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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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咬傷(中)



+ + + + + + + + + +
次の瞬間、男達の背後の扉が容赦なく蹴り開けられた。
派手な音を立てて吹き飛んだ扉の向こうには、うっそりと立つ一人の男。
がっちりとした体躯をツナギに包み、短い髪の頭をがりがりと掻いている。
それが誰か判って、アヤは安堵に本気で泣きそうになった。
ムサシだ。
「なんなんだよテメェ!!」
「邪魔すんじゃねぇ!!」
「それはコチラの台詞だな」
威嚇する男達の声にも動じず、逞しい体躯でのしのしと近づいてくる姿に男達は怯む。
だが人数の利がある、とばかりにナイフを取りだし、一斉に飛びかかろうとして。
「わっ」
「痛ェ!」
武器が全て弾き飛ばされ、男達は手を押さえて呻く。
「ソコマデ」
ムサシの背後から現れたのはヒル魔。構えた銃から硝煙が上がっている。
「ちくしょ・・・ぐぇ!」
ムサシに素手で飛びかかった男はあっさりと蹴り倒され、地に伏す。
そのままムサシは倒れているアヤを抱き上げた。
「テメェら、有戸キリギリスのOB共だな」
「な・・・」
ヒル魔の手には脅迫手帳。彼の口角がにたりと持ち上がる。
「後輩に頼まれたか、そいつらのためを思ったのかは知らねぇが、方向性が間違ってるな」
ヒル魔の背後から蝙蝠が飛び立つような幻想。
悪寒がする程の怒りに当てられ、三人はその場にへたりと腰をつく。
「さあ」
いっそ優しいような声音で、ヒル魔は告げる。
「因果応報っつーのは知ってるよナァ?」
青ざめる男達は気圧されるようにして頷く。
「やったことはテメェらに返ってくるってこった」
ケケケケケ、と声高に笑う悪魔の声と響く銃声と悲鳴をBGMに、アヤを助け出したムサシは彼女を戒めていた縄を全て解く。
「巌さん・・・痛ッ」
触れた手にアヤは眉を寄せる。
「怪我・・・肩か」
QBに肩の怪我は致命傷と言えた。ムサシが不機嫌に顔を歪ませ、アヤを後部座席に乗せる。
「かかりつけの病院はどこだ?」
「いえ、グラウンドに連れて行って下さい」
「・・・なに?」
眉を寄せるムサシに、アヤは視線を合わせる。
「試合があります。私はそこに行かなければいけません」
「怪我人が行ったところで役に立たないだろう」
「大丈夫です」
「どこがだ」
「私が行かないと連中の思うつぼです。連中の気勢もそがないといけません」
「怪我してることが知れたら逆に勢いづくだろう」
一歩も引かないアヤにムサシが言葉を重ねようとした時、ヒル魔が戻ってきた。
「アヤ、怪我は」
「右肩。外されました」
それにヒル魔はぴん、と片眉を上げる。
不機嫌そうなムサシの表情から、おそらく病院に連れて行くのを拒否したのだろうと察する。
ヒル魔は後部座席に乗り込むと、アヤに手を伸ばした。
「来い」
「お願いします」
大人しく身体を預けたアヤを抱き留める姿を見て、ムサシは眉を寄せた。
「おい、ヒル魔、まさか・・・」
「そのまさかだ」
ヒル魔が自分の左肩を指すと、アヤはそこに顔を寄せて瞳を閉じる。
アヤの熱を持った右肩を掴むと、一息に嵌め込んだ。
「~~~~~~~!!」
ぐ、とアヤはヒル魔の肩に歯を立てて痛みに耐える。
見ているムサシの方が痛みを想像してぞっとする光景だった。
「素人がそんなこと・・・」
「柔道段持ちだから完全素人じゃねぇよ」
「似たようなもんだろうが!」
ケ、と言い捨てるヒル魔に食ってかかるが。
「・・・ありがとう、お父さん」
弱々しくアヤが笑みを浮かべ、青ざめた顔で右腕を押さえて礼を言うから。
「おら糞ジジィ、さっさと車出せ。もう試合は始まってんだ」
「・・・ちっ」
ムサシは舌打ちし、乱暴に車を発進した。

