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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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ソルティー&スウィート

(ヒルまも)
※クリスマスボウル終了して二ヶ月後の二人
※まもり視点

+ + + + + + + + + +
暦の上では春だけれど、まだまだ暖かさとは遠い日。
喧噪と焦燥に駆られて疾走した八ヶ月間の集大成を冬に迎え、芽吹く季節のはずなのに気分が晴れない。
それは文字通り寝食を忘れて熱中したことの喪失からなのか。
ぼんやりと教室で、窓の外から空を見る。
あの夏の日に見上げた空よりも光は弱く、風が澄んでどこまでも遠い。
下は見られなかった。見下ろせばそこにはまた次の目標を据えたセナたちがいる。
たった一年、されど一年違うだけで彼らと自分たちの立つ場所がこんなにも変わるなんて。
こんなにも寂しいなんて。
「なに黄昏れてやがる」
唐突に背後に立った気配に、私は振り返るのではなく、ぐ、と背を反らした。
ヒル魔くんがこちらを見下ろしている。
逆さまに見える金髪。角度を変えてもやっぱり怖いと言われる悪魔の顔だ。
「随分と暇そうだナァ」
「・・・まあね」
それに反論出来ず、私は首を戻そうとした。
だって私はもう暇だもの。来年の春、私はあのベンチに入れない。
マネージャーがいないから手伝おうとするのを背後の彼は止めた。
もう、部活は引退した。慣れ親しんだ部室も自分たちの領域ではないからと。
視線を空に戻そうとしたのに、不意に大きな手のひらが私の頭を鷲掴んだ。
「イッタタタタ!!」
藻掻く私に至極楽しそうにヒル魔くんは言う。
「硬ェな、姉崎」
呼ばれるのは聞き慣れない名前。
でも、そう。私はもうマネージャーじゃないから、何度言っても直らなかったあの呼び名は自然と消えた。
代わりに呼ばれる名字はヒル魔くんが呼ぶだけで私のものじゃないみたい。
かといって、またあのふぁ・・・マネ、とは呼ばれたくないけれど。
「首、つっちゃう! 離して!!」
「明日」
「明日?! なに、明日がなに?!」
痛みに足下をふらつかせて背後のヒル魔くんにもぶつかった。
それにもヒル魔くんはにやりと口角を上げただけ。
「朝9時に泥門前駅に集合」
「えぇっ?!」
遅れるなよ、と告げてぱっと手を放される。
ようやくバランスを取り戻し、ちゃんと振り返ったときには金色の毛先がするりと教室から出て行くところだった。
明日は普通に学校があるし、授業だってある。
まさか、さぼってどこかに行くのかしら。
私は何が目的かさっぱり判らず、痛む首をさすりながら思案に暮れた。


普通に制服でいいのか、それとも私服で出掛けるべきか。
いや、その前に学校があるんだから学校に行かないといけない。
色々考えるのに、私の手が選ぶのはニットワンピだったりショートコートだったりと、あからさまに学校とは不向きのものばかり。
悩む私の携帯が着信を告げる。開けばそれはヒル魔くんからで。
たった一言、『厚着してこい』と。
・・・どこに行く気なんだろう。
とりあえず、私はやっぱりニットワンピを着ようと決めた。

ママに適当な言い訳をして、ダウンジャケットとニットワンピにカラータイツ、足下もムートンブーツという重装備で家を出た。駅に行くともうヒル魔くんは待っていた。
相変わらずの黒一色。そして見ている方が寒いくらいの薄着。
そして銃を持っていなかった。
「おはよう」
「おー」
そしてヒル魔くんはもこもこになった私をまじまじと見て、そして一言よし、と呟いた。
「行くぞ」
「どこに?」
その質問には、ヒル魔くんはにやりと笑っただけで答えてくれなかった。

