旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
泥門高校の入学式。
もう桜は終わり、けれど八重桜がその可愛らしい姿を誇っている頃。
まもりは新入生総代を務め終えてほっと息をついていた。
「どうだった?」
「糞マジメなご挨拶、拝聴できて大変嬉しく思いマス」
「それって全然! 思って! ないでしょ!!」
せっかくつっかえず堂々と挨拶したと思っていたのにこの扱い。
眉を寄せて怒る二人の姿を、中学校から付き合いのあるムサシと栗田だけが微笑ましく、その他は戦々恐々としながら眺めていた。
高校も四人とも同じクラスになった。
そこに何らかの思惑があるにしても、見慣れた面子がいるのは心強い。
ほっと息をつくまもりの元にはあっという間に男女問わず人垣が出来た。
「すごいね、総代なんて!」
「どこから来てるの?」
「部活は決めた?」
わいわいと騒ぐ人垣にヒル魔は不機嫌そうに舌打ちする。ジャコン、という音にまもりはぴくりと肩を震わせた。
「ちょっと!? ヒル魔くん、何やってるの?!」
「そりゃこっちの台詞だ。部活の打ち合わせやるからこっちに来い」
いかにも見た目悪魔な男に呼ばれる総代。優等生と不良なんて一昔前のドラマのような組み合わせ。
しかもあの男の持っている物って、もしかしなくても、銃、でしょうか。
怖くて誰も尋ねられないが、見るからに本物っぽい。
「ぶ、部活って?」
恐る恐る尋ねる同級生にまもりはにっこりと笑ってみせる。
「うん、アメフト部。ないからこれから作るの」
「アメフト?」
聞き慣れないスポーツの名前に皆が首を傾げるが、ヒル魔の視線にそれ以上まもりに質問できず、そそくさと退散してしまう。
「もう! ヒル魔くん、部活やるならメンバー集めないといけないんだから、そういう威圧はよしてよ!」
「ア? 煩ェ害虫引きつれた糞女には言われたくねぇな」
「何よそれ!」
ぷりぷりと怒るまもりに対してヒル魔はどこからともなく大量の資料を取り出した。
「これが部活申請用の資料だ。内訳は部費の支出項目、備品購入の要望書、活動予定、大会予定、部員名簿、練習項目・・・」
ずらずらと並べられるそれに、近くで聞き耳を立てていたクラスメイトは目を丸くする。
あの見るからに悪魔な男、ただのヤンキーではなさそうな感じだ。
実は入学試験、結果はヒル魔がトップでまもりは次点だったのだが、見るからに悪魔な男に総代は頼めずにまもりにお鉢が回ったのだ。勿論それを知っているのは当事者二人と教師達だけだが。
それにしても大量な仕事だ、とまもりの顔を伺えば、やる気に満ちた表情で。
それははつらつとして酷く眩しく写る。
「やる事は山積みだ。テメェにゃ糞馬車馬のように働いて貰わないとナァ」
「それはお互い様でしょ! ヒル魔くん達は練習に専念してもらわないと」
ニヤニヤと笑うヒル魔にまもりも挑戦的に笑みを返す。
その慣れた風情に誰も口出しできなかった。
慣れたこの二人を除いて。
「オイ、二人とも。担任が来てるぞ」
「HR始まるよ~」
ムサシと栗田に告げられ、まもりは慌てて、ヒル魔は悠然と自席へ戻った。
部活の勧誘はやはり思うようにはいかなかった。
アメフトが一般的に馴染みのないスポーツということに加え、ヒル魔に対しての悪い噂が絶えず付きまとっているために生徒達が部室はおろか、教室内でも近寄らないのだ。
これでは勧誘のしようがない、とまもりは嘆息する。
視線の先には中学校の時と同じく練習に励む三人の姿があった。
「お前のせいだぞ」
じと、とムサシに見つめられてもヒル魔はガムを膨らませるだけで応えない。
「確かに姉崎さん目当てが多かったけど、全員拒否しなくてもよかったじゃない」
おやつのパンを囓りながら見つめてくる栗田にもヒル魔は取り合わずノートパソコンを見ている。
やれやれ、とそんなヒル魔に慣れた二人は肩をすくめるしかない。
