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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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恋猫奇譚(4)




+ + + + + + + + + +
まもりは掃除と洗濯をしながら母からの荷物を待っていた。
今日は午後から授業の日だし、どちらにせよテキストも辞書もない状態では大学に行っても何もできない。
宅急便は管理人が受け取った後、連絡をくれるシステムだとか。
最上階はおいそれと余人が立ち入れない仕組みになっているらしい。
「すごいお家よねー・・・」
独り言ちて改めて室内を見渡す。物が少なくシンプルで、モデルルームのような部屋。
一方で彼の私室は雑多に物が溢れている。
立入を禁じられている場所はないので、彼の部屋であっても遠慮無く掃除してしまうけれど。
積み上げられた本を本棚に並べてみたが、あからさまに本棚の広さと書籍の量が釣り合ってない。
必要な本とそうでないものの差を教えて貰わない事には全部片づけられないだろう。
とりあえず歩けるスペースを、と散らばっている物をサイドに寄せていく。
本は積み上げ、小物は元の場所に。書類は纏めて机の上へ。
そうやって作業をしているうちに、一枚の写真がはらりと落ちる。
「?」
拾い上げると、それは少々端が色あせた年季の入った物。
「あ・・・!」
高校生の頃の彼がそこにいた。
髪の色は変わっておらず、ピアスもそのままだ。今よりも少し髪の毛が長いかも。
にたりと笑う表情も今と同じ。
けれど見た事のないユニフォームに身を包み、周囲には同じ格好の人たちがいる。
よく見れば手前には以前ヒル魔宅に忍び込むのを手伝ってくれたセナ、奥には栗田がいる。
「何のユニフォームなんだろう・・・」
なにがしかのスポーツだとは思うけれど、全く判らない。
後で尋ねてみよう。教えてくれるかな。
まもりはその写真をエプロンのポケットへと忍ばせる。
そうして程なくして管理人から荷物が届いたという連絡が入ったのだった。

帰宅したヒル魔にまもりは早速写真を見せた。
「あ? 随分と懐かしいモン出てきたな」
しげしげとそれを眺めるヒル魔にまもりは小首を傾げて問う。
「高校生の時の? 部活の写真?」
「ああ」
「何のスポーツだったの?」
「アメフト」
「へえ、アメフト! ポジションは?」
「テメェ、ルール判るのか?」
少し驚いたようにこちらを見るヒル魔に、まもりは胸を張った。
日本人には馴染みの薄いスポーツ。
認知度が低いからポジションどころかルールから説明しても理解出来るかどうかなのに。
「うん。私、おばあちゃんがアメリカ人だから。昔アメリカに行ったときに何度か見たわ。その時に覚えたの」
「ナルホド」
「で、ポジションは?」
「オフェンスでQB、ディフェンスでS」
「ああ、らしいわね」
「どの辺が?」
「だって頭脳プレーとかブラフとか活用するポジションでしょ」
「そうだな」
「この頃の人たちとも、まだ会ったりしてるの?」
「おー。そのうち会わせてやる」
「え、いいの?!」
懐かしい話題だからか、ヒル魔はいつになく饒舌だった。
まもりは笑顔でそれに付き合い、彼の知らなかった一面を見られたことに満足したのだった。



