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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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夜が幸いであるために(下)




+ + + + + + + + + +
顔を合わせた当初、彼は本当にまもりをただの道具としてしか見なかった。
どうせ家の操り人形でしかない娘なら、いいように利用して関知しなければいい、と。
実際に少女としか呼べない年頃の彼女にどうこうする気持ちもなく、家名を得たあとは適当に放逐するつもりさえあった。
貴族の女など頭が足りない、ただ子供を産むだけの存在でしかない。
別に家名を得たからといって、彼女と子供を作る必要などないと思っていた。
けれど、彼女は思いも掛けない方法で、よりにもよって自分に挑んできた。
まさか真っ向から知力で対抗しようとするとは思わなかった。
女であれば嫁ぎ先で跡継ぎを成す事程度しか望まれず、またそれ以上の能力など持たないのだと思いこんでいたが、彼女は優秀だった。
学問においても、視野においても。
ただ一時の感情ではなく、現状を把握した上で学び、『蛭魔妖一』に立ち向かおうとするその気概に彼女を見る目が変わった。
思えば見た目に恐ろしいこの外見の彼に対して、まもりは最初から臆することなく接してきていた。
実際は怯えたりしたことも多かったのだろうが、次第に他愛のない会話も交わすようになっていた。
それが思いがけず心地よくて、気づけばいつしかほんの一時言葉を交わすことさえ心地よく感じるようになっていた。
ただ、そこに至ってもなお―――いや、至ったからこそ彼はまもりに無体を強いる気はなかった。
後ろ暗い事に手を染め、闇を生き抜いてきた彼には、きらきらと強い意志に輝く瞳を持つ彼女は、眩しすぎたのだ。
だから次第に女として育っていく彼女を見て、未だかつて抱いた事のない憐憫さえ覚えた。
似つかわしくない男を婚約者にするしかなかったその境遇に。
祝言を上げて、家名を手に入れたら、それでまもりを解放するつもりだった。
先に考えていたような適当な扱いではなく、丁重に、間違っても傷つけないように。
そうして、彼女は心から幸せになればいいのだと、ずっと。

けれど、あの日。
妙に祝言を急かすまもりの母に不審を抱いた彼は、夜遅くだったのにも関わらず屋敷を訪れた。
そして、階段の上で泣くまもりを見た。
どれほどに悲しくて苦しくても、彼の前ではまもりは泣かなかった。
いつでも毅然と胸を張り、時には微笑んで側にいた。
それが彼の側から離れるという。逃げたいのだと泣く。
その瞬間に彼は気づいた。
―――解放なんてもうさせられない程、自分は彼女に囚われていたのだと。
―――どれほどに慈しんで愛したかったか、思い知らされたのだ。
自分には見せた事のない涙をあっさりと他の男の前で零す姿に、言いようのない悲しみさえ感じた。
それが八つ当たりなのだと、理解していてももう止まらない。
気が付けば引き金を引いていた。殺さなかったのが不思議なくらい激昂していた。
そうして、激情のままにまもりを連れ去り、・・・手酷く犯した。
あの悲哀に満ちたまもりの声。
天空のような至上の青い瞳が絶望に塗りつぶされる瞬間。
翌朝、自らの身体も省みず階段側で倒れそうになっていたまもりを支えた瞬間、怯えたように震えた身体。
見つめた瞳がただただ暗く沈むのを、引き留める術はなかった。
彼女の負った心の傷は深く、言葉を失い、引きこもった。
同時期に母をも失い、まもりはますます消沈した。

