旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
ざわざわと混雑する喫茶店の中。
まもりは俯き、祈るように両手を組み合わせる。
さら、とそこに長い漆黒の髪が降りかかった。
恋人同士として二人が過ごすようになってから年単位で時は経過した。
告白でも、手を繋ぐのでも、キスも、より深い関係への進展を求めたときでさえも、何もかもがまもりからだった。
彼はただ諾々と応えるだけで、彼から手を伸ばされることは一度もなかった。
最初はそれでもよかった。
ただ受け入れてもらえるだけで、幸せだと感じていられた。
けれど。
求めなければ伸ばされない腕が。
絡まない視線が。
こちらから誘っても連れ立って出掛けたがらないという事実が。
少しずつ、まもりの恋情だけで曇っている瞳を拭っていくのだ。
そうして本当は認めたくなかったけれど、近頃では彼はまるっきりまもりのことに興味がないのだ、という事実をようやっと受け止めることが出来るようになった。
デートで顔を出すまもりがどんな格好をしても、ヒル魔は無反応で。
いつもいつも、まもりはたった一言でいいから何か言って欲しい、と影ながら努力していたけれど。
―――もう、疲れてしまった。
大きな旅行鞄を傍らに、まもりはブラックコーヒーに口を付ける。
今日、この場にいることは彼女にとって一つの賭だった。
『いつもの喫茶店で待ってるから』
繋がりさえしなかった携帯電話の留守電にメッセージを吹き込み、自分の携帯電話は電源を切った状態で、彼を待つ。
まもりは髪を黒く染め、瞳を大振りのサングラスで覆い、自分の趣味とは違う洋服を身に纏っていた。
もし彼が来て、今のまもりを見つけられたらまだ想い続けよう。
けれど彼が来なかったり、来てもまもりを見つけられないのなら、その時は。
すっぱりと彼のことを諦めて、一人どこかへと旅にでも行くつもりだった。
何処へ行こうか。
犯罪者は北へと逃げる傾向があるという。
それで言えばまもりは犯罪者でもないから南へ行くのもいいかもしれない。
いっそ国外へ行こうか。
バックパッカーのように、鞄一つでさまよい歩くのもいいだろう。
今でも迷子のような状態の心だ。大差ない。
まもりの瞳が、細かな埃の舞う穏やかな室内をぼんやりと眺めた。
その瞳にちらりと横切ったのは、色ガラス越しでも鮮やかな金色。
ヒル魔だ。
不機嫌そうに細められた眸に、まもりは激しく脈打つ心臓を気取られないよう殊更平然とコーヒーを煽った。
冷めたそれは苦いばかりでちっとも美味しくないが、多少は身体の熱を下げたような気がする。
ヒル魔は視線を彷徨わせ、まもりを探しているようだった。
あのメッセージを聞いて、来てくれたという事実だけでも、まもりは嬉しくなった。
彼がまもりを探すところを初めて見た。
ヒル魔はしばし店内を見回していたが、不意に舌打ちして携帯電話を取り出し、外へと出て行ってしまった。
やはり様変わりしているまもりを見つけることは出来なかったのだろう。
それに落胆しつつも、結局はそこまでだったのだとまもりは諦めの笑みを浮かべる。
やはり恋人同士だと自惚れていたのは自分一人だったのだ。
立ち上がり、伝票を手に出口へと向かう。
精算をして扉を開ける。
と。
「下手な変装だな、姉崎」
低い声が至近距離から彼女を呼ぶ。
「?!」
慌てて視線を向ければ、そこには不機嫌そうな表情のヒル魔がいた。
「なんで・・・」
「ア? 呼び出したのはテメェだろ」
ひょい、とサングラスを奪い取られる。
露わになった瞳に、金色が眩しすぎて眉を寄せた。
「どこに行くつもりだったんだ?」
鞄に視線を向けられ、まもりは言葉を探すが、上手く説明が出来ない。
「どこか、行こうかなとは思ったけど・・・」
ふん、とヒル魔は鼻を鳴らす。
「女一人旅か。自殺志願者と勘違いされて宿泊拒否されるのがオチだな」
「なっ、そんなこと!」
「ねぇって言えるのか、そのツラで」
