旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
目が覚めたら全部夢だったらいいのに、というまもりの願いは再び目に入った天井に裏切られた。
今度は声も上げず普通に起きあがる。
リビングへと足を向けると、ヒル魔はなにやら電話で話していた。
まもりの姿を見ると、一言二言続けてその後通話を打ち切る。
「・・・大事な用事じゃないの?」
「ベツニ」
それよりも、とヒル魔はまもりに視線を向ける。
「出掛ける支度しろ」
「病院には行かないわよ!」
自分の調子が悪いとは思えないし、行って今の自分自身を否定されるのも嫌だ。
その様子にヒル魔は嘆息する。
「・・・行かねぇよ。行ったところで対応策はないんだと」
ということは、今の話し相手は医者だったのだろうか。
まもりの手に放られたのはタオル。
「飯食いに行くぞ。テメェがそのナリで構わねぇなら俺はいいけどな」
「・・・」
まもりは自分の格好を見下ろす。ルームウェアと呼ぶのがふさわしい柔らかなワンピース。
確かに、外に出るにはふさわしくないだろう。
それに色々な意味で汗も掻いたし、シャワーは浴びたい。
「・・・覗かないでよ?」
逡巡した結果そんな風に口にしてみれば。
「ア?」
ぴんと眉を上げて、ヒル魔はにやりと笑う。
「覗くなんて効率の悪い事はしねぇで一緒に入ってやろうか」
「ななな、何言って・・・!?」
「夫婦なんだからおかしなことじゃねぇんだがな」
真っ赤になって口を開閉させるまもりをヒル魔は手早くバスルームへと押し込んだ。
ようやく我に返ったまもりは脱衣所の鍵をしっかり掛けて、服を脱ぐ。
鏡に映る顔はやはり老けている。それはそうだ、認識と十年ずれてしまっているのだから。
でも、十年後でこの顔ならいいのかな、と鏡を更に覗き込んで。
「・・・?」
首筋に鬱血を見つける。蚊にでも喰われたのかしら。アメリカでも蚊っているのかしら。
首を捻るまもりは、露わになった全身を見下ろす。
そこかしこに濃く薄く差はあるが鬱血は散らばっていて、さしものまもりもその理由に思い当たった。
思わず悲鳴を上げそうになる。
「・・・ッ!!」
しかし、ここで悲鳴を上げたらヒル魔が入ってくるかもしれない、となけなしの理性がそれを押しとどめる。
十年後の自分は、本当に彼と結婚したらしい。
ヒル魔に騙されているかもしれないとは再三再四考えるのだが、それにしては手が込みすぎているし大体自分の顔の説明が付かない。
本当に記憶がないのか、と思うと鬱屈した気分になる。
まもりはブンブンと頭を振り、ようやくシャワーブースへと足を踏み入れる。
頭で考えるよりも手が躊躇いなく動いてお湯を全身に浴びせかける。
記憶はなくても身体は覚えているものなのね、と身体を洗い、頭を洗いながらぼんやり考えて。
湯に当たる肌が染まると鬱血が一層濃くなったような気がして、すっと背筋が寒くなる。
まもりは両手で頬をぴしゃりと叩き、お湯を止めて水を頭から被った。
雨のように降り注ぐ水を全身で受け止める。
この鬱血を、十年後の真実を、今のまもりの葛藤を全て押し流してくれないかと心のどこかで期待しながら。
いつの間にか脱衣所に用意されていた着替えをありがたく使い、まもりはリビングへと戻る。
ヒル魔もその間に着替えていて、まもりが出てきたのを見て立ち上がった。
ヒル魔が運転する車の助手席で、まもりはしげしげと彼を眺めた。
「なんだ」
「ううん。ヒル魔くんが十年経つとこんな風になるのかと思って」
まもりが知っている彼よりも背も伸びたし体つきもがっしりしたように感じた。
常に銃を持ち歩いているところは以前と変わらないが、ここはアメリカだしおかしくないのだろう、とまもりは無理矢理自分を納得させる。
「プロのアメフト選手なのよね?」
「ああ」
「練習とか、いいの?」
「今はオフシーズンだからな。休養中」
「ふーん?」
そういうものかしら、とまもりは会話を切って窓の外を見る。
日差しが眩しいが、まだ夏の熱烈な日差しではないような。
「今は何月なの?」
「5月」
道行く人々が当たり前だが全て外国人で、ここでは自分の方が外国人なのかと改めて実感する。
隣の男も金髪だし自分も茶色い頭なので道を歩いていてもアジア圏の人だとは判りづらいかも知れない。
車は滑らかに駐車場へと滑り込んだ。そこは小さな一軒家。
ヒル魔に促され入ると、途端に良い香りに包まれる。
『いらっしゃいませ』
席に案内され、ようやくここがレストランだと気づく。
『やあ、ヒル魔。今日は何にするんだい?』
気さくな雰囲気の壮年の男性がメニューを片手にやってくる。
『おお、今日も綺麗だね、まもり!』
