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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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おくり火

(ヒル魔とムサシ)
※薄暗い話です。嫌いな方は閲覧をご遠慮ください。


+ + + + + + + + + +
彼から漂う、嗅ぎ慣れない匂いにムサシは眉を寄せた。
「・・・吸ってるのか」
それにヒル魔はぴん、と片眉を上げただけだ。
沈黙はイコール肯定。
付き合いが長いだけにそれくらいすぐ判る。
彼の髪から漂う匂いは、彼が毛嫌いしていたはずの煙草の匂いだった。
「いつから?」
「サアネ」
短いやりとりをするはしから、彼はおもむろに懐から箱を取り出して、一本銜えた。
尖った歯がフィルターを咬み千切りそうだが、実際そこまで力を入れていない。
咬み千切りたいのはフィルターなんかじゃなくて、きっと。
「おい、火」
「自分のは」
「ガス切れたんだよ」
その手からゴミ箱に投げ捨てられるのは百円ライター。
ムサシは禁煙してもう随分経つ。
高校生だったころから吸ってはいない。
けれど仕事場などで声を掛けられる事が多いので、ライターだけは未だに持って歩いている。
・・・そういえば、彼は昔、ジッポーを持って歩いていたはずだけれど。
「ほら」
「ん」
慣れた仕草で吸い込み、大きく吐き出す。
ふかすのではなく、肺腑の奥底まで染み込ませるように、深く。
「昔はジッポー持ってたじゃねぇか」
「今は持ってねぇ」
「そうか」
「必要ないだろっつって、前に全部処分された」
「・・・そうか」
誰に、という一言はない。
その名を呼ぶ事さえ自分に禁じて、彼はただ煙を吸い続ける。

(自殺なんて、しちゃだめよ)
穏やかな声。
優しい笑み。
いつまでも傍らにあるのが当たり前だと思っていたのに。
(絶対よ。約束よ)
失われる熱を。
消える命を。
全てを掴み止め置こうと足掻いた彼の目の前で、あっけなくその瞳は閉じられた。
(・・・ありがとう)
誰も慰める事も労る事も出来ない程に、彼の絶望は深かった。

―――そうして、今もそれは続いているのだろう。

「なあ」
「ア?」
「最初吸ったとき、煙が沁みなかったか」
それにヒル魔は唇を歪めた。
「・・・ああ」
涙が溢れるのも息苦しいのも煙草を言い訳にして、そうしてがむしゃらに吸ったのだろう。
「今でも沁みるか」
「サアネ」
一瞬、遠く彼女の瞳のような色の空を眺めて。
短く嘯き、ヒル魔は吸い殻を投げ捨て、きつく踏みにじった。



***
なんとなく煙草の話を書こうと思ったら、何故か暗くなってしまいました。
たまにすごくこういう話を書きたくなります。
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