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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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恋猫奇譚(3)




+ + + + + + + + + +
まもりはテーブルの前で固まっていた。ヒル魔はじろじろと無遠慮にそんな彼女を眺めている。
「本気か?」
「う、うん・・・」
「その年で? 今まで一度も?」
「だ、だって・・・」
目の前には、黒い箱。
「糞生きた化石かよ」
呆れた声で開けてみろ、と言われてまもりはぱこんとその箱を開いた。
ノートパソコン。
実は今まで一度もパソコンに触った事がない、と言い出したまもりにヒル魔が持ってきたのだ。
「その丸いのが起動ボタン。押してみろ」
「これ?」
ブン、と音を立てて起動するそれを前に、まもりはちらりと隣の男を見上げる。
「あの、別にこれは覚えなくても・・・」
「アホか、今時パソコンが全然出来ないで許される職業なんてねぇぞ」
「そうなの? うちは両親も全然パソコン出来ないけど・・・」
「上にいる人間なら他人に代わりにやらせられるからいいが、テメェはそうもいかねぇだろ」
「まあ、そう、だけど」
何しろまもりは機械関係が全く駄目な、自他共に認めるアナログ人間。
簡単なゲームでさえ機械を介しただけで全然出来ないのだ。
「大学のレポート提出だって今時はメール添付だろうが」
「ウチにパソコンがないからって説明して、全部手書きで許してもらってるの」
まもりの字は綺麗で読みやすいから、それでも特に文句を言われたことがない。
それにヒル魔はぴんと片眉を上げた。
「教授は野郎ばっかりだな?」
「? うん、男性だけだわ、そういえば。女性教授もいるんだけど、たまたま当たらなかったのよね」
なるほどな、とヒル魔は肩をすくめる。
何がなるほどなのかまもりには判らないが、すぐに視線は手元のパソコンに移った。
「Ctrl+Alt+Deleteでログインだ。押してみろ」
「うん」
彼自身も別のパソコンを片手にまもりの隣で指示する。
元より真面目で努力家なまもりのこと。
ヒル魔の指導で徐々に覚え始める。
「ねえ、それどうやってやるの?」
「それ? 何が?」
「その、手元を見ないでキーを打つ方法」
「ブラインドタッチか。そのまんまだ、手元を見ないで打つ」
「それが出来ないから聞いてるのに!」
ヒル魔は小さく舌打ちしつつもキーボードを指さした。
「FとJのキーの上にマークがある。そこに人差し指を乗せて・・・」
彼は指導者に向いているのかもしれない。
時折小馬鹿にされつつ、まもりは自在にキーを打つヒル魔に負けないようにブラインドタッチを習得しようと熱心に練習した。
その間にヒル魔が立ち上がってどこかに行ったが、特にまもりは気にしなかった。
数時間後。
「め、目が痛い・・・!」
「熱中しすぎだ」
笑われてむくれながらもまもりは食卓に食事を並べていく。
細い割に結構量を食べる彼は甘い物以外の好き嫌いがないらしく、何を出しても箸を付ける。
それでもやはり好みがあるようで、いつも食事の時は一番量が減る料理を覚えて次に繋げるようにしていた。
「ヒル魔さん、目は悪くないの?」
「ああ」
「あれだけパソコン見てたり仕事してるのに?」
「年がら年中画面凝視してりゃ落ちるだろうが、そこまで見てねぇよ」
「そういうものなの?」
「おー」
ご飯をよそって手を合わせ、いただきますのご挨拶。
黙々と食べる様をまもりは笑顔で見つめる。
いかにも怖そうな外見で乱雑そうに見えるのに、彼の食事の仕方は綺麗で食べこぼしたり不作法だったりすることはない。
意外にいいところのお坊ちゃんだったりして、とまもりは考える。
実際にこんなマンションを一棟買ってしまうような金銭感覚だ、あり得るだろう。
そうなったら、私みたいな家柄だったら釣り合うのかな、と考えてしまう。
実は婚約者とかいたりして、と考えてぴたりと動きが止まる。
「ア?」
「・・・ううん、なんでもない」
動きを止めたかと思えば我に返ったように微笑んでまた箸を動かす。
不可解な動きをしたまもりに、ヒル魔は片眉をぴんと上げる。
「何か心配事でもあんのか」
「うん、そうじゃなくて・・・明日の朝ご飯なに作ろうかな、って」
それにヒル魔は呆れたような顔になる。
「今飯食ってんのにもう次の心配か」
「毎日違うメニューを考えるのは大変なのよ」
それにヒル魔は肩をすくめたが否定はしなかった。

バスタブは広々としていて、手足を伸ばしても全然窮屈じゃない。
窓の外には月が煌々と輝いているのが見える。
自分用に購入したシャンプーで髪を洗う。
彼の方のシャンプーは強いミントの香りだが、まもりのは甘い花の香りだ。
間違ってこれをヒル魔が使ったら面白いな、と思う。
ふわりと漂う花の香り。彼にそぐわなくてきっと周囲の人は混乱するはずだ。
笑みを浮かべつつ全身を洗いながら、夕食時に思い浮かべたことを反芻する。
まもりはヒル魔の事をほとんど知らない。知っている事は今現在の彼のほんの一部。
過去の事については全く知らず、彼の誕生日を始めとした個人情報は全く知らない。
ただ彼の事が好きなだけで、闇雲に恋をしたけれど。
彼はまもりを恋人と呼び、側に置いてくれているけれど。
このままずっと側にいさせてもらえるのだろうか。
言いようのない不安にぶるりと背を震わせる。
まもりは頭を振って泡を洗い流し、再び湯船に身体を沈める。
不安に冷えた心の芯まであったまるように、じっと。