それから一週間が経過した。
まもりに対する父親からの干渉は気抜けする程なく、パパは諦めたのかしら、くらいの気持ちでいた。
それはそれで寂しいが、母親とは電話で話をしていたし、特に生活の上でも問題はなかった。
実際にはヒル魔がことごとく父親の干渉を遠ざけているとはつゆ知らず、まもりは平穏な日々を過ごしていた。
毎日の日課となった掃除洗濯を済ませてから大学に向かう。
この日もごく普通に一日分の講義が終わった。
さあ帰ろう、そう思って立ち上がった途端。
遠くで誰かの怒鳴る声が聞こえてきた。
「?」
「何? 誰か暴れてるの?」
教室内がざわめく。聞こえてくる声は男のもの。
女子大ではあり得ないはずのそれに皆は顔を見合わせ、怯えたように肩をすくめる。
とかく最近は物騒なので警備も厳しくなっているはずなのに。
耳を澄ませると、端々で単語が聞こえてくる。
困惑しているような職員の声、それに被る怒鳴り声。
その声に何となく聞き覚えがあるような気がしてまもりは固まる。
もしや父親では、と。
その時。
携帯が着信を告げた。父親からでは、とまもりは急いで出る。
「はい」
『そこから出ろ』
けれどそれはヒル魔の声で。
「え?! ヒル魔さん、ここに来てるの?!」
『女子大じゃさすがに入れねぇよ』
いいから、と告げられてまもりは友人に軽く挨拶して教室を抜け出す。
怒鳴り声はまだ遠く、そちらとは逆方向へと向かって出口へ向かった。
野次馬が集まっている気配を背後に感じつつ、校舎の外へ出る。
「出たわよ」
『そのまま裏門へ回れ。そこに迎えを寄越してる』
そこで通話は途切れた。
誰がいるのだろうか、と首を傾げながらそちらへ向かう。
そこに立っていたのは見覚えのある女性の姿だった。
今の家に引っ越す前に、ヒル魔と二人で立っているところを見た彼女。
「あ・・・」
動きを止めたまもりを彼女は笑顔で手招いた。
「姉崎まもりさんね。こっちにいらっしゃい」
落ち着いた喋り方の彼女は、近くで見るとまもりより頭一つ背が高かった。
ヒールを履いているせいもあるかもしれない。
綺麗に化粧をした顔からは年齢が推測しづらいが、おそらくヒル魔と同じ年くらいだろう。
「こないだはヒル魔を一日借りちゃって悪かったわね」
「え、いえ・・・」
「私の事は聞いてるかしら?」
「い、いいえ・・・」
歯切れの悪いまもりに、彼女はふうん、と一人呟いてじっと見つめる。
「ヒル魔からの仕事以外の頼まれ事なんて珍しいから、一体どんな子だろうと思ってたのよ」
「え?」
「ヒル魔が手元に置いておきたがるのがよく判るわ」
「ええ?!」
ふと彼女が腕時計を見た。
「そろそろか・・・。ねえ、まもりさんは絶叫マシーンとかお好きかしら」
「え? いえ、あんまり得意じゃないです」
どこかで派手なマフラー音を響かせたバイクが疾走している。
「そう・・・。じゃあその鞄、しっかり抱えてて」
「はい?」
まもりは突然の指示にもとりあえず従ってぎゅっと鞄を抱きしめた。
「顎を引いて、衝撃に備えてね」
爆走するバイクは段々と近づいているような。
それと同時に校舎の中から聞こえてくる声も近づいているような。
やはり父親に間違いないようだ。
「え・・・一体、何なんですか?」
「大丈夫、一瞬だから。口閉じていてね」
「な・・・―――――」
瞬間。
煩いと思っていたエンジン音がまもりの背後に迫り。
長い腕の男が一息に彼女を抱え上げ、走り去った。

「キャー!!」
悲鳴を上げたまもりは、すとんとそのバイクのハンドルと座席の間に降ろされた。
その間もバイクは停車せず、走り続けている。
「え、え?! な、キャー?!」
「カッ、煩ェ! 少し黙ってろ!!」
途端に怒鳴られて、まもりは怯えて恐る恐る運転手を見る。
そこにいたのはいかにも柄の悪そうな男。まもりは真っ青になる。
思わず逃げようとして暴れたが、スピードのあるバイクの上、落ちてしまったら怪我では済まないかもしれない。
慌てたように運転手は声を荒げた。
「動くな!」
ひゃ、とまもりは首をすくめる。
「ヒル魔からの頼みじゃなきゃこんなマネするかよ、ったく・・・」
ぼやく声にまもりはちらりと運転手を伺う。
やはり年の頃はヒル魔と同じくらいだ。ということは友達なのだろうか。
「あの・・・」
「話ならヒル魔とメグに聞いただろ」
「メグ、さん? あの、今の女の人がそうですか?」
「アァ?! あいつら何の説明もしてねぇのか?!」
目を見開いた男にまもりはおずおずと頷いた。
「ええ、まあ」
しゃあねぇなあ、と頭を掻く男は見た目に怖いが、意外と紳士なのかも知れない。
実際、まもりが落ちないようにと支えてくれている。
「とりあえずテメェをヒル魔の家まで運べ、っつー頼みだからな」
しっかり捕まってろ、そう呟くと一層唸りを上げてバイクは疾走した。

ノーヘルで途中警察に追われたりもしたが、あっという間に振り払って早々にマンションまでたどり着いた。
「おらよ」
「あ、ありがとうございました。あの、上がってお茶でもいかがですか?」
まもりが慣れない振動に揺らぐ足を踏みしめ、ぺこりと頭を下げると男は微妙な顔になる。
「・・・変な女だな、テメェ」
「え、そ、そうですか?」
「生憎と俺はメグを迎えに行かなきゃいけねぇんだ」
「じゃあまた別の日に、是非メグさんとお二人で来て下さい」
それに男はますます怪訝な顔になった。
「・・・・・テメェ本当にヒル魔の女か?」
「え」
「あの悪魔にはもったいねぇ」
その言葉に、かーっ、と顔を紅くするまもりに男はげんなりしたように嘆息する。
「ああ、もういい! じゃあな」
ひらひらと手を振る男にまもりは慌てて声を掛ける。
「ま、また来て下さいねっ!」
それに男は僅かに頷いて見せて、再び爆音を上げて走り去る。
まもりは怒濤の一時を過ごして浮ついた気分で部屋へと戻っていった。
本当に絶叫マシーンみたいだったわ、とのんきな気持ちで。
・・・校舎内で騒いでいた父親の存在もすっかり忘れて。


<続>
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