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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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花霞

(軍人シリーズ)
※二人の馴れ初め話。


+ + + + + + + + + +
はらはらと桜が舞うのを、ふとヒル魔は見上げた。
空は吸い込まれそうに晴れ渡り、桜の花びらはその中で光り輝くように見えた。


一足早く空に手を伸ばす白木蓮がほろほろと花びらを散らせる頃、桜の花が咲き出す。
ヒル魔は感慨もなく学舎の廊下を歩いていた。
頭脳明晰で飛び抜けた頭脳と抜群の射撃の腕を買われて、学生でありながら既に士官状態の彼はぬるま湯のような日常にはもう馴染めなかった。
戦場では常に生きるか死ぬかの日々をくぐり抜けていたから、たかが訓練で一喜一憂したり愚痴を言うような未だ幼い面々とは話が合うはずもない。
だから彼は学舎では常に一人で行動していた。
今日も退屈な戦術講釈を抜け出し、独自で学ぶためにすっかり巣穴のようにしている図書室へと向かおうとしたとき。
ふと、視界で何かが動いた。
反射的にそちらを見つめれば、桜の花の下でうずくまる人影。
「・・・?」
天気は晴れ、桜は満開、日差しは暖かいが風が少々冷たい。
ひなたぼっこだろうか、と思うが、すぐに違うと知れた。
人影は日向にいる訳ではなく木の根元にできた木陰で熱心に何かの本を読んでいるのだ。
ヒル魔の視力は大変良い。
じっと目をこらすと、それが小さい人影であることが知れた。
「女?」
ここは士官学校、女は数こそ少ないが多少は存在する。
けれど今は授業中、こんな時間にあんな場所にいられる女で学生などいるだろうか。
そこまで考えてヒル魔ははたと気が付いた。
いる。
一人、ヒル魔の二学年上に突拍子もない変人の女がいるのだと聞いたことがある。
貴族の女でありながら士官学校に通い、専ら本ばかり読んでいるのだとか。
軍に入れば将来の役職は家柄故に約束されているが、その前にどこかに嫁いで消えるだろうというのが周囲の見解だ。
引きこもりの本の虫という彼女を見かけることはほとんどない。
彼女については謎に包まれている部分があまりに多かった。
ヒル魔は改めて彼女を検分した。着ているのはヒル魔と同じ制服で、傍らには分厚い本が積まれている。
肩より少し下くらいに伸びた茶色の髪がその顔を覆っていてよく見えない。
士官学校は年齢も境遇もまちまちの者たちが集うから、彼女の学年が上でも年が上とは限らないが、年はそう変わらないような気がする。
その時、風が吹いた。
桜の枝が揺れ、一瞬日差しが彼女の顔を射る。
それに眉を寄せて彼女が顔を上げたのだ。
「!」
ヒル魔は思わず息を呑む。
こんな環境でお目に掛かるとは思わない程の、絶世の美少女。
遠くからでは良く見えないが、その眸も色素が薄いように感じる。
思わずそちらに足を向けた。
さくさくと乾いた土を踏みしめて近寄る彼に気づいたのか、彼女が顔をヒル魔に向ける。
遠目より間近で見るとその美しさが本物だとよく判った。
真っ白な肌、整った顔立ち、その中でも知的な青い瞳が彼をじっと見上げている。
「よお」
「どうも」
そんな美少女なのに、口調は酷く素っ気ない。
「なんでンなトコで本読んでんだ?」
「桜が綺麗だったので」
「本読むのに景色が必要か?」
ヒル魔の声に、彼女は表情も変えず桜に視線を移した。
「情緒がないと本を読んでも楽しくないんですよ」
「情緒?」
軍隊に似つかわしくない言葉に、ヒル魔はぴんと片眉を上げる。
彼女はそんなヒル魔に気づいているのかいないのか、更に言葉を続ける。
「軍隊が何で出来ているのかはご存じでしょう」
「糞腹黒お偉方共のゲームの駒だろ」
わざと悪ぶってそう言えば、彼女は幽かに口角を上げた。
「その素材は人です」
とん、と彼女は背後の幹に瀬を預ける。
「人の心を失った連中に作戦など立てられない」
手にした本は戦術の本だった。それも相当難度の高い代物だ。
澄んだ青い瞳が舞い散る桜を映し出す。
着ている物は色気も素っ気もない制服、化粧気も色気もないナリの女。
「ここはこの学校で一番桜が綺麗なところなんですよ」
まるで歌うように呟く彼女に、ヒル魔は目を奪われる。
こんなことは初めてだった。
「・・・そうだな」
ヒル魔は桜を見たが、眸に焼き付いたのはそこからの景色ではなく。
青い瞳に映ったひらひらと白い、花びら。
「貴方にも情緒はありますか?」
それにヒル魔は口角を上げた。
「ああ」
自分にはそんなものは無いと思っていたが、そうでもないようだと自覚する。
「ではそれをお忘れなく。味方で共に戦うのは人、敵も人なんですから」
ひらりと手を振って、それを合図に彼女は再び本の世界に戻ったようだった。
茶色の髪に幾つもの花びらが纏い付いている。
そんな彼女の姿をもう一度眺め、ヒル魔は踵を返した。


「あ、大将こちらでしたか」
「ア?」
振り返ればそこには姉崎元帥の姿。
どうやら彼女自ら彼を捜していたらしい。
「備品整理をしている後方部隊が、最終廃棄を行うので立ち会いをお願いしたいと言ってます」
「テメェがやれ」
「私じゃ武器の処遇がよく判らないんですよ。特に貴方の銃器が多すぎて部下が混乱してるんです」
「チッ、糞雑魚どもめ」
舌打ちするヒル魔にまもりはやれやれと肩をすくめる。
「それじゃお願いしますね」
本当にそれだけを言いに来たらしいまもりを見ていたヒル魔は、不意に手を伸ばして彼女の腕を捕まえる。
「何ですか?」
「頭」
「え?」
すい、と彼女の髪に絡んだ白い花びらをつまみ上げる。
「ああ・・・窓が開いていたから、入り込んだんですね」
薄く笑みを浮かべる彼女に、ヒル魔は笑みを浮かべた。
「桜、っつーとテメェが花びらまみれになってる格好が浮かぶな」
怪訝そうにまもりが小首を傾げる。
「まみれるほどの格好をお見せした覚えはありませんけど」
「まみれてたぜ。士官学校時代、テメェ桜の木の下で読書してたじゃねぇか」
あの頃から本の虫なのはホント変わらねぇよな、とヒル魔は笑う。
「昔は確かにあそこで読書してましたけど・・・」
「案外記憶力ねぇんだな」
まもりはそんな彼に眉をつり上げる。
「失敬な! 確かにあそこで読書していたときに声を掛けてきた子が一人いましたけ、・・・ど・・・・」
「けど?」
にやにやと笑うヒル魔を、まもりは遠慮無く上から下まで見つめた。
それこそ穴が空くんじゃないか、と思う程。
「だって! あの時の子は、黒髪で、小さくて、かわいかっ・・・」
動揺にまもりは言葉を途切れさせてしまう。
「今だって俺はカワイインデスヨ」
ケケケ、と声を上げて笑うヒル魔に、まもりの顔が盛大に引きつった。

***
軍人二人の馴れ初め話でした。
まもりはもっと後に出会ったと思っていたのですが実は学生の頃に既に出会っていたのですw
実はヒル魔さん一目惚れ?(笑)
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