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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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碧き浄天眼(4)



+ + + + + + + + + +
なんとなくテレビを見たりしながらだらだらと過ごし、どうにか夜と呼べる時間になってからまもりは携帯電話を取り出した。
「ええと・・・」
電話帳を見てみると、見慣れた名前と見知らぬ名前とが混在している。
とりあえず家族へ電話だろう。
ドキドキしながら電話を掛ける。
『はい、もしもし』
「あ、お母さん?」
聞き慣れた声に、ほっと息をつきながらまもりは尋ねる。
『まもり? あなた、記憶喪失になったんですって?』
「え、聞いてるの?」
『よ・・・ヒル魔くんが連絡くれたのよ。交通事故に遭ったって聞いて、お母さん吃驚しちゃった』
でも怪我は酷くないんですって? 頭は痛くない? と矢継ぎ早に尋ねられ、まもりは返答しつつも母の姿を思い浮かべて笑顔になる。
「私、今25才なんですってね」
『そうよ』
「私の高校から今までの記憶に繋がるような物って何か残ってない?」
『そう考えて私も探したんだけれど、あなたもう綺麗サッパリ片づけちゃってて、アルバムも残ってないわよ』
「何も? 写真も?」
『ええ、何も』
まもりはそれに少しばかり疑問を抱いた。
さすがに全部を捨ててきた、と彼は言ったし実際にほとんど処分はしたんだろう。
けれど完全に捨てきれるだろうか。
「他の部員だった人とかにはお願い出来ないの?」
『尋ねたけど皆さん連絡つかなかったり持ってなかったりで、ないのよね』
「そう・・・なの?」
本当に?
写真の一枚も出てこないなんて、あり得るのかしら?
『ねえ、まもり』
「何?」
『一度帰ってきたら?』
「え?」
『あなた、そちらに行ってから一度も日本に帰ってきてないのよ』
「そ、そうなの?」
『もう二年になるわ。ね、帰っていらっしゃい。お父さんも久しぶりに会いたいって言ってるし』
「お父さんも・・・」
まもりは思案する。帰国しようにも今はヒル魔もいない状態だし、一人では出歩けない。
「ヒル魔くんに相談してみる。今仕事で出てるの」
『そうしなさい。待ってるからね』
まもりはその後いくつか他愛ない話をして、通話を切る。
そうしてじっと携帯を見つめる。
何か、隠されていた。
母は何かを口止めされているように感じた。
それは誰が? 何のために?
ヒル魔がそうしたのかと考えたが、彼は妻であるまもりの回復を願うはずだ。
公私ともにサポートをしていたと言っていたし。
その助けになるような物を隠させるようなことはしないだろう。
では誰が?
母が自分で?
それとも父が?
いくつも疑問が浮かんでは消える。
考えるうちに夜は更け、まもりは考えすぎて痛くなった頭を抱え、早々に眠りに就いた。


指が閃く。
遠い遠い国の電波を使って、傲慢に命令して。
だから、私は。



もういい加減見慣れた天井を見つめながら、目が覚める直前の夢を思い返す。
何か、指が閃いていたような。
けれど夢の残滓はあまりに淡く、あっさりと朝日にぬぐい去られてしまう。
「うーん・・・」
考え込んでももう記憶は遠い。
まもりはのそりとベッドから起き出した。

結局記憶が戻らないままヒル魔の言っていた三日間が過ぎ去った。
近所に買い物くらいなら、と思ったけれどどうしてもあの銃を持てず、結局引きこもりのように生活してしまった。
幸い食料は冷蔵庫に沢山あって問題なかったし、思い立ってケーキを焼いたりしてそれなりに過ごしてしまえた。
帰宅したヒル魔は漂う甘い香りにものすごい顰めっ面で入ってきたけれど。
「おかえりなさ・・・」
思わずまもりの言葉が立ち消える程の形相で、ヒル魔はじろりとテーブルの上を見る。
「なんだあれは」
「え、あの・・・暇だったからケーキ焼いてみたの。食べる?」
「いらねぇ。俺は糞甘い物が大ッ嫌ェなんだよ」
「・・・ご、ごめんなさい」
まさかそこまで嫌がるとは思わず、まもりは慌ててケーキをしまう。
幸い焼いたのはパウンドケーキだ。切って冷凍してしまえば日持ちするし、自分だけで消費出来るだろう。
てきぱきとケーキをしまうまもりの背に声が掛かる。
「姉崎」
「何?」
呼ばれてまもりはぱたぱたと彼の側に近づく。
じっと見つめられ、まもりは小首を傾げる。
何か言いたそうな。
・・・でもどこか、辛そう、な?
「・・・どうしたの?」
その声にヒル魔はぱちりと瞬きをすると、おもむろに懐から何かを取り出した。
「チケットと、パスポート?」
「明日の便だ」
「え、日本? わ、日本に帰れるの?」
ぱ、と顔を明るくしたまもりに、ヒル魔は口角を上げる。
「ここにいてもやる事ねぇだろ。日本に帰って親に話聞いてこい」
「ヒル魔くんは?」
チケットは一人分しかない。
「俺は仕事があるからアメリカに残る」
「そう、なの?」
「おー。ところで銃は使ったか」
「や、使えないわよ! 怖くて持てなかったし!」
まもりはぱたぱたと寝室のチェストへと近寄り、銃と財布を取り出す。
「なんだ、三日間缶詰だったのか」
「そうよ! せっかくお金も用意して貰ったけど使わなかったし。はい、お返しします」
「ホー」
受け取った財布と銃をさっさとどこぞへしまい、ヒル魔はコーヒーを所望する。
まもりは肩をすくめ、けれど家族に会えるという嬉しさに鼻歌交じりでキッチンへと向かった。

コーヒーを飲み終えた後、ヒル魔はおもむろにパソコンを取り出しなにやら仕事をやりだした。
何か手伝える事は、と一応尋ねたものの、英語やら数字やらが羅列する書類は見ているだけでも目眩がしそうだ。
「こっちはいいから寝てろ」
「でも・・・ヒル魔くん、ちゃんと寝てるの?」
「ア?」
「だって、目の下のソレ、クマでしょ? 眠れないんじゃないの?」
実際薄くはあるが彼の目の下にはクマがあり、疲れているように見える。
「問題ねぇよ」
「でも・・・」
「いいから寝ろ。それとも添い寝して欲しいとか抜かすか」
にやにやと笑いながら告げられ、まもりは真っ赤になって後ずさる。
「っ!! や、そんなことない、ですっ!!」
おやすみなさい! そう叫んでまもりは寝室に飛び込む。
だからまもりは気づかなかった。
ヒル魔が深々と嘆息し、その右手で己の顔を力無く覆ったのを。


<続>
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