旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
朝、目覚めたまもりは身体に絡む腕に気づいて微笑んだ。
この屋敷の主が隣で眠っている。
かつては夜を共に過ごした後はいつの間にか姿を消していた彼は、まもりが声を取り戻したときからたまにこうやって寝過ごすまでに隣でくつろぐようになっていた。
目覚めるたびに切なく一人朝を迎えていたのが嘘のよう。
それが何より嬉しくて、まもりはふふ、と笑う。
「・・あ?」
気配に気づいたのか、主がぱちりと目を開いた。
それを見てまもりは挨拶をしようとして。
「・・・・・・」
声が出ない。まるで喋り方を忘れてしまったかのように、喉が音を紡げない。
「・・・おい?」
「・・? ・・・・!?」
まもりは喉を押さえ、青ざめる。
「おい?! お前、声が・・・」
主もさっと青くなった。ガウンを羽織り、廊下に出る。
「ご主人様、どうされました!?」
ただごとではない気配に、出勤してきた鈴音が駆け寄る。
「医者を呼ぶ。テメェは中でまもりの側にいろ」
「旦那様!?」
秘書のセナも異変に気づいて駆け寄った。
「まもりがまた、声を・・・」
それだけで察したセナは医者を呼ぶべく走り出す。
主はとりあえず着替えるために室内に戻った。
青ざめるまもりと傍らで心配そうに寄り添う鈴音を苦々しい気持ちで眺めながら。
「原因は?」
呼び出された医者は診察を終え、イライラしている主の前で困惑のままに口を開いた。
「あの・・・特に、不調は見あたらないのですが・・・」
「アァ?!」
不機嫌を露わに声を荒げた主に医師は首をすくめる。その隣でまもりが困ったように主の袖を引いて宥めていた。
「現に声が出せねぇだろうが!」
「そ、そうなんですが、器官の不調とか、そういったことは見られないんです」
頭を打ったりなさったりは、と尋ねられてまもりは首を振る。
となると心当たりはただ一つ。
「じゃあ・・・心因性か」
前回も結局は同じ理由だった。それに力無く呟く主に、まもりは首を振って否定する。
「なにかお心当たりがありますか?」
それにまもりは首を傾げるばかり。思い当たる事はない、と渡されたメモにもそう書く。
まもりはつい数ヶ月前に第一子を出産したばかりだった。
けれどそれを原因とするなら間があきすぎている。
子供は主の予言通り男で、彼は今すくすくと育っているし、子育てで過剰に精神を消耗してもいない。
「とにかく、あまり焦らない事です。気が付いたら喋れるようになるかもしれませんし、器官に異常がない以上、無理に声を出そうとしたら逆に身体を傷つけてしまうかもしれません」
医師はそう告げるしかなく、主は深々とため息をつくほかなかった。
「原因不明、ですか」
「心因性だろ」
不機嫌そうに呟く主は、山のような書類を次々と処理していく。
傍らでそれを助けつつセナは思い当たる節を掘り出そうとするが、何一つ浮かばない。
今は仕事も問題ない。二人の子は五体満足で今のところ大きな病気もせず、日々すくすくと育っている。
思い当たるとすれば、それは。
「・・・そうなんでしょうか」
「不満があるなら口に出して言え」
それはセナに対してではなく、まもりに対しての不満のようで。
怒りと言うよりは拗ねているのに近い様子にセナは大人しく補佐に回るしかない。
原因が二人の事なら余計に口出しできず、ただ無言で仕事をこなすのみ。
黙々と仕事をこなし、一段落ついたところで執務室の扉がノックされる。
「入れ」
「失礼します」
入ってきたのは鈴音と、その後ろにまもりがついてきていた。
それに主の眉が寄る。
じろりと睨め付けられて、鈴音が申し訳なさそうに首をすくめた。
「やー・・・あの・・・」
「いい。どうせそいつが自分で持っていきたいとかほざいたんだろ」
口は利けなくとも示す方法はいくらでもある。
それに鈴音は苦笑して頷いた。
まもりが笑顔で主にコーヒーを差し出す。
それを渋々と受け取る姿に、同じくコーヒーをセナに差し出した鈴音は目を細める。
「・・・うーん・・・」
「セナ?」
どう見てもまもりが主を厭っているようには見えないし、主もまもりを気遣っているのはよく判る。
「どうしたの?」
「・・・どうしてまもり姉ちゃんの声は出なくなったんだろ」