どんな顔をしているというのかと問いかける前に、ヒル魔はまもりの鞄を奪い取って歩き始める。
「ちょっと、私の鞄!」
返して、と伸ばした手を掴まれ、まもりは息を呑む。
今まで一度だって彼からは触れてこなかった、手が。
「ヒル魔くん、手・・・」
「俺が好きでもない女を側に置くわけねぇし、ましてやそんな奴に好きなようにさせるわけねぇだろうが」
「だ、だって! 今までヒル魔くん、一度だってそんなこと・・・・」
動揺が滲む声に、ヒル魔はすいとまもりを見つめ、そして。
「テメェは本当にくだらねぇ事考えやがるな」
淡々とした声。けれど眸は苛烈で、まもりは息を呑む。
「もう少し頭のいい女だと思ってたんだがな」
「なにそ・・・!」
言い返す前に、噛みつくようなキスに襲われた。
嵐のようなそれに瞳を見開くまもりに、ヒル魔は情欲の渦巻く眸でもって至近距離から見つめ返す。
人目も憚らないそれに身動きが取れない。
まもりは彼が今までどれだけ自分を押さえ込んでいたのか、唐突に思い知らされる。
「俺から逃げるんじゃねぇぞ」
勢いで仄かに血の滲んだまもりの唇を一舐めし、ヒル魔は低く嗤った。
「来い」
彼がまもりに自分から手を出さなかった理由は、単純にして至極深かった。
言葉などよりもよほど雄弁な視線。
まもりはぞくりと震える。
恐怖などではない。
それは、歓喜から。
***
『トヨシマ』のメジロ様との相互記念でリクエスト頂いた『黒髪姉崎さん』でした。
・・・えーなんだかとってつけたような内容で本当に申し訳ありませんです(涙)
どうにも当方のヒル魔さんはまもりちゃんを好きすぎてイタい人な気がしてなりませぬ。
メジロ様、こんな代物ですが、よろしければお納め下さい! 今後ともよろしくお願い致します♪
まもりは俯き、祈るように両手を組み合わせる。
さら、とそこに長い漆黒の髪が降りかかった。
恋人同士として二人が過ごすようになってから年単位で時は経過した。
告白でも、手を繋ぐのでも、キスも、より深い関係への進展を求めたときでさえも、何もかもがまもりからだった。
彼はただ諾々と応えるだけで、彼から手を伸ばされることは一度もなかった。
最初はそれでもよかった。
ただ受け入れてもらえるだけで、幸せだと感じていられた。
けれど。
求めなければ伸ばされない腕が。
絡まない視線が。
こちらから誘っても連れ立って出掛けたがらないという事実が。
少しずつ、まもりの恋情だけで曇っている瞳を拭っていくのだ。
そうして本当は認めたくなかったけれど、近頃では彼はまるっきりまもりのことに興味がないのだ、という事実をようやっと受け止めることが出来るようになった。
デートで顔を出すまもりがどんな格好をしても、ヒル魔は無反応で。
いつもいつも、まもりはたった一言でいいから何か言って欲しい、と影ながら努力していたけれど。
―――もう、疲れてしまった。
大きな旅行鞄を傍らに、まもりはブラックコーヒーに口を付ける。
今日、この場にいることは彼女にとって一つの賭だった。
『いつもの喫茶店で待ってるから』
繋がりさえしなかった携帯電話の留守電にメッセージを吹き込み、自分の携帯電話は電源を切った状態で、彼を待つ。
まもりは髪を黒く染め、瞳を大振りのサングラスで覆い、自分の趣味とは違う洋服を身に纏っていた。
もし彼が来て、今のまもりを見つけられたらまだ想い続けよう。
けれど彼が来なかったり、来てもまもりを見つけられないのなら、その時は。
すっぱりと彼のことを諦めて、一人どこかへと旅にでも行くつもりだった。
何処へ行こうか。
犯罪者は北へと逃げる傾向があるという。
それで言えばまもりは犯罪者でもないから南へ行くのもいいかもしれない。
いっそ国外へ行こうか。
バックパッカーのように、鞄一つでさまよい歩くのもいいだろう。
今でも迷子のような状態の心だ。大差ない。
まもりの瞳が、細かな埃の舞う穏やかな室内をぼんやりと眺めた。
その瞳にちらりと横切ったのは、色ガラス越しでも鮮やかな金色。
ヒル魔だ。