ヒル魔のまもりに対する執着度合いは半端ない。
当のまもりは天然っぷりを発揮してごく最近まで気づいていなかったようだが、ヒル魔はとかくまもりに付きまとう男に対して容赦がないのだ。
「自分の持ち物じゃないんだから、あんまり干渉するんじゃない」
諫めるムサシに、栗田は不思議そうに口を開く。
「え? 二人は付き合ってるんじゃないの?」
「だからって全部干渉していいって訳じゃないだろう」
「姉崎さんは嫌がってないじゃない」
「あれは単に天然だから気づいてないだけだろ」
わいわいと言い合う二人に向かってヒル魔はにやりと悪魔じみて笑う。
「あれは俺のだ」
けれどその表情にも慣れた二人は怯える事なんてなくて。
「もー、ノロケはいいから練習しようよ」
「栗田に言われちゃ世話ないな」
「糞ッ! テメェらなぁ!」
騒ぐ三人を遠目に見ながら、まもりはまさか話題が自分の所有権のことなどだとは思いもせず、男の子って本当に仲いいわよね、と微笑んでいた。
練習が終わった後、ヒル魔とまもりは共に帰る。
勿論家が隣同士だからなのだが、それが元で二人は付き合ってるのでは、という噂がまことしやかに囁かれている。まず当事者達はそれについて弁明しないし、ムサシや栗田は当事者じゃないので質問には答えない、というスタンスなので謎が謎を呼んでいる。
まもりはそもそも噂に気づいていないし、ヒル魔はわざわざ話の種を提供しなくてもいいと思っているだけなのだけれど。
二人並んで歩いていて、まもりは不思議そうにヒル魔を見ている。
「気のせい、かな」
小首を傾げ、時折自らと彼とを比較するように視線を彷徨わせる。
それに気づいたヒル魔がにやりと笑った。
「気のせいじゃねぇぞ。4センチ伸びた」
「あーっ! やっぱり!!」
つい先日まで隣を向けば絡んだ視線が、今は少しずれたような気がしたのだ。
毎日顔を合わせているから気づきにくいが、言われれば確かに背が伸びている。
男女の差を突きつけられてまもりは歯がみするしかない。
「もー、悔しい! 私なんて身体測定で5ミリしか伸びなかったのに!」
「ケケケ、体重は2キロ増えたみてぇだがナァ」
「きゃー!! や、もう! 知ってる事についてはもう今更言わないから、せめて黙っててよ!」
体重だけが増えてしまった事にまもりは少なからずショックを受けていたのだけれど、やっぱりヒル魔には知られていた。
真っ赤になるまもりの唇をヒル魔は容易く奪う。
「胸とケツがデカくなった分だな」
「妖・一!!」
怒るまもりにヒル魔はにやにや笑うのをやめない。
「俺のせいだろ」
「・・・ッ」
まもりは押し黙る。
確かに、ヒル魔に抱かれるようになってから、まもりの身体は更にメリハリの利いた体型になったから。
ブラがきつくなったために下着を買い換えなければならず、母親ににまりと笑われていたたまれなかったのに。
「揉み甲斐があるよナァ」
「もう言わないで! 妖一のエッチ!!」
「オイオイ、俺はナニを、って言ってねぇんだぜ、糞風紀委員サマ?」
どっちがエロいんだか、と言われてまもりは手にしていた鞄を思わず投げつける。
けれどそれをあっさりと取ると、ヒル魔は鞄を持ったまま歩き出した。
「え、ちょっと?! 鞄返してよ!」
「鞄を投げるような乱暴な糞女にはしつけをし直さねぇとナァ?」
このまま自宅へ連れ込む気だ、と察したまもりは慌てて鞄を取り返そうとしたが、ヒル魔は巧みに鞄を遠ざけて返さない。
「ケケケさあ到着~」
「やーん!」
結局、まもりは隣にある自宅へと帰る前にヒル魔の家へと引き込まれたのだった。
秋大会を前に、ムサシが消えた。
父親の病気が理由。それでもヒル魔が手を回し、休学扱いとさせた。
消沈する栗田とヒル魔に、まもりは何も言えず、ただただそんな二人の傍らにいるしかなかった。
けれど時は過ぎる。