電車を乗り継ぎ、たどり着いたのは随分と遠い場所。
海沿いにある水族館だった。改装したとかで少し前に話題になった場所だ。
「え、え? ここ?!」
ヒル魔くんにあまりにもそぐわない場所に私は驚くけど、ヒル魔くんは構わず歩いていく。
私の手を握って。
躊躇いもなくチケットを二人分買って、そのまま館内へと入った。
「あの、お金・・・」
財布を出そうとしたのを素振りだけで止められる。代わりに指さされた先に視線を向けて。
「わ・・・」
思わず感嘆の声を上げた。
静寂が満ちる、深い深い青の世界。ゆったりと泳ぐ魚の影。
広々とした空間は、ほとんど人がいない。平日の午前中、という時間帯もあるだろう。
だが、他の手段で人減らししたのではないか、とちらりと視線を向ける。
それに気づいたヒル魔くんが先回りして口を開いた。
「寒い時期に狙って来る場所じゃねぇんだろ」
肩をすくめて言われて、本当かしら、と思うけれど。
銃を持ってきていないだけでも上々かな、と思い直した。
私も随分と悪い子になっちゃったわ、なんて思ったりもして。
チケットと一緒に渡されたパンフレットを見る。
「地元の海の展示みたいね。あ、アジ! 鰯もいるよ!」
はしゃぐ私にヒル魔くんがにやにやと笑う。
「ここでも食い意地が先か」
いかにも私が食いしん坊、っていう言い方が気に障って、私は唇を尖らせる。
「よく食べてる魚だから知ってるだけ!」
「水族館っつったら、ああいうのの方がメインじゃねぇのか?」
隣の水槽で過ぎる大きな影。マンタだ。その近くにある小さな水槽には色とりどりの熱帯魚。
「あ、クマノミ!」
ヒラヒラと泳ぐオレンジ色の影に声を上げて近寄れば、可笑しそうにヒル魔くんが笑った。

冬だからか、館内が青いからか、室内だけどあんまり暖かい感じがしない。
まるで時が止まった水底を歩いているような錯覚。
戯れに差し出した手を掴んだヒル魔くんと、その後もずっと手を繋いでいる。
そのあたたかさが心地よくて、私は自然と笑顔になる。
これってデート、なのかな。
私たち、一応付き合ってるけど、こういうところに二人で来たのは初めてだ。
意識すると顔が火照る。照明が暗いことに少しだけ感謝。
一番最初に入ったときに見た水槽を、今度は下から見上げる。
遠くできらきらと水面が光を弾いていた。
「きれいね」
私にも、隣に立つヒル魔くんの身体にも、ゆらゆらと揺れる光で不思議な紋様が浮かび上がっている。
あまりに静かで、穏やかで、冷たい世界。
太陽の下では苛烈で極彩色の夢を纏い付かせるヒル魔くんの、非日常がここにある。
私たちは珍しく口数少なく緩やかに歩く。
それはただ水の中を泳いでいるような、そんな錯覚さえ覚えた。

昼食を挟んで私がどうしても、とせがんだイルカショーを見てから、水族館の真ん前にある浜辺に出た。
綺麗な砂浜には誰もいない。
普段だったら冬でもサーファーがいるらしいけど、今日は海が凪いでいて波がないから出ないみたい。
ということは。
「すごーい! 海、独り占め!!」
きゃー、と声を上げて砂浜の上で跳ねていると、ヒル魔くんにまた笑われる。
「糞物好きだな」
「それはヒル魔くんだって!」
こんな寒い時期に海なんて、物好きと言わないでなんと言うの。
波打ち際まで近寄って、でもすぐ下がる。
濡れたら風邪引いちゃうし、落ちたりしたら目も当てられない。
「テメェなら落ちてもすぐには死なねぇだろうな」
「やだ、冬の海よ? 寒さ云々の前に心臓止まっちゃう」
「そんなに脂肪たっぷりのくせに何抜かす」
「ヒル魔くんに比べたらそうかもしれないけど!」
部活を引退したとはいえ、男性でスポーツをやってたヒル魔くんとの体脂肪率とは比べるべくもない。
普段と変わらない足取りで近寄ってきたヒル魔くんは、おもむろに私の腰を抱く。
「きゃ・・・!」
「おー、あったけぇ」
バランスを崩した私を軽々と担ぎ上げて、足場の悪い砂地でも何も変わらないと言いたげに歩く。
肩に担がれる姿勢だから、私の視界にはヒル魔くんの背中。
その後ろに伸びる足跡。私の分の重さを足しても、その足跡は揺らぎない。
「ちょっと、下ろして! 重いでしょ?!」
さっき脂肪たっぷり、と言われたばかりだし、拗ねた風に言ってしまうけど。
「重くねぇよ。むしろ役得だな」
「は?」
「胸が肩に当たるしケツは目の前だし」
楽しげに言って、ヒル魔くんは私のお尻を撫でた。
「ッキャー!! やめて、下ろしてー!!」
バタバタと暴れてヒル魔くんの背中を叩いてみたけど効果なし。
「ケケケ! ヤ・ダ・ネ」
誰が見てるか判らないのに、堂々とセクハラされるなんて!
私は真っ赤な顔でしばらくジタバタと手足を藻掻かせたのだった。