不機嫌そうに細められた眸に、まもりは激しく脈打つ心臓を気取られないよう殊更平然とコーヒーを煽った。
冷めたそれは苦いばかりでちっとも美味しくないが、多少は身体の熱を下げたような気がする。
ヒル魔は視線を彷徨わせ、まもりを探しているようだった。
あのメッセージを聞いて、来てくれたという事実だけでも、まもりは嬉しくなった。
彼がまもりを探すところを初めて見た。
ヒル魔はしばし店内を見回していたが、不意に舌打ちして携帯電話を取り出し、外へと出て行ってしまった。
やはり様変わりしているまもりを見つけることは出来なかったのだろう。
それに落胆しつつも、結局はそこまでだったのだとまもりは諦めの笑みを浮かべる。
やはり恋人同士だと自惚れていたのは自分一人だったのだ。
立ち上がり、伝票を手に出口へと向かう。
精算をして扉を開ける。
と。
「下手な変装だな、姉崎」
低い声が至近距離から彼女を呼ぶ。
「?!」
慌てて視線を向ければ、そこには不機嫌そうな表情のヒル魔がいた。
「なんで・・・」
「ア? 呼び出したのはテメェだろ」
ひょい、とサングラスを奪い取られる。
露わになった瞳に、金色が眩しすぎて眉を寄せた。
「どこに行くつもりだったんだ?」
鞄に視線を向けられ、まもりは言葉を探すが、上手く説明が出来ない。
「どこか、行こうかなとは思ったけど・・・」
ふん、とヒル魔は鼻を鳴らす。
「女一人旅か。自殺志願者と勘違いされて宿泊拒否されるのがオチだな」
「なっ、そんなこと!」
「ねぇって言えるのか、そのツラで」
どんな顔をしているというのかと問いかける前に、ヒル魔はまもりの鞄を奪い取って歩き始める。
「ちょっと、私の鞄!」
返して、と伸ばした手を掴まれ、まもりは息を呑む。
今まで一度だって彼からは触れてこなかった、手が。
「ヒル魔くん、手・・・」
「俺が好きでもない女を側に置くわけねぇし、ましてやそんな奴に好きなようにさせるわけねぇだろうが」
「だ、だって! 今までヒル魔くん、一度だってそんなこと・・・・」
動揺が滲む声に、ヒル魔はすいとまもりを見つめ、そして。
「テメェは本当にくだらねぇ事考えやがるな」
淡々とした声。けれど眸は苛烈で、まもりは息を呑む。
「もう少し頭のいい女だと思ってたんだがな」
「なにそ・・・!」
言い返す前に、噛みつくようなキスに襲われた。
嵐のようなそれに瞳を見開くまもりに、ヒル魔は情欲の渦巻く眸でもって至近距離から見つめ返す。
人目も憚らないそれに身動きが取れない。
まもりは彼が今までどれだけ自分を押さえ込んでいたのか、唐突に思い知らされる。
「俺から逃げるんじゃねぇぞ」
勢いで仄かに血の滲んだまもりの唇を一舐めし、ヒル魔は低く嗤った。
「来い」
彼がまもりに自分から手を出さなかった理由は、単純にして至極深かった。
言葉などよりもよほど雄弁な視線。
まもりはぞくりと震える。
恐怖などではない。
それは、歓喜から。
***
『トヨシマ』のメジロ様との相互記念でリクエスト頂いた『黒髪姉崎さん』でした。
・・・えーなんだかとってつけたような内容で本当に申し訳ありませんです(涙)
どうにも当方のヒル魔さんはまもりちゃんを好きすぎてイタい人な気がしてなりませぬ。
メジロ様、こんな代物ですが、よろしければお納め下さい! 今後ともよろしくお願い致します♪
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鳥(とり)
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性別:
女性
趣味:
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自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
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