一年目に正部員二人だけの大会はやっぱり一回戦も勝ち抜けず、まもりもベンチでひっそりと涙した。
荷物を片づけ、校門で別れた栗田の背中がひどく寂しそうで、まもりは胸元をきゅっと握る。
「なんつー顔してんだ」
「あ、うん」
部室の鍵を閉めてきたヒル魔がまもりに並ぶ。
栗田と同じく寂しそうな背中なのだろうか、と思って足を止め、距離を離してみる。
不意に気が付いてどきりとする。
ヒル魔は背が伸びていた。圧倒的に肩幅が広くなっていた。
入学してからほんの数ヶ月の間に、ヒル魔はぐいぐいと天に引かれるように成長していた。
けれどやっぱり、背中が栗田と同じく寂しそうで、まもりの胸は先ほどの比ではないくらい痛んだ。
ヒル魔はさほど進まないうちに彼女がついてこない事に気が付いて、振り返る。
「オイ、離れるんじゃねぇよ、まもり」
呼ばれてまもりは小走りに駆け寄り、ヒル魔の投げ出されていた左手を掴んだ。
その手も、いつの間にか大きくなっている。
「ア?」
「私・・・」
積極的に手を掴んだと思ったら躊躇いがちに俯く。
だが、まもりの行動に慣れているヒル魔は何か言い出すのを静かに待つ。
「・・・私はどこにも行かないからね」
「ホー」
ぴん、と片眉を上げる表情は、いままではすぐ隣にあったのに、今では少し見上げる角度になった。
「ねえ、来年はクリスマスボウルに行けるかな?」
「かな、じゃねぇ。行くんだよ」
ぐい、と繋いだ手を引かれる。どこか寂しそうな空気を纏っていたのを振り払うように。
「妖一、背、伸びたね」
「おー。今176センチだ」
「176!? やだ、春先から10センチ以上伸びてるじゃない!」
「ケケケ、成長期舐めんなよ」
不意にヒル魔がまもりを引き寄せた。触れるだけの優しいキス。
「ちょっと! 公道なのに!」
「して欲しそうな顔だったぜ」
にやにやと笑われてまもりは詰まる。それに関しては自覚があった。
「・・・なんだかね、妖一がそんなに大きくなってて、すごく距離が開いた気がしたの」
思った通りに呟けば、繋いだままの手に力が込められる。
「バーカ」
「な、なによ!」
「男女の理想的な身長差って知ってるか?」
「え?」
「15センチだと」
「15センチ・・・」
「テメェは今162センチだろ」
「うん。あ・・・」
二人の身長差は14センチ。ほぼ理想通り、だ。
かあ、と頬を染めるまもりにヒル魔はにやりと笑う。
「距離が遠くなったんじゃねぇ、理想に近づいたんだ」
そのまま歩き慣れた道を、二人は手を放すことなく帰っていった。
その夜。
まもりの携帯にメールが入った。もうお風呂も終えてパジャマ姿、後は寝るだけ、という時刻の連絡にまもりは何事かと思って携帯を手に取る。
「え?」
そこには窓を開けろ、という一言。何かしら、と首を傾げながら開くと、向かいにある隣家の窓からヒル魔の姿。
「どうし・・・」
「しっ」
声を掛けようとすると、ヒル魔が黙れ、という仕草をした。
まもりは手話で『何の用?』と問いかけると、『今からそっちに行く』と返される。
じゃあ玄関の扉を開かなければ、と思って背を向けたまもりにヒル魔は舌打ちすると、屋根を伝って窓から窓に飛び移った。
「きゃ!」
「静かにしろ」
確かに屋根伝っても来れるね、なんて昔に話した事はあったけれど、今日そうやって来るとは思わなかった。
堂々と入り込んでベッドに座るヒル魔の隣にまもりはちょこんと座って見上げた。
「来るなら玄関から来ればいいじゃない」
「テメェの母親、今日はいるんだろ」
「? もちろん」
それにヒル魔は嘆息する。
首を傾げるまもりの肩を抱くと、すっと顔を寄せた。
□■□■□
「ちょっと、妖一!」
小声で揺さぶられ、ヒル魔はぱちりと目を開けた。そこには真っ赤な顔をしたまもり。
「ね、離して!」
「ア?」
見れば夜中抱いていた腕は未だまもりを放していなかった。
「そろそろお母さん起きてくるし、私も用意しないと、んっ」
