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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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プシューケー(3)/完結



+ + + + + + + + + +
部活を終えると夜はすっかり暗い。
いつものように帰路を歩いていると、後をついてくる足音。
護はいつもの帰り道を変更し、横道に逸れる。
そうして、人気のない廃工場跡までたどり着くとくるりと振り返った。
「何の用ですか?」
「・・・テメェが蛭魔護か」
見ればいかにも不良です、という外見の男がいた。
年は二十歳になるかならないかくらいだろう。
手にはきらりと光るものがある。おそらくはバタフライナイフだろう。
「どちら様でしょうか」
「どちら様かなんてテメェに関係ねぇだろ!!」
突如として荒げられた声にも護は動じた様子を見せない。
「僕にはありますよ」
「俺にはねぇんだよ! ぶっ殺す!!」
怒りに満ちた眸はぎらぎらと光って護を仕留めようとするかのようだ。
視線で人が殺せるというのなら、これは十分その威力を秘めているように思えた。
けれど。
「困ったなあ」
不意に護は笑った。にっこりと、まるで天使のように。
「救急車を呼んであげるときに、名前も知らないんじゃあね」
「・・・テメェ!!!」
小馬鹿にされたのだと気づくまでの間が、やはり愚かなのだと体現しているのに男は気づかない。
怒りに視界を赤く染めて飛びかかった男を、護は変わらず天使の笑顔で見つめていた。


護が帰宅すると、今日はまもりが出迎えた。
「遅かったのねえ」
「うん。ミーティングの後部長と話してたら遅くなってさ」
護は応じてまもりの隣を通り抜けようとしたが。
「あら? 護、顔・・・」
「え?」
「これ、血?」
護が頬に触れる。茶色く乾いた塊に、護は眉をひそめた。
「どこでついたんだろう」
「護のじゃないの?」
「僕は怪我なんてしてないよ。見る?」
脱ごうか、なんて言う護にまもりは肩をすくめる。
じっと彼を見ていたが不意に微笑んだ。
「喧嘩はしてもいいけど、怪我には気をつけるのよ」
「喧嘩しちゃダメ、じゃないの?」
「男の子だもの、喧嘩くらい当たり前でしょ」
でも弱い者いじめはダメなのよ、そう言うまもりに護は笑みを浮かべる。
「そうだね。顔洗って来る」
「じゃあ夕飯用意しておくわ」
護は洗面台の鏡を覗き込み、自らの頬に飛んだ血をこそげ落とす。
僅かに細められた眸には酷薄な光が宿っていたが。
顔と共にそんな気配を洗い流し、護は何食わぬ顔で自室へと戻った。

どこか遠くで、救急車のサイレンが聞こえた。


夜半。
護の部屋にヒル魔が顔を出した。
「おい」
「何?」
そう言いながらも護は父が何を言うかは想像がついていた。
「ハメ外しすぎるな、っつったろ」
「そうかな」
護はにっこりと笑う。けれどヒル魔はこの顔に騙されるようなことなどない。
「やりすぎだ」
「治れば普通に生活できるよ」
「怪我以上に精神的にヤッちまってんじゃねぇか」
「それは仕方ないよ。あんまり柔なんだもの」
ヒル魔は眉を寄せ、舌打ちする。
「ったく、質の悪ィ奴だな」
「お父さんにそう言われるなんて僕も成長したね」
動じない彼に、ヒル魔は険しい顔になる。
「・・・テメェの素行があんまりヒデェようならこっちにも考えがある」
「何?」
「糞カメレオンの娘・・・あいつの学校は寮もあったなァ?」
「芽衣に何かするつもり?」
護の表情が少し動いた。
それだけでかなりの動揺を示すことになるのだと、彼は気づかない。
まだ幼いと呼べる護を、ヒル魔はじっと見つめる。
「使い捨てができねぇモノの方が多いって事くらい分かるだろうが」
「まあね」
「俺に余計な手出しさせねぇためにも、テメェは少し自重しろ」
「はーい」
苦言に護は軽く頷いて見せた。
それが見せかけよりずっと真面目であることはヒル魔には一目瞭然だ。
話は終わったとばかり、護はくるりと机に向かう。
そこにあるパソコンに表示されている内容は、やはりろくなモノじゃなかった。

ヒル魔は苦々しい気持ちのまま部屋を後にする。
全く、嫌になるくらい自分に似ている、と内心ぼやく。
護にとっての糞カメレオンの娘が、自分にとっての姉崎たり得るのか未だ疑問ではあるが。
早く、そういう相手を見つけて欲しいものだと切実に思わせられた。


蛭魔護。
その本性を知る者は数少ない。
夜よりなお昏い闇を抱えて、彼は今日も天使の顔で、嗤う。



***
ブラック護を見たい! というメッセージをいただいてからちょっと書きたくなりました。
本当にこの子、質が悪すぎる(笑)栗田ムサシコンビに出会わないままのヒル魔さんが成長していったら、こんな風になっていったんじゃないかという気持ちもあります。
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