日暮れは早い。
冬至はとうに過ぎてまた日が延び始めていると言われても、全然そんな気にならない。
あっという間に落ちていく太陽を名残惜しく見つめていたら、不意に唇に冷たい感触。
キスされた。
「な!」
「塩ッ辛ェ」
べ、と舌を出すヒル魔くんに、私は真っ赤になって叫んだ。じょ、情緒も何もあったもんじゃないわ!
「なーっ?! な、なに、な・・・!」
それにヒル魔くんは平然と言う。
「嫌だったか」
「え、いや、そうじゃないけど!」
「じゃあいいだろ」
「そ、そうじゃな・・・」
そう言うことを言いたいんじゃなくて、と言いつのろうとしたら更にもう一回。
「ひどーい!!」
「ア? 何が」
「だっ・・・こ、こんな、不意打ち、みたいな・・・!」
それにヒル魔くんがぴん、と片眉を上げる。
「今のシチュエーションに何かご不満でも?」
海辺、二人きり、夕暮れ、私たちは恋人同士、キスをしたのは今のが初めてでした。
・・・もしかしなくても、結構ロマンティックと呼べる状況でしょうか、私たち。
そう気づいたら私はまた恥ずかしくなって顔が火照ってしまう。
それを見てヒル魔くんはニヤニヤと笑っていた。


帰りも電車を乗り継ぎ、ヒル魔くんとは駅で別れ、私は一人家に帰った。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
ママは帰ってきた私を見て、小首を傾げる。
「・・・どうしたの?」
「・・・あら。変ねえ」
せっかくお祝い事かと思ったのに、と呟きながらママはキッチンへと戻っていく。
何がお祝い事なんだろう、と思って後に続くと、そこには豪勢な夕飯が並んでいる。
「なんでお赤飯?」
「だって今日デートだったんでしょう?」
質問を質問で返されてしまい、私はますます訳がわからない。
・・・デートだってばれてるってことは学校をさぼっちゃったこともばれてるけど、それについては怒ってないみたいだし。
「今日の出掛ける準備はしてたけどチョコレートもその他のお菓子も作る気配がないし、てっきりそうかと思ったのよ」
「え? お菓子? なんで?」
それにママはひょい、とカレンダーを指さしたので、私もそれを見て。
そのまま私は固まっちゃった。