ヒル魔はそれでもなかなか手を放さない。焦るまもりを余所に、その唇を塞ぐ。
「ん、んぅ、ちょ、っと!」
なんとか顔を離したまもりは、きっとヒル魔を睨みつけた。
「んもう! 腕、離して!」
「騒ぐとオカアサンに見つかりますよ~」
そう言いながらもヒル魔は名残惜しげに手を放した。
まもりはすぐに離れると、とりあえずパジャマを身につける。
それをまじまじと観察しているヒル魔に昨日彼が脱ぎ捨てた服が投げつけられた。
「ほら、早くそれ着て帰って! ヒル魔くんの家だっておじさんおばさんいるでしょ?!」
「アー、あいつら今日は二人とも不在。明後日の夜まで帰って来ねぇよ」
「え、じゃあ朝ご飯食べに来る?」
「おー。なんならこのまま降りるか?」
「バ、バカなこと言わないで!!」
焦るまもりに冗談だ、と笑ってヒル魔は着替え、窓から自宅へ戻る。
ざっと身支度して、今度はまもりの家のチャイムを鳴らした。
「はーい、どうぞ!」
「おはようございます」
「おはよう、妖一くん」
室内に入り、まもりの母が用意してくれた食事に箸を付ける。
食べ終え、まもりが鞄を取りに上に上がったのを見てからまもりの母は口を開いた。
「来るなら夜でも玄関から来てくれていいのよ? 主人はいないんだし」
「一応アイツは隠してるつもりなんですよ」
「我が娘ながら隠し事が下手ねえ」
「そうだ、今夜ウチに泊めていいですか?」
「あらそう? じゃあウチで夕飯食べてからにしなさいな。私一人で夕飯も味気ないし」
「そうですね」
実はヒル魔の両親はおろか、まもりの母にまで筒抜けだという事実を彼女が知るのは大分後の事である。
***
妄想が・・・止まらなくて・・・!(笑)裏にアップしましたヤメピ様のイラストを頂いた際に伺ったお話が素敵だったので一気に書いてしまいましたwこの二人のところにセナが入るとどうなるのか自分でも気になりますね(笑)
栗田くんが掴み切れていない感じで申し訳ないです!
もう桜は終わり、けれど八重桜がその可愛らしい姿を誇っている頃。
まもりは新入生総代を務め終えてほっと息をついていた。
「どうだった?」
「糞マジメなご挨拶、拝聴できて大変嬉しく思いマス」
「それって全然! 思って! ないでしょ!!」
せっかくつっかえず堂々と挨拶したと思っていたのにこの扱い。
眉を寄せて怒る二人の姿を、中学校から付き合いのあるムサシと栗田だけが微笑ましく、その他は戦々恐々としながら眺めていた。
高校も四人とも同じクラスになった。
そこに何らかの思惑があるにしても、見慣れた面子がいるのは心強い。
ほっと息をつくまもりの元にはあっという間に男女問わず人垣が出来た。
「すごいね、総代なんて!」
「どこから来てるの?」
「部活は決めた?」
わいわいと騒ぐ人垣にヒル魔は不機嫌そうに舌打ちする。ジャコン、という音にまもりはぴくりと肩を震わせた。
「ちょっと!? ヒル魔くん、何やってるの?!」
「そりゃこっちの台詞だ。部活の打ち合わせやるからこっちに来い」
いかにも見た目悪魔な男に呼ばれる総代。優等生と不良なんて一昔前のドラマのような組み合わせ。
しかもあの男の持っている物って、もしかしなくても、銃、でしょうか。
怖くて誰も尋ねられないが、見るからに本物っぽい。
「ぶ、部活って?」
恐る恐る尋ねる同級生にまもりはにっこりと笑ってみせる。
「うん、アメフト部。ないからこれから作るの」
「アメフト?」
聞き慣れないスポーツの名前に皆が首を傾げるが、ヒル魔の視線にそれ以上まもりに質問できず、そそくさと退散してしまう。
「もう! ヒル魔くん、部活やるならメンバー集めないといけないんだから、そういう威圧はよしてよ!」
「ア? 煩ェ害虫引きつれた糞女には言われたくねぇな」
「何よそれ!」
ぷりぷりと怒るまもりに対してヒル魔はどこからともなく大量の資料を取り出した。