「で、湯船で考え事してて湯あたりか。アホだろ、テメェ」
「ごめんなさい・・・」
いつまで経っても出てこない事を不審に思ったヒル魔が様子を伺うと、脱衣所でへたりこむまもりの姿があった。
かろうじて服は着ていたが、その後立ち上がれなくなったのだ。
「飲め」
水を渡され、口を付ける。一気に飲み干すとグラスを取り上げられた。
「考え事するくらいならもう寝ろ」
「う、ん」
ふらふらするまもりを支えてヒル魔は寝室に彼女を誘う。
ベッドに横たわらせ、その横に座る。
「明日、何時頃起きるの?」
「出勤は八時。俺は朝早いから付き合って起きる必要はねぇ」
「八時は早くないわよ」
「早く起きてランニングすんだよ」
「え? でも前は・・・」
前に住んでいた部屋で何度か寝起きを共にしたが、その時にはランニングなんてしなかったのに。
不審がるのが判ったのか、ヒル魔は口角を上げる。
「あの時期は忙しくて一時的にやめてただけだ。そろそろ仕事も落ち着いてきたから再開する」
「意外・・・スポーツマン、って感じじゃないのに・・・」
逆立てた金髪、ピアス、細い身体。どこをどうとってもスポーツする雰囲気ではないのに。
熱が次第に引いていく。それと同時に、段々と眠気が襲ってきた。
慣れない部屋に慣れないベッドなのに、心地よい。
それはこの隣にいる彼のおかげなのだろうか。
頭を撫でられて与えられる安心感に、まもりは吸い込まれるように眠りに落ちた。


目が覚めるとヒル魔は宣言通り走りに行ったらしく、隣のベッドはもぬけの殻だった。
うーんとのびをして、顔を洗い、身支度を調えてキッチンへ向かう。
朝食の準備をしていると、玄関の扉が開いた。
「おかえりなさい」
「タダイマ」
滴る汗をタオルで拭きながら彼がバスルームに向かう。
本当に走ってきたんだ、と思うと不思議な気がする。
「何キロくらい走るの?」
シャワーを浴びて出てきた彼が定位置のソファに腰掛けつつコーヒーを所望する。
それを差し出して尋ねてみると。
「5キロ」
「5キロも!?」
驚くまもりにヒル魔は更に続ける。
「身体が鈍ってるから最初はそれくらいからだ」
「最初!? じゃ、いつもはもっと走るってこと?!」
普段運動などしないまもりにしてみれば5キロで充分長いのに、それどころではないらしい。
「すごいわね・・・私はそんなに走れないわ」
感嘆の眼差しを向けるとヒル魔は苦笑した。
そして何かを思い出したように立ち上がる。
「どうしたの?」
「テメェのケータイ」
「あ! そうそう、どこかに持って行ってたの? すっかり忘れてたけど」
まもりは機械音痴なので、普段から携帯に依存するどころか携帯の存在すらすっかり忘れてしまうことがままある。
今は家に帰れないから、もし何か緊急の連絡があればそちらに掛かってくるだろうに、すっかり失念していた。
「充電器がないだろうから充電しておいたぞ」
「わ、助かる! ありがとう」
にっこりと笑うまもりにヒル魔はコーヒーのお代わりを要求した。

玄関先で靴を履くヒル魔にずい、と渡されるのはお弁当。
「作ったのか」
「うん。だってせっかくお世話になってるし、これくらいはね」
渡されたソレを鞄の底に押し込み、ヒル魔は立ち上がる。
「行ってくる」
「うん、いってらっしゃい!」
笑顔で手を振り見送るまもりに軽く手を閃かせるとヒル魔は足取り軽く会社へと向かっていった。
途端に震える携帯。
その着信相手を見て彼はにやりと笑う。
『まもり?! お前は何で帰ってこないんだ!』
通話ボタンを押した途端に聞こえた声に、彼は平然と挨拶した。
「おはようございます」
『・・・なんで君が出るんだね!』
電話の相手はまもりの父だった。
彼が言った『しばらく』という単語はせいぜい数時間のことだとヒル魔は踏んでいたので、早々に彼女の携帯電話を隔離したのだ。
まもりが携帯電話にはほとんど注意を払わないという性格なのを承知の上でだ。
『これはまもりの電話番号だ、君はまもりから電話も取り上げてるのか!?』
「まさか、そんなことはしません。ただ、彼女が色々とあなたから説教されるのを見るのは忍びなかったので少々細工させて頂きました」
『なんだと?!』
「まもりはあなたの人形ではない。意志のある人間です」
『そんなことは判っている!』
「彼女が自分の意志で私の元を訪れたのだから、それをあなたが禁止することはできませんよ」
『あの子はまだ子供だ!』
「全くそうは見えませんし、実際に彼女はしっかりしていますよ」
私たちよりもね、そんな言外の響きに対してぎりぎりと歯がみしているような声が聞こえてくる。
『・・・なんで君なんだ・・・!』
「さあ。ただ―――」
ヒル魔は電話口でにやりと口角をつり上げる。電話越しでは見えないだろうけれど、不穏な気配はきっと伝わっている。
「私は彼女を手放す気は毛頭ありません」
『ッ!!』
がしゃん、と怒りのままに切られた電話にヒル魔は肩をすくめる。
きっと彼はどうにかしてまもりと連絡を取ろうとするだろうが、まもりの電話には接続出来ないように既に細工済みだ。
それ以外についてもありとあらゆる手を尽くしておいたので、当分彼からの接触はない。
まあ、彼女はまったく気づいていないだろうけれど。


<続>
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