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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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悪魔の囁き(6)



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『よォ、糞メガネ』
「?! ヒル魔?!」
「え?!」
その声に妖介も飛び上がる。
『うちの愚息がご迷惑をお掛けして申し訳アリマセンネ』
「・・・」
全く悪いと思っていない口調に、高見が電話を耳にあてたままちらりと妖介を見た。
彼の渋い顔に、今回の首謀者の影が見えた気がして、高見は嘆息する。
「まったくだね。うちの一人娘になんて事してくれたんだ」
『若いうちに子供出来る分には体力的に楽だろ』
飄々とした声に、彼の怒りが再燃する。
「若すぎるだろう! うちの小夏が幾つだと思ってるんだ! まだ十六才の高校生だぞ!」
『娘の高校生活に心配があるか? そりゃ問題ねぇよ』
「何・・・」
不意に来客を告げるチャイムが鳴る。
小春が出て行き、しばらくしてA4サイズの封書を持って戻ってきた。
「あなた、これ・・・」
『届いたな』
「何が?」
『見てみろ』
そこに入っていたのは、書類の束。
高見の顔が引きつった。
何しろそこに入っていたのは王城高校の校則改正情報とその詳細、結婚式場の予約完了の明細書、更にその結婚式場の説明書・ドレスのデザイン画、そして結婚式までのタイムスケジュールが事細かに記されたものだったから。
「・・・早・・・」
小春が呆れたような声を上げた。
ご丁寧にヒル魔の署名が証人欄に入った婚姻届も同封されている。
「・・・母さんの字だ」
タイムスケジュールを覗き込んだ妖介が驚きの声を上げる。そうしてドレスのデザイン画は護の筆致。
―――家族ぐるみで妖介と小夏の結婚を後押しする内容だった。
相変わらず常識では測れない展開に妖介は頭痛を覚えてこめかみを押さえる。
『王城高校は昨今の少子化を深刻に受け止め、次世代の養育に関して多大なる援助を行い、そのためのいかなる困難に対しても温情を持って受け入れるという方針を打ち出した、んだとよ』
歌うように滑らかなヒル魔の声に、高見の額に血管が浮いた。
手元の書類には、在学中の妊娠及び出産をする生徒に対して通信教育を認める旨や、出産直前まで通って産後すぐ復帰出来れば留年もせず在学できる等、あからさまに妊娠を擁護するような校則の文面が散らばっている。高校生相手にはあり得ない。
白髪混じりの頭が怒りに震えるのを妖介は本当に申し訳なく思った。
「それは君が仕組んだんだろう! 一体何が目的だ!」
『テメェの娘は医者になるんだろ』
「ああ。そうなりたいと言っている」
『女医の結婚と妊娠・出産は年々困難になってきているのはテメェも知っての通りだ』
「そうだね」
『テメェの娘がこの先勉学と仕事に忙殺されて体質とストレスで不妊になる可能性はかなり高いはずだな?』
「・・・それで? 何が言いたいんだ?」
『これは千載一遇のチャンスだ。テメェら一家にとってもな』
小夏は無理かも知れないと言われていた子供を産むことが出来る。
高見夫妻はその子を孫として抱くことが出来る。
諭すような悪魔の囁きに、高見は苦々しい顔になる。
『更にいいことを教えてやろう』
「なんだい」
『妖介の成績を聞いてみろ』
「・・・妖介くん」
「はい」
「今の君の成績はどうなっているんだい?」
「ああ、きっと聞かれると思ってこれを持ってきました」
妖介が差し出したのは前期のテストの結果、それと大学に提出し、既に戻ってきたレポート。
その結果と、レポートの表に書かれた評価に高見は目を見開いた。
全てが高評価。ざっとレポートを見てみるが、そこにある文章も相当なものだとすぐ知れた。
『ついでに実習でもかなりいい評価だぞ。精神力も体力もあるしなァ』
医者は体力勝負、精神力勝負の場面が多い。タフでなければとても出来ない職業。
妖介には実力があるのだと、ヒル魔の笑み声が告げる。
『生憎と養子にはやれねぇが、テメェの病院を継がせるにはうってつけの人材じゃねぇか?』
「・・・」
妖介は隣に座る小夏が不安そうにしているのを無言でそっと宥めている。
傍目に見ても、年の差も体格差もあるのに、不思議としっくりくる取り合わせだ。
『よく考えろよ』
笑み声を残したまま、ヒル魔の通話は唐突に切れた。
高見は携帯を見ていたが、ふっと嘆息する。
そうしてまるでそれが役目とばかりに無言でただじっとやりとりを見ていた小春を招き寄せる。
「どうするのがいいと思う?」
その声に小春はふわりと笑った。
「伊知郎さんがそういう声でお話しする時は、もう決めてるんでしょう? 私はそれに賛成です」
「そうか」
小春に看破され、高見は一瞬瞼を伏せて苦笑する。
「小夏」
「はい」
唇を引き結んだ娘に、高見は視線を合わせ口を開く。
「どうしたい?」
「私は、妖介さんと結婚して、この子を産みたい、です」
す、とまだ何の兆しもない腹を撫でる手つきがかつての小春を彷彿とさせる。
芯の強い黒目勝ちの瞳は揺らぐことなくこちらを見つめている。
「妖介くん」
「はい」
こちらも真っ直ぐに見つめれば、応じる眸も同様に。
「結婚を許すに当たって、条件がある。・・・小夏とお腹の子を必ず幸せにすること、そうして」
にやり、とわざとらしく悪い笑みを浮かべて。
「卒業後はうちの病院で働いてもらうよ」
「・・・よかった!」
その言葉に小夏はぱあっと顔を輝かせ、妖介に抱きつく。
妖介はある程度その結果を予想していたのだろう、小夏の肩を抱き、穏やかに苦笑して。
「ありがとうございます」
深く、再び頭を垂れたのだった。

<続>
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ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
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