「これが部活申請用の資料だ。内訳は部費の支出項目、備品購入の要望書、活動予定、大会予定、部員名簿、練習項目・・・」
ずらずらと並べられるそれに、近くで聞き耳を立てていたクラスメイトは目を丸くする。
あの見るからに悪魔な男、ただのヤンキーではなさそうな感じだ。
実は入学試験、結果はヒル魔がトップでまもりは次点だったのだが、見るからに悪魔な男に総代は頼めずにまもりにお鉢が回ったのだ。勿論それを知っているのは当事者二人と教師達だけだが。
それにしても大量な仕事だ、とまもりの顔を伺えば、やる気に満ちた表情で。
それははつらつとして酷く眩しく写る。
「やる事は山積みだ。テメェにゃ糞馬車馬のように働いて貰わないとナァ」
「それはお互い様でしょ! ヒル魔くん達は練習に専念してもらわないと」
ニヤニヤと笑うヒル魔にまもりも挑戦的に笑みを返す。
その慣れた風情に誰も口出しできなかった。
慣れたこの二人を除いて。
「オイ、二人とも。担任が来てるぞ」
「HR始まるよ~」
ムサシと栗田に告げられ、まもりは慌てて、ヒル魔は悠然と自席へ戻った。
部活の勧誘はやはり思うようにはいかなかった。
アメフトが一般的に馴染みのないスポーツということに加え、ヒル魔に対しての悪い噂が絶えず付きまとっているために生徒達が部室はおろか、教室内でも近寄らないのだ。
これでは勧誘のしようがない、とまもりは嘆息する。
視線の先には中学校の時と同じく練習に励む三人の姿があった。
「お前のせいだぞ」
じと、とムサシに見つめられてもヒル魔はガムを膨らませるだけで応えない。
「確かに姉崎さん目当てが多かったけど、全員拒否しなくてもよかったじゃない」
おやつのパンを囓りながら見つめてくる栗田にもヒル魔は取り合わずノートパソコンを見ている。
やれやれ、とそんなヒル魔に慣れた二人は肩をすくめるしかない。
ヒル魔のまもりに対する執着度合いは半端ない。
当のまもりは天然っぷりを発揮してごく最近まで気づいていなかったようだが、ヒル魔はとかくまもりに付きまとう男に対して容赦がないのだ。
「自分の持ち物じゃないんだから、あんまり干渉するんじゃない」
諫めるムサシに、栗田は不思議そうに口を開く。
「え? 二人は付き合ってるんじゃないの?」
「だからって全部干渉していいって訳じゃないだろう」
「姉崎さんは嫌がってないじゃない」
「あれは単に天然だから気づいてないだけだろ」
わいわいと言い合う二人に向かってヒル魔はにやりと悪魔じみて笑う。
「あれは俺のだ」
けれどその表情にも慣れた二人は怯える事なんてなくて。
「もー、ノロケはいいから練習しようよ」
「栗田に言われちゃ世話ないな」
「糞ッ! テメェらなぁ!」
騒ぐ三人を遠目に見ながら、まもりはまさか話題が自分の所有権のことなどだとは思いもせず、男の子って本当に仲いいわよね、と微笑んでいた。
練習が終わった後、ヒル魔とまもりは共に帰る。
勿論家が隣同士だからなのだが、それが元で二人は付き合ってるのでは、という噂がまことしやかに囁かれている。まず当事者達はそれについて弁明しないし、ムサシや栗田は当事者じゃないので質問には答えない、というスタンスなので謎が謎を呼んでいる。
まもりはそもそも噂に気づいていないし、ヒル魔はわざわざ話の種を提供しなくてもいいと思っているだけなのだけれど。
二人並んで歩いていて、まもりは不思議そうにヒル魔を見ている。
「気のせい、かな」
小首を傾げ、時折自らと彼とを比較するように視線を彷徨わせる。
それに気づいたヒル魔がにやりと笑った。
「気のせいじゃねぇぞ。4センチ伸びた」
「あーっ! やっぱり!!」
つい先日まで隣を向けば絡んだ視線が、今は少しずれたような気がしたのだ。
毎日顔を合わせているから気づきにくいが、言われれば確かに背が伸びている。
男女の差を突きつけられてまもりは歯がみするしかない。
「もー、悔しい! 私なんて身体測定で5ミリしか伸びなかったのに!」