『ありがとう』
どうやら顔なじみらしい。よく判らないなりにとりあえず笑顔で挨拶をしてメニューを受け取る。
色々なメニューがあるが、どれがオススメなのかは判らない。
「どれがいいの?」
「ドレデモ」
「んもう、判らないから聞いてるのに」
量だってどの程度出てくるのか判らない。迷うまもりにヒル魔が助け船を出す。
「適当でいいか?」
「うん、お願いします」
『いつものでいい』
『OK!』
短いやりとりにまもりは眉を寄せた。
「最初からそう言ってくれたらいいじゃない」
「選ばせなかったらそれはそれで怒るだろ」
むー、とまもりは唸る。まもりのことをよく判ってる。
にやにやとこちらを見る顔つきは若すぎず、きちんと年を重ねたものに見える。
ただ、同年代の中でも鍛えているために若々しい部類なのだろうとは推測出来る。
あたたかい雰囲気の店内に浮くことなく存在する彼は、高校の時のあの強烈な印象からは想像もつかない。
「金髪・・・」
「ア?」
「今もそのままなのね」
「おー」
「地毛は違うんでしょ?」
「そうだな」
「なんでそのままなの」
「アメフトは知ってるか」
「・・・あんまり」
「後でビデオ見せてやる」
『なんだなんだ、喧嘩でもしたのか?』
陽気な声が二人の間に割って入る。どんどんとテーブルに持ってこられた料理の量にまもりは瞬きするばかり。
「すっごい量」
『葬式みたいな顔してるぜ!』
『気のせいだ』
『どうだか。鏡見てみろよ!』
わはは、と笑いながら男性が踵を返す。
こんなに食べられるかしら、と思いながらまもりはフォークとナイフを手に取った。
一時間後、あれほどあった料理はあっさりとなくなった。
「意外に食べるのね」
「それはテメェがか? それとも俺がか?」
「・・・どっちも」
彼の食欲にも驚いたが、まもり自身も結構食べられた。
食後のコーヒーに口を付けながら思い返す。
「高校の時より食べてるかも。よく太らないわね」
呆れた、という顔をするとヒル魔はにやりと笑う。
「俺は運動してるし、テメェはそれに付き合ってるからな」
「付き合うって・・・」
「出るぞ」
ヒル魔が立ち上がる。まもりは首を傾げながらその後に続いた。
<続>
今度は声も上げず普通に起きあがる。
リビングへと足を向けると、ヒル魔はなにやら電話で話していた。
まもりの姿を見ると、一言二言続けてその後通話を打ち切る。
「・・・大事な用事じゃないの?」
「ベツニ」
それよりも、とヒル魔はまもりに視線を向ける。
「出掛ける支度しろ」
「病院には行かないわよ!」
自分の調子が悪いとは思えないし、行って今の自分自身を否定されるのも嫌だ。
その様子にヒル魔は嘆息する。
「・・・行かねぇよ。行ったところで対応策はないんだと」
ということは、今の話し相手は医者だったのだろうか。
まもりの手に放られたのはタオル。
「飯食いに行くぞ。テメェがそのナリで構わねぇなら俺はいいけどな」
「・・・」
まもりは自分の格好を見下ろす。ルームウェアと呼ぶのがふさわしい柔らかなワンピース。
確かに、外に出るにはふさわしくないだろう。
それに色々な意味で汗も掻いたし、シャワーは浴びたい。
「・・・覗かないでよ?」
逡巡した結果そんな風に口にしてみれば。
「ア?」
ぴんと眉を上げて、ヒル魔はにやりと笑う。
「覗くなんて効率の悪い事はしねぇで一緒に入ってやろうか」
「ななな、何言って・・・!?」
「夫婦なんだからおかしなことじゃねぇんだがな」
真っ赤になって口を開閉させるまもりをヒル魔は手早くバスルームへと押し込んだ。
ようやく我に返ったまもりは脱衣所の鍵をしっかり掛けて、服を脱ぐ。
鏡に映る顔はやはり老けている。それはそうだ、認識と十年ずれてしまっているのだから。
でも、十年後でこの顔ならいいのかな、と鏡を更に覗き込んで。
「・・・?」
首筋に鬱血を見つける。蚊にでも喰われたのかしら。アメリカでも蚊っているのかしら。
首を捻るまもりは、露わになった全身を見下ろす。
そこかしこに濃く薄く差はあるが鬱血は散らばっていて、さしものまもりもその理由に思い当たった。
思わず悲鳴を上げそうになる。
「・・・ッ!!」
しかし、ここで悲鳴を上げたらヒル魔が入ってくるかもしれない、となけなしの理性がそれを押しとどめる。
十年後の自分は、本当に彼と結婚したらしい。
ヒル魔に騙されているかもしれないとは再三再四考えるのだが、それにしては手が込みすぎているし大体自分の顔の説明が付かない。
本当に記憶がないのか、と思うと鬱屈した気分になる。
まもりはブンブンと頭を振り、ようやくシャワーブースへと足を踏み入れる。
頭で考えるよりも手が躊躇いなく動いてお湯を全身に浴びせかける。