自分と顔を合わせない方が落ち着くだろう、と極力接点をなくした数日後。
女中頭が彼の元を訪れて告げたのだ。
まもりが食事を摂らず、夜もろくに眠っていないようだ、と。
気心の知れた使用人達が何人訪れても、誰にも冷たく視線を投げかけるだけだ、という困惑しきった声に彼は舌打ちした。
判りやすい抵抗だ。
何一つ自由にならないと思い知らされたまもりの抵抗などそれくらいしかないだろう。
仕方なく訪れた先にいたまもりは、ぞっとするほど美しかった。
表情を失った顔は人形じみて、やつれた風情が余計に色香を醸している。
声を掛ければ顔を向ける。手を差し伸べてみれば身体を預ける。
だが、その瞳は彼を見ない。触れた身体は震えていた。
手出ししない方がいいのはよく判っていた。
この状態でただ手を出しても、きっとまもりを更に傷つけるだけなのだと。
それでも、唇を重ね、離れた瞬間に幽かに漏れた吐息が。
触れれば返る反応が。
名を呼べば向けられる視線が。
例えそれが生理的なものだとしても、手応えがあった。
―――今、まもりがこの腕にいて、側にいるのだという手応えが。
気づけば貪るように抱いていて、切れ切れに小さな声が響いていた。
閨の中だけで聞こえる、まもりの声。

やがて意識を失ったまもりを寝かしつけた時、枕の下にある堅い感触に気づいた。
引き出せば、それは懐刀で。
見覚えのある意匠に彼は眉を寄せた。これはセナを撃った時、廊下に転がったはずのもの。
抜いてみれば、輝きは鋭利で喉くらいなら容易く掻き切れそうだった。
まもりの自殺を防止するために持ち去るべきか、そう考えたが、ふと気づく。
自殺するつもりならもうとうにしているだろう。
それをこうやってハンストして、わざと彼を呼び寄せたとしたら。
この懐刀で彼を殺そうとしているのだとしたら。
懐刀を元の位置に戻し、まもりの横に身体を滑り込ませる。
生きる目標があるなら、自殺などはしないだろう、そう安心できた。
家名だけを欲していたかつての自分だったら、殺される前にまもりを殺そうとしただろう。
金や名誉や地位やありとあらゆる欲望の権化が自分だと思っていたのに。
今や彼は、一人の女を深く愛する、ただの男だった。
自らの命が危ないというのに、穏やかな笑みさえ浮かべ、彼は彼女の傍らで眠りに落ちた。

そうして月日は過ぎて、わざとらしく何度隙を見せてもまもりは彼を殺そうとはしなかった。
夜ごと抱くときだけ聞こえる声に耳を澄まし、彼女に殺される夢を見て、無事に目覚める絶望を知る。
自嘲は日ごと深くなり、いっそ殺せ、と何度囁こうと思ったか。
それでもギリギリで思いとどまったのは、今彼が死ねば抱える事業が全て暗礁に乗り上げるからだった。
いかに名家といえども、事業なり資産運用なりをしなければ生活できない。金は無尽蔵ではないのだ。
セナを探し始めたのもこの頃だった。
程なく見つけた彼が丁度良く貴族絡みの勉強をしているという情報も得た。
後釜を見つければ後は早かった。
いつか崩れ落ちる砂上の楼閣の当主として、彼は打てる手を打ち。
そうして、まもりの懐妊から全てが動き始めた。
懐妊を告げられた途端、青ざめて震えるまもりに、その日が来たのだと知る。
医師がそそくさと立ち去るのを引き留め、告げる。
妻は心を病んでいて、情緒不安定だ。もしかしたら今夜あたり騒ぎが起きるかもしれない、そうしたら声が掛かるからすぐに来られるようにしておけ。
その言葉だけで医師は何となく事情を察したようで、何とも言い難い表情で去っていった。
準備は整った。全ては彼の思惑通り動いていた。
―――まもりは望み通り俺を殺して。
―――放逐されたセナがこの屋敷に入って。
―――そうして、きっとまもりは幸せになる。
一度も見た事がないまもりの晴れやかな笑顔を思い浮かべようとして、やめた。
ここに彼がいるかぎり、一生見られないものの一つだ。
せめて死ぬときには、あの強い意志に煌めいた瞳をもう一度見たいのだけれど、とだけ、願った。