「ケケケ、体重は2キロ増えたみてぇだがナァ」
「きゃー!! や、もう! 知ってる事についてはもう今更言わないから、せめて黙っててよ!」
体重だけが増えてしまった事にまもりは少なからずショックを受けていたのだけれど、やっぱりヒル魔には知られていた。
真っ赤になるまもりの唇をヒル魔は容易く奪う。
「胸とケツがデカくなった分だな」
「妖・一!!」
怒るまもりにヒル魔はにやにや笑うのをやめない。
「俺のせいだろ」
「・・・ッ」
まもりは押し黙る。
確かに、ヒル魔に抱かれるようになってから、まもりの身体は更にメリハリの利いた体型になったから。
ブラがきつくなったために下着を買い換えなければならず、母親ににまりと笑われていたたまれなかったのに。
「揉み甲斐があるよナァ」
「もう言わないで! 妖一のエッチ!!」
「オイオイ、俺はナニを、って言ってねぇんだぜ、糞風紀委員サマ?」
どっちがエロいんだか、と言われてまもりは手にしていた鞄を思わず投げつける。
けれどそれをあっさりと取ると、ヒル魔は鞄を持ったまま歩き出した。
「え、ちょっと?! 鞄返してよ!」
「鞄を投げるような乱暴な糞女にはしつけをし直さねぇとナァ?」
このまま自宅へ連れ込む気だ、と察したまもりは慌てて鞄を取り返そうとしたが、ヒル魔は巧みに鞄を遠ざけて返さない。
「ケケケさあ到着~」
「やーん!」
結局、まもりは隣にある自宅へと帰る前にヒル魔の家へと引き込まれたのだった。
秋大会を前に、ムサシが消えた。
父親の病気が理由。それでもヒル魔が手を回し、休学扱いとさせた。
消沈する栗田とヒル魔に、まもりは何も言えず、ただただそんな二人の傍らにいるしかなかった。
けれど時は過ぎる。
一年目に正部員二人だけの大会はやっぱり一回戦も勝ち抜けず、まもりもベンチでひっそりと涙した。
荷物を片づけ、校門で別れた栗田の背中がひどく寂しそうで、まもりは胸元をきゅっと握る。
「なんつー顔してんだ」
「あ、うん」
部室の鍵を閉めてきたヒル魔がまもりに並ぶ。
栗田と同じく寂しそうな背中なのだろうか、と思って足を止め、距離を離してみる。
不意に気が付いてどきりとする。
ヒル魔は背が伸びていた。圧倒的に肩幅が広くなっていた。
入学してからほんの数ヶ月の間に、ヒル魔はぐいぐいと天に引かれるように成長していた。
けれどやっぱり、背中が栗田と同じく寂しそうで、まもりの胸は先ほどの比ではないくらい痛んだ。
ヒル魔はさほど進まないうちに彼女がついてこない事に気が付いて、振り返る。
「オイ、離れるんじゃねぇよ、まもり」
呼ばれてまもりは小走りに駆け寄り、ヒル魔の投げ出されていた左手を掴んだ。
その手も、いつの間にか大きくなっている。
「ア?」
「私・・・」
積極的に手を掴んだと思ったら躊躇いがちに俯く。
だが、まもりの行動に慣れているヒル魔は何か言い出すのを静かに待つ。
「・・・私はどこにも行かないからね」
「ホー」
ぴん、と片眉を上げる表情は、いままではすぐ隣にあったのに、今では少し見上げる角度になった。
「ねえ、来年はクリスマスボウルに行けるかな?」
「かな、じゃねぇ。行くんだよ」
ぐい、と繋いだ手を引かれる。どこか寂しそうな空気を纏っていたのを振り払うように。
「妖一、背、伸びたね」
「おー。今176センチだ」
「176!? やだ、春先から10センチ以上伸びてるじゃない!」
「ケケケ、成長期舐めんなよ」
不意にヒル魔がまもりを引き寄せた。触れるだけの優しいキス。
「ちょっと! 公道なのに!」
「して欲しそうな顔だったぜ」
にやにやと笑われてまもりは詰まる。それに関しては自覚があった。
「・・・なんだかね、妖一がそんなに大きくなってて、すごく距離が開いた気がしたの」
思った通りに呟けば、繋いだままの手に力が込められる。
「バーカ」
「な、なによ!」
