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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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八咫烏

(ヒルまも軍人シリーズ)

※『仏頂面な彼女』の後くらいです

+ + + + + + + + + +
軍隊にあって、女はとかく異端だ。
まず男より力も弱いし、情に流されやすい。
それでも武官であればそこらの男顔負けに鍛えているが、彼女は文官だった。
どう見ても戦いには向いていない。
ましてや部下との間がうまくいってないとあれば、誰もがなぜこのポストに彼女が、と首を傾げるだろう。
・・・実際、一番『何故』と尋ねたいのは他ならない姉崎まもり元帥自身だった。

「し、失礼しましたッ!」
悲鳴を上げて逃げ出す部下を、まもりは一瞥して自席へ戻った。
ヒル魔の副官になってから、お飾りの時とは違った実務的な事務処理が増えていた。
当然今まで本だけ読んで作戦を作っていればよかったのが、それだけではすまなくなっていた。
大量に回ってくる決裁文書はヒル魔の後まもりに渡る。官位だけで言えば順当なのだが、なんとなく面倒だ。
自然と人の流れというのが出来てしまって、今まで開かずの扉状態だった入り口のドアは堂々と開閉を繰り返す。
まもりの今まで閉じていた、静かな生活というのが遠くなってしまった。
「おーおー、何部下イジメてんだ?」
「あなたじゃあるまいし、何もしていません」
ニヤニヤと笑うヒル魔の出現にも、まもりはちらりと視線を投げただけだ。
やや乱雑に積まれた書類を彼の前に出す。
「ア?」
「お返しします」
「決裁が終わったなら置いとけよ。別の奴が取りに来るだろ」
それにまもりは眉を寄せた。
「却下です。こんな伝票は認められません」
まもりが返却したのは、銃の購入費用に混ぜ込んだ食料品―――簡単に言えば嗜好品の数々についての伝票だ。
「細けぇな。俺が通したんだ、そのまま判子押せ」
「嫌です。ちゃんと用途を説明できなければ返却です」
軍費はどこから出てると思ってるんですか、血税ですよ! という説教にヒル魔は面倒そうに舌打ちした。
「テメェ貴族のくせして妙に金に細けぇな」
「当たり前です。これだけのお金があれば本が4冊は買えるんですよ」
「アァ?!」
ヒル魔の呆れた声に、まもりはぺらぺらと伝票の金額を見つめる。
「あの戦術書と・・・地形図と・・・軍歴と・・・推理小説・・・」
少々ウットリしたまもりの声にヒル魔が鋭く突っ込んだ。
「おい、最後の推理小説は関係ねぇだろ」
「私が個人的に買うなら、です。とにかく食料については項目も違いますし用途も軍事とは関係ないですから、却下します」
それに片眉を上げたヒル魔はおもむろに何かを取り出した。細く、小さい何か。
「なんだと思う、姉崎」
訝しげなまもりの前でひらりと晒されたそれは・・・彼女の決裁印。まもりの目が見開かれる。
ヒル魔はにやりと笑うとそれを返された書類にほいほいとリズミカルに押してしまった。
「あーっ!! なにやってるんですか!」
「返す」
ひょい、と投げ返されてまもりは慌てて引き出しを開く。
そこには自分の印鑑はなくて、確かにこれが決裁印だった。
全く、いつの間に持ち出したのか。
「・・・自分で押すなら私の決裁なんていらないでしょう!」
怒るまもりに、ヒル魔はにやにやと笑うばかり。
「テメェが書類ばっかり見てるからだ。ちゃーんと部下見てりゃ、この伝票くれぇで目くじら立てねぇぞ」
「・・・」
まもりがむっと眉を寄せてヒル魔を睨め付ける。確かにここに就任してからもまもりは相変わらず本の虫で、外になど出ない。
一度彼女の作戦が実行されるところに行ったけれど、今のところ出陣要請がないためあれ以来戦場にも出ていない。
今のところ部下との接点は書類を持ってくる数人のみに留まっていた。・・・あとヒル魔が来るくらいで。
「部下イジメてんのはどっちかナァ?」
性質悪く笑うヒル魔に、まもりは盛大に眉を寄せ、明日にでも隊の様子を見に行こう、と決めた。

