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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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苛烈なる契約

(ヒルまもパロ)
※茶室ギャラリーに掲載していたSSです。

 


+ + + + + + + + + +
牛車が慌ただしく夜道を走り抜ける。
ほどなくたどり着いた屋敷の前で、一人の男がそこから降り立った。
男は乱暴な足取りで屋敷へと上がり、廊下を歩いていく。
唐突に現れた足音に何事かと慌てた女房達は、御簾越しに見えた不機嫌な姿の彼に、慌てて奥へと引っ込んだ。
彼は迷うことなく奥の部屋を目指した。

この屋敷には、一人の女性がいる。
その名を、まもりという。
彼女は色の薄い質で、産まれながらに茶色の髪と青い瞳を持っていた。
そしてその外見故に、かなりの家柄でありながら肩身の狭い思いをして成長したのだ。
裳着を済ませたかなりの家柄の貴族の娘であれば、数多くの貴族の男が歌や文を送っては気を引こうとし、通い詰めるだろう。
けれど彼女の場合は裳着を済ませても、産まれながらに色彩が鬼のようであると噂され、誰の足も向かなかった。
更にこれ以上の外聞が悪くなるのを恐れた両親の手により、まもりは屋敷の奥深くで、ほとんど幽閉状態の生活を強いられることになった。
もはや、まもりは己の髪も目も、何もかもを厭って生きていた。
このまま、誰にも好かれることなく死んでしまうのか、という絶望的な気持ちさえ抱いていた。

あの日、一羽の鳥が彼女の元を訪れるまでは。

その鳥を飛ばした男の名は蛭魔妖一。
稀代の陰陽師である。
彼は狐の母を持つという異端児で、その証のように髪は金色、耳は尖り牙があるという外見だ。
けれどその術は他の追随を許さず、外見を理由に侮り、蹴落とそうとする者たちはことごとく返り討ちにしてきた。
人々は彼を敬うと同時にひどく恐れ、遠巻きに見つめていた。
彼と個人的に親しくなるような者はおらず、彼自身も人々と過剰な接触を避けていた。
怜悧な外見は異様な色彩も相俟って、彼自身感情など存在しないのだろうと誰もが噂した。
そんな彼が、自らのように鬼だと噂されるほどの女がどれほどの者かと、ほんの僅かな好奇心で式神の鳥を飛ばした。

―――鬼だと噂された女は、生気のない顔をしていたが、それはそれは美しかった。
ただ色が僅かに違うだけで鬼だと嘲るには、あまりにも惜しいその姿。
興味を惹かれ、直接己の目で見つめようと、彼はまもりの元を訪れた。
ただでさえろくでもない噂が立っている娘の元に、やって来たのがこれまた稀代の異端児。
難色を示す家に見切りを付け、彼はあっさりと彼女を浚い、自らの屋敷へと連れ帰った。


そうして。
互いに惹かれ合うようになり、思いを通じ合わせるまでにさほど時は掛からず。
二人は世間の喧噪から隔絶した屋敷で、柔らかく幸せな時を過ごしていた。

けれど、幸せは長く続かなかった。
生来薄い色彩を持つ彼女は人として、ひどく脆弱だった。
更に人外の血が混ざったヒル魔との関係は、彼女の命を目に見えて削り取っていく。
指の隙間から零れ続ける砂のように、さらさらと。
彼女の命は、もはや風前の灯火だった。


乱暴に御簾を上げて足を踏み入れ、その名を呼ぶ。
「まもり」
「・・・妖一様」
床に横たわり、弱々しく見上げる彼女にヒル魔はきつく眉を寄せる。
それでも笑みを浮かべようとするのを制止し、ヒル魔は彼女の傍らに座る。
「覚悟は、決まったか」
その声に、まもりは一度瞳を閉じ、そして再び開いた。
「妖一様、は、それでよいのですか・・・?」
青い瞳を見つめ、ヒル魔はゆるりと口角を上げる。
「本当は・・・俺はお前が拒否しても、こうするつもりだった」
けれどどうせならば同意が欲しい、という彼の言葉にまもりは自然と笑顔になる。
「それならば・・・お願い、いたします」
彼女はヒル魔に手を伸ばす。
その手を取り、ヒル魔は何かを唱えながら彼女の唇に己のそれをそっと触れさせた。
途端に二人の身体を巡るのは、言い表せられないくらいのひどい苦痛だった。
生きながらにして炎に焼かれているかのような錯覚にヒル魔の眸が眇められる。
まもりの指がヒル魔の手に食い込む。
苦痛から無意識に逃れようと、もう片方の手が彼の頬を引っ掻いたが、それでもヒル魔は離れることはなく。
永遠に続くような苦痛を越えて、その唇が離れたとき。
ヒル魔の耳には二連の輪が両耳に。
まもりの耳も獣じみて伸び、やはり同様に二連の輪が現れていた。
それは、二人を繋ぐ証。
「これでテメェと俺は一心同体だ」
彼女の失いかけた命をつなぎ止めるために彼がとった方法は、彼女を使い魔として使役するための契約だった。
それは彼と命を共にするための、あまりに苛烈な約束。
稀代の陰陽師であるからこそ成り立つ、人知を越えた関係だった。
「もう、離れることは出来ねぇぞ」
まもりは心身共に自らの主となった彼を見つめた。
その瞳は変わらず、青いまま。
「それは・・・とても、幸せなこと、です」
先ほどまでの弱々しさが失せ、瑞々しい生命力に溢れる全身ごと、ヒル魔の胸に飛び込む。
彼もまた、その額に慈しむように唇を落とし、彼女を掻き抱いたのだった。


***
茶室のギャラリーには素敵イラストも掲載されていますのでごらんになれる方はそちらも是非w
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