「男女の理想的な身長差って知ってるか?」
「え?」
「15センチだと」
「15センチ・・・」
「テメェは今162センチだろ」
「うん。あ・・・」
二人の身長差は14センチ。ほぼ理想通り、だ。
かあ、と頬を染めるまもりにヒル魔はにやりと笑う。
「距離が遠くなったんじゃねぇ、理想に近づいたんだ」
そのまま歩き慣れた道を、二人は手を放すことなく帰っていった。
その夜。
まもりの携帯にメールが入った。もうお風呂も終えてパジャマ姿、後は寝るだけ、という時刻の連絡にまもりは何事かと思って携帯を手に取る。
「え?」
そこには窓を開けろ、という一言。何かしら、と首を傾げながら開くと、向かいにある隣家の窓からヒル魔の姿。
「どうし・・・」
「しっ」
声を掛けようとすると、ヒル魔が黙れ、という仕草をした。
まもりは手話で『何の用?』と問いかけると、『今からそっちに行く』と返される。
じゃあ玄関の扉を開かなければ、と思って背を向けたまもりにヒル魔は舌打ちすると、屋根を伝って窓から窓に飛び移った。
「きゃ!」
「静かにしろ」
確かに屋根伝っても来れるね、なんて昔に話した事はあったけれど、今日そうやって来るとは思わなかった。
堂々と入り込んでベッドに座るヒル魔の隣にまもりはちょこんと座って見上げた。
「来るなら玄関から来ればいいじゃない」
「テメェの母親、今日はいるんだろ」
「? もちろん」
それにヒル魔は嘆息する。
首を傾げるまもりの肩を抱くと、すっと顔を寄せた。
□■□■□
「ちょっと、妖一!」
小声で揺さぶられ、ヒル魔はぱちりと目を開けた。そこには真っ赤な顔をしたまもり。
「ね、離して!」
「ア?」
見れば夜中抱いていた腕は未だまもりを放していなかった。
「そろそろお母さん起きてくるし、私も用意しないと、んっ」
ヒル魔はそれでもなかなか手を放さない。焦るまもりを余所に、その唇を塞ぐ。
「ん、んぅ、ちょ、っと!」
なんとか顔を離したまもりは、きっとヒル魔を睨みつけた。
「んもう! 腕、離して!」
「騒ぐとオカアサンに見つかりますよ~」
そう言いながらもヒル魔は名残惜しげに手を放した。
まもりはすぐに離れると、とりあえずパジャマを身につける。
それをまじまじと観察しているヒル魔に昨日彼が脱ぎ捨てた服が投げつけられた。
「ほら、早くそれ着て帰って! ヒル魔くんの家だっておじさんおばさんいるでしょ?!」
「アー、あいつら今日は二人とも不在。明後日の夜まで帰って来ねぇよ」
「え、じゃあ朝ご飯食べに来る?」
「おー。なんならこのまま降りるか?」
「バ、バカなこと言わないで!!」
焦るまもりに冗談だ、と笑ってヒル魔は着替え、窓から自宅へ戻る。
ざっと身支度して、今度はまもりの家のチャイムを鳴らした。
「はーい、どうぞ!」
「おはようございます」
「おはよう、妖一くん」
室内に入り、まもりの母が用意してくれた食事に箸を付ける。
食べ終え、まもりが鞄を取りに上に上がったのを見てからまもりの母は口を開いた。
「来るなら夜でも玄関から来てくれていいのよ? 主人はいないんだし」
「一応アイツは隠してるつもりなんですよ」
「我が娘ながら隠し事が下手ねえ」
「そうだ、今夜ウチに泊めていいですか?」
「あらそう? じゃあウチで夕飯食べてからにしなさいな。私一人で夕飯も味気ないし」
「そうですね」
実はヒル魔の両親はおろか、まもりの母にまで筒抜けだという事実を彼女が知るのは大分後の事である。
***
妄想が・・・止まらなくて・・・!(笑)裏にアップしましたヤメピ様のイラストを頂いた際に伺ったお話が素敵だったので一気に書いてしまいましたwこの二人のところにセナが入るとどうなるのか自分でも気になりますね(笑)
栗田くんが掴み切れていない感じで申し訳ないです!
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