爽やかな朝日の中、まもりはこっそりと隊舎内を歩いていた。
別にこっそりする必要はないのだが、ヒル魔に言われたとおり見て回るのが癪に障るから。
早朝にもかかわらず、訓練場は熱気に包まれていた。
ドアの隙間からまもりは中の様子を伺う。
剣を練習する者、投げナイフを練習する者、短銃を構える者、槍を構える者・・・。
通常は単一の武器を使う者を纏めて一個隊とし、戦うのが常識的戦略といわれているが、この隊は違っていた。
彼らはそれぞれの隊からつまはじきにされてこちらにやって来た者たちで、半端と言われる技能しかないはず。
けれど彼らは押しつけではなくそれぞれの特性に合った武器を選び、研鑽している。
熱心に、そして何より楽しそうに過ごす面々の顔がイキイキとしていた。
自分の前では怯えたようにかしこまる部下たちがしゃんと背筋を伸ばし、真剣に話し合っている。
そこに反対側の入り口からヒル魔がやって来た。
彼は銃ではなく剣を携えており、珍しい姿にまもりは目を丸くする。
「手合わせしてやろう」
「おっしゃあああ! 俺一番!!」
「あっ、畜生! 俺二番!!」
「じゃあ俺三番」
わいわいと名乗りを上げる部下達は、確か一番手が名を黒木、二番手が戸叶といったはずだ。
三番手になった十文字と合わせて三兄弟と呼ばれている。
彼らはがんじがらめの軍則に耐えられず堕落した面々だったはずだが、今は違うのか。
重量のある大剣を構える黒木に対して、ヒル魔が持っているのは随分と細い。
どちらも模造剣だが、当たれば当然怪我はする。
審判を買って出たムサシが声を掛けた。
「始め!」
「どりゃあああ!!」
「ケケケ、叫べばいいってもんじゃねぇぞ!」
かけ声と共に突っ込んでいく黒木にヒル魔は防戦一方だ。
一気にやれ、叩きつぶせ、悪魔を倒せ、だのヤジが酷い。
普段なら眉を寄せて倦厭する騒々しい場所にも関わらず、まもりは目を離せなかった。
ヒル魔の動きがまるで剣舞でもしているかのように滑らかだったから。
黒木は大剣を使っていても相当動きが早かった。彼の特性によく合っているのだろう。
それでもヒル魔は一瞬の隙をついてするりと彼を避け、剣の柄で彼の脳天に一撃喰らわせる。
「がっ!!」
くらりと脳震盪を起こしたらしい黒木が膝をつく。
「勝負あり!」
ムサシが止めるのを見て、十文字が黒木に近寄って肩を貸す。
ヒル魔がその背に声を掛けた。
「糞タラ口、あんなに大振りしてりゃ避けられるに決まってんだろ! もっと考えやがれ!」
「う~~、スピード上がったからいけるかと思ったのにィ・・・」
「ああもう寝てろ、お前」
十文字が黒木を横たえる後ろでヒル魔が声を上げる。
「次!」
「でやあああ!」
彼は息一つ乱さず、次の戸叶の相手を始める。
その姿はまるで人ではない、別の生き物・・・そう、烏のようだった。
はるか東方の国では、金色に輝く烏がいるのだという。
彼はまさにそれではないか。
よく見れば彼の持つ剣も東方の『刀』によく似ている。
誰にも囚われない、金色の烏。
神々の使いだと言われるそれの如く人を近寄らせない存在。
適当なところで一旦休憩を挟むらしく、そこでいそいそと栗田が食べ物やら飲み物やらを用意する。
それを口にしながら隊員達はまた戦い方の話に夢中になっている。
なるほど、これが必要だと言った訳か。
まもりは輪の中心で甘い物を寄越した隊員を足蹴にしているヒル魔を見る。
その様子を見る隊員達は声を上げながらも楽しげで。
戦うときは手の届かないところの生き物のようなのに、今は誰よりも人の輪の中にいて。
―――自分とは大違いだ。
まもりはきゅ、と唇を咬んでその場を立ち去ろうとして。
ヒル魔と視線が合って固まった。
彼は『ホレ見た事か』というような表情で、にやりと口角を上げる。
まもりは怒りに眉を寄せながら自室へと戻ったのだった。

