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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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悪魔の囁き(8)/完結



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帰宅したヒル魔とまもりを迎えたのは子供達と小夏だった。
事の次第を聞いて、まもりは目を丸くする。
「え?! 小夏ちゃんが妊娠?! 妖介と結婚!? 何それ?!」
なんて急展開、と目を白黒させるまもりに妖介も声を上げる。
「え?! 母さん知ってたんじゃないの!?」
あれほどのタイムスケジュールを組んでいたのだ、てっきり既に承認済み・・・というかヒル魔に言いくるめられているのだろうと思っていたのに。
「知らないわよ! 知らないけど・・・」
まもりはソファに座り、隣でふんぞり返っているヒル魔を見て眉を寄せる。
「ちょっとヒル魔くん、こないだ仕事で使うシミュレーションだとか言って書かせたあのタイムスケジュール、このためだったのね!」
「トーゼン」
ふふん、と勝ち誇ったように笑うヒル魔にまもりはむっと眉を寄せる。
「シミュレーション?」
護の声にまもりは向き直る。
「そうなの。条件が変にリアルだったから変だとは思ってたけど・・・」
ふう、とまもりは嘆息する。
アヤとムサシの結婚話も唐突だったけど今回のも随分だわ、と小さくぼやいた。
二回目なのが幸いしたのかそう取り乱しもしなかったけれど。
そうして、小夏が未だ王城高校に在籍していたことに思い至った。
「小夏ちゃんの学校はどうなるの?」
まさか退学か、と眉を寄せるまもりに、妖介がちらりとヒル魔を見ながら口を開く。
「いきなり校則改正したんだってさ」
それで察してまもりはぷうっと膨れた。
「ヒル魔くんがさせたのね! んもう、相変わらず横暴ね!」
ぷりぷりと怒るまもりは、それでも気を取り直し小夏に今後どうするつもりなのかと改めて尋ねる。
「ギリギリまで通って、出産したらすぐ復学したいと思ってます」
医師になりたいという希望を叶えるためにも、勉強は続けたいのだと小夏は凛とした眼差しで宣言する。
けれどそれは、生まれたばかりの子供の面倒を見る人手がいるということで。
小春も手伝うだろうが、小夏は蛭魔家に嫁入りしてくるわけだし、まもりも当然孫の面倒を見るつもりだ。
雁屋の仕事も続けられなくなるだろう。
「そう・・・色々慌ただしくなるわね。大変だわ」
そう言いつつもまもりの顔はイキイキしている。
これからの諸々の算段を考え、どう動くかを既にシミュレートしているのだ。
「ごめんね、母さん」
「ご迷惑をお掛けして申し訳ないです」
まもりが随分前から働きたがっていたということは、小夏も妖介に聞いてよく知っていた。
そうして、妖介も小夏も子供中心の生活を送るには難しい状況になるだろうとは予測していて。
小夏の実母である小春が手伝ってくれるにしても、一人では限度があるだろう。
まもりの手伝いが必要不可欠なのだ。
申し訳なさそうに謝る二人の声に、まもりは首を振る。
「迷惑なんかじゃないわ。むしろ楽しみよ」
まもりは心底楽しそうに笑った。
「だって、小夏ちゃんが正式にうちの家族になってくれる上に、孫も生まれるっていうんだから!」
その笑顔にも言葉にも嘘はない。
小夏はその言葉にようやく緊張が解けたように笑った。
「ありがとうございます、おばさま」
「あら、おばさまなんて! もうこれからはお義母さんって呼んでどんどん頼ってね!」
なんたってまもりは四人も出産した先輩なのだから。
「はい! 頼りにします、お義母さん!」
イタズラっぽく笑って告げる彼女に、小夏も笑って頷く。
それをにやにやと楽しそうにヒル魔も見ていた。
「ところでヒル魔くんはもう単身赴任終わったの?」
「いーや。明日の朝戻る。ま、ちょくちょく戻ってくるようにするがな」
「あんまり無理して戻ってこなくてもいいわよ」
「戻ってきて欲しくないような口調デスネ」
「唐突に仕事場から連れ去るようなことしなければちゃんと歓迎するわよ」
「ソウデスカ」
ヒル魔は会話の最中、ちらりと護に目配せする。
それに気づいて、護は僅かに肩をすくめた。


あの日、蛭魔家の廊下で護にすれ違いざまに渡されたパッケージに、小夏は面白いくらい硬直した。
それに気づかないふりで護はにっこりと笑う。
「まさか二人っきりで密室にいるのに何もないなんてことはないだろうからね。よかったら使って」
虚を突かれたような小夏に、今やっと気づきました、という風情で護は更に続けた。
「・・・もしかして、まだ、なの? まさかそんな・・・」
俯く小夏に護は慌てたように続ける。心底申し訳なさそうな声でもって。
「あ・・・そっか。そうだよね、小夏ちゃんはまだまだ子供だもんね。そんなわけないか。ごめんね」
ぎゅ、と唇を咬む小夏に気づかないふりで背を向け、自室へと引っ込む。
「全くもう、世話の焼ける・・・」
扉を閉め、護はそう呟きながら昨日の電話を思い出す。

『協力しろ』
唐突に掛かってきたヒル魔からの電話。内容は小夏に針で穴を開けたコンドームを渡せ、という実にくだらないものだった。
『ついでに不安を煽っておけ』
その理由を皆まで聞かなくても、自他共に一番ヒル魔に似ていると認める護はすぐにその意図を汲み取った。
「そんなに母さんを外で働かせたくないの?」
『愚問だな』
即答され、護は嘆息する。
何よりも誰よりも、失うことを心底恐れ、慈しみ愛する存在。
外の世界が楽しさや優しさばかりで満ちていないとよく知る彼だからこそ、横暴だと言われても働きに出したがらないのだ。
間違っても傷つかないように。疲れないように。その笑顔が曇らないように。
遠く離れて側にいられないのなら、尚更。
「・・・全部が全部思った通りに行くとは思わないでよ?」
一応護もそう釘を刺したけれど、ヒル魔は低く笑って何も言わなかった。


けれど結局は全てヒル魔の思うがまま。
迂遠ではあるが、結局ヒル魔はまもりの仕事を辞めさせることに成功したと言えるのだろう。
全く執念深い上にはた迷惑だよね、と護は内心呆れる。
目的のために手段を選ばないとはこういう事なのだろう。今回は自分が標的でなくてよかったとも。
けれど、なんだかんだで妖介も小夏も両親も幸せそうにまとまった結果ではあるので。

・・・まあこんなのも、当人達が最終的に蟠りを抱かないのなら悪くないのかもね、と思い直したのだった。


***
唐突に妖介と小夏のできちゃった結婚話でした。久しぶりに書いていて時を忘れました・・・! 楽しい!!
悪魔の囁きはヒル魔さん+護という最悪のコンビです。この二人を敵に回したら恐ろしいだろうなあ・・・。
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