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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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恋猫奇譚(2)




+ + + + + + + + + +
母親はまもりの説明に鷹揚に笑って荷物を送ると約束してくれた。
早ければ明日には届くだろう。
大学に行くにはかろうじて間に合うけれど、細々した日用品はそれでは遅い。
電話をかけ終えたまもりはソファで新聞を読んでいたヒル魔を振り返った。
「ちょっと買い物に行ってきてもいい?」
それにヒル魔はぴんと片眉を上げた。
「歯ブラシとかシャンプーとか、色々買ってきたいんだけど」
「ホー」
ヒル魔が財布片手に立ち上がる。
「どこか行くの?」
「行くんだろ」
「え?」
「買い物」
どうやら付き合ってくれる気らしい。まもりはぱちりと瞬きする。
「え、いいわよ! その、仕事で疲れてるだろうし・・・」
「足があった方がいいだろ」
それにまもりは更に瞬いた。ちゃり、とヒル魔の手の中で回るのは車の鍵。
「車? ヒル魔さん運転出来るの?」
今までまもりは彼が運転しているところを見た事がない。
会社は徒歩で行ける距離だし、最初にまもりを帰宅させた時はタクシーだったし。
そもそも免許を持っているのだろうか。
「来い」
まもりは疑問に思いながらもその後に続いた。

エレベーターは地下へと到着した。
派手な色の車を想像していたのに、普通に黒の車だった。
ただし、ベンツだったけれど。
しかもどうみても堅気の人が乗る車じゃないカンジだ。
「なんでベンツなの?」
「便利だから」
ん? と首を傾げるまもりを助手席に押し込み、外に出る。
その理由はすぐ知れた。車道を走っていると他の車の方が次々と避けていくのだ。
彼の運転は決して荒くないが、黒のベンツ、しかも窓はスモークともなれば何か怪しい団体関係者と思われてもおかしくない。
「変な人に絡まれたりして困ったりしない?」
「そんな命知らずは知らねぇなあ」
ケケケ、とヒル魔が笑う。
実際に絡んだ相手も、運転席から出てくるのがこんな悪魔じみた人なら大人しく引き下がるわよね、と冷静に考えてしまった。
本来はすごく優しいけれど、とにかくそうと見せないように振る舞う彼には敵も多いらしいと聞いている。
「勿体ないなあ」
「何が」
思わず声に出していたらしい。ちらりと見られてまもりは素直に口を開く。
「ヒル魔さんが優しいのを知らない人が多いのが」
「糞雑魚が周りでどう言おうが知らねぇな」
「そう言うと思った」
肩をすくめる。
実際に周囲の視線を気にするような人ならそもそもこんな車を選ばないだろうし乗らないだろう。
滑らかにヒル魔がギアチェンジしていく様をついまじまじと見てしまう。
「楽しいか」
「うん。うちATだし、私もATしか乗れないの」
「免許持ってんのか」
「一応取っておきなさい、って両親に言われたの。大学までは普段は電車だけど、雨の時とか便利よね」
「ホー」
他愛ないお喋りをしているうちに、目的地に着いたようだ。
最近数を増やしている郊外の巨大ショッピングモール。
確かに一気に買いそろえるのなら便利だろう。
「何買うんだ」
「ええとね・・・」
日用品を細々数え上げながら店に向かっていく。
「ドライヤーはある?」
「おー」
「それなら電化製品はいらないかな・・・あ」
そこでまもりはぴたりと固まる。
「ア?」
「・・・ええと、薬局も行きたいな。歯ブラシとかはそこで買うし」
不自然な沈黙にヒル魔はぴん、と片眉を上げたが特に言及しない。
「ルームウェアも欲しいけど・・・」
「買えばいいだろ」
「うーん、でもあんまりお金なくて」
お嬢様と呼ばれる部類であるはずのまもりだが、金銭的にはあまり自由にはならないのだ。
月々の決められたお小遣いしかない現状ではあまり贅沢は出来ない。
様々に立ち並ぶ店を覗き込みながら思案するまもりにヒル魔は続ける。
「荷物が来るにしても明日以降だろ。着の身着のままっつー訳にもいかねぇだろうし、適当に買え」
「でもお金が・・・」
「出してやる」
「え?! そんな、いいわよ!」
手を振って遠慮するまもりにヒル魔は眉を寄せる。
「いいから買え。それくらい何でもねぇよ」
「でも悪いから!」
なおも手を振るまもりに、ヒル魔は出方を変えた。
「これからしばらくテメェは俺の面倒見るんだろ?」
「うん」
「ならこれはそれの報酬先払いだとでも思っておけ」
くしゃりと頭を撫でられる。
その優しい手に、まもりはへらりと表情を崩した。