「んー・・・あんまり気にしなくていいんじゃないかな」
セナはちらりと横目で二人を眺める。
言葉は当然の如くないが、主の先ほどまでの不機嫌は多少和らいだ気がする。
「そう、かな」
「うん。あんまり周りがとやかく言ってもマズイでしょ」
お二人に任せるしかないよ、とウインクされてしまえば、セナもそれ以上は言えない。
「それでは失礼いたします」
鈴音の声に、まもりは主の隣でぴょこんと飛び上がり、その後に続く。
言葉はなくとも労うようにセナと主に殊更柔らかい笑みを浮かべ、部屋を去った。
仕事をいつもの三倍は片づけた主に遅くまで付き合わされたセナは疲れ果てて自室へ戻った。
主もそれなりに疲れていたが、まもりの元に行く事はなんとなく憚られた。
・・・声を失った、という原因が判明してないし、一番の原因となるのはやはり自分だろうから。
いつもよりも大分遅い時間になっているし、まもりはもう眠っただろう。
子供は夜、乳母をつけて面倒を見させているため、寝室にはいない。
一応まもりの部屋の前には立ったが、今日はほとんど使わない自室へ戻ろうかと踵を返した時。
音もなく扉が開いた。
そこからひょこりとまもりが顔を覗かせる。
にっこりと笑みを浮かべたまもりはくい、と主の袖を引いた。
来訪を心待ちにしていた、というように。
「・・・疲れてんだろ。もう寝ろ」
それを聞いてまもりはきょとんとした表情になり、それから首を振って更に強く袖を引いた。
必死な様子に、主は渋々と室内に入る。
照明がほどよく落とされた部屋は薄暗く、眠りを誘うかのようだ。
ベッドに腰掛けるとまもりがその前に立ち、その頭をぎゅっと抱きしめた。
「何・・・」
柔らかな胸に顔を埋めるように抱きしめられ、主は戸惑ったような声を上げる。
さら、と髪の毛を撫でる手つきは慈しむという言葉に満ちていて、主は細く息をついた。
無言で労られる心地よさ。あたたかい身体、ゆったりとした心音。
惜しみなく与えられる穏やかさに、主は眸を閉じる。
―――こんな時を得られるとは思ってなかった、な。
主の脳裏で、過去がゆるりと巻き戻された。
<続>
この屋敷の主が隣で眠っている。
かつては夜を共に過ごした後はいつの間にか姿を消していた彼は、まもりが声を取り戻したときからたまにこうやって寝過ごすまでに隣でくつろぐようになっていた。
目覚めるたびに切なく一人朝を迎えていたのが嘘のよう。
それが何より嬉しくて、まもりはふふ、と笑う。
「・・あ?」
気配に気づいたのか、主がぱちりと目を開いた。
それを見てまもりは挨拶をしようとして。
「・・・・・・」
声が出ない。まるで喋り方を忘れてしまったかのように、喉が音を紡げない。
「・・・おい?」
「・・? ・・・・!?」
まもりは喉を押さえ、青ざめる。
「おい?! お前、声が・・・」
主もさっと青くなった。ガウンを羽織り、廊下に出る。
「ご主人様、どうされました!?」
ただごとではない気配に、出勤してきた鈴音が駆け寄る。
「医者を呼ぶ。テメェは中でまもりの側にいろ」
「旦那様!?」
秘書のセナも異変に気づいて駆け寄った。
「まもりがまた、声を・・・」
それだけで察したセナは医者を呼ぶべく走り出す。
主はとりあえず着替えるために室内に戻った。
青ざめるまもりと傍らで心配そうに寄り添う鈴音を苦々しい気持ちで眺めながら。
「原因は?」
呼び出された医者は診察を終え、イライラしている主の前で困惑のままに口を開いた。
「あの・・・特に、不調は見あたらないのですが・・・」
「アァ?!」
不機嫌を露わに声を荒げた主に医師は首をすくめる。その隣でまもりが困ったように主の袖を引いて宥めていた。
「現に声が出せねぇだろうが!」
「そ、そうなんですが、器官の不調とか、そういったことは見られないんです」
頭を打ったりなさったりは、と尋ねられてまもりは首を振る。
となると心当たりはただ一つ。
「じゃあ・・・心因性か」
前回も結局は同じ理由だった。それに力無く呟く主に、まもりは首を振って否定する。
「なにかお心当たりがありますか?」
それにまもりは首を傾げるばかり。思い当たる事はない、と渡されたメモにもそう書く。
まもりはつい数ヶ月前に第一子を出産したばかりだった。
けれどそれを原因とするなら間があきすぎている。
