命令だ』
端的な言葉に妖介の眉が寄る。
「え?」
『今すぐ目の前の女を押し倒せ』
「――――――――ええぇぇぇえええぇえええ!?」
「?!」
妖介は素っ頓狂な声を上げ、それに驚いた小夏も顔を上げる。
彼がこれほどに驚く様を小夏は見たことがなかった。
「な、ちょ、何言っちゃってんの父さん?!」
『二度言わす気か』
「意味がわからない! いやいやいや、何言ってるの本当に!!」
『意味がわからなくても構わねぇから四の五の言わずに押し倒せ』
「嫌だ!」
『つべこべ抜かすな糞ガキ』
「馬鹿な事言わないでよ!」
「・・・妖介、さん?」
恐る恐る声を掛けてくる小夏に何でもないと手を振り、妖介は小夏に背を向け立ち上がる。
どう見ても何かある、という妖介の様子。小夏はじっと聞き耳を立てた。
「あのねえ、俺は父さんや護と違ってそうそう常にサカってる訳じゃないんだよ!」
『テメェの方が異常だ。その年でまだ童貞とか抜かしやがって。そこだけは護を見習え』
「失敬な! 俺はどうでもいい相手に手を出すのは嫌なんだよ!」
『じゃあ目の前の女はどうでもいい相手なんだな?』
唐突に大きく響いた声に、妖介は眉を寄せる。
耳が痛い。何故いきなり音量が上がったのか。
と、視界の端で何かが動いた。
彼の前に、思い詰めたような顔をして小夏が立っていた。
『おいそこの糞チビ女、妖介はテメェみてぇなガキなんざ願い下げだとよ!』
「な!」
そこで妖介ははたと気づいた。
今までの発言、この唐突に変わった音量、このシチュエーション。
震えながら涙を浮かべてこちらを見上げる小夏を見て、妖介の頬を汗が伝う。
やられた。
完全に嵌められた。
「・・・あ、あの、ね。俺はその・・・」
「私じゃダメなんですか? こんな・・・胸もない、子供体型の私じゃ・・・」
にじり寄る小夏に、妖介は怯む。
「そんなこと・・・」
『ねぇよなァ? テメェ胸の小せぇ、細っこい女が好みだもんなァ。糞ロリコンめ』
「煩い、糞親父!!」
未だ通話中の電話口から流れる声に、妖介はキリキリと眉をつり上げとうとう通話を打ち切る。
「妖介さん・・・」
「あああ小夏ちゃん、俺はそういうことしないから! だから、その、あの糞親父の冗談は気にしないで!」
どうにかこの妙な空気をぬぐい去りたいと思い、引きつった笑みを浮かべて宥めに掛かる妖介に、小夏が抱きついた。
「うわ?!」
あまりの事に、妖介は小夏を離れさせようとするのだが、彼女はしがみついて離れない。
「冗談なんですか?」
「え?!」
「私じゃ・・・私みたいな子供は、相手になりませんか?」
潤んだ大きな瞳が妖介を見上げている。
華奢な細い身体、触れたところから伝わる熱に妖介はごくりと喉を鳴らす。
実際にヒル魔の言うとおり。
妖介はどちらかといえば華奢な、守ってあげたくなるようなタイプの子が好みなのだ。
小夏は確かに好みのタイプだし好きだとも思うけれど。
実際告白をして付き合ってという間柄でもないし、手を繋いだことがあるだけの、本当に清らかな関係なのに!
「い、・・・いやいやいやいや。そんなことは・・・」
「じゃあ、相手にして下さい」
「はい!?」
「二人きりで部屋にいても、本当に何にもなくて・・・私、のこと、妹のようにしか見て貰えない、のか、と・・・」
「そんな! 小夏ちゃんのことをそんな風に思ったことはないよ!」
驚き声を上げる妖介に涙を溜めて小夏は告げる。
「私は、妖介さんのことが、好きなんです」
「・・・っ」
「だから、・・・」
妖介が動揺のあまり固まったのを、小夏が精一杯の力で引き寄せる。
僅かな力だったが、妖介の身体は逆らわなかった。
「―――・・・」
その柔らかい唇が妖介のそれにそっと触れてようやく。
妖介は小夏をそっと抱きしめて。
彼女の耳に密やかな告白を落としたのだった。

そこで手を出さないで終われば良かったのだが―――勢いとは恐ろしいもので。
妖介はしっかり小夏を美味しく頂いてしまったのだった。

<続>
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