そうして。
思惑通り懐刀を持ち、こちらを睨め付けたまもりの姿に彼はにやりと笑った。
そこに安堵が含まれていた事に、彼女は気づかない。
深い悲しみに彩られた青い瞳が真っ直ぐに彼を射抜いている。
それでいい、と思っている。
彼女から向けられる表情が甘く優しくあれば、と思う程愚かではない。
願ったとおり、思った通りに事は進んでいく。
さあ殺せ―――テメェの大事な物を全て奪い、破壊し、踏みにじった仇を。
大きく振りかぶられた刃に、彼は躊躇いなく一歩足を進めた。
その刃は、全てを解放するためのものだった。

結局、それは叶わず、第三者の介入で複雑に絡まった思惑はどうにか解けたのだけれど。
今。まもりは隣で笑ってくれているけれど。
何かまだ、わだかまりは彼女の中に残っているのだろうか―――


「・・・テメェは、俺を恨んでんじゃねぇのか」
ぽつん、と主の口から零れた声に、まもりは髪を梳いていた手を止めた。
「いつか俺はテメェに殺されるんだと思ってた」
主は身体を離し、まもりの手を引き、隣に座らせる。
「それがテメェの生きる目標になってたんじゃねぇか、と」
静かに痛みを湛えた眸で見つめられ、まもりは思い切り首を振る。けれど主は続けた。
「今喋れねぇのは、やっぱり俺が―――」
それを手で塞ぎ、まもりは何か言おうとして、けれど喋れなくて、慌ててペンとメモを探し出す。
『私は今、幸せです』
走り書きし、まもりは真っ直ぐに主を見つめる。
『声が出ないのは本当に理由がわからないけれど、今こうしてあなたの隣にいられる事が本当に嬉しいの』
「・・・だが」
まだ不審そうな主の唇に、まもりは己のそれをそっと触れさせる。
性的な、というよりは随分と慈愛に満ちた、やさしい口づけ。
そのままぎゅっと抱きつかれ、言葉以上に雄弁に宥めようとするまもりの気遣い。
女というより母親のように大きく受け止められる。
実際に子供を産んでからの彼女はまさに聖母のようだった、と思いが過ぎる。

小さくあくびをした彼に気づいたまもりは、まるで子供を寝かしつけるかのように彼の身体をベッドに押し込む。
それに逆らわず従った主は、それでもまもりを引き込むと抱き寄せ、やっと安堵したかのように穏やかに眠りに落ちた。


出会った当初は、とまもりは思い返す。
彼は傍若無人で、何を考えているか底が知れなくて、とても恐ろしい存在だった。
けれど今こうやって隣で眠る姿はただ一人の男性で。
まもりが許した過去の事を、未だ酷く悔いているのを知っている。
今回、まもりの声が出ないという事態に多分一番傷ついたのは彼だ。
不満など本当にないのに、声の出ない自分がもどかしい。
けれど今の自分は、絶望に心塞いでいたときとは違う。
言葉がなくても彼を慈しもうと、愛そうと心から思えるし、行動できるから。
まもりは眠る彼の腕からそっと抜けだし、額にキスを落とす。

どうか彼に与えられるのは、殺し殺されるという殺伐とした夢などではなく、愛し愛されるという幸せな夢でありますように。ひそりとそう願い、まもりは再び彼の腕に戻って、そうしてそっと瞳を閉じた。


***
昂様リクエスト「いばら姫のつづき」でした。タイトルは思い浮かばなかったのでドビュッシーの曲名から。
ヒル魔さんの独白が書きたかったんですが、ど~~~してもへたれてしまって書けなくて、今回細かく設定を頂いたのでここぞとばかりに書かせて頂きましたw あー、これですっきり書ききった気がします!
リクエストありがとうございましたー!!

昂様のみお持ち帰り可。
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