子供は主の予言通り男で、彼は今すくすくと育っているし、子育てで過剰に精神を消耗してもいない。
「とにかく、あまり焦らない事です。気が付いたら喋れるようになるかもしれませんし、器官に異常がない以上、無理に声を出そうとしたら逆に身体を傷つけてしまうかもしれません」
医師はそう告げるしかなく、主は深々とため息をつくほかなかった。
「原因不明、ですか」
「心因性だろ」
不機嫌そうに呟く主は、山のような書類を次々と処理していく。
傍らでそれを助けつつセナは思い当たる節を掘り出そうとするが、何一つ浮かばない。
今は仕事も問題ない。二人の子は五体満足で今のところ大きな病気もせず、日々すくすくと育っている。
思い当たるとすれば、それは。
「・・・そうなんでしょうか」
「不満があるなら口に出して言え」
それはセナに対してではなく、まもりに対しての不満のようで。
怒りと言うよりは拗ねているのに近い様子にセナは大人しく補佐に回るしかない。
原因が二人の事なら余計に口出しできず、ただ無言で仕事をこなすのみ。
黙々と仕事をこなし、一段落ついたところで執務室の扉がノックされる。
「入れ」
「失礼します」
入ってきたのは鈴音と、その後ろにまもりがついてきていた。
それに主の眉が寄る。
じろりと睨め付けられて、鈴音が申し訳なさそうに首をすくめた。
「やー・・・あの・・・」
「いい。どうせそいつが自分で持っていきたいとかほざいたんだろ」
口は利けなくとも示す方法はいくらでもある。
それに鈴音は苦笑して頷いた。
まもりが笑顔で主にコーヒーを差し出す。
それを渋々と受け取る姿に、同じくコーヒーをセナに差し出した鈴音は目を細める。
「・・・うーん・・・」
「セナ?」
どう見てもまもりが主を厭っているようには見えないし、主もまもりを気遣っているのはよく判る。
「どうしたの?」
「・・・どうしてまもり姉ちゃんの声は出なくなったんだろ」
「んー・・・あんまり気にしなくていいんじゃないかな」
セナはちらりと横目で二人を眺める。
言葉は当然の如くないが、主の先ほどまでの不機嫌は多少和らいだ気がする。
「そう、かな」
「うん。あんまり周りがとやかく言ってもマズイでしょ」
お二人に任せるしかないよ、とウインクされてしまえば、セナもそれ以上は言えない。
「それでは失礼いたします」
鈴音の声に、まもりは主の隣でぴょこんと飛び上がり、その後に続く。
言葉はなくとも労うようにセナと主に殊更柔らかい笑みを浮かべ、部屋を去った。
仕事をいつもの三倍は片づけた主に遅くまで付き合わされたセナは疲れ果てて自室へ戻った。
主もそれなりに疲れていたが、まもりの元に行く事はなんとなく憚られた。
・・・声を失った、という原因が判明してないし、一番の原因となるのはやはり自分だろうから。
いつもよりも大分遅い時間になっているし、まもりはもう眠っただろう。
子供は夜、乳母をつけて面倒を見させているため、寝室にはいない。
一応まもりの部屋の前には立ったが、今日はほとんど使わない自室へ戻ろうかと踵を返した時。
音もなく扉が開いた。
そこからひょこりとまもりが顔を覗かせる。
にっこりと笑みを浮かべたまもりはくい、と主の袖を引いた。
来訪を心待ちにしていた、というように。
「・・・疲れてんだろ。もう寝ろ」
それを聞いてまもりはきょとんとした表情になり、それから首を振って更に強く袖を引いた。
必死な様子に、主は渋々と室内に入る。
照明がほどよく落とされた部屋は薄暗く、眠りを誘うかのようだ。
ベッドに腰掛けるとまもりがその前に立ち、その頭をぎゅっと抱きしめた。
「何・・・」
柔らかな胸に顔を埋めるように抱きしめられ、主は戸惑ったような声を上げる。
さら、と髪の毛を撫でる手つきは慈しむという言葉に満ちていて、主は細く息をついた。
無言で労られる心地よさ。あたたかい身体、ゆったりとした心音。
惜しみなく与えられる穏やかさに、主は眸を閉じる。
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同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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