護が試合会場に顔を出したとき、前半終了間際だった。
と、携帯が震える。発信はヒル魔だ。
「見つかった?」
『ああ。今試合は?』
「とりあえず引き分けで前半終了しそう。お兄ちゃんに連絡することは?」
『アヤが見つかった事とテーピングの用意するように伝えておけ』
「はーい。気を付けてね」
護が通話を終えたとき、前半終了のホイッスルが鳴る。
にやついた顔でベンチに戻る有戸キリギリスに引き替え、泥門デビルバッツの顔つきは晴れない。
「ハーピー!」
キー、と応じて空からハーピーが泥門デビルバッツのベンチすれすれを飛ぶ。
それに驚くメンバーの中から一人、立ち上がって客席を眺める人影。妖介だ。
威嚇もあって立てている髪の毛、また伸びた背が異様な存在感を与えている。
試合中はベンチに携帯電話すら持ち込まない真面目な兄と連絡を取るため、護はすっと手を上げた。
あの手話は勿論習得済み。おかげで遠方でも会話が出来る。
『お姉ちゃん見つかったよ』
『よかった』
それに妖介はほっと息をついた。だが更に続いた言葉に顔を顰める。
『で、テーピング用意しておいてだって』
『怪我かよ!』
『多分ハーフタイム中には戻ってくるよ』
『わかった』
妖介はメンバーの元に戻る。みるみる彼らに活気が戻るのを眺め、護は客席に座るとパソコンを立ち上げる。
それからにっこりと笑顔を浮かべると、なにやら作業を開始した。

護の伝言から程なくして姿を現したアヤに、妖介は顔を盛大に顰めた。
右肩の色がおかしい。彼の『目』で見れば怪我をしている事など一発で知れる。
「で、まさか出るとか言う?」
「勿論」
アヤは平然とした顔をしているが、相当に痛いはずだ。
実際汗が浮いているのを苦々しく見つめる。
「おい、テーピング寄こせ」
妖介がヒル魔に嫌々テーピングを差し出すと、それを受け取って二人は控え室に籠もってしまう。
「・・・大丈夫か?」
背後から掛けられた声に、妖介はぱっと振り返り、笑みを浮かべる。
「あ、ムサシさん! すみません、父と姉がご迷惑をお掛けしました」
髪を立てた妖介はサイズこそ少々違うがヒル魔と生き写しに近く、ムサシは微妙な顔つきになる。
「いや、迷惑ってほどじゃないが・・・」
あの怪我で出るというのを止められないのか、とムサシは妖介に尋ねるが、妖介はあっさり首を振る。
「俺が言って聞くような二人じゃないですから」
「だが、昔ヒル魔が骨折した時とは状況が違う。肩だし、他にQBの控えだっているだろう?」
あの時は他にQBどころか控えの選手がまるでいないという少人数だった。
今の泥門デビルバッツはそこまで選手は少なくないはずだ。実際、前半は控えの選手が出ていたのだろうし。
「うーん・・・多分、パスは問題ないんですよ」
「なに?」
右肩が外れたのに、問題ない? ムサシが疑問を顔に貼り付けていると、控え室からアヤとヒル魔が出てきた。
アヤの顔つきはもう試合中のそれだ。
普段ムサシの前で浮かべているような笑みは全くない。
気圧されるように道を譲ってしまったムサシに軽く目礼して、アヤはスタスタと歩いていってしまう。
ヒル魔もにやりと笑ってその後に続いて出て行く。
「パスは本当に平気なんです。それよりも心配なのは・・・」
妖介は苦笑した。
「怒り狂ったアヤの姿にムサシさんが引かないかなあ、ってとこですね」
「は?」
ムサシの疑問を解決する前に、外から招集の声が掛かる。
「あ、行かないと。ムサシさん、上に護がいますから、よろしければそこで見ていて下さい」
ひらひらと手を振って妖介が立ち去る。
ムサシは妖介の言葉の意味を確かめるために、頭を掻きながら客席へと足を進めた。

<続>
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