私は階段を駆け上がり、自室に籠もって電話を掛けた。相手は勿論ヒル魔くんだ。
そんなに待たずにヒル魔くんは電話に出た。
「ちょっとヒル魔くん!? なんで言わないのよ!!」
『ア? 何が』
電話越しに聞こえる声が面倒そうだ。これは絶対判ってる、そういう声。
「今日のこと! 今日バレンタインだったのよ、せっかくデートだったのに!!」
『糞製菓会社の煽り文句に踊らされなくて結構じゃねぇか』
「なんで?!」
『テメェな、俺が糞甘臭ェもんが大ッッッッ嫌ェなの知ってるだろ』
「うん、匂いでも嫌だっていうことは重々知って・・・あ!」
そこで私ははっと気づいた。
「もしかして、今日バレンタインデーだから学校に行きたくなかったの!?」
きっと今日はそこかしこに甘い物が溢れ、それはそれは濃厚なチョコレートの匂いが漂った事だろう。
今の季節は街中も甘い匂いで満ちている。そんな場所にヒル魔くんが黙っているわけもない。
『ご名答』
甘い匂いが届かない場所、というのならあの水族館も海辺も最適だっただろう。
あっさりした言葉に私はすっごくショックを受けた。
「・・・単に自分が甘い匂いのないところでサボりたいだけだったんじゃない!! ヒル魔くんのバカ!!」
じわ、と涙が浮かんだ。声にもそれが滲んだのが判って、通話を悔しさそのままに切ろうとした瞬間。
電話の向こう側で呆れたようなため息が聞こえた。
『テメェの頭は飾りか、糞単細胞』
「な!」
『俺が誘わなかったら、テメェは世間の流れに乗って糞甘臭ェ代物持って学校に行っただろうナァ』
「勿論、そうよ」
どんな格好をするか、どこに行くのか、それに気を取られていてすっかり抜け落ちたイベント事。
誘いがなかったら、きっと食べて貰えないだろうけどチョコレートを用意したとは思う。
『そこで俺がいないと気づいたらどうした?』
「・・・・・・」
想像する。
意気揚々と受け取って貰えるかどうか判らないけど用意したお菓子を持ってヒル魔くんを捜して、でも見つからなくて。きっとすごく落ち込んだ、だろう。
『ショックで重大事件の糞被害者みてぇな有様になんだろうナァ』
「・・・・・・」
『で、テメェは俺に愛されてないとかいろんな糞被害妄想ばっかり膨らませて自滅、と』
「・・・うう・・・」
反論出来ない。
実際そういう風に動きそうな自分を自覚してるから。
さすがヒル魔くん、私の事をよくご存じで。
『そんなんだったら二人で出掛けた方がマシだろ』
「うん・・・」
段々落ち着いてきた。
それでもバレンタインデーらしいことが出来なかった事が残念で仕方ないのは変わらない。
「でも、何かヒル魔くんにあげれば良かった。今日は全部奢ってもらっちゃったし」
『テメェの母親には深読みされてたみてぇだけどナァ』
「!? な、なんで知ってるの?!」
『この日にめかし込んだ娘が上手くもない嘘付いて学校さぼるの見て気づかない訳がねぇだろ』
「ええー!?」
焦る私にヒル魔くんは笑いを含んだ声で告げた。
『アメリカじゃ男から女にプレゼントすんのが一般的だからナァ』
気にするな、という言葉に私は瞬きする。
「あ、そっか。じゃあ今日のデートがヒル魔くんからのプレゼント、ってことでいいの?」
『まーな。というわけで、ソレはホワイトデーの返礼でもいいぜ』
「それ? え、何?」
何? と小首を傾げたけど、ヒル魔くんには見えないよね。
電話口からヒル魔くんが教えてやろうか、というのに私は素直にうん、と返して。
そうして聞こえてきたのは。
『まもり』
「っ!!??」
不意に低く囁かれた名前に、私は思わず携帯を放り投げてしまった。
宙を舞ったそれから楽しげに笑い声が響いた後、挨拶もなくぷつんと通話が途切れてしまう。
それでもしばらく私は携帯に手を触れる事さえできなかった。
たった一言なのに、耳に張り付いてしまったかのように、ヒル魔くんの声が響いてる。
低く囁かれた私の名前。
それはまるで魔法のように私の心臓を一瞬にして止めてしまいそうだった。


***
nene様リクエスト『海辺で甘々なヒルまも』でした。当社比二倍くらいの甘い感じでがんばってみましたがどうでしょう。砂浜の増量には繋がったでしょうか。時季はずれですが書いた事のなかったバレンタインデーネタも混ぜてみました。まもりちゃんがバレンタインデーを忘れるわけないとは思いつつも楽しく書かせて頂きました♪表でも裏でも、ということだったので今回表ですが、他に頂いている裏希望のお題とつなげて書こうと思ってるので、よろしくお付き合いくださいませ♪
リクエストありがとうございましたー!!

nene様のみお持ち帰り可。
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無題
御無沙汰です。自分のリクエストがこんな素敵な小説になているのが今も感動しています。何度読んでもいいですね。海で冬の設定にやられたって感じです。
今連載されている長編もどうなるかはらはらしています。だんだん寒くなってきます、御自愛してくださいね。
nene 2009/09/20(Sun)00:47 編集
無題
鳥さん、ありがとうございました。出かけていたので本日読ませていただきました。へろへろで帰ってきてこんな素敵なお話が待っていたので興奮して寝れそうにないです!実生活で潤いがないので鳥さんのお話で潤いチャージ!てな感じです。
それにしても、毎日更新されていて、頭が下がります。今後もちょくちょくお邪魔させて頂きます。ありがとうございました。
nene 2008/09/28(Sun)23:47 編集
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鳥(とり)
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ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。

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閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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