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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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咬傷(上)

(ヒルまも一家)
※アヤ・妖介が高校二年です。

+ + + + + + + + + +
「アヤが?」
『そうなんだよ、朝、ちょっと目を離した隙に消えちゃって』
困惑した妖介の声に、ヒル魔は眉を寄せる。
彼は今、部長として部員を統括している。面倒見がいいので適任と言えよう。
「どうした、ヒル魔」
運転席にいるムサシが訝しげに声を掛けてくる。
今日は関東大会二日目、シード校が参加してくるいわば本大会開始の日だ。
去年関東大会4位まで行った泥門高校はシード校なので今日が初日なのに、アヤが不在。
時間には正確だし、基本的に妖介と二人で動く事が多いのに、どこに行ってしまったのか。
部員達は電車で移動だが、ヒル魔は車での移動。
そして今日は仕事が休みのムサシを運転手に、自分は助手席でふんぞり返っていたわけだが、予想外の事態にヒル魔は舌打ちするしかない。
「アヤはこっちで探しておく。テメェらはアップ始めてろ」
『うん、わかった』
通話を切り、すぐさま電話を掛ける。相手は護だ。同時にノートパソコンも起動させた。
『もしもーし、どうしたの?』
「アヤがいねぇ。浚われたかもしれねぇ」
それに護は声を低くする。
『じゃあウチに掛かってくる電話は全部僕が転送受けちゃっていいね?』
目的が営利なのか試合妨害なのかが判断できないので、家に電話が掛かってくるかもしれない。
その時にまもりが出てしまうと大事になる。
「そうしろ。お前はまだ家か?」
『うん、今から出るところだった。ちょっと家のセキュリティ設定いじってから出るね。場所は判らないの?』
「今調べてる」
GPSの受信画面を開くと、そこに点滅する印。発信器は壊れていないらしい。
「町はずれの廃工場だ」
最近ガラの悪い連中がたむろしていると専らの噂の場所。ヒル魔の眉が寄った。
『ハーピーにカメラ持たせて飛ばすから、相手の顔が判ったら転送するよ』
「ああ」
通話を打ち切り、厳しい顔をしているムサシにヒル魔は向き直る。
説明しなくても今までの会話の流れで充分だった。
「町はずれの工場だな?」
「おー。久々にテメェのキックが必要になるな」
鈍ってねぇか、と尋ねられ、ムサシは唇を歪める。
「誰に言ってる?」
それにヒル魔もにやりと笑って返す。
・・・だが、その目は二人とも笑みとは遠くかけ離れていたけれど。


ハーピーは護の言いつけを守ってCCDカメラを装着し、工場まで一直線に飛んでいた。
入り口近くにたむろする人影の上を旋回する。
遠く離れていても、そのカメラの精度は高く、人相の判別は容易い。
「OK、わかった。ハーピー、戻っていいよ」
護はパソコンに取り込んだ映像をヒル魔のパソコンへと転送した。
「護? もうそろそろ出掛けないとお姉ちゃん達の試合に間に合わないわよ?」
ノックして入ってきたまもりの腕には、彼女によく似た顔の妹、あかりがいる。
それに自然と笑顔になって、護はパソコンを閉じ、立ち上がる。
「そうだね、そろそろ出掛けるよ。あかり、行ってくるね」
「あう」
元気に笑うあかりの頭を撫で、護は母の顔を見る。
「あれ、お母さん疲れてない?」
「え? そんなことないけど・・・」
「そう? なんだか疲れてるみたいだけど・・・」
心配そうに告げられ、まもりは自分の顔を撫でる。
「最近はそうでもないけど、あかりもまだちっちゃいし、お母さんも疲れてるんじゃない?」
「そ、そうかな」
「そうだ、おばあちゃんたちのところに気晴らしに遊びに行くのはどう?」
「そうねぇ」
「こないだおじいちゃんもあかりに会いたいって言ってたし」
まもりはあかりを見つめる。
つぶらな瞳で見上げてくる娘を見て、それもいいわね、と笑顔になった。
「あかりちゃん、じいじとばあばのところにお出かけしようか?」
「あー!」
「みんな居ない中で二人で留守番より、じいちゃんばあちゃんがいた方がいいでしょ」
ねー、とあかりの頬をつつく護にうまい具合に家から連れ出され、まもりは荷物片手に祖父母の家まで歩いていった。
ここから祖父母の家は歩いても10分ほどだ。大した距離じゃない。
「じゃあ気を付けて。二人の応援よろしくね」
「うん。終わったら迎えに行くようにお父さん達にも伝えるね」
うまい具合に家の中を空にした護はもう一度戻り、家の設定をいじる。
これはまもりは知らない事だが、この家には大層厳重な警備が敷かれているのだ。
窓ガラスは全部防弾だし、トラップも大量にある。それを最高レベルで起動させ、電話も全て護の方へ転送できるよう設定する。
そうして戻ってきたハーピーを引きつれ、護は試合会場へと足を向けたのだった。


アヤはぼんやりと瞳を開けた。
視界は薄暗く、距離感が掴めない。
動こうとして、右肩が焼け付くように痛い事に気が付く。
声を上げようとしたが、口には猿ぐつわが噛まされている。
身体は後ろ手に拘束されているようで全く動けない。
移動途中に突然数人の男に囲まれ部員と引き離された。勿論諾々とついていくはずもなく、かなり抵抗したのだが相手の数が多すぎた。
武器もなく戦うには不利で、結局鈍器で殴られた後意識を失ったらしかった。
頭が痛いがとりあえず切れてはいないようだ。その他の箇所を一つ一つ確認しても、頭と右肩以外は目立った外傷はなさそうだった。
明るいところで動かしたわけではないので全て憶測だが、間違ってはいないだろう。
「すんげぇじゃじゃ馬だよな、あいつ」
「ホントは野郎じゃねぇのか?」
聞こえてきた声に、アヤは咄嗟に意識がないふりをして瞳を閉じる。
入ってきた男は三人、外にも誰かいるかもしれない。
「ま、なんにせよ後はこいつを明日まで閉じこめてりゃいいんだろ」
「起きても肩外れてりゃ何もできねぇよ」
縛ってあるし、という声にアヤは密かに指先を動かしてみたが、身体を縛る縄はがっちりと食い込んでいて容易く外れそうにはない。
ましてや右肩は外れているのだ、思うように動かせない。
「なあ、本当に女なのか確かめてみねぇか?」
「あー? テメェヤりたいだけだろ?」
「だって顔だけ見りゃ美人だぜ?」
品のない喋り方の男達に、内心唾棄しながらアヤはどうにか腕を解こうと意識のない振りをやめて手を藻掻かせる。
「あ? 気が付いたんじゃねぇの?」
「もう一発殴っといた方がいいじゃねぇか?」
一人が容赦なくアヤの腹を蹴り上げる。それにアヤは瞳を見開き、うめき声を上げた。
「女相手に容赦ねぇなあ」
「サイテーだぜ」
「煩ェな、ヤんならさっさとヤんぞ!」
笑みを含んだ男達の腕が伸びてくる。アヤは勤めて冷静に連中の顔を見つめる。
それに男達は尚更嗜虐心をそそられたようで、舌なめずりして近寄ってきた。

<続>
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