記憶はなくても身体は覚えているものなのね、と身体を洗い、頭を洗いながらぼんやり考えて。
湯に当たる肌が染まると鬱血が一層濃くなったような気がして、すっと背筋が寒くなる。
まもりは両手で頬をぴしゃりと叩き、お湯を止めて水を頭から被った。
雨のように降り注ぐ水を全身で受け止める。
この鬱血を、十年後の真実を、今のまもりの葛藤を全て押し流してくれないかと心のどこかで期待しながら。
いつの間にか脱衣所に用意されていた着替えをありがたく使い、まもりはリビングへと戻る。
ヒル魔もその間に着替えていて、まもりが出てきたのを見て立ち上がった。
ヒル魔が運転する車の助手席で、まもりはしげしげと彼を眺めた。
「なんだ」
「ううん。ヒル魔くんが十年経つとこんな風になるのかと思って」
まもりが知っている彼よりも背も伸びたし体つきもがっしりしたように感じた。
常に銃を持ち歩いているところは以前と変わらないが、ここはアメリカだしおかしくないのだろう、とまもりは無理矢理自分を納得させる。
「プロのアメフト選手なのよね?」
「ああ」
「練習とか、いいの?」
「今はオフシーズンだからな。休養中」
「ふーん?」
そういうものかしら、とまもりは会話を切って窓の外を見る。
日差しが眩しいが、まだ夏の熱烈な日差しではないような。
「今は何月なの?」
「5月」
道行く人々が当たり前だが全て外国人で、ここでは自分の方が外国人なのかと改めて実感する。
隣の男も金髪だし自分も茶色い頭なので道を歩いていてもアジア圏の人だとは判りづらいかも知れない。
車は滑らかに駐車場へと滑り込んだ。そこは小さな一軒家。
ヒル魔に促され入ると、途端に良い香りに包まれる。
『いらっしゃいませ』
席に案内され、ようやくここがレストランだと気づく。
『やあ、ヒル魔。今日は何にするんだい?』
気さくな雰囲気の壮年の男性がメニューを片手にやってくる。
『おお、今日も綺麗だね、まもり!』
『ありがとう』
どうやら顔なじみらしい。よく判らないなりにとりあえず笑顔で挨拶をしてメニューを受け取る。
色々なメニューがあるが、どれがオススメなのかは判らない。
「どれがいいの?」
「ドレデモ」
「んもう、判らないから聞いてるのに」
量だってどの程度出てくるのか判らない。迷うまもりにヒル魔が助け船を出す。
「適当でいいか?」
「うん、お願いします」
『いつものでいい』
『OK!』
短いやりとりにまもりは眉を寄せた。
「最初からそう言ってくれたらいいじゃない」
「選ばせなかったらそれはそれで怒るだろ」
むー、とまもりは唸る。まもりのことをよく判ってる。
にやにやとこちらを見る顔つきは若すぎず、きちんと年を重ねたものに見える。
ただ、同年代の中でも鍛えているために若々しい部類なのだろうとは推測出来る。
あたたかい雰囲気の店内に浮くことなく存在する彼は、高校の時のあの強烈な印象からは想像もつかない。
「金髪・・・」
「ア?」
「今もそのままなのね」
「おー」
「地毛は違うんでしょ?」
「そうだな」
「なんでそのままなの」
「アメフトは知ってるか」
「・・・あんまり」
「後でビデオ見せてやる」
『なんだなんだ、喧嘩でもしたのか?』
陽気な声が二人の間に割って入る。どんどんとテーブルに持ってこられた料理の量にまもりは瞬きするばかり。
「すっごい量」
『葬式みたいな顔してるぜ!』
『気のせいだ』
『どうだか。鏡見てみろよ!』
わはは、と笑いながら男性が踵を返す。
こんなに食べられるかしら、と思いながらまもりはフォークとナイフを手に取った。
一時間後、あれほどあった料理はあっさりとなくなった。
「意外に食べるのね」
「それはテメェがか? それとも俺がか?」
「・・・どっちも」
彼の食欲にも驚いたが、まもり自身も結構食べられた。
食後のコーヒーに口を付けながら思い返す。
「高校の時より食べてるかも。よく太らないわね」
呆れた、という顔をするとヒル魔はにやりと笑う。
「俺は運動してるし、テメェはそれに付き合ってるからな」
「付き合うって・・・」
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ヒル魔が立ち上がる。まもりは首を傾げながらその後に続いた。
<続>
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自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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