いくつもの店で買い物をしたが、荷物は増えない。
ヒル魔がなにやら黒い手帳を閃かせるたびにどの店でも店員が勢いよく包みを持って行ってしまうのだ。
「あの荷物、どうなるの?」
「預からせてる。後で纏めて搬入だ」
「へえ・・・そんなサービスがあるのね」
知らなかったわ、と呟くまもりにヒル魔はにやにやと笑うだけだ。
一番最後に問題の薬局の中に入り、次々と籠に入れていく。
しかし途中でまもりはぴたりと足を止めた。
「あの、ヒル魔さん。ここは一人で買い物したいの」
「ア?」
「ちょ、ちょっと、欲しい物があるの!」
紅くなるまもりにヒル魔は首を傾げるが、どうやら譲る気がないらしいと見て取って、財布から万札を取り出す。
「足りるか?」
「うん、足ります。ごめんなさい」
ぺこり、と頭を下げるのにヒル魔はふんと鼻を鳴らした。
「違うだろ」
「え?」
「ここは謝るところじゃねぇだろ」
それにまもりはにっこりと笑って見せた。
「ありがとう、ヒル魔さん」

ヒル魔が別の棚に向かうのを見送ってから、まもりは自分の買い物をすべく店の奥に入る。
「よかった、安いわ」
山と積まれているのは生理用品。周期的にはまだ先だが、身体の事だし急に狂うかもしれない。
あって困る事はないはずだ。
さすがにこれを買うところを見られるのは何となく気恥ずかしい。
それらをばさばさと籠に入れ、シャンプーと歯ブラシも忘れずに。
カウンターで会計をしていると、隣でヒル魔も何か買っていた。
「終わったか」
「うん」
「寄こせ」
ひょい、と荷物をヒル魔に奪われる。
大きさのわりには軽い荷物を手に、彼はじっとまもりを見つめる。
「な、何?」
「イーエ、なんでもゴザイマセン」
「何? ねえ、何?」
わざとふざけたような声にまもりは更に問いかけるが、ヒル魔はにやにやと笑って取り合わない。
店外に出る際に飛んできた偉そうな男性に二言三言告げると、先ほど買った荷物がすべて纏めて出てきた。
自分で持っていこうとするのを制され、台車にのせられたそれを店員に運んで貰う。
「助かります。ありがとうございます」
にっこりと笑って礼を言うと、店員は顔を紅くしたが。
「・・・っ」
次いで息を詰めて青ざめる。
「? どうかされましたか?」
「い、いえ、大丈夫です」
「・・・?」
まもりは振り返るが、そこではヒル魔がにやにやと笑っているだけ。
一体何があったのだろう、とまもりは首を傾げるが結局判らずじまいだった。

まもりは大荷物を抱えて家に戻り、ヒル魔に促されて一つの部屋に入る。
ゲストルームとして使うと言われていたそこに荷物を置かせて貰った。
「ここ使ってろ」
「ありがとう」
早速がさがさと荷ほどきを始めたまもりに、ヒル魔は落ち着いたらコーヒー淹れろよ、と告げて室内へと戻っていった。
洋服も着替えを送ってもらうからいいと固辞したが、結局何枚か買ってもらった。
かわいらしいワンピースやブラウスが何枚かある。
意外と少女趣味だったりするのかな、と考えるが即座に否定する。
そんな可愛らしい物を愛でる人じゃないし、そんなヒル魔を想像しただけで鳥肌が立った。
まもりはぶんぶんと頭を振ると、当座の生活道具を備え付けの棚にしまっていった。
その他の物もそれぞれ洗面台、バスルームへと次々並べていく。
一通り配置が終わったところで、先ほど所望されていたコーヒーを淹れるべくまもりは鼻歌交じりでキッチンへ向かった。

<続>
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