・・・その胸に浮かんだ感情をもてあましながら。

午後、部屋に部下がまた書類を携えてやって来た。
「あの、姉崎大佐、決裁をお願いします・・・」
朝方はイキイキと動いていた部下の一人、セナが上目遣いにこちらを伺っていた。
まもりはじっと彼を見る。萎縮した姿は朝とは別人のようだ。
「あ、あの・・・」
す、と差し出された手に躊躇いながらセナはその書類を渡す。
今までは机の端に置け、という仕草だけだったのに。
まもりはその書類をざっと見て、それからおもむろに判子を取り出した。
「え、あの・・・」
「何か問題が?」
戸惑うセナに、まもりの涼やかな声が問う。
それに滅相もない、と首を振りながら、すぐ返却された書類を受け取る。
今までなら伝票を見るたびに眉を寄せ、不機嫌そうにその場に留め置いてすぐ退室を促されたのに、今日は違う。
内容は昨日までと変わっていないのに、なぜだろう、とセナは首を傾げた。
退室しようにも、こちらを見て何か言いたそうなまもりに口出しできず、セナは動けない。
何か不興を買ったか、と怯えるセナにまもりは小さく嘆息した。
「私は、怒ってる訳ではありません」
「はいっ?!」
「元から表情が乏しいので、怒っているように見られるだけです」
「そ、そうなんですか?」
どもりながら答えるセナに、まもりは意識してふ、と目元を和ませた。
セナの目が見開かれる。
「ご苦労様。お行きなさい」
「はっ、はぃいいいい!!」
それにセナは顔を真っ赤にすると猛スピードで部屋を退室した。
入れ替わりにやって来たヒル魔はセナの挙動に眉を寄せている。
「また部下イジメか?」
「・・・労った、んですけど・・・」
なんで逃げられるんだろう、と当惑するまもりにヒル魔はにやりと楽しげに笑った。
まもりはそれに悔しさに似た感情を覚える。
朝方に浮かんだ感情と同じ、どろりとした醜い・・・何か。
そして聡い彼女はすぐ気が付いた。
これは、嫉妬だ。
自分にはない魅力を持ち、部下に慕われるこの男に対しての。
にやにやと楽しげなヒル魔を完全に無視して、まもりは嫉妬なんて覚える自分を恥じるようにガリガリと作戦を練りだした。
・・・誰が嫉妬なんて覚えるものか。
こんな男、なんかに。

それが全ての切っ掛けだった。

―――その嫉妬が次第に形を変えたとき、まもりはその感情に蓋をして、見ないふりをした。
ひっそりと知られないように葬り去るつもりの想いだった。
結局はそれも暴かれてしまって、今があるのだけれど。

□■□■□

***
クロネコヤマト様キリリク『軍隊シリーズ』のまもりが嫉妬でした。誰に、という指定がなかったのでここはヒル魔さんに嫉妬して貰いました。きっと色々と世間に興味のないまもりちゃんは、仮にヒル魔さんが女官と連れ立って歩いていても嫉妬どころか気にもしないという感じだろうなあ、と。良くも悪くも軍人のまもりちゃんを動かすのはヒル魔さんだけなのです。今回初の試みで、後半部分が全て裏なんですが、別に読まなくても通じます。
リクエストありがとうございましたー!!

クロネコヤマト様のみお持ち帰り可。
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