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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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デビルズフィーバー(下)


+ + + + + + + + + +
買い物を終えて戻ってみれば彼は浅い呼吸を繰り返して眠っていた。
ヒル魔が眠るのを見るのは初めてだった。
氷を栓した洗面台にがらがらと入れ、水を満たす。
冷たい水にタオルを浸して、私は些か不慣れな手つきでタオルを絞った。
自宅では妻が、職場では若手の社員が雑巾を絞るのを見るくらいで、自分がやるのは本当に久しぶりだ。
そうして私はそれを適当な大きさに畳もうとして。
「・・・う」
ベッドの方から聞こえてきた低いうめき声にひくりと肩を動かす。
今、このタオルを広げたまま彼の顔の上に置いたら。
窒息、するかもしれない。
そんな風に考えた後、私は激しく頭を振った。
いくら憎たらしくったって、気に喰わなくったって、一応コイツは人間だ。
そうして娘の夫でもある。
悪魔じみて実際やることなすこと悪魔な所業の癖に、義理の父母である私たち夫婦には細やかな気遣いを欠かさない。
世間的に言えば理想的な婿なのだろう。多分。
そうして彼が弱っているのだから、私が面倒を見るのはなんらおかしいことはない。
うん、おかしくない。
・・・はずだ、多分。
「百面相ヘッドバンキングかます前にそのよく絞れてねぇタオル寄越してくれまセンカネ」
「病人は黙ってなさい!!」
寝起きの上苦しい息の下だろうに、一言以上余計なことを一息に言う彼の顔目掛けて思い切り投げたタオルは、あっけなく悪魔の手に掴み取られる。
自分でさっさとタオルを畳みなおし、ひょいと額に乗せた彼はふう、と嘆息して枕に頭を預けた。

ヒル魔はおとなしく横たわり、時折スポーツドリンクに口をつけてひたすらじっとしている。
それは野生動物が体調不良を悟られないよう巣篭もりするのに似ていた。
私は手慰みに持ってきていた本を広げて読んでいたが、ふとそう思いついて口にする。
「・・・調子が悪いなら一人誰にも知られないように隠れるんだと思ってたよ」
「それもあながち間違いじゃねぇ」
独り言のつもりの呟きに返事があり、私はちらりとベッドを伺う。
「滅多にねぇけどな」
横たわった姿勢のまま、深い呼吸。
「まもりにも見せないのかね?」
「まさか。アイツは見逃さねぇよ」
にやりとあがる口角に私は内心安堵する。
とにかく自らのプライベートを秘匿する癖がある彼が、またまもりに隠し事してるのかと心配したのだ。
心配をかけたくないから、なんて体のいい理由で疎外されたことを後で知ってしまうと蟠ってしまうから。
本当に僅かなすれ違い掛け違い思い違いが決定的な亀裂を生むのだ。
と、電話の着信音。
見ればヒル魔の携帯電話が鳴っていた。
私が諌める前にヒル魔は通話ボタンを押す。
「おー。何だ?」
通話を立ち聞きするのも悪い気がしたので、外に出ようとしたのだが。
ヒル魔は私を手招く。
「今はお義父サンと一緒デスヨ」
「そう呼ぶなと言ってるだろう!」
「じゃあオジイチャン」
「もっと嫌だ!!」
その声に電話越しで笑う気配がする。
きっと本当だ、と言って笑っているのだろう。
私はヒル魔の手から携帯電話を抜き取る。彼もされるがままだ。
「もしもし」
『ああ、よかった。お父さんがヒル魔くんと一緒で』
安堵したようなまもりの声に私は首をかしげる。
「何がよかったんだい?」
『ヒル魔くん、熱が出てる声してたから、お父さんと一緒なら心強いかなって』
「え・・・」
私が見れば、ヒル魔はもうベッドに横たわっていた。
けれど話は聞こえていたのだろう。
どこかばつが悪そうに舌打ちしている。
意地っ張りでわかりづらいだろうけど、やっぱりヒル魔くんも熱には弱いみたいなのよ、とまもりは続ける。
『だからお父さんがヒル魔くんの側にいてくれて心強いと思うの。ほら、敵も多いから』
「私も敵の一人だよ」
そう反論するも。
『あら。お父さんはヒル魔くんの命を狙ったり、手帳やお金や武器を狙ったりしないでしょ?』
物騒な言葉の羅列に驚き声を上げる。
「そんなことは人として当たり前だろう!」
『ほらね、それじゃヒル魔くんにとっては敵なんかじゃないわ。れっきとした味方、よ』
通話口の向こうで、軽やかに娘に笑われてしまう。
『それじゃあお父さん、フライト気をつけてね。お母さんとアヤとヒル魔くん似のおなかの子と一緒に待ってます』
「気合でお腹の子はまもりに似せなさい!」
そんなの無理よう、そう苦笑してまもりは通話を打ち切った。
ヒル魔に戻せ、と言わなかったのは彼の不調を悟ってだろう。
「君の仕事はどうなっているんだい?」
そのヒル魔に電話を返しながら尋ねれば、もう終わったと短い声。
「では一緒に日本に帰れるね」
チケットは、と重ねて尋ねれば彼はひらりと手帳を振る。私は嘆息して携帯電話を取り出した。


悪魔のようでちゃんと人間で、一応は弱みも見せてくれるようになったらしい義理の息子のチケットを用意するために。


***
以前呟きがあったのを思い出して書いてみました。まもパパをからかって怒らせるのが私も楽しいです。
ヒル魔さんにとって、隙を見せてもつけこむ方に至らないまもパパの側は居心地が良いようです。
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